第45話 獲物はどこですか
各々の準備が出来た所で山の中へ入っていった4人。
直に獲物が見つかるか分からない状況だったはずだが、いい意味で予想を裏切られる形となる。
「タイチ兄。なんか、目の前に変な輪っかがあって、黄色く光る点がある」
「それって、サーチ機能が動いてるんじゃ…。あ、自分の方にも出てきた」
「どういうこと?」
「ヨミちゃん、もしかしてずっと獲物を探そうとか意識してた?」
「してた」
「それでか…。納得した」
「ちょっと、タイチ、分かるように説明して貰える?」
「お兄ちゃん、どういうことなの?」
タイチは簡単にサーチ機能を説明していく。
・自分の周りを円状に考える事。
・周りに獲物となる対象物が居ると思って意識をする事。
・自分たちに敵対行動を取る存在が居る場合にも、それが表示されるように意識する事。
・味方は青色、対象物は黄色、敵は赤色の点で考えると判断しやすいと説明する。
・それが視界のどこかに表示されると思う事など。
「お~、なんか出てきた!」
「出来たわ。なんだか不思議ね」
「一気に便利になったね。ヨミちゃんお手柄だよ」
そう言うと、タイチはヨミの頭を撫でる。
ヨミとしては良く分かっていないのだが、褒められた為に上機嫌な声を漏らす。
「むふ~」
「お兄ちゃん、私も!!」
「ニーナはまだ何もしてないだろう。だから、獲物を取ったりしたらしてあげるよ」
「む~~、わかった。黄色いのを攻撃すればいいんでしょ」
「そうだけど、人の場合もあるから気を付けて」
「ん?人も黄色いの?」
「今、ニーナ達は自分の加護に登録してるから青色になってるけど、それ以外の人は黄色のはず」
「へ~、そう言うものなのね」
「まあ、黄色い点を確認してから攻撃すれば良いんじゃないかな?ただ、こっちに気が付いてない敵も最初は黄色だったはずだから気を付けて」
「敵は、魔物って事でいい?」
「ん~、状況によっては人の場合も赤色になるから、その時に判断かな」
「人も赤になるのね、覚えておくわ」
「山の中なんだから、黄色はすぐ攻撃の方が楽なのに~」
「ん、めんどう」
「キミたちね。殺意在り過ぎ」
「ぶ~、ぶ~」
「ほら、さっきから見える黄色い点に近づくよ」
黄色い点を頼りに近づいて行くが、目の前にはなにもおらず首を
「いないね」
「どう言う事だろ?」
「タイチ兄、上」
「あ、鳥か」
「どうするの?」
「射貫く」
ヨミは言うが早いか、サッと矢を
先程の練習の成果もあり、あっさりと鳥を仕留めて落下してくるのが見える。
「なんだか、加護の力って凄いのね」
「そうだよね。素人が直ぐに鳥を射止める事が出来るって、早々無いだろうし」
フェリスと感想を伝えあっていると、仕留めた鳥を持ってヨミが近づいてくる。
「タイチ兄、やった」
「凄いよ。最初から良くできたね」
「ん!!」
満足そうな表情のヨミだったが、頭を突き出してきたので撫でて置く。
そしてそれを見たニーナが対抗心を燃やす。
「む~、私も取るんだから~」
「そんなに慌てなくても、このサーチ?の機能があるんだから落ち着きなさい。うっかり怪我でもしたらどうするの」
「うっ、そうだった。森や山は危険だから気を付けないと」
この時タイチは、回復職を選択することも出来たが、2つの理由から黙っている事を選んでいた。
1つは、どこまで治療できるか確認していない事。
もう1つは、ケガをしても大丈夫と考え、無茶をするかもしれないと言う2つの理由から黙っていた。
「それじゃあ、注意しながら奥へ行ってみようか」
「そうね、気を付けていきましょう」
先程からいくつか黄色い点が見えるが、地面付近に見える事はなく、全て木の上の獲物の様だった。
流石に先ほどの様に簡単に射止める事は出来ず、魔法でも数回試してみたが、やはり着弾するまでの間に飛び立ってしまう事が確認できた。
「やっぱり水弾だと、当たる前に飛んで逃げるね」
「こういう場合どうすれば良いの?当たらないとお肉が足りないし」
「ん~…、教えても良いんだけど、殺傷能力が高すぎるから、咄嗟の時に慌てて誤射すると怖いんだよね」
「と言う事は、水弾よりも当たる魔法を知ってるって事ね」
「まあ、そうなるかな」
「ヒントちょうだい!」
「ん~~~、じゃあ、風かな」
「風?分かった」
「え?それだけなの?」
「いや、水でもあるにはあるけど、想像力が足りないと出来ないかなと思って」
「それは、水弾みたいに飛ばすもので良いの?」
「水って言うより氷かな」
「氷の弾なら水と変わらないんじゃない?」
「形を変えると分かり易いかな。冬に屋根から垂れ下がっているのって何だか分かる?」
「
「これなら土でも同じ様に出来ると思う」
フェリスに細かく説明している間に、ドンッと言う音が突然鳴り響いた。
慌ててそちらを振り向くと、20cm程の幹が陥没しこちら側に向けて倒れてくる木があった。
「あ、やばっ」
「ちょっとーーー!!」
「きゃーーー!!」
「おーーー」
いち早く避けていたヨミ以外は、慌ててその場から左右に分かれて非難する事に。
「ごめ~ん。思ったより威力が強かったみたい」
「ニーナ!!危ないでしょう」
「一体何の魔法を使ったんだよ?!」
「え?風の魔法だけど?」
「…風をどう使ったんだ?」
「水弾と同じ様にしたら、途中で
「圧縮弾か……、もうそんなの使えるのか。それ人に向けて使うなよ。当たり所が悪いと死ぬからな」
「えっ?ニーナの魔法ってそんなに危ないの?」
「まだ中途半端だけど、もっと回転数とか空気を圧縮すると、もっと危なくなるかな」
「ほうほう、そうなんだ」
「ニナチ、やったね」
「いえ~い♪」
タイチは喜んでいるニーナの頭を軽く小突く。調子に乗って撃ちまくられると、倒木で下敷きになりかねないからだ。
「せめて岩に向って撃つように」
「丁度いい岩なんてないんだけど」
「どうしようかな…、フェリス、知らずに魔法を使って被害を出すのと、知ってて被害が出るのはどっちが良いと思う?」
「そうね、知らないよりは知っていた方が、いざという時の力になると思うわよ。まあ、被害は起きたら考えるしかないでしょうけど」
「そうか…、教えておくかな……」
「そんなに危なかったりするの?」
「間違いなく危ないね。人が簡単に死ぬから」
「これは、注意して聞かないとダメね」
そうしてタイチから魔法の使い方について指導が入る事になる。
・風を物凄く薄くし、刃物の様にして撃ちだす方法。
・吐いた息の空気だけを集めて、相手の顔を覆う方法。
・水で口と鼻を覆う大きさにして、呼吸を止める事を目的で使う方法。
・水を細く、もの凄く圧縮して出すことで切断する方法。
・土を氷柱の様に尖らせた状態で回転させて、風魔法などで後押ししつつ撃ちだす方法。
・同様に水を氷に変えて同じことが可能な事。
「いまここで教えられる使い方は、これ位かな」
「ねぇ、タイチ。どれくらい危ないのか分かりにくいのがあるのだけど」
「え~と、どれかな?」
「吐いた息ってそんなに危ないの?」
「え~と、吐いた息の中には人の意識を一瞬で刈り取る事ができるモノがあるんだよ。ただ、空気中に広がってしまうから、普通に生活してると遭遇しない現象かな」
「意識を失うのね。気を付けなきゃ」
「あ、ごめん。言い方が悪かった。殆どの場合、一瞬で死ぬから」
「……ちょっと、危ないじゃない」
「ヨミチ、お兄ちゃんは、凄い危険人物だね」
「んっ」
「危ない使い方があるから教えたのに…」
「あぁ、ごめんなさい。凄く勉強になるわよ。ただ、思ってた以上に危なかったから」
「ちなみに、ニーナの使った魔法を強くすると、人の当たった部分を抉り取る魔法になるから」
「……ニナチも危なかった」
「さすが、兄妹ね」
「教えて貰って良かったかも…。次の獲物に撃ち込むつもりだったから」
「鳥だったら影も形も無くなるかな」
「お肉大事」
「タイチも気持ちを切り替えていきましょう。あんまり遅くなっても困るし」
フェリスのフォローを受けつつ、次の獲物を探すことへと意識を向ける。
ただ、道中でニーナが何やら魔法を使っている姿が確認できたが、タイチは工夫をしているのだと思いそのままにしていた。だが、その行為は、その場で注意しておくべき事だった。
「教えた方法は、無理に使わなくても良いからね」
「まあ、教えて貰った中で直に使えそうなのは、風を細くする位かしらね。包丁を飛ばす感じにすれば良さそうだし」
「鹿」
「あ、あの黄色いのがそうなんだ。良く見えるね、ヨミチ」
「あんまり声を出すと気づかれる」
「だね、じゃあ、ここから届くかな?」
「ん?ニーナ?ここからやるのか?」
「え?もうやっちゃった」
「はっ?!嘘だろ?あんなに離れてるのに」
「あ、鹿が倒れた」
「ちょっと、何をしたのよ?」
「さっきの空気を吐いたのを集めるって言ってたけど、分からなかったから鹿の頭の所から空気を無くしてみたんだけど」
「おぉぅ…、見事な応用で…。それも、正解の1つだけど、人に向けるなよ」
「お兄ちゃん、分かってるよ~」
「タイチ、やっぱり知らない方が良かったかも」
「ちょっと早まったかもしれない…」
タイチの少しの葛藤と、フェリスの後悔を含ませながら、仕留めた鹿をタイチのアイテム欄に収納して行く。もちろん、ここまでに仕留めている鳥も収納済みなのも報告しておく。
また、約束してあったニーナの頭を撫でつつもう一度注意する。
仕留めた鹿があれば十分な量の肉が食卓に上る事になるのは間違いなく、これ以上の狩りも必要なさそうな為、一路帰路へと向かう事になる。
「1頭分の肉があれば十分すぎるし、戻ろうか」
「は~い」「わかった」
「それがいいわね」
しばらくは、警戒を怠る事なく進んでいたのだが、そろそろ麓に出るタイミングで追加のお肉もとい、猪が飛び出してくるのをサーチ画面で察知する事になる。
「タイチ兄、結構早いのがくる」
「こっちに向かって移動してるから、木の陰に避けられる様に準備して」
「は~い」「分かったわ」
「見えた」
「結構早いな」
「逃げられないわね」
「動いてるから、当てにくいかも」
「こっちで動きを止めてみるから、見てて」
タイチはそう言葉を残すと、土の魔法を選択した。
猪の進行方向に、10㎝程の段差を作って転ばせることを選択する。
不意に足元の高さが変わった事により、猪は足を引っかけてしまい滑り込む形で進んでくる。
態勢が崩れているのにも関わらず、再び突っ込んで来る姿勢を見せている。
だが、ここで土魔法の弾丸が追撃の魔法として頭部に直撃し、猪は命を散らしてしまう。
タイチは、ここまで思い通りに仕留める事が出来た為に、倒した対象はゲームだとアイテムに変わったなと余計な事を考えてしまう。
その思考の所為で、目の前で倒した猪が光の粒子となって消えていく。
「お兄ちゃん、猪が消えてく!?」
「あーーー!!ストップ!!止まって!!消えないで!!」
「あー、お肉」
「……タイチ、説明よろしく」
猪が消えた場所には何も残っておらず、女性陣の冷たい視線もあった為に肝を冷やす思いをしたが、運の良い事にアイテム欄に『肉・毛皮・牙』の3つが手に入っていた。
ただし、この事はタイチしかその事が分かっていない為、視線が痛いままの状態が続いて行た。
「まって!肉と毛皮と牙は手に入ってるから、安心して」
「それならいいけど」
「お肉は大事」
「で、ここにはない場所に手に入ったって事は、加護が絡んでるんでしょう?」
「その通りです。敵とかを倒すと消えながら素材を落としたな~と考えてました…」
「それで、本当に肉と毛皮と牙が手に入ったで良いわけね?」
「その通りです」
「それって、解体されてるって事?」
「あぁ、解体されたものが入ってる」
「じゃあ、さっきの鹿は?」
「解体できるかって事?どうだろう、ちょっと加護を
アイテム欄にある鹿にカーソルを合わせると、テキストが表示されるだけであったが、自動で解体して欲しいと願うと、選択肢のポップアップが表示された。
「いま自動で解体出来る様に、加護が変化した…」
「便利だね~」
「じゃあ、鳥もやって」
「加護ってそんなに簡単に変わったかしら……」
「まぁ、後で解体をする手間が減ったと考えれば、幸せな事だよね…。うん、きっと」
「で、解体するとどうなるの?」
「何か減っても文句は言わないよね?」
「肉が減ったらダメ」
「たぶん、肉は平気だと思う…」
「試してみるしかないんじゃないかしら」
「分かった」
鹿に出ていた解体の文字をタップすると、いくつか素材に変わって表示される事となる。
一番の懸念だった肉は、そこそこ部位に分かれて存在していた。また、皮や足の健、毛皮に骨、血液など細かく細分化されている。
「良かった、普通に解体する様な肉の部位がちゃんと取れてるよ」
「お~、それは楽ちん」
「安心して解体出来るね~」
「なんて言うか、猟師の人の苦労が半分以上消えてるわよね。持ち運びに解体、それに仕留めるまでの苦労とか…」
「あははは……、それは、ごめんなさいとしか…」
「お兄ちゃん、これを知られると、狩りをしてる人達に連れまわされるよね」
「ん。絶対連れてく」
「……秘密の方向でお願いします」
「はいはい、バレないようにね」
思った以上の収穫を手に、4人は村へ戻っていくのでした。
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