第48話 お昼まで畑仕事を
翌日、起きてきた両親と挨拶を交わしたが、昨日の話題は出てこなかった。
両親の中でどの様な扱いになったのか疑問に思うけれど、場合によっては心配事が増えるかもしれないと考え、タイチは話題を振ることはしなかった。
だが、ニーナは水球を出しながら挨拶を交わしている。
うん、両親が安心できる話題を探そうと心に誓う。
朝食後、畑に向かいながら今日の昼の件について、話すことになった。
「タイチ、お昼にミリアちゃんが来るのは良いのだけど、お昼はどうするの?特別な料理でも作った方がいいのかしら?」
「加護の力で料理を出そうと思ってたんだけど、それ以外にも何か別で作った利する方がいいのかな」
「お、加護の料理なのか。どんなのを予定してるんだ?」
「鹿肉の厚焼きかな。他に作るなら、豚汁?いや、猪汁かな」
「ほ~、それは楽しみだな」
「タイチ、確認したいのだけど、容易にどれくらい時間が掛かりそうなの?」
「どうだろう?料理の熟練度も上げながら作ろうかと思ってたから、到着する前には作れると思うよ」
「お兄ちゃん、ミリア姉と一緒に料理をする事はしないの?」
「一緒に作るのも良いんだけど、そうすると結構前から準備しておかないと、間に合わないだろ」
「じゃあ、畑仕事があっという間に終わったら、どうする?」
「まあ、どっちでも出来る様に準備はするかな」
「ふ~ん、じゃあ早く終わる様に頑張ろう~!」
畑に到着し、作物の確認・雑草等の処理を終え、最後に水撒きをと言った時にそれは起こった。
「水撒き~♪とぉ~♪」
陽気な掛け声と共に、ニーナが魔法で水を撒き始めた。小雨の様な形で一気に畑の上から水が落ちてくる。
うん、危険な使い方をしない様に注意はしたね。だからと言って魔法で水を撒くとは思ってなかった。だが、昨日から水球を作って練習していたのは、この為だったかと合点がいく。
両親は口を開けてぼ~と見ている。水を汲んできて撒く重労働が一気に無くなったんだから。
「ニーナ、ちょっとこっちに来なさい」
「ん?なに、お兄ちゃん」
トコトコと近づいてくるニーナに向けて、タイチは掌で軽く『ペシッ』と頭を叩く。
「あたっ?!急に叩かないでよ!」
「お前ね。父さんたちを見てみろよ。呆然としてるだろう」
「オヨ?」
「オヨじゃないの」
今度は両手でニーナの頬を引っ張る事へと行動が移る。
「いらい~」
「痛くて当然。誰かに見られたらどうするんだよ」
その言葉に、ニーナは頬を抓っている手から逃れて返答してきた。
「周りに人が居ないか見回して、昨日の習った敵味方の索敵をしてるもん!」
その返答に、家に帰ってからその機能自体を忘れて過ごしていた自分のお粗末な点を自覚する。
「あ~、あの機能を使ってたのか……。昨日、家に帰ってから忘れてた……」
「え~~、お兄ちゃんが教えたんじゃん」
「こんなに早く、便利に使いだすとは思ってないから…」
「ん?って事は、お兄ちゃん、今この輪っかみたいなの消えてるの?」
「あぁ、消してるけど」
「え~~、必要なんだと思って、ずっと出してたのに~」
「あ、それでか!」
「ん?なにが?」
「昨日、フェリスに称号が現れたのじゃないか。どうして急に魔法使ったんだろうと思ってたんだよ」
「あ、そっか。後で聞いてみないとね」
「たぶん、あぶらむしだな」
「あ~、使いそう」
「と、そんな事よりも、父さんと母さんをどうするかだ」
「んと、それは大丈夫だよ」
「じゃあ、任せても平気か?」
「うん!」
ニーナがどんな説明をするのか若干の不安があるものの、本人のやる気に任せる事にした。
「お父さ~ん、お母さ~ん。水撒き終わったよ~」
その掛け声で再起動し始めた2人。
「ニ、ニーナ。ちょ~っとこっちへ、いらっしゃい」
「…あ~、どうするかな。誉めた方が良いのか注意した方が良いのか……」
ニーナは特に気に模した様子もなく、両親の元へ移動していく。
「ニーナ、家族以外に見られては居ないわよね?」
「うん、大丈夫。ちゃんと確認してからやってるよ」
「まぁ、なんだ。水撒きありがとうな」
父さんはニーナには甘く判定した様だ。頭を撫でている。
「えへへへ~。お兄ちゃんに教わったの」
おっと、こちらにキラーパスを投げてきている。やはり一緒に付いて行くべきだったかと、タイチは内心焦り始める。
「タイチ~、いらっしゃい」
母さんの良い笑顔が見えている。仕方なく、両親の元へ移動する事になる。
「タイチ、ニーナにあの水撒きを教えたなら、ちゃんと報告して頂戴」
「いや、まって!水魔法の使い方は教えたけど、水撒きは教えてないから!」
「どういうことだ?」
「水魔法もそうだけど、魔法の呪文を使わなくても、想像する形で魔法を使う方法を教えたんだよ。えと、こんな風に水の球を出すとか、形を変えて棒状にするとか」
「あ~、なるほどな、昨日からニーナが水の球を出してたのは、これか」
「それで、水の球がどうして水撒きになるのかしら?」
「想像力と魔法力の使い方が、旨いんだと思う。1つの水の球を大きく出さないで、広く小さく出して、雨の様に降らせる様に出来るから。だよな?」
「えっ?違うよ」
「……違うの?」
「雨降れ~って、やっただけ」
「タイチ、あなたとニーナの中で、魔法の使い方が違うみたいだけど、大丈夫なの?」
「か、考え方の違いだけだよ。ほら、広く水を細かく出すのと、雨が降るのは同じでしょ」
「まあ、実際に起きた事としては同じか」
「あのね、タイチ。水瓶に魔法を出したりするにも、他の人は何か呪文を唱えてるのは知ってるでしょ?」
「それは、まあ、一応」
「あなた達、魔法の呪文を唱えてないんだけど、分かってるの?」
「……ちょっと、言わなくてもいい方法を試したら使えて…」
「それで、ニーナもそう言うモノだと思って、同じ様に使ってると言う事だな」
「そうだよ、お兄ちゃんが最初から呪文を言わないから使えるんだな~って」
「最初の根本的な原因は、タイチね。何で呪文を唱えなかったの」
「いや、呪文って攻撃の為だと思ったから、応用を利かせるなら唱えない方が良いのかなと…」
どうやら家族とタイチの間で、呪文に関して
「
「勿論だ。『我に命のしずくの恩恵を』だろ」
その呪文の言葉が
一気にずぶ濡れになるタイチの姿が、そこにあった。
「「「「………」」」」
水魔法が突然発動した事に理解が出来ない両親と、水をひっかぶってショックを受けているタイチ、何となく原因が分かったニーナと、4人のそれぞれの沈黙が場を支配する。
「どう言う事だ……。何で魔法が…」
「ちょっとタイチ、カインの職業を魔法使いに変えてたのなら教えてちょうだい」
「いや、昨日、母さんに攻撃を受けて寝込んでたから、戦士系のにしてる…」
「「「……」」」
「お兄ちゃん」
「んあ?どうした」
「今、お父さんとお母さんの目の前で、魔法使って説明したよね?」
「はっ?!まさか?!」
「そのまさかだと思うよ」
ニーナの指摘もあり、タイチは急いでメニュー画面を開き、両親に称号が付いて居ない事を期待してステータスを確認する。
そんな淡い期待も
「あぁぁぁぁ~、付いてる~~」
「……、一応確認するわね。何が付いてるのかしら」
「………魔法の称号」
「昨日、言ってた称号であってるかしら…?」
「です」
「
「…そうか、…魔法戦士か!」
「そこは喜ぶ所じゃないでしょうに!」
母さんの肘打ちが、父さんの脇腹に吸い込まれる様に命中する。
「あがっ?!」
「もう、もっと深刻に考えてくれるかと思ったのに」
「お父さん楽しそうだね」
「あの一撃を貰ってる姿を見て、その感想は出ないかな…」
その後、魔法が使える様になった事もあり、タイチは両親にどのように使う事が出来るかを説明していく。
母さんは、水汲み作業が減るから良しとしましょうと、考えを変えたらしく、少しうずうずした様子を見せている。きっと早く使ってみたいのだろう。
父さんは、一撃を貰ったこともあり大人しくしている。
畑仕事を終わらせるだけのはずが、いくつも問題が出てくるのかとタイチは頭を捻る。
そんなタイチの気も知らぬとばかりに、ニーナから提案が飛んでくる。
「お兄ちゃん、お昼まで時間が出来たから、ダインさんの所で食材を買おうよ」
「ん?買い物?じゃあ、母さんにお金を貰わないと」
「あれ?お兄ちゃん、お金持ってるでしょ?」
「えっ?どこに?」
「加護の中に。神様にケーキとか渡したんだよね?」
「あぁ、そうか。持ってたんだっけ」
「色々忘れ過ぎじゃない?」
「色々在り過ぎるんだよ…」
「大変だね~」
「原因の半分はニーナだと思うけどな」
「え~、知らないな~」
折角料理をするのだから、食材を増やしても良いかと思い始めるタイチだったが、それよりも先に、腕を引っ張って行動に移すニーナに
「じゃあ、買い物にしゅっぱ~つ」
「まって、着替えさせて」
そんな2人の様子を見送りながら、魔法の話をし始める両親の姿があった。
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ご覧いただきありがとうございます。
※今回の話の中に、1カ所『あぶらむし』と表記があります。
昔の言いまわしで、近年では『G』と言えば理解していただけるかと思います。
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