第47話 今日の報告ですが…
家に入ると寝込んでいた父親のカインが起きてきたので、夕食を済ませた後に今日の報告と相談をする事が決まる。
タイチはどこから説明をしたものかと頭を捻っているが、いい考えが浮かんでこない。
頭を悩ませているタイチの横で呑気に魔法の練習をしているニーナの姿が目に入る。家の中と言うことで、目に見えない風ではなく水球を出して遊んでいる。
「なぁ、ニーナ」
「なに?」
「魔法楽しいか?」
「うん、もちろん♪」
「危険な魔法があるから、他の職業にするって言ったらどうする?」
「ん~~、また魔法を使わせてくれるなら変えても良いよ?」
「そっか~。使える方が良いか…」
「職業を変えても魔法が使えた場合はどうするの?」
「……」
ふと思い返せば、職業変更やサブ職業などで魔法が使える状態を維持できる作品が頭を
まさかと思いつつも、メニュー画面から自分の職業を今まで設定していない盗賊に変えてみる。
念の為に確認と思いつつも、ニーナと同じ様に水球を出すイメージを取る。
「……水球が出たね」
「それがどうしたの?お兄ちゃんも魔法職にしてるんでしょ?」
「いまは、盗賊にしてある…」
「あ~~あ、って事は、私の職業を変えても使えるって事だよね?!」
「そうだね…」
「これ、
「…物凄く拙いね」
「お父さんとお母さんにも黙っておく?」
「あぁぁぁ…、どうしよう」
報告する内容を纏める筈が、新たな問題が判明してしまい、タイチは顔を蒼くし頭を抱える。
しかも考えようによっては、ゲームと同じ様に職業を2つ付ける事が可能と判明し事により、行動の幅が広がる事も可能となるはずなのだが、それよりも先に想像したのは、上の階級の者たちに酷使される未来だった。
だが、タイチは1つ肝心な事に気付くことが出来ないでいる。
それは何かと言うと、あくまでもタイチの加護の影響下に入った者に限定されると言う事だ。
実際、村の住人の職業をサブに設定しても、タイチのメニュー画面にステータス表示されていなければ、別の職業の力を維持する事は出来ないのだが、関わりの薄い人物の職業を変える事などしていない為、気付けるはずもなかった。
「一応、相談をしておかないと…」
「じゃあ、私がミリア姉の事を言ってあげるね」
「うん、それは遠慮するよ。自分で言うから」
「え~、なんで?変な事言わないよ?」
「原因を作った人が言ってもね~…」
「ちぇ~、大人しくしてればいいんでしょ」
「援護して欲しい時には、話を振るから」
「そっか、いつでも言える様にしておくね」
ニーナとの会話をする内に、少しだけ持ち直した様子のタイチは、両親に今日の出来事を話す順番を委ねる事を決める。
内容的には、
そして夕食後の団欒へと時間が進んでいく。
「父さん、母さん。今日はいくつか報告と相談があるんだけど、どの話から聞きたい?」
「タイチ、そんなに複数あるのか?」
「うん、色々とあったから……」
「何で最後の方が
「大丈夫、御目出度い話も1つあるにはあるから」
「そうなの?ならどんな話があるのか、最初に聞かせて貰える?」
「え~と、御目出度い話と加護に関する話と、少し問題になりそうな話と協力者になってくれた人の話かな」
「真ん中の2つの話題に、不安を覚えるんだが何から聞いたものか?」
「それなら、悪い方の話からにして貰える?明るい話題は後で聞いた方が、心持が軽くなるから」
「分かった」
その様に返答されれば、タイチの中で悪いと思われる話題から伝える事にする。
先程判明した、職業が複数使える事と、称号の話だ。
「え~と、悪い方向の話は、複数の職業の力を使えるかも知れない事と」
「ん?タイチは職業を変えられるんだから当然じゃないのか?」
「どう説明しようかな…。今の職業とは違う設定に変更しても、身に付けた能力が残るって事。勿論、自分じゃなくてニーナとかが」
「ふぅ~~。サーナ、1つ目から何か可笑しな話が聞けたな」
「そうね、耳の調子が悪いのかしら」
「お兄ちゃん、私の職業を変更してみたら?」
「いや、もう魔法の出し方が分かってるから、あんまり意味が無いと思う」
「そうすると、お父さんかお母さんに魔法を使ってもらう?」
「それもな~。もう1つの悪い話と繋がるんだよ」
「む~。難しいね」
「私達が魔法を使うと、悪い話になるそうよ?」
「そうみたいだな」
もう1つの悪い話と繋がると聞いて、両親の眉間に
悪い話からと言ったのだから聞いてもらうしかないと思い、タイチは話を進める。
「今魔法の出し方を見せると、もしかしたら称号を手に入れられるかもしれないのが悪い話」
「称号ってのは?」
「何かの偉業だったり、到達できない領域に足を踏み込むと貰えると思う」
「それが魔法を出すのを見ると、私達も手に入るって事かしら?」
「見るだけなら、無いかも知れないしあるかも知れない。細かく説明したニーナやフェリスは称号が付いちゃったから」
「まあ、その辺はどうなってるか、こっちも分からないから何とも言えないが、見せるだけ見せて、称号が付くのか確認してみたらどうだ?」
「そうだね。じゃあ、見せるだけでも」
タイチはそう口にして水球を出そうとしたが、既にニーナが目の前に浮かばせていた。
「こんな感じに魔法を出すの」
「あら、綺麗な水の球ね」
「凄いもんだな。こんな形で出せるのか」
感想を述べている両親のステータス画面をサッと確認する。見ただけでは、称号は追加されないらしい。これで一安心できる材料ができたと、タイチは胸を撫でおろした。
「良かった。見ただけなら称号は追加されないみたい」
「そうなの?それなら良かったのかしら?」
「良かったと思うよ?魔法の発動が早くなったり、威力が上がる称号だから」
「あ~、また可笑しな言葉が聞こえたな」
「何かしらね?耳の調子がおかしいのかしら?」
「この称号の所為だと思うんだけど、ニーナが鹿を一瞬で仕留めたんだよ」
「……ニーナが?」
「…非力な女の子なのよ?」
「えっへん!」
疑問符を浮かべつつもニーナをみる両親と、両手を腰に当てて胸を張るニーナの姿が対照的だった。
「ニーナには、人に向けないよに注意してるけど、やり方を覚えちゃったからちょっと危ない感じになったと思って欲しいかな…」
「…職業を変えても」
「…身に着けた力は使えるのよね?」
「たぶん…」
「ふっふっふ、大魔法使いです!」
「余計な事はいいから」
「え~、そんな扱いしなくてもいいじゃん。さっきフェリスちゃんも同じ称号付いたって言ってたのに」
「ゔっ…」
「あ~、それでさっき突然声を上げたのね。フェリスちゃんも魔法の達人とまでは言わないけれど、危険な魔法を使えるのね?」
「…おそらく」
「それを教えたのはタイチって事になるんだよな?」
「……「そうだよ~」です」
「分かったわ…。他に使える人を増やさない様にして頂戴」
「そのつもりだけど、2人程どうなるか分からないかも」
「一応聞いておくか。誰だ?」
「ヨミちゃんと、ミリア姉さん」
「加護に名前が載ったって言ってた子たちね」
「うん、お兄ちゃんのお嫁さん~」
「……候補ね?」
「候補?代わりに報告する?」
「…イイマス」
「今のやり取りで、大体わかったけど、ちゃんと報告はしてね」
流石、母と娘。以心伝心の様相を見せてくれる。
「今日、ミリア姉さんが不安定なのが分かってたから、教会に訪ねて行ったら結婚する話の流れになりました…」
「そうなのね」
「えっ?結構あっさりすますんだな。オレは結構驚いてるんだが」
「加護に名前が出たって聞いた時から、遅かれ早かれこうなるんじゃないかと思ってたのよ。まあ、意外に早かったけれど」
「明日の昼頃に、挨拶に来るから」
「ミリアちゃん、ずいぶん結婚に乗り気なのね」
「ミリア姉ってば、結構お兄ちゃんのこと気に入ってたみたいで、運命の相手が探しに来るってお告げを聞いてたんだって。で、そこにお兄ちゃんが会いに来たからその場で直ぐに決めてたよ」
「運命の相手ね~。こっちが巻き込んだ気がしなくもないけど?そうよね、ニーナ?」
「えへへへ…、そうだったかな~?」
「タイチ、誠意を持ってミリアちゃんに接するのよ。いいわね」
「それは勿論」
「そ、なら良いわ。
「お、おぅ…」
「これで話は、全部でいいのかしら?」
衝撃的な話の後に結婚の話題が続いたことで、両親は話が終わった事になりかけていたが、最後の報告が残っていたので追加しておく。
「あと1つ。村長さんと神父様が、加護の力を黙っててくれる事になったから」
「どっちもミリアちゃん経由っぽいわね。あってるかしら?」
「あってるよ。村長さんは収穫物と加護が貸し出せることだけ伝えてある」
「神父さんのほうはどうなんだ?」
「同じ話と、自分が神様と連絡が取れることがあることと、下手をするとニーナが聖女になる可能性があるって事くらい」
「………最後に特大のが来たな」
「どうしましょうか……、ちょっと頭が痛いわね」
「大丈夫だよ♪私、聖女にならないって宣言しておいたから」
「宣言でどうにかなるわけないでしょう!!」
「え~、お兄ちゃんが近くにいたから神様には伝わってるよ?きっと」
「ふぅ~~……、今日は早く寝たほうが良さそうだな……」
「頭痛いわ…」
両親のキャパシティが限界を超えたらし。
最後の話が、協力者が増えた事を喜んでもらえるかもと思ったのが間違いだったようだ。
どうやら、このまま就寝する様なので、明日改めて何か聞かれるかもしれない。
明日もいろいろありそうだと思いつつも、夜は更けていくのでした。
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