第46話 家に帰るだけなのに(改)
村の中心まで戻って来た4人は、今日獲得した肉の配分を相談していた。
「フェリスとヨミちゃんは、どれくらい肉を持って帰る?」
「そのまま渡されても困る」
「そうね、誰から貰ったんだって話になるから、タイチが持ってる方が良いんじゃないかしら?」
「その問題もあるのか」
「明日、焼くだけ焼いて、残ったら考えたら?お兄ちゃんなら色々料理知ってるんでしょう?」
「ん~、鶏肉と豚肉、それと牛肉なら使ってた事はあるけど、鹿と猪は殆ど経験が無いんだよな~」
「牛を食べるって、随分豪勢ね」
「食べる為に飼育されてたからね、こればっかりは何とも」
タイチは苦笑いしつつ説明をしていく。やはり、生活すると言う部分を考えると、如何に苦労の少なかったかと思い出せるからだ。
「牛って美味しい?」
「それは勿論美味しかったよ」
「ん、ズルイ」
「そう言われても…」
「今日のお肉でも美味しい料理を作れるんでしょう?」
「ステーキ位しか思いつかないんだけど」
「すてき?」
「あ~、肉の厚焼き?かな」
「ふ~ん、厚焼きなんだ。他は?」
「え~、思いつかないって言ってるのに…。後は鍋くらい?」
「あんまり料理の種類がないの?」
「いや、思いついた料理が、ただ材料が足りないから作れないだけ」
「足りない物ってなに?」
「パン粉と食用油かな」
「それがあると何が作れるの」
「猪の揚げた肉料理かな」
「じゃあ、そっちは材料が揃ったら作ってもらう~」
「作るのは決定してるのね…」
その後も料理の話題が続いていたが、夕暮れ時も近づいて来たため、今日は解散し帰宅の
ヨミとの分かれ道まで一緒に行動し、その後フェリスの家の前まで送り届ける。
タイチとニーナは、その後家に向かって移動を開始するが、ニーナから質問を受ける事になる。
「ねぇ、お兄ちゃん。いつも不思議に思ってるんだけど、何で家まで送ってくの?」
「女の人を家まで送り届けるのは、普通の事だろう?」
「お兄ちゃん以外、同じ年頃の人はやってないよ」
「あ~、前の記憶の所為だと思っておいて」
「うん、分かった。でも、村の中で送る事って必要?」
「いつも一緒に帰ってるから、そうなるのかもな。別の家族だった場合、家まで送って貰えるのはどう思う?」
「ん~、少し安心できて嬉しいかも」
「そう言う事だよ」
「そっか。で、話は変わるんだけど、ミリア姉の事はどうするの?」
「……話題に上げずに、明日会いに来るって言うだけにしようと思ったんだけど」
「きっとお母さん気づくよ?捕まったんだって」
「はぁ~、そっか。無理か~」
「だって、加護の中にミリア姉の名前が載ったの、目の前で知ってるし。そこで名前が出たら想像できるでしょ」
「まあ、その原因を作った本人が横に居るけどな」
「ふっふっふ、いい仕事したね♪」
「そういう奴はこうだー!」
タイチはニーナの頭を握った両手で、ぐりぐりと挟むつもりで捕まえようとするが、ニーナはいち早く頭を下げて走り出して逃げていく。
「きゃー、お兄ちゃんが苛める~」
「まて、こらー!嘘を言うなーー!」
ちょっとした鬼ごっこの様な形となりつつも、家の方角へ移動していく。
丁度家の前にたどり着いた所で、家の中から母親のサーナが出てきた。
「あら、おかえりなさい。さっき叫び声が聞こえたけど、その様子だとニーナね」
「あ、たっだいま~。心配して出てきたの?」
「それはそうでしょう。何かあったら助けなきゃって思うわよ」
「それだったら、父さんは?」
「あ~、ちょっと横になってるわ」
「あ、肘を打ち込んだんでしょ?」
「そんなことはないわよ。ぶつかっただけよ」
「お兄ちゃんが、お父さんの体力が2割減ったって言ってたけど、ぶつかっただけで?」
ニーナの方を見ていたサーナの視線が、タイチの方に向って鋭く流れてくる。
「ちがうよ、たまたま別の事で加護を調べてた時に急に減ったから何かあったと思っただけだよ」
両手を前に突き出し、首と手を振りながら返答していては、何か知っていますと取られてもおかしくはない状況を、タイチ自らが作り出している事に気が付いていない。
「そう?他にも何か知っているんじゃないの?」
「別の伝えなきゃいけない事はあるけど、その件は何も知らないよ」
「そう、知らないのね。
「ねぇ、お兄ちゃん。お母さんの職業っていじったりした?」
「前に付けた状態のままにしてる…。もしかして、馴染んできたとか?」
「そうね、前に比べると体が軽くなって動きが素早くなった気がするわね」
「なにか熟練度でも上がってたりするのかな?調べてみるよ」
タイチはメニュー画面を開き、母親のキャラ表示にカーソルを合わせ、ステータスが確認できるか試してみる事にした。
その辺り、加護の方も気を使ったのか、タイチ本人の分しか見えないという意地悪もなく、あっさりと確認する事が出来た。
「特にLvとかも上がってないし、ほかのみんなと似た様な表示ばかりだけど、ここじゃないのか」
そう思い、某オンラインRPG系のスキルや熟練度と言った画面に切り替えてみると、何故か格闘スキルが10を超えているのが発覚した。
100を超えて成長するのか、10が上限なのか全く不明な状況が分かった。
また、他の戦闘系のメニュー画面を確認したが、職業の上に星が3つ並んでいる様なものには星が付いておらず、どのように成長しているのか不明の状態だ。
よく考えれば、酒場で仲間にする系統の作品だと、武道家などにはスキル表示がないと気が付く。
これは、戦闘系の職業に着いたら全力でその力が発動していたりするのではと、薄っすらと汗が流れ落ちる。
「……ねぇ、かあさん。体を動かすのに、なにか格闘に関する動きをしてたりする?」
「ん~、どうかしら、畑仕事をする時に中腰になったり、体を伸ばすような事しかしてないわよ」
「それが原因かもしれない。体を伸ばしたり中腰になったりするのを、武道の型として判定した可能性があるかも…。それに格闘に関するスキルが上がってたから、鋭い打ち込みに繋がったんじゃないかな」
「あら…、それじゃあ、
「うん、そうなるかも。職業外しておく?」
「ん~~。体がいつもより動くのも捨てがたいのよね」
「じゃあ、もし打ち込む様なら手加減してね」
「そうするわ」
タイチは父親が攻撃されても耐えられるように、戦士系の職業に設定しておく事にした。職業のスキルなのか熟練度なのか不明だが、その内『ナイトや重戦士』が設定できることに期待する。レベル上げが必要な気もするので、一緒に経験値を稼ぐ事を計画しようと誓う。
その様な考えを巡らせていると、ニーナから服を引かれる。
「ねぇねぇ、お母さんの格闘のスキルが上がってるなら、私も魔法のスキルが上がってたりする?」
「ん?あぁ、そうか。今日使ってたっけ。見てみるよ」
ニーナに質問され、同じようにスキルや熟練度の欄を開く。
やはり、母親と同じ様に魔法のスキルが上昇していた。それ以外にも、水、風などの別れた魔法のスキルも見つかる。
一つの魔法ではなく複数に
更に、表示されているメニュー画面にタブの様なものが追加されている。
そちらもNewと表示されているので、開いてみると称号が表示されていた。
『魔法の概念を超えし者』『魔道の神髄に触れる者』とあった。
やってしまったらしい。普通に呪文の名前を唱えるのが正解だったかもしれない。
「ねぇ、お兄ちゃんどうなの?」
「ん、あぁ。同じように魔法のスキルが上がってたよ」
「そっか♪もっとうまく使えるようになるね」
「……そうだね」
後で、両親に相談しよう。
そんな事を思ったのも束の間、フェリスの欄に『魔道の神髄に触れる者』が追加される。
「あーーー!!」
咄嗟に声が出てしまい慌てて口を塞ぐが、母さんに追及される。
「タイチ、突然どうしたの?」
「急に叫ぶからビックリしたよ~」
「あぁ、ちょっと気になる称号が見えたから、声が出ちゃっただけだよ。うん、大丈夫」
「これは何かあったわね?」
さすが母親である。あっさりと確信を突かれてしまう。
ある程度の情報を伝えておかないと収まらないと判断し、当たり障りのない部分を説明する。
「…フェリスの加護の画面に称号が出たから、咄嗟に声がでたんだよ」
「それは大丈夫なモノよね?」
「……ちゃんと確認してみる」
称号が出ただけで、それ以上の効果はないと思っていたが、カーソルを合わせてみると、魔法の威力や発動の向上などが補助されるテキストが表示される。
思っていたよりも称号は危険かもしれないと、認識を改める。
タイチは嫌な予感がしつつも、自分の欄も確認しなければと心に決め、称号を確認する。
『魔法の概念を超えし者』『魔道の神髄に触れる者』『魔道の伝道者』と3つあった。
タイチは、ほかの人には教えない方向でいくことを決める。このままでは、危険な魔法が飛び交う殺伐とした生活になりそうだ。そんな世界は断固御免である。
「あははは……、後で相談させてください…」
「はぁ、分かったわ。ちゃんと説明するのよ」
「フェリスちゃんのは、どんな称号かな~?ねぇ、私には?」
「同じのが付いてるよ…」
「やった♪あとで教えてね~」
「タイチ…、あなた本当に大丈夫よね?」
「ちょっと自信がなくなってきた…」
「……」
タイチは母さんの無言の重圧を受けつつも、今判明した称号の件とミリアの事をどう話し始めればいいのか考えを巡らせることになる。
両親の胃は無事に済むのか怪しい雲行きとなってきていた。
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