第68話 合成の品の種類と説明を①

 クモの討伐を終え、麓まで戻って来た面々はようやく一息つく事となる。


「神父様、ありがとうございました」

「いえいえ、これも神託の一種。参加する事が出来て光栄ですよ」

「あの、神父様も男性用の下着を作りましょうか?」

「……つつしんで、遠慮させていただきます。女性陣を優先してください」


 やはり神職に近い人はつつましい人が多いのだろうか?とタイチは思っていたが、実際は違う。

 神父様の正面にいる女性陣から、極僅ごくわずかな圧が出ていたのを見抜いたようだ。

 タイチは善意で提案していた為、後ろからの圧には気が付いていなかった。


「では、今度教会へ何かお持ちします」

「はい、無理のない範囲でお願いします。それでは、タイチ君、みなさん。まだまだ用事が山積していると思いますので、先にお暇致します」


 各々おのおのが神父様へお礼の言葉を掛けていき、教会へ帰って行かれた。

 まだ日が落ちる様な時間ではないので、合成の為に一度タイチの家へ移動する事となる。


「楽しみだな~。どんなのが出来るのかな~」

「そうね、タイチは下着を知っているのでしょう?」

「知ってるかな…。母さん、身に着け方も言った方がいい?」

「タイチ、あなた着替えを覗くつもりなの?」

「……着けた事のない下着を正し装着できるように伝えようかと思っただけなのに」

「ごめんなさい、急に言われたから、見る方向で考えちゃったわ」

「取り合えず、想像したものと違うと困るから、完成まで待ってね」

「えぇ、お願いね」


 ニーナの鼻歌交じりの言葉から、母さんの質問へと繋がった一連の流れだが、どんな下着が出来上がるのか今更ながら不安が出てきた。

 衣類品店で売っている様な通常使いの下着になるのか、レースなどをふんだんに使用した高級下着のラインナップなのか、それともスポーツタイプの物になるのか、はたまたキャミソールタイプの物が出来るのか謎である。

 取り合えず、どんなタイプの下着が欲しいのか確認を取る事にする。


「あの~、聞きづらいんだけど、どんな方向性の下着が欲しいか知りたいんだけど…」

「どんな方向性のって言われても、タイチ、私達は何も知らないのよ?」

「そうだったよね……。え~と…、普段使いする下着が良いのか、男性に見られると言うか悩殺する時のとか、身体を動かす時に使う物か、薄着の服の様な物が良いのか、色々あるんだけど、どんなのが希望ですか?」

「お兄ちゃん、早口で一気に話されても困るんだけど…」

「取り合えず色々あるって言うのだけは分かったわ。タイチ君の好みはどれ?」

「……黙秘します」

「え~~、お姉さん聞きたいな~♪みんなもそうでしょ?」


 ミリアが少女達へ声を掛けながら顔を伺っていく。

 ニーナは、あごに人差し指を当てながら考え中の様子で、フェリスは顔を赤くしてアワアワしている。ヨミに関しては、それ程興味がないのか、動きやすい物がいいと口にしている。

 色々と弄られて遊ばれる前に釘を刺しておこうと、タイチは下着の数を先に伝える。


「ちなみに、1人に付き3組までだから。後で変更は出来ないよ」

「むっ、意外と数が手に入る訳じゃないのね」

「そりゃ、5人いるから」

「そう考えると、しょうがないって思えるわね。タイチ君、どれがお勧めなの」

「…ミリア姉さん諦めないんだね」

「それはそうよ、お勧めを聞いた方が使いづらさも少ないでしょうし」

「普段使いの下着にするのが良いと思うよ。思いっきり体を動かすような事があれば、運動用のをお勧めするけど」

「お兄ちゃん、普段使いと運動用はどれくらい違うの?」

「……、一般的に下着の可愛さが違う。動きやすさが全然異なる位」

「タイチ兄、分かりにくい」

「…見本を作るよ」


 ヨミが動きやすいのを希望しているので、運動用の下着は1つは作って大丈夫だろう。普段使いの下着に関しても、誰かしら1セット希望するだろうから、見本として作る事にする。

 合成を開始し、直ぐに運動用の下着が完成する。色合いは、灰色でスポーツタイプの物が出来上がっていた。


「これが体を動かす用の下着だよ」

「さらしや、今使ってる下着とは全然形が違うのね。タイチ君、手に持っても?」

「どうぞ」


 タイチがミリアに手渡した途端に、サイズが変化する。


「……タイチ君、大きさが変わったんだけど」

「大きさが勝手に変わるのは初めて見たよ…」

「タイチ、どう言う事なの?」

「装備品扱いになってるのかもしれない。ヨミちゃんに渡して貰える?」


 タイチに促されるままヨミに下着を手渡すと、ミリが持っている時よりも小さいサイズへと変化する。


「小さくなった…」

「自動で大きさが変化するなら作る時に考えなくていいね」


 作る時の事を考えれば楽になったのは確かだが、今口にする事ではなかった。

 ミリアから渡された下着のサイズが代わった為に、ヨミがしかめっ面をしている。


「…なっとくいかない。ニナチ持つ」

「うえ?まぁ良いけど」


 ヨミからニーナに手渡された下着だったが、若干生地のサイズが大きくなったが、カップ部分の大きさは変化がなかった。

 大体近しいカップサイズに変化しているのだろうが、残念ながらタイチには良く分からない。


「ん、問題なし」

「あるよ!私の方が大きいはずだよ?!フェリスちゃん、はい!!」


 フェリスは、ニーナから有無を言わさず手渡されたが、特に目立った変化は無かった。3人共スポーツタイプの下着は同じ大きさの物で大丈夫と判定されたのだろう、きっと、たぶん、そうだと思いたい。説明を求められても答えられない。


「ねぇ、タイチ。ミリア姉さんだけ大きさが違うのが気になるんだけど…」

「……ミリア姉さんは、成長期が終わりに近づいてる大人の女性だからじゃないかな」


 苦し紛れながらも、胸の事を言及しない言い方を伝えられたと思ったタイチだったが、ミリアから余計な一言が投げ込まれる。


「成長期が終わって無ければ、この下着も大きくなるのよね?」

「…そうだね」

「お兄ちゃん、胸を大きくする方法は?」

「………」


 今度こそはバレまいと、目を閉じ顔の表情が動かない様に細心の注意を払ってやり過ごす。

 だが、その手の行動も相手にとっては、肯定の意思があるとハッキリと見破られる。


「タイチ、あなた私達家族が気が付かないと思ってるの?そんな態度を取ったら知ってますとしか受け取らないわよ」


 母さんから余計な援護射撃が来る。


「で、お兄ちゃん?」

「……色々あるけど、どれが正解かは、分からない」

「タイチ、どんな方法なの?」


 ニーナよりもフェリスの方が食いついて来た。


「一番は食生活がしっかりしてる事だと思う」

「それで?」

「食生活が良くなると、体の中で作られる成長に関する物が多くなって、胸が大きくなる傾向がある」


 一部の女性陣の視線がミリアに向かう。村長宅であれば食生活は普通の家庭よりも良かった事だろう。


「で、よく勘違いされてたのが、胸を揉むと大きくなるって事」

「揉んでも大きくならない?」

「ならない。どちらかって言うと、食事や遺伝の方が大きいから」

「遺伝…」

「フェリスちゃんのおばさんも大きくないよね」

「……ニーナ、お母さんは小さいけど、お祖母ちゃんは大きかったのよ」

「え~~?」


 フェリスの胸元を、ニーナが残念な物を見る様に見つめる。


「タイチ、大きくなるわよね?」

「……そこは分からないんだけど、これから加護の力で色々食べられる様になったから、諦めないで行こう」

「あ、諦めないわよ!!」


 タイチは、励ます積もりが余計な事を口にしたと思ったが既に遅い。

 フェリスに、上目遣いで睨まれている。

 どうにか慰めの言葉をと思ったが、いい言葉が浮かんでこない。


「フェリス、胸が少し大きく見せられる下着があるんだけど、いる?」

「……考えさせて」

「タイチ君、私達も大きく見えるって事よね?」

「あっ、そうだった…」


 再びフェリスをみると、頬を膨らませて睨んでいる。

 皆も大きくなるなら、相対的に小さく見えるのは変わらない状態になる。それに気が付いて頬を膨らませて睨んできているのだろう。


「と、取り合えず普段使いの下着も作るから、比べてみてよ」


 タイチは、このままで会話が続かないと判断し、合成に逃げ道を選んた。

 特に下着の事も考えずに合成を行った為、ワンポイントの意匠は付いて居る物のシンプルな白い下着が完成する。


「わ、さっきのと全然違う。真っ白だよ、これ」


 まず最初にニーナが思った事を口にし、女性陣が次々と意見を言っていく。

 フェリスの意識も、新しい下着へと移行した様だ。


「これ、背中で止めるのよね?難しくないかしら?それとも、誰かに付けて貰うのかしら?」


 母さんから素朴な疑問が出てきている。誰かと言うと、ニーナか父さんになるのだろうが、それも大変だと思うので、2つのやり方を伝える。


「正しい着け方と、ちょっと手抜きの付け方を教えるよ」

「お兄ちゃん、これ付けてたの?」

「違う…。知識として知ってるだけ」

「なんだ、前の世界って、男の人も凄いの着けるんだと思ったのに」

「まぁ、一部の人は付けてたかな?」

「…すごいね」

「それは置いておいて、付け方なんだけど、先ずは留め金の部分を先に伝えるよ」


 手に持った状態でフックの部分を重ね合わせて、繋がる事を実演して見せる。


「こう言う風に、後ろの留め具を引っかける様にして止める形だから」

「これ、背中に手が届かなくなったらどうするの?」

「胸の前で止めてから、後ろにぐるっと回して前後を逆にするのがあるけど、これがちょっと手抜きの方法」

「手が届かなくても、誰かに付けて貰わなくても良いわけね」

「母さんの場合は、父さんにでも付けて貰えば良いんじゃない」

「もう、何言ってるのよ!」


 軽く先程思った事を口にしたが、余計な事だったとハッキリわかる。

 照れ笑いの母さんの鋭い平手が、タイチの背中を綺麗に撃つ。パアーン!と良い音がした。


「お゛お゛お゛……」


 かなりの痛さで声が上手く出てこない。ダメージを受けたと判断されたのか、HPゲージが表示され、4割ほど削られていく。

 職業が、父さんの戦士とは違い、盗賊では耐久性に問題がありすぎる。

 自身に回復魔法を掛けて、痛みを覗いて行く。


「痛かった…」

「横から見てても良い音がしたなって思ったもの。タイチ、ちゃんと言葉を選びなさいよ」

「気を付けるよ…」


 フェリスの忠告を受け止めつつも、説明に戻ろうとする。


「話を戻すんだけど、正しい着け方を見せる方が良いかな?」

「タイチ君、背中を叩かれたばかりなのに、誰かに付ける積もりなの?」

「いや、自分に付けようかと思ったんだけど…」

「それはそれで、面白そうね」

「ん、実践」

「誰か代わりに付けるのでも良いけど?」

「タイチ、ここで裸にするつもり?」

「フェリス、服の上からに決まってるだろ…」

「あ、そうよね…、みんなの前だものね」

「タイチ君、2人っきりなら付けてくれても良いわよ~」

「ミリア姉さん…」

「もう、ミリア姉もあとあと!お兄ちゃん、先に付け方を教えて」


 ニーナに促され、付け方を実践する事になる。

 肩ひもをに腕を通して少し前屈みになり、背中のホックを止める。


「こんな感じの姿勢で背中の留め金部分を付けて貰って、肩ひものカップに近い方を持ち上げて手を入れる。ここまではいい?」


 女性陣から頷きが返って来たので、先を続ける。


「手を入れたら、脇に近い方の部分から、中央に向かって持ち上げる感じでカップの仲に入る様に調整する。これを両方したら、姿勢を元に戻す」


 そこまでの工程を見せた所で、タイチが付けた下着が正しい大きさへと変化していく。


「自分が付けても変化するんだ……」

「お兄ちゃんの大きさに変わったんだ…」

「ま、まぁ、こんな感じで付けて貰うと、今までの下着よりもしっかり保護される形になると思うよ」

「今までの下着とは付け方から全然違うわね」

「そうだね、こっちの下着は年を取っても型崩れしにくいみたいだし」

「重要な部分よね?ちゃんと教えてくれないと。大事に使うつもりで、付ける回数を減らそうかと思ってたわよ」


 母さんから注意が来たが、思い出したのが今なのだからしょうがない。


「なるべく思い出せたら伝えるよ」

「ありがとう、タイチ。無理のない範囲でお願いするわ」


 余り着けていても恥ずかしいので、さっさと付けている下着を外してニーナに手渡す。


「えっ?着けろって事?」

「違う、渡しただけ」

「なんだ、着けてくれるのかと思った」

「女性同士で試して欲しいかな…」


 まだ作った下着は2つだけなので、残りの下着の説明をどうするか悩むタイチがそこに居たのでした。


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