第69話 合成の品の種類と説明を②

 通常使いの下着と、スポーツタイプの下着を見本として作り、着け方まで実践した所までは良かったが、残りの下着の種類に関しては、どう説明した物かと悩むところだ。


「あの、取り合えず、どっちかの下着が出来てればいいよね?」

「ん?残りは?」


 意外にもヨミからのツッコミが来た。着ける積もりは薄いのかもしれないが、品物としては確認をしたいのだろう。


「いや、おめかしをする必要がある時や、部屋着として着る下着だから必要なのかな~と思って…」

「こっちが決めるから作る」

「…はい」


 作らない方向へ逃げようとしたが、ヨミから作る様に理由と共に指示を受ける。

 悩殺用の下着とは何だろうと疑問に思いつつも、黒や赤のレースを使った物だろうと安易に考えつつ作成すると、見事に赤と黒の生地にレースが付いた上下の下着が完成する。

 出来上がったのだからと、女性陣の前に取り出すとニーナから指摘が入る。


「ねぇ、お兄ちゃん。凄く派手なんだけど、これって下着の形って決まってるの?さっきと違って、胸の部分が上半分くらい無いんだけど」

「いや、祝いの席パーティーに着る下着だと思って作ったから、この形が全てなのかは分からないかな」

「要するに貴族とかの祝いの席かしら?タイチ君、別の色で作れたりする?」

「どうだろう?希望の色があるの?」

「それじゃあ、白と赤でお願い」


 ミリアから希望が出たので、白と赤の色を中心に作っていく。言われた色の下着が出来上がったので、皆の前に取り出すと、先程とはデザインが異な下着となっていた。


「なんで完成品が違うんだろう…」

「ねぇ、タイチ。普段使いする物で水色の物って作れる?」

「やってみる」


 今度はフェリスからの希望で普段使いの物を作り出す。この時、水色ではなくライトブルーに近い色を思い浮かべていた。

 完成品を再度女性陣の前に取り出すと、の可愛らしい物が出てきた。


「また違うね~」

「どう言う事だろう?」

「もしかして、作ってる時に何か考えてる?」

「言われた色を中心に考えてるけど…」

「じゃあ、普段使いの物で、この色と形の違う下着って出来たりする?」

「分からないけど、やってみる」


 ニーナから違う色彩と形状の物をと言われたので、タイチは適当にストライプでライトグリーンの物をイメージして作ってみる事にした。

 直前にライトブルーの物を見ていただけに、近しい色を選んだようだ。


「出来た」

縞模しま様だね」

「違う物って言われたから、柄を変えてみたんだけど」

「うん、お兄ちゃんありがと。これで分かったかも」

「んん?」

「これ、お兄ちゃんの記憶にある下着でしょ」

「…そうなのか?他にも色々と見た事はあるぞ」

「だから指定しないで作って貰うと、違う物ばっかりできるんじゃない?ここまで、全部違うよね」


 タイチはイヤな汗が背中に流れている感覚を味わう。女性陣からの視線に、『お前はどれだけの下着を知っているんだ』と言われている気がしてならない。


「と言う事で~、お兄ちゃんに注文を付けると、それにあった下着が完成する事が分かりました!」

「いや、無理な注文は再現できないと思うぞ」

「でも、違う形の下着はあるんでしょ?」

「そりゃ、レースで意匠が付いて居たり、無かったりとか色々在るかな…」

「ちなみに、フェリスちゃんのだけ、ちょっと違う気がする」

「……」

「タイチ、私のお願いした下着は、みんなと何か違うの?」

「……」


 タイチにとって、非常に答えずらい質問が投げかけられた。あなたの胸を大きく見せる下着を渡しましたとは言えない。親切心を出したのがあだになっていた。


「答えてくれないって事は~、フェリスちゃん。向こうで付けて来ようよ」

「えっ?ちょ、ちょっと待って!」


 ニーナに手を引かれ、フェリスが隣の部屋へ移動していく。隣の部屋から声が聞こえてくるのは言うまでもない。


「何で私がニーナの前で着替えなきゃいけないのよ!」

「どんな風に変わるのか知ってる人が居た方が良いじゃん!私も見たいし」

「あなたは見たいだけでしょうが」

「え~、裸になった時は後ろ向いてるから、着けてよ~」

「もう、ここまで来たら着けるけど、ちゃんと後ろを向いていなさいよ?いい?」

「は~い、着けたら教えてね。感想言うから」


 打って変わって残った面々はと言うと。


「タイチ君、この下着ってかなり手が込んでる様に見えるんだけど、その辺りはどうやってるの?」

「と言われても、合成したらこれだったのでさっぱりなんですけど」

「そっか~。貴族のお嬢様方に聞かれた時に答えられると良かったんだけど、無理そうね」

「ミリアちゃん、貴族の居るような場所で下着を見せる積もりなの?」

「いえ、サーナさんそれは無いですよ。ただ、胸の形が綺麗に整ってたりしたら、質問はされると思いません?」

「あ~、それは分かるわね。たぶん、日常的に付けてたら村の女性陣から問い詰められそうだもの」

「ですよね~。だから、着けても大丈夫な状況を整えないといけないですし」

「タイチ兄、他の糸でも作れる?」

「たぶん作れると思うよ。ただ、糸の種類によって出来る物が違うと思うけど」

「なら、うちの店で糸を仕入れる」

「それだと、木綿や絹糸とかあると嬉しいかな。肌に優しいだろうし」

「ん、糸を渡して完成品を売る。お金の心配なし」

「他に作れる人を増やしたいけどね…。全部こっちに回って来ても困るし」

「タイチ、これを作るのにはどういう職業が必要だったりするのかしら?」

「主に裁縫かな。ただ、同じ物を作るなら所々に木工か鍛冶で部品を作る必要があるかな」

「木工に鍛冶ね。タイチ君、それが無理な場合は?」

「背中の止める部分を、前に変えて紐にするとかかな?ただ、服を着た時に嵩張るから着け心地は悪くなるかも?」

「色々と試行錯誤しなさいって事になるのね」


 会話が一区切り付いた辺りで、隣の部屋からニーナの声が響いて来た。


「わっ!!凄い!!フェイスちゃん、ちゃんと胸があるよ!!」

「言わなくても良いわよ!!」

「そのまま向こうに見せに行こうよ」

「服を着てからに決まってるでしょうが!」

「え~、みんな見てみたいと思うよ~」

「タイチも居るんだから、少しは考えなさいよ」

「喜ぶと思うんだけどな~」


 聞こえてきた会話によって、残った女性陣の視線がタイチに向かう。


「え~と、家の外に出て待ってるよ」

「出なくても良いと思うわよ。カインは最初から逃げていないのだし」

「それに作った人が見て感想を言ってあげないと、フェリスちゃんも可哀そうだと思うわよ?」

「……何を言っても揶揄からかわないって誓えます?」

「無理よね」

「感想次第じゃないかな~?」

「味方が居ても良いと思うんだけど…」

「しっかり褒めたら考える」


 下着の話が出ていた事もあり、家に着いた段階で父であるカインは日が暮れたら帰ると、逃げを打っていたのは流石だろう。

 そうこうして居る内に、奥の部屋からフェリスの背中を押す形でニーナ達が戻って来た。


「ね、下着を着けただけなのに、凄いよね♪」

「あら~、さっきとは全然印象が違うじゃない」

「へ~、ここまで印象が変わるのね」

「ん、タイチ兄」


 タイチは、ヨミに感想を述べる様に声を掛けられる。ヨミに小声て返事を返しつつ、フェリスに声を掛ける。


「大丈夫、分かってるから」

「早く言う」

「あの、タイチ。どうかな?」

「あの、フェリス、い、印象が変わって普段より更に綺麗に見えるよ」


 タイチは、色々な感想を言おうと思ったが、危なく『いつもスラっとした感じ』と口に出しかけた事もあり、無難な誉めの言葉で伝えていた。


「そ、そうかな?」


 だがフェリスは、いつもより綺麗と言われた事で顔を赤くしており、満更な様子が伺える。

 母さんとミリア姉さんからは、他には無いのと言う視線で見られているが、下手に褒めると他の面々の誉め言葉に苦労しそうだ。


「下着1つでこんなに印象が変わるんだから、もっと作って貰わないと」

「…畑仕事とかがあるから、運動用のが一番いいと思うよ」


 これ以上下着の柄や色で悩みたくないと思ったタイチは、先に誘導先を伝えて置く。


「でもタイチ君、他の糸でも作れそうなことを言ってたじゃない?だったら、今日作って貰うのは、良いものにしないとね」


 ミリアに誘導先の候補を潰される。


「ヨミちゃん、糸があるようなら、確保しておいて貰える?普段使いや運動用の下着をもっと作って貰わないとだし」

「ん、わかった。ただ、直ぐにバレるからははたちの分もいる」

「そうよね、一気に広まるでしょうし、当分タイチ君は下着製造の専門家になって貰うかな」

「え゛~~~」

「タイチ、諦めなさい。今はあなたしか作れないのだから」

「しばらく、山に籠るのはあり?」

「なしね」

「お兄ちゃん、逃げると村の女性陣が山狩りすると思うよ?」

「……素材集めで山に」

「明日位は平気だと思うけど、タイチ君。逃げられないわよ」

「ニーナと私は一緒に行くと思うから、タイチは1人にはならないわよ?」

「ん?付いて行くよ?」

「ヨミちゃんは、糸の確保が先ね」

「大丈夫、父に押し付ける」

「忙しくなるダインさん達が逃がしてくれるかしらね?」

「大丈夫、下着を手に入れるためって言うから」

「ミリア姉は来ないんだ?」

「村の女性陣が一気に押しかけない様に根回しに回るの」

「あ~、フェリスちゃんを見たらそうなるかもね」

「わたし?」

「胸が急に大きくなったから」

「嬉しいけど下着の効果って言うのが複雑よね。脱ぐと小さくなるのだし…」

「脱ぐときなんて限られているのだから、フェリスちゃんは気にしなくても大丈夫じゃないかしら?」

「サーナさん、そうでしょうか?」

「そうよ、もう嫁ぎ先は決まってるのだから。いつでも歓迎するわよ」

「は、はい。よろしくお願いします」

「じゃあ、タイチ君には残りの下着を作って貰おうかな?」

「お手柔らかにお願いします……」

「タイチ君、胸が大きく見える下着をよろしくね♪」

「何で知ってッ」


 タイチは咄嗟に口を塞ぐが、胸を大きく見せる下着の存在がバレる。


「やっぱりね、フェリスちゃんの下着だけちょっと違ったわけね」

「タイチは、私の胸が小さいって思ってたんだ…」

「いや、違う?!小さくても気にしてないから!フェリスは綺麗なのは変わらないだろ!」

「タイチ君、大きいのは?」

「ミリア姉さん…、今聞く事じゃないよね…」


 どうやらタイチへの質疑がしばらくは終わらないだろう。

 全員の下着を作り終えるのに、あと何時間掛かるのか予想することは叶いそうもなかった。


------------------------------------------------------------------

ご覧いただきありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る