第5話 ミツカリマシタ(改)
既にできてしまった畑を背に、タイチは一路家へと帰ることを決める。
「大丈夫、まだ畑は誰にも見つかってない!」
そんな後ろ向きな声が聞こえたのか、意識のない方角から声がかかる。
「お兄ちゃん、どうしてこんなところに?」
タイチは、「心臓をつかまれる」とはこの事かと、不自然な汗が出始めるのを感じつつ声の方角へ振り返る。
そこには、手提げの籠を持つ妹であるニーナの姿がみえる。
(なんでここに、ニーナがいるの……。)
口を開けて声を出そうとするが、パクパクとするばかりで、急には答えが出てこない。
ニーナは、そんな兄の姿を不思議そうに見つめながら近づいてくる。
(畑から意識を逸らすしか)
浅はかな考えでニーナに質問に質問を返してしまう。
「…どうして、そっちの林からここ来たんだい?」
「えっ?だって『神さま!!」とか声が聞こえてくるじゃない。きっとお兄ちゃんが加護を貰って叫んでると思って」
実に的確な指摘をありがとう…。
(そっか~、叫んでたか~)
タイチは、若干遠い目をし始めてしまう。
「今日、加護を貰ったんでしょ?この畑がそうなの?」
(ダメだ、もう認識されてる。取り合えず、畑を作れる事だけ言うか?)
そんな心の内側の事など知らなニーナは追撃を仕掛けてくる。
「ねぇ、何を作付けするの?」
少し返答に詰まりながらも、一言だけ返すことにする。
「ま、まぁだ決まってないよ」
「ふぅ~ん、そうなんだ。じゃあ、お父さんとお母さんにも聞いて相談だね」
ニーナに、間髪入れずに聞き返される。
(取り合えず畑の事だけ話せばいいかな)
問題を先送りにしつつも、返事をしてしまう。
「あぁ、いいよ。みんなで相談しようか」
「うん。でも私は、この間フェリスちゃんの所から貰ったお芋があったじゃない?あれを植えてみたいな~って思うんだけど」
(あぁ、そう言えばお裾分けで貰ったのがあったっけ)と少し前の出来事を思い出しつつ、顎に手を当て返事をする。
「なるほど、植えて増やすことにするのも悪くないね。丁度いいかもしれない」
「でしょ。と言うことで、お父さんとお母さんに聞いてみるね。他にも植えられるものがあれば試せるし」
ニーナは、小走りで確認しに行ってしまう。
ニーナの後を追いながら、作物を植えたらどれくらいので収穫できるのかを考えてしまう。ゲームだと、作った畑に種をまくと、確か10日?前後で収穫できたような気がする。種芋のままだとどうなるんだろ?
そんな考えの中、視線の先には丁度仕事も終わったのか、両親が揃って家に戻ってくる姿が見える。
「お父さん!お母さん!お兄ちゃんが加護の力で畑を作ってた!」
小走りに手を振る妹の報告に、後ろから追いかける足が遅くなる。
(ニーナよ。そんなに簡単に報告をしたら、お兄ちゃんちょっと胃が痛いんだけど)
「なに?本当か!タイチ!良い加護を貰ったんじゃないか?!」
「本当ね。これなら、もう少し作物を増やすことも予定に入れてよさそうね」
笑顔で両親が聞いてくる。
(………、取り合えず、畑関連の事をふわっと伝えよう。どんなことになっても追加で言えるように!)
「そうなんだ、今は畑が作れる事を試してみたんだよ。他にも何か出来そうなんだけど、まだ調べてないから、言えるようになったら伝えるね」
「そうか。なんだか色々な事ができる加護を貰えたんだな。いいことだ!」
嬉しそうな父親のカインと対照的に、頬に手をあて顔を傾けながら、母親のサーナから質問が入る。
「タイチ。もしかして、この加護は
(ありがとう、マイマザー。その通りです!ニーナはさっくり言ったけど!)
「できれば、広めないで貰えるとありがたいかな?どんな事が出来るかもわからないし、畑に植えたものがどんな風になるかもわからないから」
「ん?おにいちゃん、畑を作れるだけじゃないの?」
「あぁ、他にも何か出来るかも知れないから、言わないでくれると助かるかな」
「そっか~、フェリスちゃんにも言おうと思ったのに…」
先ほどパニックになりかけて、フェリスを巻き込むと発言した事は棚上げである。
それにしても、しれっと他人に広めることを選択していたニーナの発言に嫌な汗が出てくる。
(おぉう…、一気に広まる所だった)
そんなタイチの焦りも気にせず、ニーナは次の発言に移る。
「じゃあ、何を植えるか家族会議だね♪」
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一部誤字を編集しました。
9/16 携帯でも読み易くなる様に修正しました。
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