第22話 釣りをしよう

 またしても怒られた翌日、釣り竿を作った事を報告し忘れていたことを思い出す。

 どうにもならないので、畑に向かう途中で話題として取り出す。


「あの~、昨日、報告し忘れていた物が……」

「タイチ、まだあったのね」

「違うよ?!これは、父さんも知ってるから、全部黙ってたわけじゃないから!!」


 父さんへの方へも話題を投げるが、何を説明し忘れているのか気づいていない様子が伺える。


「もう、あなたも知っていたのなら説明してくれないと」

「イヤ、ちょっと待ってくれ。タイチ、オレは説明されたか?」

「うん!手に取って、自分も欲しいって言ってたじゃない!」

「んっ!?あ、あぁ~~。釣り竿、釣り竿だ!!」


 どうやら無事に思い出して貰えたようだった。


「お兄ちゃん、釣り竿作ったの?見せて見せて~」

「あぁ、これだよ」


 ニーナに釣り竿を渡しておく。長さや振り易さを確かめている。


「ねぇねぇ、お母さん、畑仕事が終わったら釣りに行ってい~い?」

「えぇ、良いわよ。タイチも一緒に行くわよね?」

「うん、釣りの加護も試したいから行くよ」

「タイチ、釣りの加護なんて物も持ってるか?」

「持ってるよ。ただ、スキルが必要かどうか分からないから試してからになるけど」

「まあ、試してみてからだよな」

「うん。だけど、餌を付けて投げ入れると大体釣れるんじゃないかなと思ってる」

「大体釣れるって、どういう事かしら?」

「言葉通りだよ?餌を付けて投げ入れると、釣るって行動を忘れない限り、ほとんど釣り上げが出来るはず」

「えぇ~~、なにそれ~。ズルイ~~!!」

「じゃあ、ニーナも釣りの職業付ける?そうすれば、同じような形で釣れると思うけど、どの加護が働くのか不明なんだよね」

「付ける!!」

「母さん、今日は魚料理になるかもしれないな」

「そうね、期待しないでまってるわ。あぁ、でもタイチ、程々でお願いね」


 この会話の中で、タイチが釣りスキルの事を心配をしているが、RPG系のメニュー画面を開いて確認している事が原因だったりする。

 実は、釣りの仕様に関して言えば、牧場系のメニュー画面の方が判定がアバウトだったりする。それは、釣り具で釣り上げの判定がされている為だ。

 だが、そんな仕様は、数日では気づくことが出来るわけもなかった。


 そして今日の畑仕事も、全員の職業を採取関係のに切り替えて、いつもより早く終える事が出来た。

 その為、比較的早い時間に、ニーナとの約束の釣りへ向かう準備をし始める事が出来た。


「ニーナ、さっき渡した釣り竿は持った?川へ向かう途中で餌になりそうな虫を探しながら行くよ」

「は~い、それじゃあ、しゅっぱ~つ♪」


 川へ行く途中にも採取場所が見つかるので、ついでに採取していく。途中で野葡萄の脇にも光る場所をみつける。


「あ~、食べられないのに光ってる。勿体ないな」

「お兄ちゃん、私がやってみたい!」

「それじゃあ、お願い」


 食用ではない葡萄の茂みが光っていた為、錬金術で使う素材でも取れるのだろうと、安易に考えたのがいけなかったようだ。

 収穫したアイテムを確認すると、何故か「New 巨峰」と出ている。


「あー、あ~⤵、あ~~⤴。って、どうしようかな…」

「どうしたの?お兄ちゃん?」

「ん~、ちょっと目をつぶって口を開けてもらえる?」

「いいけど、変なもの食べさせないでね?」


 ニーナが目を瞑って口を開けたのを確認した後、アイテム欄から取り出した房から1粒もいで口の中に放り込む。食べ物だと感づいている当たり、察しがいいと思う。


「いま口に入れたのは、果物だから食べてごらん。種があるから、それは外に出すんだよ」


 説明をしている途中で、既に咀嚼しているのが分かる。

 即座に目が開いて、笑顔が溢れている。


「んん~~♪、昨日のイチゴも凄かったけど、これも甘~い♪」

「そっか、それは良かったよ。さて、これはどう報告しようかな」

「あ、そっか。このままだと昨日みたいに、直に無くなっちゃうよね」

「そうだよ、昨日父さんと一緒に食べられなかったからね…。ふっふっふっ、しかし!今日は味見をしたのはニーナだけだ」

「ズルい!!一緒に食べて、道連れになろうよ~」

「っと、種を頂戴。後で植えてみるから」


 折角なので、種を植えて栽培できるか試してみる事にする。


「2つあったけど、これでいい?」

「ありがと。これから芽が出てくれるといいな~」


 タイチは、話題を逸らして追及を逃れたと思っているが、実はそうではなかった。

既に、ニーナによって切り返しの手段が構築されていた。

「お兄ちゃんが新しい果物を見つけて、お父さんと2人で食べようとしてるの」

「お母さん、お兄ちゃんが私だけ食べられない様にいじめるんだよ」

などのいくつものパターンが作られていた事を知らない。

 若くても女性を侮ってはいけない。ちなみに、父さんは知らない間に巻き込まれている。


 そんな思惑が張り巡らされているとは知らずに、手渡された種をアイテム欄へ入れていく。

 タイチは、魚釣りの前に意外な収穫があっていい感じだと思っているが、落とし穴は直ぐそこにある。

 ちょっとした寄り道もあったが、ようやく目的の川へ到着する。


「さぁ、どんな風に釣れるかな」

「お兄ちゃん、普通に釣ればいいの?それとも、普通と何か違う事をするの?」

「取り合えず、川に向かって釣るって意識を向けてみてみるから、待ってて」

「は~い」


 タイチのメニュー画面には、「釣り」の項目があるので、適当に川に投げ入れてみる。少し待つと、釣り竿がしなり水面に「!」のアイコンが表示されるので、釣り上げる事に意識を向けると、一気に川魚が釣り上がる。


「えぇ~!もう釣れてる?!」

「よしっ!これなら、簡単に行けそうだ」


 釣り上げた魚を釣り針から外す事もなく勝手にアイテム欄に移動していく様子も含めて、ゲーム仕様の加護は便利である。

 ちなみに、餌も「装備」するとイメージすると、勝手に付いている様子が伺える。


「ニーナ、餌を装備するって考えて、釣り竿を投げ入れてごらん。しばらくすると、水面に変なマークが出てくるから、それが見えたら釣るって考えるんだ」

「ん?よく分からないけど、解った。やってみるね」


 言われた通りにイメージが出来たようで、釣り針の先に釣り餌が付いている事が見え、そのまま水面に投擲している。


「これで、待ってればいいの?」

「そうそう、その内、糸の入れた辺りで表示が出てくるから」


 投げ入れた糸が少し上下に動いたと思ったら、急にしなる様子が確認できる。


「うわ?!なんか変なのが出てきた!!」

「それが出てきたら、「釣る」って考えてごらん」

「あぁ~~?!勝手に釣れる!!楽ちん!!」


 ニーナの釣り上げた魚が手元に届いた所で直に消えるかと思ったが、少し様子が違うようだ。もしかしたら、ニーナの無意識下でアイテム欄への移動を止めているのかもしれない。釣り上げた魚の大きさを見たいのは当然だよね。


「お~、結構大きいのが釣れた♪」

「これなら、夕飯のおかずになりそうだし、もっと釣り上げようか!」

「だよね、だよね♪よ~し、もっといっぱい釣るぞ~~!!」


 母さんの程々にと言う言葉を忘れ、2人してどんどんと釣り上げていく。

 釣り上げた魚は、アマゴ、ヤマメ、ニジマス等々、食用になる物が中心になっている。食べる為と考えているからだろうか?フナなどが掛かる気配がない。

 小一時間ほど釣りをした辺りで、持ってきた釣り餌が尽きる事となる。


「あれ、もう釣り餌が無くなった」

「え~、もうなくなったの?楽しかったのに~」

「ん?無くなるまで釣ってた?あ、ヤバい!」

「ふぇ?!」

「釣りすぎたんだよ!母さんに程々って言われてたじゃないか!」

「あぁー。お兄ちゃんだけ注意されてると思ってたから気にしてなかった」

「えぇ~、気にしてよ~~」

「ほらほら、お母さんに報告する前に、ご近所に配れば良いじゃない?」

「ご近所に配ったら配ったで、あとでバレるぞ?」

「まあまあ、それはそれ、これはこれって言う事で後で考えようよ。食べ物を粗末にする方が勿体ないし」

「ま、そうだよな。仕方がない、後で報告だけはしようか」


 アイテム欄内で時間経過するものとしない物が混在しているので、実際には腐らないのだが、現実でそのような事が起きるとは考えていない為、近隣に配る事になる。

 また、出荷箱の存在も忘れ気味の様子だ。実際に食べ物を優先して売る感覚が薄いのでしょうがないだろう。

 知っていれば、黙ったままアイテム欄の肥やしや出荷箱のお世話になっていたかもしれない。

 売る感覚が薄いのは、村でご近所さんへのお裾分けがよく行われていたからである。


「それじゃ、暗くなる前に配りに行こうか」

「うん!喜んでくれると良いね?」

「そうだな。急なお裾分けだから、困るかもしれないけど」


 こうして、ご近所へのお裾分けをしつつ移動する2人。

 一番最後に配りに行ったフェリスの家で、ニーナのこぼした言葉が翌日の収穫に影響するとは、この時誰も気づけていませんでした。


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