第21話 品物はこちらになります
父さんの採掘が一段落したらしく、こちらに戻ってくる。
「タイチ、そろそろ引き上げでいいか?」
「うん。父さん、手伝ってくれてありがとう」
「どういたしましてだ」
スキル上げを終了して家路に向うことにする。もちろん道中での採取も忘れない。
ただ、帰りの採取に関しては、タイチ本人が実行することで、父さんとの内容の違いを確かめていく事を前提としていた。
「父さんが採取したのと、大体同じような物が取れるけど、数がちょっと多いかもしれない?」
「そうなのか?今日、口にしていたスキルとかの効果が上がったとかではなく?」
「あ、そっちはまだ見てなかった」
メニュー画面からスキルを確認すると、上昇しているのが確認できた。
この時確認していたのはRPGの画面だったが、のちのち調べた結果、牧場物の採取の項目にも経験値が振り込まれていたことが判明する。
本人の知らない所で、経験値の共通化が図られているとは気づけるわけもない。
「父さん、スキルが少し上がってたよ。これが影響してたのかもしれない」
「そうか、収穫物が増えるって言うのは、嬉しい限りじゃないか」
「だよね。少しでも食べるものが増えるのは幸せな事だし」
「と言う事は、ここまで収穫した物は食べ物が中心って事か」
「うん、なんでか分からないけど、ハーブやイチゴが取れてる」
「ほぉ~。ハーブと野イチゴかいいな!」
「違うよ。イチゴだよ」
「ん??野イチゴとイチゴは違うのか?」
「全然違うね。この辺りで採れる野イチゴは、酸っぱくてあまり甘くない物が多いけど、このイチゴは甘くて大きいサイズの物だったよ」
「ズルいぞ!もう食べてるのか!」
「野イチゴじゃなかったから、試しに食べてみただけだよ。これがそうだよ」
アイテム欄からイチゴを取り出し、父さんへ渡していく。
今まで見た野イチゴとは違い、粒も大きく前世で食べた事のある品種に近い果物となっている。
「おい、これがイチゴなのか?随分と大きいぞ?」
「甘くて美味しいよ。今食べると、家に帰った時にきっと匂いでバレると思うけど」
「そこは毒見をしたと言えばいいさ!全部取り上げられて食べられなくなるよりは、味見をした方が良いに決まってる」
「へぇ~、何がいいのかしら?」
家の近くまで帰って来ていたのが拙かったらしい。斜め後ろから水を汲んだ桶を持った母さんとニーナが確認できた。
「カイン。あなたは、その手に持っている物を先につまみ食いしてしまおうと言う事かしら?」
タイチは瞬間的に、父さんから距離を取り始める。危険度は大の様だ。直接名前まで呼んでいる。母さん達には、きっと食べ物センサーが付いているに違いない。
「タイチも逃げないで、そこになおりなさい」
「はいっ!」
素直に返事をして、父さんの横に戻る。横目で父さんの姿を伺うが、目が泳いでいるから、言い訳を考えているんだろう。
とその時、手に持っていたイチゴをパクリと口に放り込む姿が見える。
「「あっ!?」」
母さんとニーナの驚きの声が重なる。
あの状態で食べるなんて勇気があるなと思いつつ、どんな言い訳を言うのか凄く気になる。
「うん!タイチに教えてもらった通り、甘くて美味しいな!!」
速攻でこちらを巻き込んできた!!母さんとニーナの視線が冷たい!
ここは、反撃をせざるを得ない状況になる。
「みんなで一緒に楽しもうと思ったのに、父さんが先に食べたいって言ったんだよ!」
視線の先が、父さんへと移ってくれた。
「イヤイヤ、タイチが1人で味見をしているから、もう1人食べた方が信憑性が増すんじゃないかと、口にしたんじゃないか!」
「違うよ!味見じゃないよ!今までにない果物だから毒見をしたんだよ!」
そんな掛け合いを繰り返ししようとしたとこで、横合いから一言飛んでくる。
「毒見でも味見でも構わないけれど、家でもできたんじゃないかしら」
「「……」」
先に食べた責任の押し付け合いが止められてまう。
「それで、甘くて美味しいのよね?私達の分はもちろんあるわよね?」
「もちろん取ってあります!」
「そう、それなら早く帰りましょう」
家族一同、帰り道を急ぐ形で帰宅する。
もちろん、合間でニーナから「先に食べてズルい、私も食べたかった」の苦情が寄せられるのは当然の結果でだった。
◇
家に帰宅し、ひと段落したところで、今日の成果を聞かれる事となる。
「それじゃあ、どんな物を手に入れてきたのか報告をお願いね」
父さんの方へを視線を送ると、頷くのが確認できたので、食べ物ではない方から説明していく。
「まずは、前と同じ原木と鉱石類が取れたから、合成スキル上げいくつか加工したよ」
机の上に、銅の剣、盾、穂先が骨の槍を並べていく。
「おぉ~、すご~い。こんなのも作れるんだ~」
「こういう物よりは、鍋とかの方が欲しいわね」
「銅の鍋だと重いし、すぐに錆びるんじゃないかと思って。別の素材で作ろうと思ってるから待っててね」
「そうなのね、楽しみにしてるわ」
まだ作れていなくても、リップサービスを入れて置かないと、食べ物の恨みは怖いのですよ。机の上の武具をしまい、次の説明へと移る。
「え~と、次は、スキルが足りないので加工出来てない物を出すから、落ち着いていてほしいです」
「「??」」
母さんとニーナが揃って首を傾げている。2人ともよく似た仕草だなと思う。
「それではこちら、色々な装飾品に使われる原石です!」
「装飾品?」
「えっ?なになに?石ころじゃないの?」
いくつか手に取って眺めている2人。しかし、外から眺めていてもその影も形も不明なままな為、質問が来る。
「これは、どんな物になるのかしら?」
「スキル上げをして削ることが出来れば、最初はラピスラズリとかスフェーンになると思うよ」
「名前を言われてもよく分からないよ~」
「その原石の説明文をみて言ってるだけだから、実際に削ると分かると思う。最初は、宝石に近い物が取れると「「宝石?!」…だよ?」
チラリと父さんを見ると、片手で顔を覆って上を向いている姿がみえる。
これは、説明しすぎたのかもしれない。
「まだ作れないからね。スキル上げを急げとか言わないでよ?!」
「えぇ、だ、大丈夫よ。急にそんなものを身に着けても大変な事になるのは分かるから」
母さんは、一瞬で理性を戻してくるのは凄いと思うけど、ニーナの方は頬を膨らましている。早く現物を見たかった様だ。
「気を取り直して、次に行くから!」
さっさと話題を変えるのが一番だ。大本命の甘味に移ってしまおう。
「それじゃあ、さっき父さんが食べてたイチゴを」
「おい!俺だけじゃないだろう」
取り合えず、お皿の上に20個ほどイチゴを並べる。
その次の瞬間、さっと横から手が出てきて口の中に放り込む姿がある。
「あま~い!!おいしい~~!!」
「あ、こら!上の緑色のヘタの部分は食べられないからな」
「あ、そうなんだ。」
ニーナは口を動かしつつも、ヘタの部分を起用に取り出している。
その姿をみていた母さんも1つ口へ運んでいた。
「ん~~♪甘くて美味しいわ!これは、幸せね!」
その言葉の通り、次々とイチゴが消えていく。食べ逃さない様に、父さんと僕も手を伸ばすが、叩き落とされる。
「痛っ?まだ、味見の1つしか食べてないよ?!」
「オレも、同じだぞ?!」
「あらそうなの?じゃあ、食べても良いわよ」
「他にもおいしい物食べてたら許さないけどね~」
父さんと僕の手が止まる。その仕草を女性陣は見逃さなかったようだ。
「そう、2人して他にも美味しい物を食べたのね」
「許せないな~。どうしようかな~」
失敗したと思ったのは父さんも同じようだった。
顎で「出せ!」と合図が出される。
「こちらが蜂蜜と合成するともっと甘くなる、メープル樹液です」
女性陣の目がキラリと光ったように見えたが気にしないことにした。
「そしてこっちは、調味料の塩とコショウです」
追加で壺に入った真っ白な塩と、前世で食品棚でよく見かけるコショウを取り出す。
「それは聞いてないぞ!」
父さんから一声飛んでくる。
「あれ?言わなかったっけ?」
「聞いてない…。こんなに白い塩は見たこともないし、綺麗な容器に入っているコショウはもっと知らないぞ」
報連相は大事だなと思い返す。
その後、合成したまま放置していたことを、しっかりと怒られるのでした。
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