第12話 目に見えるもの
そろそろ休憩をと言うことになり、家族一同家に戻ることにした。
家に見えてきた辺りで、タイチは見慣れない箱に気が付く。
「あれ?何で家の脇に大きな箱があるんだ?」
「ほんとだ、なんだろうね?あれ」
「ん?何のことを言っているんだ?」
「家の前に何かあるのかしら?」
どうやら、両親には見えないのにニーナには見えている様子。
これは、PTを組んだ状態かそうで無いかで加護の力の影響がある事だと考える。
タイチは、今の段階で両親たちの状態の変化に説明を行う。
「父さんと母さんは、いまPTを組んでいないでしょ。ニーナはPTに入ったままだから、たぶん見えている可能性が高いんだけど」
「そうなのか。それで、その箱が見えている事は分かったんだが、なんに使うんだ?」
ゲームの仕様を知らなければ、単純に家の近くに大きな箱が置かれているようにしか見えないのは当たり前だった。
箱に近づき、名前のポップアップと説明を確認したのち、この辺りも分かる範囲で説明をする事にする。
「この箱は、【出荷箱】と言って、売りたい物を中に入れて置くと、翌日にお金に換えてくれるんだよ。もちろん、中に入れたものは売れた状態になるから、箱の中からはなくなるよ。」
「まぁ、商品として買い取ってくれる事で良いのね?」
「うん、大体そんな印象で良いと思う」
母さんの興味を引いたみたいだ。
家計を預かているからその辺りに気になっているのが見て取れる。
「んと、収穫した物とかでも良いの?山にあるキノコとか」
「たぶん、いけると思う。前の仕様だと、タケノコとかも売れてたから」
籠をもって林の中を散策しているニーナは、どんな物が売れるか知りたい様子。
自分だけのお小遣いを手に入れるチャンスと思ているのかもしれない。
「え~と、個別にお金が手元に出てくるかわからないよ?まだ、1度も試してないし」
「え~。個別で欲しいのに~」
「今までこの手の箱は、1人用だったんだよ」
「ん?タイチ、使ったことが無いのに、1人用って知ってるのか?」
(……父さんの鋭いツッコミ。)
ゲームの仕様だったためについ深く考えずに口走った為、言葉に詰まる。
連日、背中に冷たい汗が流れる。よし、誤魔化す方向でと考えた瞬間に母さんからの言葉が飛んでくる。
「タイチ、隠し事はしないでねって言ったわよね?(にっこり)」
(あぁぁ~、笑顔が怖いーーー!!!)
青白くなった顔からも汗が吹き出しはじめる。
助けを求めて父さんやニーナ見てみるが、さっと一歩引いて退避している。
既に今日だけで母さんの胃に多大な負担をかけている状態なのは理解している。
どうにか穏便にとしようと考えたため、返答がしどろもどろになってしまう。
「あ、あのですね。えと、そ、その、そんなに詳しくないと言うか、あ、あんまり知ってないと言いますか……」
そんなタイチの姿に、母から一声掛かる。
「タイチ」
「前世の記憶が少しあります!」
タイチは背筋を伸ばし、即座に答える。見事な敬礼付きである。
全ては言えないが、この辺りならまだと苦肉の返答であった。
「はぁ、今までのあなたの行動に少し合点がいったわ」
「急に畑の事に意見を言って収穫量を増やせたのは、これが原因か」
両親は一気に理解が進んだようだった。
だが、そんな両親の姿とは全く違ったのはニーナである。
腕を掴んで揺すってくる。
「お兄ちゃん!前世ってどんなだったの?今の生活とどれくらい違うの?ね、ねぇ、教えてよ!」
両親の手前、生活水準がものすごく違う事に、言いずらさと申し訳なさがせめぎ合う。言って良いものか両親の方へと視線を向ける。
「私も知りたいから教えてちょうだい。きっと今の生活と違うのでしょう?」
「そうだな、収穫量を増やす知識なんて、そう簡単に身につくわけがないからな」
(ごめんなさい。ちょっと素人が言える肥料程度です)
予防線を張りつつ、簡単に言える部分だけを話すことに。
「あんまり覚えていないけれど、それでも良いなら……」
「うん、それでもいいから!」
「え~と、まず生活水準が全然違います……。そこに見える箱も、前世には無くて、実際はゲームって言ってもダメか。物語の話の中にだけ出てくる不思議な道具みたいなものだったんだ」
「どれくらい違うの?この箱って使えたの?」
ニーナは止まってくれない模様。両親も気になるのか耳を澄まして、こちらを見ている。
「どれくらいって…。すごく言いにくいんだけど……」
「タイチ、言いなさい」
「……ハイ。分かりやすい所で言うと、その箱を使うとお金が手に入るかは試してみないと分からない。現実には無かったから使ったことが無いんだ。ただ、物語の中だと次の日にはお金が貰えていたよ」
取り合えず分かりやすい出荷箱の説明からにしておいたが、次を早くと目で促される。
「……家にある水の出る所を捻ると、いつでも水が出てきます。台所の火も捻るだけで火が点きます。トイレも手持ちの取っ手を捻ると水が流れてキレイになります。家に風呂があります。……これくらいでいい?」
タイチは説明に関して捲し立てる様に言い終える。
魔法やスキルがある世界なので、火が点くやいつでも水がでるなどにはそれ程驚きはない様子だったが、お風呂に女性陣が食いついてきた。
「タイチ、お風呂ってどういうことなの?個人の家にあるって事で良いのかしら。温泉地や偉い人の所にしかないと思ったのだけど?」
「大体の家には風呂があったよ。あと、お湯が沸いて入るまでに40分も掛からないし、石鹸とかを使って体や髪を洗ったりして、いつも身綺麗にできていたかな」
余計な一言を言っているのは判ってはいるが、隠し事をするなと強く言われた為に答えてしまう。
その返答後すぐに、母さんの手が両肩に、そして隣からは腕を引っ張るニーナが……
「身綺麗ってその辺りは再現できるの?!どうなの?!」
「お兄ちゃん、ズルイ!!」
すごい圧を受けて激しく揺さぶられる。
じょうろを買う為に戻ったはずなのに、余計な事を言い過ぎたと後悔するタイチでした。
------------------------------------------------------------------
ご覧いただきありがとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます