第19話 いざ、山へ芝刈りに

 母さん曰く、先ほど収穫した物は、家以外では話さない様にとのお達しが来たことを報告しておく。

 収穫箱に入れてお金に変えるかどうか聞いてみたが、持っていなさいとの事だった。その内、料理に使いたいそうだ。

 綿花も、糸へとつむげれば服の補修とかに使えるからとの答えがあった。

もう少し量が揃えば、布まで合成できるかもしれないのは、話した方が良いのだろうけれど、山へ行けなくなりそうなので、黙秘することに。うん、まだ加護の力は未熟なんですよ。


 ようやく二手に分かれて行動を開始すると、父さんから注意が来た。


「ようやく出発だな。タイチ、何でも相談していいとは言ったが、量が多すぎるぞ。そろそろ母さんの目が危なくなってる」

「そうは言っても、まだ序の口だよ?」

「………そうなのか。あぁ~~ん~~、どうしようかな…」

「加護の力のスキル上げをするまで、黙ってようか?その代わり、出来る事がもっと増えてると思うけど」

「それはそれで、怖いな。真正面から肘撃ちが飛んできそうだ」


 経験者は語るとは、この事だろう。ぜひ、ご遠慮願いたい。


「それに、山に入ったら父さんも同じように収穫するんだよね?職業はそのままなんだし」

「あ~、それがあったな~。一応収穫してみないとどうなるか分からないしな~」

「ちなみに、一度に収穫できる数は、1つじゃないからね」

「おい!なんで、さっきそれを言わないんだよ」

「え~、あのタイミングで言えると思うの?一撃入れても良いかしらとか呟いてたんだよ?」


 父さんも何とも言えないようで、聞かなかったことにするらしい。

 うんうん、あとで一緒に怒られようと心に決める。旅は道ずれ世は情けだよ。

 言葉の使い方は間違っているが、心情としては間違っていないと思う。


「父さん、一つ聞きたいんだけど。ここに来るまで、どこかで光る場所は見つかった?」

「いや、山の手前までには何カ所かあったが、この近くでは今の所みてないな」


 山の中に入ってしまうと、草むらが減るので当然だった。

 よくよく考えれば、ゲームと現実では移動できる範囲が全然違っている為、採取できる範囲が物凄く広くなっている事が分かる。


「言ってくれれば鎌を渡して収穫してもらったのに」

「まあ、そう言うな。一々立ち止まってたら、山の中まで調べられないだろう?」

「あ~、そうだね。きっと集めるのが楽しくなって進まないかも」

「だから、先ずは山の中が優先だろ」

「そうだね。何か見つけたら教えてね。きっと樹の幹でも光ってる場所があると思うから」

「あぁ、さっきからいくつも見てるな」

「見てるなら言ってよ。何が取れるのか知りたいんだから」


 どうやら移動を優先した為に、ここまでの採取場所をスルーしていた模様。

 タイチは、自分の職業を採掘関係に振っていた為に気づいていないのだった。


「それなら、こっちの職業も採取関係のにしておけば良かったよ」

「だから、そうしたら進まないだろ?」

「そうなんだけど、分かりやすい場所で採取しておけば、帰り道に復活してるか分かると思うんだ」

「あぁ~、そう言う事も調べた方が良かったな。ま、この先で見つけたらいくつか試してみようか」

「光ってない場所なら、普通に木が切れるんだろう?いくつか切って目印にすればいい」

「うん、そうだね。それが分かりやすいかな」


 道中で木の幹に光る場所を見つけたため、採取を試みる事に。

木の幹なので、父さんに斧を渡しておく。


「これで、採取するぞって思ってもらえれば、出来ると思う」

「よし!やってみるか!!」


 そう言うと、父さんは木に向かって斧を振り始める。


「おおぅ、勝手に体が動いてく。慣れないと気持ち悪いだろうな」


 ニーナと同じ意見の様だ。ゲーム的な補助が働いているから採取場所も伐採もされていない。

 そうしている間に、採取が完了したらしい。

 アイテム欄を確認してみると、そこにはここに樹勢しているとは思えない素材が手に入っていた。


「メープル原木と枝に、メープル樹液にミツバチの巣か~ うん、特に後者が危険だね。この甘味の少ない村ではちみつやシロップは危険すぎる」

「なぁ、はちみつは貴重で甘いのは知ってるが、シロップの方は甘いのか?」

「もちろん。今、持ち物の中から出すね。何故か壺に入ってるみたいだけど…」


 樹液の方は加工をしないとささやかな甘味だけれど、シロップにした時の甘さは強烈だろう。巣の方もそのまま分けて食べるのも可能だけど、遠心分離機を使う方がより不純物を除いた味になる事間違いなし。道具が無いが、錬金辺りで作れそうな気もする。


「メープル樹液は、ほんのりと甘いと思う。煮詰めた場合は、もっと甘くなるんだけど」

「ほ~、じゃあ、ちょっとだけ、いただきますっと」


 2人そろってメープル樹液を舐めてみた所、ほのかに優しい甘さが口の中に広がて行くのを感じる事が出来た。


「これは、ほんのり甘くて優しい香りがするぞ。いいお土産になりそうだな!」

「そうだね。実際に料理に使ったりすると、もっと強い匂いに変わるから気を付けた方が良いけど」

「その場だけなら良いんじゃないか?」

「服に匂いが付くから、他の人に会った時に必ず気づかれるよ」

「つまり、食べられないって事か……」

「匂いが消えるまで待つか、着替えるかだよね」

「そんなに服に余裕はないだろう」

「まあ、焼いたものに掛けて食べるしか、今の所思いつかないから平気かもしれないけど。ン…?!あ、加護でお菓子が作れる」

「おいおい、母さんとニーナにバレたら、満足するまで作らされるんじゃないだろうな?!そうすると、俺は採取し続ける羽目になるぞ」


 メニュー画面を開いた状態で食べる事を考えていた為、親切に合成のレシピが表示されたようだ。

 父さんと顔を合わせて無言で頷き合う。黙っている事を採用するのだったが、今さっきメープル樹液を口にしている事を忘れている。

 家族なのだから、いつもと違う香りを漂わせていれば直ぐにバレる事になるのだが、繰り返し同じ過ちを選択するとはよく似た親子である。


「さ、気持ちを切り替えて目印を作って進もうよ!」

「そうだな、ここであれこれ言ってても変わらないしな」


 近くの木を数本伐採したあと、岩が露出している斜面へと向かっていく事になる。

 タイチが切り替えていた職業によって、光る採掘場所が見えてきた為だ。


「お~、ここで採掘できるみたい。一体何が取れるかな?」

「岩を壊した時も鉱石を手に入れていたから、同じような物が手に入るんじゃないのか?」

「まあ、試してみてからだよね。それじゃあ、やってみますか!!」


 光る採掘場所で父さんやニーナの様に、念じれば出来そうな気がしたが、一応メニュー画面から採掘を選択することに。

 選んだ瞬間から、自動的に体が動き出すのは少し慣れないが、生前のゲームをしていた感覚を思い出したため、光が消えるまで無心で掘り続ける。


「あ~~、楽しいかも。疲れないのは良いね!」

「草刈りだと気づかなかったが、そんな利点があるのか」

「加護の範疇に含まれてるのかも。っと、何が手に入ってるかな?」


 アイテム欄を除いてみると、合成用の欠片と共に銅鉱や錫鉱に亜鉛鉱などが手に入っていた。

 試しに、光っていない岩肌に向けてつるはしやハンマーで叩いてみた所、かなりの範囲で岩肌が削れていく。


「なあ、そっちも加護の採掘が発生してるんだよな?」

「そのはずだけど、光ってる場所と比べると、差が酷いね」

「こっちは、やりすぎると拙そうだな~」


 環境破壊も容易に出来てしまうため、同意するしかない。

 ここまで地形に差が出てしまうのだからと、改めてアイテム欄を確認してみると、こんな山肌で簡単に取れない物があったのだった。


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