第50話 約束があるんです

 ヨミの家族に捕まり、畑の作付け及び、収穫について一通り説明をした所で少し落ち着いてくれた模様。

 しかし、作付けの調査を色々試したいらしく、今まで耕した畑と別の畑での作付けをした場合の違い等を質問された。


「まだ自分で耕した畑でしか作付けしてないので…。全然調べられてないです」

「植えた作物がどれくらいで収穫できるかは、今のところ不明って事か。ハッキリ分かってるなら幾つも作付け依頼を出すのにな」

「そんな事したら、一気に村中に知られちゃうんですけど…」

「大々的に出来ないってのは、もどかしいな。売れる商品が目の前にぶら下がってるってのに」

「父、タイチ兄に無理を言わない」

「わぁってるよ。巨峰だっけか?作れるようになったら教えてくれ」

「気長に待ってて貰えるなら植えてみます」

「それにしても良い子だねぇ~。これだけ無茶なこと言われてるってのに」

「本当に良い息子が出来たね」

「タイちゃん、ギューしてあげる」


 モアが抱き着こうとしたが、ヨミが間に入り邪魔をする。


「間に合ってる」

「お兄ちゃんには私たちがするから、大丈夫」

「あら、取らないわよ?」

「ん、それは当然」

「モアも冗談はそれくらいになさい。うちの人ダインがへそを曲げそうよ」

「うふふふ、焼いてくれるのかしら♪」

「はっ。それ位でへそなんぞ曲げるか」

「あらら、ざ~んねん」

「ところでお兄ちゃん、何で避けないの」

「うぇ、いきなりこっち?!…ほら、避けたら失礼かなと思って」

「ふ~ん、そうなんだ…」


 何だかニーナが不機嫌そうな空気を醸し出している。

 言い訳として説明が足りないのかと思い、タイチは追加で説明を続ける。


「好意を持って接してくれようとしてるんだから、避けるのは違うだろ?」

「なるほどね~。好意を持って来たらなんだね。分かった。はい、ギュー♪」


 あっけなく言質を取られ、機嫌の良くなったニーナがタイチに抱き着きに近づいてくる。

言い訳をした手前、避ける訳にもいかずハグを受け入れるが、ヨミ一家の視線が痛い。

 女性陣は楽しげにし、ダインは半眼でこちらを見つめている。きっと、ヨミが次にやらないか気にしてるのだろう。案の定、ヨミも同じように抱き着いてこようとするが、ダインが邪魔をする。


「タイチ兄、ぎゅー」


 ダインは、近づこうとするヨミの襟首を掴んで抱き着かせないようにしている。


「ヨミ、人前でそんな事をしなくていい」

「あら~、ヨナ姉さん、私には何も言わなかったのに、ヨミにだけ言ってるわ?!」

「およ?私も注意を受けてるっぽい?」

「やっ?!ちがっ」

「どうちがうんだい?」


 ダインも娘が絡むと隙が大きくなるらしく、格好の弱みを提供してしまう。

ニーナに関しては、更に抱き着く機会を手に入れたと思っていそうだが、その辺りの狙い所が、各人かくじんによって異なっている。


「およよよ、深く傷ついたので、ギュ~」

「いや、傷ついてないよね」

「え~、乙女心を気遣わないとダメなんだよ」


 そこに、ダインから解放されたヨミが近づく。


「……ニナチ、変わる」

「仕方ない、どうぞ~」

「物じゃないからね」


 そうは言いつつも、タイチは一度ダインに止められているヨミを邪険に扱うことも無く、抱き着いて来るのを拒んだりはしない。

 

 ヨミの母親たちもその光景を見て、ヨナは手を組んでにこやかにし、ヨルは頬に手を当てて微笑み、モアは口に手を当てて笑みを浮かべている。

 ダインに関しては、今口を出すと先程の件で言い負かされるのが分かっているのか、渋い顔を見せている。


「ヨミも少し気が晴れたんじゃないかい?タイチくん、奥でお茶でもどうだい?」

「あ、お気持ちは嬉しいんですけど、このあと来客があるので帰らせてください」

「おや、そうなのかい。そりゃ残念だね。また時間のある時にでも、顔を出して貰える?」

「はい、時間を見つけてうかがいます」

「その時はもっと加護の事を聞かせてね~。タイちゃん」

「こ~ら、無理して離さなくていいからね、タイチちゃん」

「あははは…、畑仕事に駆り出されて、馬車馬のように働かせないなら話します」

「まあなんだ、その辺りも色々話そうじゃないか。な、タイチ坊」

「お手柔らかに…」

「それじゃあ、タイチ兄。帰ろ」

「料理の準備~」


 しれっとヨミも付いて来ようとしているのを、ダインが止める。


「なに勝手について行こうとしてるんだ。客が来るって言ってたろ」

「ん、客が来るよ?だからお迎えする」


 その返答に、母親たちが一斉に笑い出す。


「あんたの負けだよ。家族の一員としてお迎えする気満々じゃないか。タイチくん、付いて行かせても大丈夫かい?」

「えぇ、その辺は融通が利く様にしてるので」

「ヨミ、しっかりするんだよ。迷惑を掛けないようにね」

「ん」


 タイチは来客が誰なのか説明していないので、ヨミの母親たちは気づいていない事がある。ミリアがタイチの両親に挨拶に来ると言う事だ。

 どちらかと言うと、ヨミも挨拶をする側なのだが、お迎えすると口にしていた為、何かしら挨拶はしているだろうと考えていた。

 実際は、まだ正式な挨拶をしておらず、一応挨拶をしておくべき段階ではあった。


 だがこの挨拶に関しては、ニーナ経由で嫁に来ると伝えられており、タイチの両親からは未来の娘が遊びに来た位の感覚の為、問題は一切起きていなかった。

 また、タイチやニーナと一緒に行動している姿をよく見かけているので、タイチの両親は挨拶が無かったとしても特に気にもしないだろう。


 この日の夕食時に、ヨミがミリアに釣られて一緒に挨拶をした事を報告するが、お迎えするなら先に挨拶をしなさいと、両親に怒られた事を此処に記載しておく。



さて、話は打って変わり、先に自宅前に戻っていたタイチ達の両親の方へ焦点を向ける事にする。


「ねぇ、さっきから魔法の練習をするのは分かるけれど、家の周りが一面水びだしなんだけど?」

「あぁ、すまない。つい楽しくて」

「気持ちは分からなくもないけど、もっと違う魔法を練習したらどうなの」

「と言っても、さっき見た魔法は水だし、他って言われてもな」

「風を吹かせるとかでも良いんじゃないかしら」

「どうやって風を吹かせるんだ?」

「こう、横から押し出すような感じで?ぶわっと?」

「ぶわっとね。こう、力を込めて~~、ぶわっと」


 サーナの助言が良かったのか、カインの魔法は少し弱くはあるが空気の塊が目の前の草木を押しのける形で飛んでいく。


「おっ、なんか風がぶわっと出たな!」

「そうね、それ以上強いのは無しにして頂戴よ」

「おう、任せとけ」


 夢中になって魔法の練習をしているカインと、それを微笑ましそうに見つめているサーナの後ろから声が掛かる。


「あの」

「うぉぉぉ?!」


 突然の声掛けに驚いたカインは、思いっきり魔力を込めて撃ちだしてしまう。

それにより、少し離れた木まで風の塊が一気に押し寄せてしまい、細い一部の木が折れていく。

 カインとサーナは慌てて振り向くと、そこにはフェリスが気まずそうに立って居た。


「あぁ?!びっくりした。フェリスちゃんか」

「本当に驚いたわ」

「ご、ごめんなさい。てっきり近づく事も分かってて練習してるのかと思ったので」

「いやいや、誰も来ないだろうと思って周りに気を付けなかったのは、こっちだから謝らないでくれるか」

「そうね、楽しそうに魔法を使うのを見てて、注意不足だったわ」

「いえ、急に訪ねてきた私の方も原因だと思うので」

「ところで、今日は1人なのかい?最近、タイチと一緒だったと思ったんだが?」

「畑を見に行ったら誰もいなかったので、こっちに来れば会えるかなと」

「あぁ、ニーナがやらかしたせいで今日は早く上がったのよ。タイチ達なら買い物に出かけたはずなんだけど、会わなかったのね」

「そうなんですね。じゃあ、どうしようかな…」

「もう帰ってくる頃だと思うから、中でお茶でもどうかしら?」

「ご迷惑じゃ無ければ」

「ははは、そんな気にする程でもないだろう。さ、中へどうぞ」

「あの、その前にお話が」

「ん?なんだい」

「今日、ミリア姉さんが挨拶に来るって言ってたので、私もちゃんと挨拶をしないといけないと思ってて」


 カインとサーナは、はたと顔を見合わせる。

 そう言われればそうなのかなと一瞬思うが、挨拶に関して最近の事と昔から思っていた事を口に出して説明する。


「あぁ、挨拶ね。そう言われると、タイチも挨拶に向かわせなきゃいけないと思ってたんだよな」

「そう言われればそうだったわね。タイチが色々と問題を増やすから抜け落ちてたわ。加護が現れる前までは、フェリスちゃんがお嫁に来てくれれば良いわねって、この人カインと話してた頃が懐かしいわね」

「だな」


 その話を聞いた途端、フェリスの顔が赤く染まる。


「あ、あの、ありがとうございます。不束者ですがよろしくお願いします。」

「どちらかと言うと、迷惑を掛けるのはこちらだと思うから、フェリスちゃんどうぞ宜しくね」

「こちらこそお願いします。タイチと一緒だと大変だろうけども、いつでも相談は受けるから」

「あははは……、大変なのはもう分かってるので」

「でしょうね…。ごめんなさいね」

「ま、中に入って、問題児の帰還を待ちますか」

「そうね。フェリスちゃん、どうぞ」

「お邪魔します」

「ふふふ、ただいまでも良いわよ」

「あ、あの、もう少ししてからで」


 どんどんと顔の赤みが増していくフェリス。その様子を微笑ましく見ている2人が家の中へ誘導する。

 最初は落ち着きもなくソワソワしていたフェリスだが、お茶を出されて一呼吸付いた事で、徐々にいつもの調子に戻って来ていた。

 その為、先程家の前で行っていた魔法の件が話題に上る。


「あの、さっき家の前で魔法の練習をしてたみたいですけど、魔法の職業を付けて練習されてたんですか?」

「ん?魔法職に変更されたっけか?」

「そう言われれば、変えたとは聞いてないわね」

「……それじゃあ、別の職業だったりしてますか?」

「私は、格闘家だったかしら?あなたは戦士よね」

「だと思うぞ」

「と言う事は、魔法の使い方をタイチから教わったんですね」

「そうだな。その時確か、フェリスちゃんの称号が何とかと、タイチが叫んでたか」

「そうね、魔法を上手く使える様になったとか、言ってたかしら?」

「もしかして、昨日家で使った時のが知られてるんですか?」

「称号も魔法を上手く使わないと出ないみたいな事を言ってたか」

「タイチが虫を退治するのに魔法を使ったんじゃないかって、言ってたわね。その辺りどうなの?」

「え~と、言って良いのかな?苦手な虫が出たので、こう重い塊を上から叩きつける様に出したことだと思うんですけど…」

「風の魔法なのかしらね?タイチなら簡単に分かりそうだけど」

「違ってたら、同じような魔法が使えるようになるのかもな」


 実際簡単な茶飲み話として流しているが、タイチが聞いた場合には少し状況が変わる。

 フェリスが使った魔法が、風もしくは重力に関する部類に入っており、下手をすると重力魔法を広めるきっかけになっている可能性があった為だ。

 それ程の事とは知らずついでとばかりに、フェリスからタイチ達が昨日どんな様子だったかを、第3者の目から見た情報として聞き取りを始める。

 昨日の狩りの様子を聞いて行くと、タイチの指導によってニーナの使用した魔法がトラブルを招く可能性があると分かり、結果、頭を痛める羽目になるのはここ最近のお約束になりつつあった。


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