第55話 魔力と魔法と

 外に出た面々は、タイチに聞きたいことを伝えてきた。

 ニーナは属性魔法を使う方法を上げ、フェリスは昨日家で使用した魔法の危険性を確認してきた。

 ヨミは特に聞いてくることもなく、周りの状況を確認している。

 ミリアは、遠い目をしていたが、ニーナとフェリスの質問には耳を傾けているようだった。

 また、目を離すと想像の斜め上に向かうと思われているのか、父さんと母さんも様子を見に外へ出ている。


「じゃあ、まずはフェリスの魔法から確認しようか」

「ありがとう、昨日慌てて使っちゃったのよね」

「フェリスちゃん、あぶらむしでも潰したの?」

「見てもいないのに何で知ってるのよ?!」

「お兄ちゃんが加護を操作してる時に急に声を上げてたから、それで分かったんだよ」

「ニーナと同じ称号が付いたからね…。驚いて声をあげちゃったんだよ」

「それで、どんな魔法使ったの?」

「こう、上から動きを押さえつけるような感じを想像して、そのあとに上から叩いて潰す感じで魔法を使ったわ」

「上から押さえ付ける様な感じって事は、風か重力魔法の可能性があるかな」

「じゅうりょく?」

「え~とね、落ちてる石でいいか。これを持ち上げて、手を放すでしょ」

「うん、落ちるよね」

「どうして落ちると思う」

「重いから?」

「そんなに大きくないんだから重くないでしょ」

「フェリスちゃん、交代」

「なんでよ?!私だって聞きたいのに」

「じゃあ、分かりやすく言うと、この石が落ちるのが重力があるって事」

「上から下に落ちる事が重力なの?」

「そうなるね。ん~、魔法になるかわからないけど、ちょっと待ってね」


 タイチは拾った石の重さを5倍くらいに出来ないか、試してみる。

 取り合えず、石に上から魔力で圧力が掛かる様に操作をしていく。

はたから見ていると、てのひらに石を乗せて見つめているだけにしか見えない。

 タイチは石の重さをある程度の範囲で操作出来るようになったので、希望者を募る。

 案の定ニーナが名乗りを上げてきた。


「誰か石の重さを確かめて貰える?」

「はいはいはいっ!!私がやる!」

「じゃあ、この石をてのひらせるから持ってて」

「分かった~」

「それじゃあ、いくよ」


 掛け声とともに、ニーナの手に乗っている石の重さが変化していく。


「お~~。重くなってく」

「じゃあ、魔法を解除するよ」

「今度は軽くなった!」

「石に掛かる重力を増やしたから重く感じたんだけど、魔法を掛けてない状態でも、みんな重力を受けてるのは分かる?」

「ん?うけてないよ?」

「そう思うでしょ?でもね、重力が掛かってないと、空に浮かんで遠くに行ってしまうから掛かってるって理由になるんだよ」

「空に浮かんでいくと、どうなるの?」


 重力魔法の話から科学?の話へシフトしていくが、まあ仕方がないかと、タイチは説明を続ける。


「上の方へ飛んでいくと、前の世界だと空気が薄くなって更に気温が下がるんだよ。それで、最後には空気の無い所にでるから、息が出来ずに死んでしまうかな」

「危険じゃん!」

「まあ、魔法が無ければ上に行くのは、とても大変だから一握りの人しか行った事はないよ」

「空気の無い場所にどうして行けるの?」

「全身を空気が漏れない服を着こんで、更に空気を循環させる道具を背負ってたかな」

「タイチ、そこまでしないとダメなのか?」

「空気が無い場所だからね。空気が漏れただけで死んじゃうし」

「あぁ、そうなるのか」

「それにそこまで行く乗り物も作るのが大変だから夢のまた夢だよね」

「それにしても、タイチの前の世界って、随分無茶な事してるのね…」


 確かに宇宙に行くって行動は、無茶な部類に入るなと改めて思うが、魔法がある方が無茶な部類に入るんじゃないかと、別の意味でツッコミを入れたい。

 下手をすれば、重機も科学知識もなく、同様の現象を再現できるのだから。


「話がそれたけど、重力があるって事は大丈夫かな?」

「なんとなくだけど、理解したわ」

「フェリスちゃん1人だけ良い恰好はダメだよ」

「ニーナは実際に石の重さの変化を感じたんでしょ?」

「うん、ちょっと面白かった」

「フェリスも試してみる?それとも、全員一気に出来るか試してみようか?その場合は、みんなの肩に重りを載せる感じになるけど」

「ちょっと体験してみたいな。肩に重りが載るってのは」

「そうね、いい経験だし試してみるのもありかしら」

「じゃあ、少し軽めに」


 両親から希望がでたので、全員の希望を聞かずに全体に5kg程の重さになる様に圧力を掛ける。

 ただ、肩だけにといった場所に最初から成功するわけでもなく、全身に5kgの圧が掛かる。


「ちょっと、お兄ちゃん、肩だけじゃないんだけど!!」

「ずっしりくるな」

「少し重いくらいね」

「タイチ!」

「タイチ君、なんで私まで?!」

「お~も~い~~」


 よくよく考えれば、両親は前衛職で、みんなは魔法職と狩人だったと思い出す。

 非難の声も上がったので、重力魔法を消して謝る事にする。


「ごめん、上手く魔法を使えなかったみたい」

「タイチの言ってた重力を理解したわよ。これがそうなのね」

「普段は気にもしないのにね~」

「せがちぢむかと思った」

「良い運動になりそうだったな」

「あれ位なら平気よね」

「…なんで、わたしまで」

「ミリア姉さん、本当にごめん。お詫びに付きっきりで魔法を教えるから」

「普通の魔法だけで大丈夫よ。そんなに不思議な魔法はいらないから」

「でも、ミリア姉。多分今の段階でも、さっきのヨミチと同じ様に水の球出せると思うよ」

「うそでしょ?」

「ミリア姉さんが魔力の流れと魔法の出し方を理解すると、いけるかも?」

「手をつなげば?」

「あぁ、循環ね。やっちゃおうか」

「えっ。えっ?手を?!」


 タイチは、ヨミからの提案にあっさりと乗り、ミリアの両手を掴み魔力の循環を行う。


「ちょっと、何だか温かいモノが流れてく感じがするわよ?タイチ君、止めて貰える?!」

「はいっと、これで、ミリア姉さんも魔法が使えるはず!」

「そんな事頼んでないんだけどな~…」

「ミリア姉、ごうってはごうしたがえだよ。お嫁に来るんでしょ」

「そうだけど、心の準備位させてくれても良いじゃない」

「ミリア姉さん、慣れないと置いて行かれるわよ?」

「お留守番する?」

「ぐっ…、仲間外れはお断りするわ」

「じゃあ、さっき流れてた感覚を手に集めて、水か火を掌に出すのを試してみようよ」

「こうだったかしら?」


 最初は渋っていたが、覚えなければお留守番との一言が聞いたようで、練習を開始する。だが、直ぐに水球を出してしまい、ニーナから不満の声が上がる。


「え~、直ぐに出せてて面白くない~~」

「お前は循環をする前に魔法使ってただろ」

「えっ?ニーナちゃん練習してないの?」

「してないよ?」

「ミリア姉さん、一番最初に魔法を使ったのはニーナなのよ」

「職業を付けただけで、魔法を撃ち始めたから……」

「ミリア姉は、フェリス姉といっしょ」

「そうね、私も練習からだったし」

「でも、その日の内に、重力魔法のようなものを使ったけどね」

「って事は、私も使えるのかしら?」

「試してみれば~?」

「そうね」


 フェリスの瞳がこちらをロックオンした気がする。タイチは嫌な予感と共に、何があっても大丈夫なように両足を開いて準備する。

 お約束通り、フェリスがタイチに向かって重力魔法を使用してきた。


「ぐぇっ」


 予想よりもかなり強めに圧力が掛かり、タイチは慌てて軽くなる様に重力魔法で抵抗する。


「あれ?あぶらむしに使った時と同じ感じにしたんだけど、タイチ平気なの?」

「へいぎじゃな゛い゛」

「あ、フェリスちゃん、これマズイかも!」

「えっ?解除ってどうやるの?!」

「や゛め゛る゛っでじで」

「止める、止めるから!」

「はぁ、はぁ、はぁ……。つぶれるかと思った」

「タイチ、ごめんさい。こんなに強く魔法が掛かるなんて思わなくて」

「生きてる人に、いきなり重力魔法はなしで…。練習してからにして…」


 タイチは危うく潰されたヒキガエルになる所だったと、恐怖を感じていた。

これは、全員を纏めて練習させようと決意する。何回かに分けてでも、練習会をしないと、さっきの様な事故が起こりそうだ。

 敵対している者に対して使用する分には、まあ若干問題ないと思いたい。

 さて、どの魔法を練習用にするかと、タイチは考えを巡らすのでした。


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ご覧いただきありがとうございます。

時間が取れませんでしたので、この辺りで一段落にします。


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