第3章 #10
「ナギカさん、私達の部隊の先頭が、トンネルに続く入り口を見つけたそうです」
「うん、ありがとう。聞こえているから大丈夫」
「えっ。今の、魔法少女同士の念話ですよ?」
「作戦に参加する前に、念話を傍受できるアプリをベルトに組み込んでもらったんだ。ユウヘイさんにね」
作戦中は組織内で取り決められたチャネルでの念話で情報のやりとりが行われる。そのように言われ、厚意で組み込んでもらったものだった。念話の受信だけでなく送信も可能で、魔法少女と違って私は声に出す必要があるけど、音声を念話にして発信してくれるらしい。「デジアナ、アナデジみたいなものだよ」と本人は涼しそうに言ってたけど凄い技術だ。
ついでに、マルチプルウェポンもストックがあるからということで貸してもらうことにした。信頼の置ける場所を転送ポイントに指定できるのは、やはり大きい。
「よくそんな時間ありましたね……」
「アプリのベースになったモジュールそのものは、創造局に籍があった頃に作ってたらしいし、こういう機器に組み込んだことは前にもあったんじゃないかな」
「わ。あの人、創造局に居たことあったんですか。知りませんでした」
叛魔法少女集会が保っていられるのは、ルピナスパープルのカリスマとユウヘイさんの技術力にあると窺えた。ユウヘイさんは他にも、医務や物資調達の交渉も行っているんだっけ。創造局は誠に惜しい人材を手放したものだ。
『内部ネットワークの無力化に成功。これより突入します』
「とりあえず、わたし達も中に入りましょう」
「そうだね。隊の連携を崩すなって、ルピナスパープルに言われているし」
私達も、壁に設けられた金属製の扉をくぐる。
しばらく進むと、下水道から雰囲気がガラリと変わった空洞に出た。
下水道は鉄筋コンクリートで造られていたのに対し、こちらの材質は主に金属光沢のある物質だった。加えて、足下は下向きの緩やかな勾配になっており、延々と進んでいけば確かに地下深くへたどり着くだろうことが推し量れた。
『警備システムと思われる迎撃装置が作動しています。自動通報機能はネットワーク無力化により遮断されていますが、各自注意しながら進み、必要に応じて無力化してください』
「迎撃装置って……おわっ!?」
突如、天井からニュッと現れる影があった、
逆Uの字状のアームの最下部に二対の回転翼を取り付けたドローン。それに機銃が取り付けられている。
(私はともかく、マナの防護機能がないエイリは撃たれたらおしまいだ)
そう考え、私はエイリの前に出てハンドガンを構える。しかし、その前に銃弾の雨が私の前を通り過ぎていった。エイリがさらに前へ躍り出て、SCAR《アサルトライフル》を撃ち込んだのだった。
「防護機能が働かないから庇わないといけないって思ってましたよね。余計なお世話です」
「え。大丈夫なの?」
「今日はなぜかマナが普段より多いんですよね。なので、少しぐらいは平気ですから」
「それは助かるけど」
「でも、危なくなったときはお願いします。その時はちゃんと言いますから」
そしてエイリは引き続き、次々と現れるドローン達へSCARの弾丸を浴びせていく。機銃による反撃が来るものの、彼女は巧みに躱し、時には障壁を展開して易々と凌いでいた。マナがあってもなくても、被弾するつもりは一切ないのだと分かる。
一方、地上にも何かが近づいてくる音がした。鋼鉄製の多脚を床に打ち鳴らしながら近づいてくるのは、迎撃用の小型弾頭を装備したロボットだった。
「じゃあ、それまで私は足下の掃除を!」
ハンドガンをスタンロッドへ変形させて、ロボットの群れへ殴りかかる。
本体を叩きスタンロッドが帯びている電流でショートさせ、ミサイルごと打って爆破させる。撃ち出された弾頭には回避行動を試みる他、弾頭そのものをスタンロッドで切り払って捌く選択肢も採った。
エイリと背中合わせになって、警備システムの尖兵共を蹴散らしていく。自分の背中を頼れる相手に任せられること、相手に信じられて任されていることに戦意が高揚し、気分が晴れ晴れとなる。敵地の中でありながら、アトラクションでじゃれ合っている心地がする。銃撃と打撃のメリーゴーラウンド。所々で巻き起こる爆発は、まるでこの場を盛り上げる花火のよう。
戦っている最中のエイリと目が合う。硝煙と爆風が舞っている中には不似合いな無邪気な顔。彼女もまた、この瞬間を楽しんでいるに違いなかった。
そして、最後の爆発が起こり、鳴り止んだ。これ以上、警備システムが襲ってこないことを確信すると、私達は武器の構えを解いた。
「良い準備運動になりましたね」
「前座としては楽しかったかな」
「楽しいって、敵地ですよ。もう」
「へぇ、その顔で言うんだ」
二人分の笑い声がトンネルに響く。
お互いにひとしきり笑った後、「ふぅ」とエイリは一息吐いた。
「ずっとこの調子なら下まで楽に行けそうですけど」
「何があるかは分からないしね。警戒は怠らないようにしよっか。ここからは真面目に」
「はい」とエイリは頷いた。
そして私達は下に向かってトンネルの中を進んだ。
最下層へ近づくにつれ段々と背筋が冷たくなっていくのは、気のせいだと信じたかった。
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