第3章 #8
午前三時、五分前。
「ナギカさん。なぜ貴女がここにいるのよ」
拠点正門。そこには既にエンジンが掛かったバンが四台並んでおり、それぞれに叛魔法少女達が乗り込んでいた。出発まで秒読みといったところ。そこへ私は滑り込んだのだった。
そして今、車両から一旦降りて指揮を執っていたルピナスパープルに作戦への参加許可を改めて伺っていた。
「ユウヘイさんに正しい決行時刻を教えてもらいました。貴方が口で告げた『五時』は私に向けたフェイクで、エイリさんには魔法少女同士の念話で正しい時刻を伝えていたということも」
「ユウヘイめ。どうでもいいことに限って話すんだから」
ルピナスパープルは首を掻く。
「ワタクシはね、貴女達……創造局の連中のことをよく知っているわ。狡猾で残忍な連中だもの。同行させたら、いつ何処で卑劣に妨害してくるか分かったものじゃない。だから置き去りにしようとしたのよ。ユウヘイも含めてね」
そう告げるルピナスパープルの顔は、どこか哀愁を帯びているように感じられた。
きっと隣にいたらとても心強い存在なのだろう。私にとってのエイリのように。けれども彼女は、リーダーとしての立場から、それを良しとしなかったのだ。
……というのは全て私の想像でしかないけど、だから私は笑顔で言い返した。
「ユウヘイさんなら平気ですよ。貴女の帰りを待ってます、指輪を嵌めて」
「アイツ、貴女にはそこまで話したのね……ならいいわ」
ルピナスパープルの目つきが厳としたものへ変わる。彼女の瞳は、私の姿を真っ直ぐに捉えていた。
「法雨ナギカ。貴女の作戦行動への参加を認めてあげる。ただし、ワタクシの指示には従ってもらうわ。くれぐれも、隊の連携を乱さないようにね」
「許可、感謝します」
「バンは一番奥の車両に乗りなさい。シートはそこの最後部座席。もし何か言われたら、ルピナスパープルの指示だとすぐ言い返しなさい」
そう言い残して、ルピナスパープルは一番前の車両に乗り込んでいった。
彼女の乗った車両の扉が閉まる。私は一番後ろに並ぶ車両へ急いで乗り込んだ。
「ナギカさん!?」
指定された車両の最後部座席に座っていたのはエイリだけだった。既に青いクラシカルロリータ衣装を身に着けている。
私は躊躇いがちに彼女の隣へと足を進める。バンが発進し、ぐらつきながら腰掛けた。
「今日は乗り物酔い、大丈夫なの?」
「平気です。酔い止めの薬をもらいましたから」
「じゃあ、ギュッとしなくていっか」
「はい……流石に今回は人の目がいっぱいありますから……今回は……」
そのとき、PDAが振動した。
ファームウェアを書き換えられて殆どの通信が遮断されていたはずだと思って画面を覗くと、作戦内容の仔細が記載されたドキュメントが届いていた。おそらくは、近距離無線通信の類いだろう。到着するまでの間、このドキュメントの中身を頭に叩き込む必要があるらしい。
そんな大事なタスクを負った最中、「あ、あの」と右隣から声を掛けられた。
「わたし達がこれからやるのは、魔法少女創造局へのテロなんですよ」
「そうだね」
「ナギカさんはいいんですか? わたし達と一緒に行動したら、もう言い逃れなんて出来なくなりますよ」
「私はもう、創造局に戻れなくなるね」
「だからナギカさんはここにいるべきじゃないんです。あなたは叛魔法少女じゃないんですから。貴方は、師匠がいたからここまでついてきてくれただけで……師匠だって、流石にそこまでは望んでいないはずです」
「いいよ。ランの言葉はもう要らない」
「え」とエイリの口が開きっぱなしになる。
そんな彼女はやっぱり可愛くて、私は右へ身体を傾けた。
「私、エイリさんと一緒に居たい。創造局とか叛魔法少女とか師匠とか、ぜんぶ関係なしに」
一方でエイリは背筋をピンと伸ばして硬直していた。白い肌がみるみるうちに赤く染まり、青い衣装が余計に映えるようになっていく
「ランがダメだって言っても、もう貴方と離れたくない」
「ナギカさん……」
エイリがこちらに顔を向ける。
私もまた彼女へ顔を向けた。意識しなくても自然と頬が綻ぶのが分かる。
彼女の頬もまた綻んでいた。燦々とした笑顔の中で涙が光る。とても綺麗で可愛い顔だった。いつまでも見ていたいと思えるほどに。
「ごめんね、ずっとランの言葉で誤魔化していて。自分の気持ちを伝えずにいて」
「いいんです。わたしも人のこと言えませんし……」
「それで、なんだけど……」
「それで……?」
「エイリさんはどうなのかなぁ……って。よかったら聞いてもいい?」
「ばっっっ!!」
ボンッと爆発する幻聴がした。
それぐらい、エイリの顔は真っ赤どころか赤黒く染まっていて、彼女の中ではとっくに色んなものが爆発したんじゃないかと邪推してしまう。
「っっっっっっっかじゃないですか! なんで今そんなこと聞くんですか! バカバカバカバカ! TPOぐらい弁えてください!」
「ひどくない!? 私は勇気を振り絞って口にしたのに!」
「ナギカさんは自分から言ったんだからノーカンです!」
「それで、実際のところは」
「……ぅぅ」
エイリは急にしおらしく俯いて、膝の上で小さな両手を握り、震わせた。
「帰ったら言います……今は……人の目がいっぱいありますから……」
「よっしゃ。ナギカさん頑張っちゃおっと」
舌を出してなめ回す勢いで、PDAに表示したドキュメントファイルを眺める。
絶対に生きて帰るという覚悟が、こんなにも気持ちを昂ぶらせるものだとは知らなかった。
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