第4章 #6
さあ、宣戦布告だ。
施錠されたガラス張りのエントランスを、握りしめた拳でぶっ叩く。ガラスが粉々に砕け、吹き飛んでいく。
開いた大穴から中に入り、カードキーを要求するセキュリティゲートを、飛び越えて突っ切る。けたたましいブザーが鳴る。当然、止まるわけにはいかない。
『イケイケ! そのまま道なりで!』
リコのガイドに従って進むと、曲がり角で銃声がした。一旦足を止め、壁にぴったりと背中を押しつけて敵の姿を伺う。銀色のエグゼクターが二人。装備はハンドガン。
いつもの癖でマルチプルウェポンを呼び出そうとすると、『そっちじゃないし』とリコに注意された。
『プロト・ガンスライサーが搭載されてるから、そっち使って』
「えっ。知らない武器。転送術式で呼び出すの?」
『外骨格と一緒に頭の中へ書き込み済みのはずだから、もう一回変身するみたいなイメージ!』
「もう一回変身って……あ、出来た」
手の中に、見覚えはないけど頭の中にはあった装備が出現する。銃と剣を組み合わせたような武器だ。
マスケット銃のバレルの上下に、半分に割られた剣の刃が取り付けられたような形状をしている。上の刃はしっかりした剣身を備えているけど、下の刃は剣身部分が取り払われているようだった。ただし、下の刃の刃先と茎には対になったノズルのような部品が取り付けられている。ここから何か噴き出るのだろうか。
「非殺傷手段ってある?」
『マナ製スタンバレット。
HMDで、武器の『ガンスライサー』のステータスを確認する。『MANA STUN BULLET』――間違いなさそうだ。
曲がり角から半身を晒し、それぞれ一発ずつエグゼクターへ撃ち込む。
予想よりも反動が大きく、連射間隔も広めではあったけど、命中するや身体に電流が流れて相手は即座に倒れ込んだ。「おぉ……」と感嘆の声が漏れた。他に気になるのは弾速くらいか。
「すごい……スタンロッドでも、一発叩いただけではこうはならなかったのに」
ピクリとも動かなくなった銀色の外骨格を見下ろしては息を呑み、先を急ごうと前へ向き直ろうとしたそのとき。
棒状の鈍器がこちらへ振り下ろされる。反射的に胸を反らして回避する。ピリピリとした風圧を身に受けながら正面を見据えると、別のエグゼクターがスタンロッドを手に襲いかかってきたのだと理解する。物影に潜んで出方を窺っていたのは、こちらだけではなかったようだ。
相手はさらにもう一歩踏み込んできて、勢いを殺さず二の太刀を振り上げてきた。咄嗟にガンスライサーの上部――剣身がある方をスタンロッドにぶつけて弾き返す。金属音が轟き、お互いに反動を受けて後方へ飛び乗り、一足一刀の間合いが生まれる。
『ちゃんナギ! 逆! 逆! 逆側の刃で超高圧マナスライサーモード!』
言われるがままにガンスライサーを逆に持ち替えて、手元の武器へ意思を向ける。
すると、刃先に設けられたノズルから茎へ向かって光輝く刃が出現した。いや、刃ではなくこれは……高速かつ高密度に圧縮された、マナの粒子の流れ!? 原理としては切削用のウォータージェットに近いのだろうか。
「いや、なんだっていいからコレで! リコを信じてぇ!」
今度はこちらから一歩踏み込み、下側の刃を向けたガンスライサーを相手へ振り下ろす。
相手はこの一撃を受け止めるべく、スタンロッドを振り上げてきた。ロッドとブレードが密着し、無数の火花を立てながら拮抗する。しかし最後には、こちらのガンスライサーが、相手のスタンロッドを真っ二つに切断した。
武器を失って戸惑う敵へ、すかさずガンスライサーの銃口を向けてスタンバレットを発射する。胸部へ命中し、強力な電流が流れると相手は倒れた。
「リコ、この武器の使い方は分かったんだけど、こんなに雑に扱って大丈夫なの? 銃身曲がって弾詰まったりしない?」
『そこをカバーするためのマナ生成型な。隙を見て都度生成し直して、デフォに戻しちゃって』
「なるほど……了解」
威力はあるし非殺傷にも使えるけどピーキーな武装。そんな感想を抱きながら先へ急ぐ。
『この廊下を抜けたら地下階段へ通じるセキュリティドアがある。あともうちょい!』
逸る気持ちが抑えられなくなり、通路を進む歩調が早くなる。このまま一気に下まで駆け抜けて――そう意気込んだ矢先、突如向こう側から弾幕の嵐が吹き荒れて、私は遮蔽物へと身をやつすことになった。
進路の先には、何人ものエグゼクターが待ち構えていた。その数――なんと八人。『えっぐ……』とリコも固唾を飲み込んでいる。
私は物影に背を預けて対岸の様子を覗きながら、密かに心中に抱いていた不安をリコへ打ち明ける。
「実は思ってたんだけどさ、このAE……前に使っていたのより動きにくい?」
この外骨格で動こうとすると、どうにも身体が重く感じるのだ。喩えるなら、生身の身体で柔らかい鉛を背負って歩くようなもの。ここまでやって来れたのは、一度に相手する人数が少なかったのと、武器の一撃必殺における性能が非常に高かったから誤魔化せてきた。
『たし蟹。現世代型にはついてる各関節部の補助動力、こっちにはついてないし』
「もしかしなくても、ダブルピースしながら話聞いてるでしょ」
『普通に使えば、棺桶の中で両手両足ジタバタしているようなもんだよ。マジウケる』
「私のよりもっと酷い喩えが来た!?」
『でも、今こそ真の力を発揮してアゲていこう――願いの力、で』
「願いの力……? なにそれ、そんな都合の良いものがあるの?」
『あるんだなぁ、コレがさ』
通信の向こう側で、「ニッ」と笑っている顔が想像できた。
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