第4章 #7

『難しく考えなくておけおけ。戦っていて、心の中で思っていることをもっと強く思えばいい。動け、当たるな、とか当たれ、とか。不安だったら声に出して叫んでこ』

「叫ぶって……まるで精神論みたいな」

『似たようなモンだし、それはそう』

「たしかに……」

『歴戦のちゃんナギなら、体内マナいっぱい人間のちゃんナギなら出来る出来る』


「分かった」と言って、弾丸が飛び交う向こう側を見る。


 エグゼクターの使うハンドガンは、マナで弾薬を生成するタイプ。事実上、弾切れは存在しない。いつまで待っても好機が訪れるわけではないから、こちらから行くしか無い。


「ごめん、エイリ。すぐ行くから」


 ぐっと拳に力を入れる。そして、ほぼ無策で物影から飛び出した。


 いくつもあるハンドガンの銃口が光る。このままだと私は蜂の巣になって死ぬ。ならば、もうどれだけ生き恥を晒しても同じだ。


「――動け!」


 一か八か、バカみたいに叫んだ。すると――


「え」


 急に体の重みが吹き飛んだ。


 先ほどまで鉄板、もとい棺桶同然だった身体が、いきなり鳥の羽になったかのように軽くなる。その結果、私は撃ち出された銃弾を正面から避けて、跳躍して回避し、敵のひしめく真っ只中へ着地した。


 右膝と右拳を床へ着けて着地した姿勢から、顔を上げる。何の苦もなく弾幕を突破してきた化け物を前にしたからか、八人いるエグゼクターはみな動揺の素振りを見せていた。


 しかし、彼らもプロ。すぐに気を取り直して中央に立つ私へハンドガンを向ける。そして、一斉射撃を試みる――が。


「――当たるな!」


 私を球状に覆うように光の膜が出現し、銃弾を撥ね返した。うち二体のエグゼクターが跳弾してきた弾を浴びに浴びて倒れ込む。


 ハンドガンでは自滅の可能性があると踏んだ彼らは、手持ちの武器をスタンロッドへ持ち替えてこちらへ殴りかかろうとした。それに対して私は拳を前に突き出して――


「――当たれ!」


 スタンロッドを構えた三人が吹っ飛ぶ。まるで、私の放ったパンチが硬く圧縮された大きな空気の塊となって殴りつけたかのような、そんな有様だった。


 一連の私の攻撃を魔法だと捉えたのか、そばに居た一人がラウンドシールドをこちらに向けて構えた。おそらくは魔法無効化機構が作動しているのだろう。しかし、そんなものは関係ない。これは、『エグゼクターの願い』なのだから。


「貫け!」


 渾身の力でラウンドシールドを殴りつける。発声した衝撃が盾の裏まで届き、相手は盾を取り落とした。


 そのとき、背後からスタンロッドが迫る気配がした。両膝を突いたエグゼクターの胸部を蹴って、空中で宙返りをして回避する。そのまま相手の背を取った私は、ガンスライサーを手中へ呼び出すと、振り返ろうとする彼へスタンバレットをお見舞いした。倒れ込むのを最後まで確認せず、残る一人へと顔を向ける。


 首をコキコキと鳴らしながら、バズーカを肩に負う最後の一人。彼は私へ狙いを定めると、バズーカの口内へマナの光を収束させ、最大出力でレーザー砲を発射した。


「――当たるな!」


 両腕を交差して、光の膜を発声させる。膜へ命中したレーザーは拡散し、周囲の壁や床を灼いていく。しかし威力はさすがに衰えず、気を抜いたら私自身いつ焦がされてもおかしくはなかった。


「当たるな当たるな当たるな当たるな当たるな――」


 念仏のように唱えて受け止める。


 脂汗が湧き出る。自分が丸焦げになる姿も思い浮かんでしまう。けど、そんな嫌な想像をしていたら願いの力で勝つことはできない。臆病な心に蓋をして、勝つ未来だけを思い浮かべる。


「――当たるな当たるな当たるな当たるな当たるな当たるな当たるな当たるな当たるな!」


 そして、レーザーの照射が止んだ!


 手元にガンスライサーを呼び出して、撃ち尽くした相手へ切っ先を向け――


「――動けっ!」


 勇気の風に、背中を強く押されるような気概だった。


 実際に、マナの力に背中を押され、加速しながら銀色のエグゼクターへ突っ込んでいく。切っ先が外骨格の脇腹に刺さると同時に、首へ巻かれた赤いマフラーが視界の端で揺れた。


「――突っ込めえ!」


 相手の身体を押し込んでいく。両足が床を離れ、宙に浮く。そうして、彼の身体は硬く閉ざされたセキュリティドアへと叩き付けれた。ドアはすぐに衝撃に耐えられくなり、メキメキとヒビを走らせた後、破砕した。


 銀の脇腹から切っ先を抜くと、八人目のエグゼクターはその場に倒れ込んだ。やけに清々しい気持ちで一息吐けた。眼前には、地下に続く螺旋階段がぽっかりと口を開いていた。


『ソウルのシャウト、なかなかイカしてたじゃんね。で、どうよ?』

「なんか、精神力とか心のパワーみたいなのがグッと磨り減るけど……」


 マスクの内側で、知らず私は微笑んでいた。


「ストレス発散になって、良い感じかも」

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