第2章 #11
◇◇◇◇◇
「まさか自分が、推しの配信へ押しかけようとする厄介勢になるなんて……」
私はエグゼクターに変身した状態でバイクに跨がり、自動車のひしめく車道を疾走していた。マリーピーチと戦うエイリを目にして、居ても立ってもいられなくなったのだ。
マリーピーチのライブ配信から、二人が戦っている場所はすぐに特定できた。港湾の上を通る高速道路。
徒歩では配信が終わった後で到着する羽目になりそうだったから、リコに頭を提げてエグゼクター用のバイクを借りることにした。おかげでシャケの借しが更に増えることになったけど、それは必要経費。
しかし、二人が戦っている現場へ直接向かうつもりはなかった。目指す先は、そのそばに位置したコンテナ
(マリーピーチは、戦闘のトドメで
魔法少女へマナを送る役割は神鳴市の各所に設けられたマナの供給装置が担っており、基本的には現場に近い装置から供給が行われるようになっている。そのため、今回の戦闘で稼働するのは、コンテナ埠頭に設置された供給装置であることが明らかになっている。
如何にエイリが戦闘を優勢に進めたところで、最後の最後でマリーピーチへマナが供給されたら勝ち目はない。だから、マリーピーチがマナチャットを募るより早く供給装置をどうにかしなければ、エイリを助けることはできない。故に私は、二人の戦う現場ではなくて、マナの供給装置が置かれているコンテナ埠頭を目指しているのだった。
(装置そのものを短時間で完璧に破壊するのは難しい。でも、マナの供給先を変更するよう設定を更新するだけなら、エグゼクターには権限が与えられているから出来るはず)
そのように考えを整理しながらバイクを走らせている時だった。AE内のホログラムモニタにて、通信が掛かってきた旨が通知された。回線を開くと、『法雨ナギカ』とホクト局長のイケボが響いた。
『君は今、どこへ向かっている』
「……ツーリング中です」
『マリーピーチの撮影場所へ近づいているようだが』
「推しをそばに感じながら潮風に当たりたかったので」
『単に潮風へ当たりたいのなら、AEを解除するべきだと提案するが』
AEを纏っていることもバレていたかと舌を巻く。それはそうか。
『法雨ナギカ。現状、君に出動命令は出ていない。叛魔法少女アイリスブルーの処理はマリーピーチに一任し、別命あるまで待機しろ』
無言で運転に集中する。
『法雨ナギカ。君は神鳴市魔法少女創造局対魔法少女鎮圧課に所属するエグゼクターだ。我々の指示に従う以外の返答は許されない――』
通信を切る。
まだまだ局長のイケボを聴いていたかったけど、決意の揺らぐ小言を拝聴したいわけではなかった。
「あの子に関わる資格なんて、私にはないんだろうけど」
けれども、連れて行かれる時に見た彼女の顔が、脳裏に焼きついて離れない。
「でも、あんな顔を見せられて、何もしないでいるのは無理だから」
ハンドルを握る手に力が籠もる。一刻も早く彼女に力になるのだと決意を新たにした――ところで、道路を流れる気配の中に、こちらへ向けられた敵意を覚えた。
その直後、「わっ」と喫驚の声をあげた。バイクの周囲に、唐突に鉛玉が降り注いできたからだ。
周囲へ目を向ける。すると、左右後方と私を挟むようにして、外骨格に身を包んだ人間――エグゼクターが走っていることに気づいた。バイクもAEも全て私と同じモデルで、彼らはマルチプルウェポンを変形させたであろうハンドガンを右手に携行していた。
援軍であってほしいと願った途端、彼らはこちらへハンドガンを撃ってきた。コンクリートへ再び鉛玉の雨が散らばり、周囲の一般車がパニックに陥った。
私は姿勢を低くした上で、蛇行しながらの回避を試みる。今のところ、弾はカウルに当たったぐらいで、エンジンやホイールには被弾せずに済んでいる。
「やっぱり敵。ということは、局長の差し金か」
もしかしたら、エイリを連行したのと同じ輩かもしれない。だとしたら、彼女に代わってお礼参りをしてやりたい気持ちもあるけど、今はそんなことをしている場合じゃない。なんとか振り切って先へ進むのが賢明だ。
「相手がエグゼクターだと、シールドの魔法無効化機構は意味がないし……」
たしかに、エグゼクターの装着するAEは、マナによって生成されたものではある。しかしそのマナは、機械によって再現された願い――いわゆる『機械的な願い』で反応したものだ。
ラウンドシールドに内蔵されている魔法無効化機構が取り消せるのは、魔法少女がマナに籠めた願いに限られる。機械的な願いは性質が異なるが故に取り消せないため、仮にエグゼクターに直接シールドを押し当てたところで、AEによる外骨格を剥がすことはできない。
「……振り切るしかないか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます