第24話〈処刑人の罪と罰〉

 ドナドナと、馬車はゆっくり進んでいた。乗っているのはサヴァイヴ、エグゼ、レイモンドの三人と私一羽だ。それと、積み荷の薬達。皆静かに運ばれて行く。


 馬車が通るのは、フォルトレイク南東部にある広大な森林内に作られた細い道だ。海ではまず見ることが出来ない、青々と緑の生い茂った豊かな地である。木々の数は、乾燥した港付近から離れるほどに増えていく。そんな森の道を進む馬車内では犬猿の間柄である二人が乗っているためか、和気あいあいとした会話などは無く、葉と葉がこすれ合う微かな音さえ耳につくほどに冷たく静まり返っていた。


 道中、静かで重苦しい空気に耐えかねたのか、レイモンドがエグゼに話題を振り始める。


「エグゼ君。キミ、好きな女性とかいるのかい?」


「『好き』だと?」


 レイモンドの方に視線も向けずに、エグゼが尋ね返す。レイモンドはニヤリと笑った。


「つまり、恋愛をしたことがあるのかという事さ。これまでの生涯で、惚れた女はいないのか?」


「そんなものはいない。必要もない」


 エグゼは顔を顰めてきっぱりと言う。二人の話を聞いていたサヴァイヴが、馬車を操りながら話に入ってきた。


「リカ先輩は?同期なんでしょ?」


「リカ……ソフィー号の第4階層で働いている少女か。良いじゃないか。美人だし、気も利く。良い嫁さんになるぜ。あと二、三年も経ったら、私が口説いてみたいとすら思う」


 からかう様な口調のレイモンドに、エグゼは何も返さず、顔を背けた。しばらく無言が続く。やがて、不快そうな表情で、呟くように、エグゼは言う。


「リカは、罪の無い善良な一市民だ……殺人者と共に居て良い人物では無い」


「……悪かったね」


 サヴァイヴが低い声で答えた。また少し無言が続いた後、サヴァイヴはふと、今のエグゼの言葉の意味を反芻して気がついたことを口にした。


「……その『殺人者』に、君も入っているんだ」


 エグゼは何も答えない。しかしその無言には肯定の意味が含まれていると、サヴァイヴには分かった。意外そうな表情になり、馬車の足を速める。それから、もう一言エグゼに尋ねた。


「……君は……自分も『罪人』と思っているの?……僕らに言うのと同じように……」


「貴様ら屑と、崇高な使命を持つ我々『処刑人』を一緒にするな」


 厳しい口調で、強く反論する。サヴァイヴは納得がいかないと言った表情になり、声を荒げた。


「君達『処刑人』も、僕ら『傭兵』も、人殺しと言う意味では同じじゃないか!なんでこちらばかり罪人罪人言われなくちゃいけないんだ?」


「それは貴様らが自らの罪を顧みない塵だからだ!貴様らと同列に扱われるなど……これほどの屈辱も無い!貴様の汚らわしい口で、二度と処刑人の話を口にするな‼」


 ククク……、とレイモンドが笑う。アリスに「仲裁する」と言っていたが、その約束を忘れているのだろうか。一向に止める気配が無い。むしろ焚きつけるかのように、口を挟む。


「まぁサヴァイヴ、そう言ってやるな。処刑人と言うのは哀れな存在なんだ。生きている限り永遠と、自らを断罪し続けながら、人の罪まで裁かなくてはいけない。悲しい生き物だね。……しかし、それは傭兵だって同じこと。縁も所縁もない雇い主のために、自分や仲間の命を使い潰してゆく。……案外、似た者同士じゃ無いか?」


 二人同時に煽られた形で、双方とも不愉快そうな表情になったが、一応喧嘩は止まった。レイモンドはさらに一人で自虐に移る。


「医者と言うのもまた哀れなものさ。生き物である以上、決して逃れることのできない『死』そいつにひたすら挑み続け、勝てるはずの無い戦いに身を置き続ける。永久に敗北し続ける存在。愚かで、悲しいね」


 馬車内は地獄のような静寂に包まれた。馬の歩む足音と、車輪の回る乾いた音のみが響いている。……そんな静寂の中、別な種類の音が紛れ込んできた。人のうめき声のように聞こえる。最初に反応したのはサヴァイヴであった。


「……人の声がします。苦しんでいるような……」


 そう言って、馬車を止めた。それに対し、エグゼとレイモンドの二人は、冷酷とも言えるほど無関心な様子であった。サヴァイヴが二人に言う。


「……誰だか分からないけど、助けないと」


「その必要は無い。罪人の気配がする」


 エグゼが冷たく答えた。処刑人の感覚がどれほど鋭いのかは知らないが、ある程度距離があっても殺人者かどうかは判別できるらしい。さらに、レイモンドも口を開いた。


「我々は、一刻も早く首都へ行かなくてはいけないんだろう?この国では、パンデミックが起こっているんだ。道行く人をいちいち介抱していたら、いつまで経っても辿り着かないんじゃ無いかい?」


 挑発するようにニヤリと笑って、サヴァイヴを見る。その口調は本心と言うよりも、何やら彼を試しているかのようであった。サヴァイヴは二人を睨むと、はっきりと告げる。


「それでも、見過ごすなんてできません。僕はちょっと様子見て来ます!」


 そう言って、馬車を下りた。エグゼも小さく舌打ちをしつつ、サヴァイヴに続く。さらにレイモンドも馬車を出ると、エグゼに耳打ちした。


「……彼、罪人ではあるが、人でなしでは無いみたいだな?」


「黙れ」


 エグゼは不快そうにレイモンドから離れた。


 うめき声の主であるその男は、木に寄りかかって座り込んでいた。何やら苦しそうに荒く息をしている。すぐ近くに、吐いたような跡がある。二日酔いか何かだろうか。男に駆け寄ったサヴァイヴは、後からゆっくりとついてきたレイモンドに尋ねる。


「この人……死裂症でしょうか?」


「いや、違う。これは死裂症の症状ではない。これは……呪いだ」


 レイモンドの言葉を聞いたサヴァイヴは、もう一度男の様子をよく観察した後、気が付いたように振り向く。


「『血痕の呪い』ですか」


「その通り。さすが傭兵」


 ニヤッとレイモンドが言う。それから、誰に対してなのか分からない説明を始めた。


「傭兵と処刑人に今さら説明するまでも無いが、『血痕の呪い』とは……簡単に言うと、人を殺した者に降りかかる呪いだ。その症状は、『五感の汚染』。肌には焼かれるような痛みを覚え、視界は赤く染まる。耳には怨嗟の声が常に鳴り響いて鼻は常に死臭に近い悪臭を感じる。口の中では死肉を食んだような不快な味がするという……。殺した人数や、殺し方の残虐さ、殺された者の恨みの大きさ等に比例してその症状は酷くなる」


 味覚、嗅覚の汚染に起因する嘔吐も、その主な症状の一つらしい。


「このような呪いがあるから、人を殺す可能性のある者……すなわち傭兵や暗殺者、憲兵、我々医者もそうだな……そういった者達は事前に『血痕の呪力抗体』を得ている。だが、こいつはその抗体を持っていないと言うことは……衝動的な殺人を犯した一般人ってとこかな?」


「自業自得。この男は、自ら犯した罪の報いを受けているだけだ」


 エグゼが、冷たく吐き捨てた。サヴァイヴがエグゼの顔を見る。その目は、非常に複雑な色を帯びていた。言いたいことは分かるけれど、そんな冷たくしなくても、と言いたげな視線だ。


 すると、先ほどからの会話が聞こえていたのか、男が苦しげな息をしつつも三人を見上げて、睨みつけた。


「……なんだお前らは……。先ほどから何の話をしている……?俺は、罪なんか犯したことは無い……!この国の変革を願う正義の戦士だ……!」


「変革を願う正義の戦士?」


 三人は口をそろえて、男の言葉を復唱した。声色は三者三葉だが、いずれにも共通するのは(何言っているんだこいつ?)という思いであった。男は憎々し気な視線で声を荒げた。


「……貴様ら異国の者だな……!我が国の資源を狙う寄生虫ども……‼俺が今ここで、正義の鉄槌を下し、貴様らを改心させる……‼」


 そのようなことを呟きながら、ゆっくりと立ち上がった。レイモンドが、小さく笑いながら男の身体を支えた。


「おいおい、『血痕の呪い』にやられた状態でまともな動きが出来るわけ無いだろう。相当の苦しみらしいからな。無理しない方が良いぜ?」


 男に向かって言っているようだが、その視線はなぜかエグゼに向けられていた。エグゼは大きく舌打ちをした。二人の様子に違和感を覚えながらも、サヴァイヴは男に尋ねる。


「……あなたの家は、すぐ近くですか?送りますよ」


 そう言って、馬車まで男を連れて行った。男は大人しく馬車の中に運び込まれ、村の名前を口にした。それは、この進行方向の先にある、そう遠くない村だった。偶然にも、我々が最初に訪れる予定だった場所だ。


「あんたの出身が進行方向と逆であったら、このまま路上に放っぽり出していたところだ。運が良かったな」


 そんな冗談を口にして、レイモンドは男に笑いかける。エグゼは不愉快さを露わにして男を睨みつけていた。


「……どいつもこいつも……。罪人同士の馴れ合いか?吐き気がする」


「その吐き気は、こいつと同じ理由じゃ無いのかい?」


 レイモンドが、馬車の床に寝転がる男を指して、エグゼに問う。エグゼは刺すような瞳でレイモンドを見た。


「……どういうことです?」


 サヴァイヴ御者台に座りながら静かに尋ねる。レイモンドは今にも飛びかかって来そうなエグゼから目を離さず、口元に笑いを、目元には憐れみを湛えて話し出す。


「……罰とは……本来、苦痛である必要がある。そういう意味で言えば、『死』とは必ずしも最大の罰とは言い切れないのさ。真の罰とは、終わることの無い苦痛だ。『死』と『苦痛』は同一視されることが多いが実はそうではない。実は、この二つの間には大きな隔たりがあり、全くの別物なのだ。『死』が必ず苦痛をもたらすわけでは無い。安楽死を極めてしまった私にはよく分かる」


 レイモンドは自虐を交えつつ、続ける。


「また『苦痛』も死をもたらすとは限らない。『苦痛』とは、命では無く心を侵すもの。つまり最大の罰とは、『死を伴わない苦痛』……具体的には、血痕の呪力抗体を持たずに人を殺め続ける処刑人が受けている罰さ」


 サヴァイヴは御者台から振り向いて、その驚愕の表情をエグゼに向けた。エグゼはそんなサヴァイヴの目線に対し、歯ぎしりをしながら睨み返す。サヴァイヴの、憐れみのような驚いたような複雑な瞳の色が、不愉快で屈辱的で仕方が無いといった様子だ。それから抑えきれずにレイモンドに掴みかかると、怒鳴った。


「……貴様……この俺を貶め辱めて、そんなに楽しいか……⁉我ら処刑人を、憐れで愚かと言いたいのか……‼」


「『処刑人』の死因の三割は罪人との戦闘で敗北したことによるもの。……そして残りの七割は……自死であるという。『血痕の呪い』の苦痛に耐えきれなくなったその時が、処刑人の命の尽きる時。キミは、どこまで耐えられるのかな……?」


 エグゼが、レイモンドの顔を殴りつけた。サヴァイヴは慌てて馬車を停めると、御者台から降りて、エグゼを羽交い絞めに止める。エグゼはなおもレイモンドに向けて殺意を飛ばしながら、声を震わせて怒鳴る。


「今ここで、貴様を処刑する‼死の苦痛など、生者の誰にも理解不能‼死こそが、最大の罰則なんだ‼報いを受けさせてやる……‼」


「落ち着いてエグゼ‼……レイモンドさん、なんでそんな怒らせるような事を言うんですか⁉」


 サヴァイヴがエグゼをなだめるという、予想だにしなかった状況が展開されている。頬に殴られた痕を残しつつも、レイモンドはその虹色の瞳をエグゼに向けていた。


「……私は、命を敬う医者という身の上として……納得がいかないのさ。自らの首輪を自らの意思で絞めていく処刑人という生き物のことが……。こんな、若くて聡明そうな少年が、そのような苦痛を背負って生き続けなくてはいけないなど、理解に苦しむ。今からでも、血痕の呪力抗体を得る処置を受けるべきだ」


 軽く笑いながらも、その瞳は真剣だ。エグゼはさらなる屈辱を受けたように、怒り狂っていた。二人が落ち着くまでには、かなりの時間を必要とした。


 これもまた、ムスタファ船長の言っていた『価値観の異なり』というやつなのだろうか。船長はそう言った価値観や文化の差を肯定することの大切さを語っていたが……。世界中の人々が互いに自身の価値観を主張し続ける限り、世界から争いは無くなることはありえないのかもしれない。


 そんな絶望的な結論に達しかけた私は、なんとなくサヴァイヴの表情を観察していた。彼は、何やら考え込むように無言で、エグゼを見ていた。今の状態でエグゼとレイモンドを二人同じ空間に居させるのは危険なので、レイモンドが御者台に座り馬車を進めているのだ。


 エグゼはサヴァイヴの視線に気づき、不愉快そうに睨み返した。


「……貴様も、我ら処刑人を愚かと嗤うか?」


「いや、そうじゃないよ。少し……見直しただけ」


 エグゼにとってそれは意外な言葉だったのか、少し眉を上げてサヴァイヴを訝しげに見つめた。サヴァイヴは、ぽつりぽつりと思ったことを告げる。


「自分たちの事を棚に上げて、人を罪人呼ばわりする連中だって……処刑人のことを誤解していた。君達は、自分自身に最大の罰を与え続けて、戦い続けているんだね。自分の信じる正義のために……。理解も納得もできないけれど……尊敬は、できる」


 私はサヴァイヴの言葉に、先ほどの絶望的な結論への反論を見たように感じた。理解も納得も出来ないが尊敬は出来る、だ。


 エグゼは小さく舌打ちをして目を反らした。反らしたその瞳は、見たことの無い不思議な表情を宿している。


「……貴様のような罪人に、尊敬されるなど……反吐が出る」


 彼の言葉に、サヴァイヴは小さく笑った。その笑いに、憐れみは含まれていない。純粋な笑みだった。


 やがて日が沈み、辺りが闇に包まれた頃、馬車は小さな村に辿り着いた。少ない灯りが点々とついた、こぢんまりとした村だ。相変わらず苦しげに息をする男に、サヴァイヴはそっと尋ねる。


「……大丈夫ですか?あなたの家はどの辺りです?案内できますか?」


 そんなサヴァイヴの問いかけに、男はある建物の場所を口にした。村で最も大きな建物。村議会の本部らしい。それが住居というのもおかしな話だが、分かりやすくて助かる。三人は若干怪しみつつも、とりあえずその本部を目指した。


 灯りが少なく分かりづらいが、村の建物はどれも鮮やかな赤い石で作られ、四角い形状をしている。そのなかでも一際大きく赤い壁に鮮やかな装飾が加えられた、少し立派な建物が見つかった。これが村議会の本部らしい。その入り口付近でゆっくりと男を下ろす。すると男は、身体を支えるレイモンドを乱暴に押しのけると、三人に礼も言わず、よろよろと駆けて行って建物の中へ入って行った。そして、大声で叫ぶ。


「ここに、異国のスパイがいるぞ‼皆、来てくれ‼敵だ、捕らえて改心させろ……‼」


 建物の中から複数人の足音が聞こえてくる。さらに村議会どころか、村全体の家々の、あちらこちらから人が集まって来る。その人数は……二十は超えている。皆金属製の鉄パイプのような武器を構えて、三人を囲うように立ち睨みつけている。


 三人が運んできた男が、吐き気を抑えながらも不敵な笑みをこちらに向けて行った。


「愚かなり、異国の悪党どもが……‼この村は既に我らフォルトレイク自律傭兵団『ブラックカイツ』が掌握している‼まんまと罠に落ちたと言うわけだ……」


「『ブラックカイツ』って、あの……⁈」


 サヴァイヴが、少し驚いたように言う。ベンから話に聞いていた、過激な集団だ。そいつらと遭遇しないようにわざわざ港を変えて遠回りまでして進んでいると言うのに、いきなり遭遇しようとは。幸い、我々が薬を運んでいる事は気づいていないようだが……。


 武器を構えて、『ブラックカイツ』の団員たちがにじり寄って来る。全員が、自分達の信じる正義に染まった不気味な瞳を我々に向けていた。それらを睨み返しながら、エグゼはサヴァイヴに囁くように言った。


「……見ろ。罪人を助けた結果がこれだ。とんだ恩返しだな……。罪人に手を差し伸べるという行為の愚かさがよく分かるだろ……」


 言いながらサヴァイヴの目を見たエグゼは、話の途中で口を噤んだ。レイモンドもまた、周りを囲む敵ではなくサヴァイヴの方を凝視している。そして、ニヤリと笑いつつ、様子をうかがうように話しかけた。


「……なるべく会敵しないルートを進むつもりが……。いきなり大当たりじゃないか?この状況、どうする騎士殿?」


「この人達が、僕達の邪魔をするのなら、応戦するまでです。……でも、殺すことはできない。船長に止められているので」


 そう。「なるべく殺すな」という制約は、ソフィー号の外でも続いていた。サヴァイヴは煩わしそうな表情でブツブツと呟く。


「『殺さない』って……難しいんですよ。この大きな枷のせいで、僕は上手く戦えない。だから、ずっと考えていたんです。相手を殺すこと無く、限りなく全力で戦える方法は無いかって……。それを、今さっき思いつきました。レイモンドさんの言葉がヒントになって」


 レイモンドは眉をひそめて、自分が言った言葉を思い返しているようであったが、やがて心当たりを見つけたのか、何か異様な表情で再度サヴァイヴの瞳を見た。彼の瞳は、普段より深い赤色に染まっている。


「なにをコソコソと話している……。自らの罪を自覚して改心しろ……‼」


 そう叫んで、ブラックカイツの一人が、金属棒を振り回しサヴァイヴに殴りかかってきた。そいつの腕を片手で掴み受け止めると、サヴァイヴはその血赤色の瞳で、殴りかかってきた団員の目を見つめた。そして、言う。


「『苦痛』は必ずしも『死』と結び付かない。……ただ心を侵すもの。そこに答えがありました。殺せないなら、命を奪わずに心に直接ダメージを与えれば良い。つまり……」


 バキャッ、と、耳を塞ぎたくなるような音がした直後、耳を塞いだとしても聞こえてきそうな苦悶の叫びが鳴り響いた。サヴァイヴに殴りかかった団員の男が、掴まれていた右腕を抑えて絶叫している。彼の腕は……一目で分かるくらいに、骨をぐちゃぐちゃに握り潰されていた。


 サヴァイヴは、新たに見つけた戦法の効果を吟味するように、真剣な表情で小さく呟きながら、腕を砕かれた男の叫びを聞いていた。


「……うん。折れてる」


 そして、レイモンドに尋ねる。


「医者は……治療の前に、患者に対して説明するんですよねこれから行う処置について」


「……そうだな。まあ、それが理想だろう」


 レイモンドは唐突な質問に少し驚いた様子で、不思議そうな目でサヴァイヴを見た。

目つきは真剣ながら口元には小さく安心させるように笑みを浮かべて、サヴァイヴは周りを囲う数十人の『ブラックカイツ』に告げる。


「僕は医者ではありませんけれど、事前に説明します。壊しても命には関わらないけど、強い苦痛を感じて、心にダメージを与える箇所……すなわち、四肢の骨。それを、砕きます。僕達の進行を阻む者は全て。血は出ないので失血死や傷跡の悪化による死はありません。……もちろん、ショック死には至らないよう努力するので安心してください」


 悪魔のような『処置』の説明を終えて、サヴァイヴは単身、ブラックカイツに挑みかかって行った。

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