第2章『ソフィー号での生活、迫る脅威』

第10話〈書庫にて サヴァイヴとアリス〉

「あいつらが船に来てから、どれくらいたった?十日ぐらいか」

「今日でちょうど十日ですねえ」


 トカゲ船、ソフィー号のB2階層の一番後方。薄暗い中にいくつかの部屋が並ぶ。これらの部屋は内側ではなく外側から鍵をかける仕組みとなっている。つまり、船内の法を犯したものを閉じ込めておく牢なのだ。そのうちの一室を目指して歩く二人の男達が話をしている。片方は髭面の大男、このソフィー号の船長であるムスタファだ。その隣を歩くのは、紺色の礼服を着た骸骨面の青年、トムである。ムスタファがトムに尋ねる。


「あいつらの仕事の調子はどうだ?周りとは上手くやれてんのか?忙しくて、なかなか会いに行けて無ぇからな……」


「周りからの印象は、概ね良好のようですよ」


 トムは、サヴァイヴとアリスの評判を船内で密かに調査していたらしい。


「サヴァイヴ君は、男船員からの評価が高いですねえ。生意気だが、度胸も腕っぷしもある、面白い奴だ、といった感じです。ただ、女性陣からの評判はちょっと違いますね。礼儀正しい、仕事が出来る、可愛い、などの良い評価ももちろんありますが、同時に自意識過剰、自分に酔っている、慇懃無礼などの声も聞かれます」


「悪評のほとんどはリカのやつじゃ無いのか?」


 ムスタファが豪快に笑いつつ言った。トムはさらに言う。


「逆にアリスさんの方は、女性陣の評価が高いですねえ。悪評は見られません。可愛い、頑張っている、応援したくなる、髪綺麗、など」

「髪は関係無いだろ」

「そうですねえ」


 トムは、フフッと小さく笑って続ける。


「男性陣からのアリスさんの評価は、悪くは無いのですが、どう接したら良いか分からないといった、コミュニケーションの取り方に困るものが多いように感じられます」


「ま、難しいだろうなあいつは」


 そう言いつつ、ムスタファは笑った。


「とりあえずは大丈夫そうだな。とにかく、早く俺も立て込んだ仕事片づけて、あいつらの顔見にいかねーとな……。あ、そうだ。テイラーの評判はどうよ」


 サヴァイヴと常に一緒にいるカラフルな鳥の評価をも、ムスタファは尋ねる。ちゃんと調べていたらしいトムは答えた。


「可愛い、癒される、利口、といったところですねえ」

「そいつは良かった」


 そんな話を終えたところで、二人は一つの部屋の前に辿り着いた。鍵を開け、重い木の扉をゆっくり開ける。中には、プラチナブロンド短髪の青年が鎖に繋がれて座っていた。先日この船のB3階層倉庫に現れた侵入者だ。部屋に入ってきた二人の姿を見ると、青年は不敵な笑みを、その品のある顔に浮かべて迎えた。


「やあ船長さん。この部屋の乾燥は、何とかならないのかい?……なんてね。ちょうど暇だったところだ。話し相手になってくれるのかな」


「ああ、そんなところさ。そのためにまずは、お前の名前を教えてくれないか?」


 ムスタファは青年の前にドカッと座り込んで、言う。青年は笑みを崩さず言った。


「……偽名でも良いかい?」

「なんでも良いさ。ずっと『侵入者』って呼んでいたんじゃ、分かり辛くていけねぇ。名前は大事だぜ。たとえ、嘘でもな」


 青年は眉を上げ、片目を見開き、ムスタファを見た。


「面白い男だね……。『ヘルシング・バザナード』。そう呼んでもらおうかな」


 ムスタファの後ろに立つトムが、手に持っていた記録用紙のようなものに、名を書き込んだ。ムスタファはニヤッと笑って侵入者ヘルシング・バザナードに話しかける。


「良い名だ、ヘルシング。お前には聞きたいことが山ほどある……」





 私の名前はテイラー。鳥だ。前世は人間であった。前世の記憶を持つが故に、このように、人と同じ思考力を保てている。好物は芋虫。よろしく頼む。


 傭兵出身の少年少女、サヴァイヴとアリスがトカゲ船ソフィー号の船員になってから、十日ほど経過した。それほど日が経つと、二人とも少しずつ船員としての生活に慣れてきて、仕事にも余裕のようなものが出てきたように感じる。元々器用なサヴァイヴはもちろんだが、最初は失敗が多かったアリスも落ち着きを見せ始め、割る食器の数もだいぶ減ってきた。……ゼロでは無いが。


 男子、三日会わざれば刮目して見よと言うが(もちろん、男子のみならず女子にも当てはまるだろう。これはあくまで元の慣用句をそのまま引用しただけであり、女性蔑視の意図は無いのであしからず)、まさにその言葉の通りで、二人の成長は著しい。私も負けてはいられない。


 と、いうことで、実はこのソフィー号に来てから、私も密かに成長していた。サヴァイヴ達との意思の疎通を計っているのだ。もちろん、私は九官鳥では無いため人の言葉をこの口から発することは出来ないが、ジェスチャーなら使える。これで自らの考えを表現するのだ。具体的には、誰かの言葉に対して肯定する場合は首を縦に振って頷き、否定する場合は首を横に振る。疑問を投げかけたい時は首を斜めにする、など。首の動きだけでもこれほどの主張が可能なのだ。それらの努力が功を奏し、最近、船員の方々から『お利口』という評価を頂けている。昇給も近いかもしれない。


 そんな冗談はさておき、この努力による一番の利点は、サヴァイヴが私と二人だけの時に、よく話しかけてくるようになったことだろう。話の内容は、主に仕事に関するものだ。


「今日、またアリスが水をこぼしちゃってさ。ボリスさんが頭を痛めてたよ」


 私はうんうん、と頷く。それは先輩としては頭の痛いことだろう。


「アリスって怒られてる時、無表情なんだよね。……まあ、怒られてる時に限らずいつもそうだけど。だから、何を考えてるのか分からないって、ボリスさんが困ってた」


 私はまた頷いた。程よい相槌が、聞き上手の秘訣だ。


「無表情だけど、目はジッと相手の顔をよく見ている。まるで観察してるみたいだ。いや、もしかしたらほんとに観察しているのかも」


 それはあるだろう。アリスは人の顔をジッと見る癖がある。幼い頃から傭兵として戦場で生きてきたからか、あらゆる物事に対して興味津々なのかもしれない。特に人の感情なんかには。


 また別の日も、サヴァイヴは私に語りかける。


「今日、またアリスに煽られたよ。『それはあなたが無知なだけ』『そんなことも知らないんだ』って。いつもみたいに無表情で。なんかあの子、煽り癖あるみたいなんだよね。傭兵特有と言えばそうだけど」


 アリスの煽り癖に関しては、私も前から気になっていた。だが、傭兵特有とはどういうことだろう。私は首を傾げた。サヴァイヴが説明する。


「相手を怒らせて、冷静さを失わせるっていうのは戦いにおける基本だからね。アリスはそれが染みついてるから、煽るのが無意識の癖になっちゃってるのかも。多分、悪気無く」


 なるほど。しかしそれは普通の社会で生活する上では良くないことだ。他者からの心象が悪い。なんとか治せないものだろうか。


 それにしても、サヴァイヴから聞く話はアリスの話題が多い。


 そんなある日のこと。その日のサヴァイヴは午後から非番であり、仕事を終えた彼はB2階層のとある部屋を目指していた。それは、先輩であるリランから聞いた部屋だ。


「サヴァイヴ、本とか読むノ?」


 第4階層での仕事中に、リランが訪ねた。


「はい。読みますよ。好きなので」

「イイネ!実はこの船には大きな書庫があってね〜。船長が世界各地から集めたたくさんの書物が保管されていて、船員は自由に読んで良いことになってるんダヨ。暇な時とか行ってみたら?」


 という事で、その書庫に向かっているのだ。場所はB2階層の中心部。大きな黒い金属製の扉が我々を出迎えた。そのすぐ隣に管理人室があり、そこにいた気怠げな管理人に声をかけるとすぐに中に入れてもらえた。


 部屋の中は、高く大きな木製の本棚がいくつも並ぶ図書館のようになっていた。管理人いわく、本の種類や出版された国などでジャンル分けがされているらしい。


 本棚に書いてある表示を見上げながら、サヴァイヴは興味をそそられる分野の本を探しているようだった。そうやって、よそ見をしながら歩いていたためか、本棚の角から出てきた人影にぶつかりそうになり、サヴァイヴは「うわっ」と声を上げてよろめいた。


 その人影の正体は、美しい銀髪をふんわりとポニーテール状に結び、大きめの丸眼鏡をかけたアリスであった。その手には三冊ほど、分厚い専門書のようなものを抱えている。サヴァイヴが驚いたように言う。


「アリス!何してるのこんなとこで……」

「……サヴァイヴ。見たら分かるでしょ……」


 アリスは自分の手元の本に視線を向けた。どうやら彼女も非番であり、本を読みに来たようだ。


 この書庫の中には小さな椅子とテーブルがいくつかあり、座って読書に集中することが出来る。なかなかに気の利いた設備だ。サヴァイヴとアリスは、そのうちの一つに三冊の分厚い本を積んだ。


「それにしても、難しそうな本読むんだね」


「別に……。興味があったから」


 少しずれた眼鏡に手を当てて上に戻しつつ、アリスはすまし顔で言う。そんな見慣れない眼鏡姿を、サヴァイヴはまじまじと見つめた。


「眼鏡かけるんだ。目、悪いの?」


「小さい字はぼやける」


 アリスは椅子に座って、分厚い本のうち一冊を手に取る。その表紙には『感情論』とでかい文字で書かれていた。……なんだか面倒くさそうな本だ。サヴァイヴが残り二冊のタイトルを覗き見る。それぞれ『表情が他者に与える印象』、『笑顔の作り方』というものだった。サヴァイヴは怪訝な表情でアリスを見る。


「……何この本」


「書いてある通り。文字読めないの……?」 


 『感情論』のページを開きつつ、ついでに煽りも交えつつ、アリスは答える。


「……普通の人たちは、顔で自分の気持ちを表現することが出来る。でも、私はそれが苦手。だから、出来るようになるために勉強するの。……この船の仕事でも大事なこと」


 確かに、ソフィー号の第4階層で二人が行っている仕事は、言ってしまえば接客業。表情豊かであったり、自然な笑顔が出来たりした方が何かと利があるというものだ。サヴァイヴは軽く苦笑した。


「……それだったら、こんな本で勉強するより、実際にやってみた方が良いんじゃない?練習あるのみ!でしょ」


 確かにその通りだ。そもそも、アリスは常に無表情というわけではない。極たまに笑うこともあるし、極たまに怒ったような顔をすることもある。ただ、それらの表情を自分の意思で出すことが出来ないというだけのことなのだ。それを自由に出せるようにするにはやはり実践したほうが良いだろう。


 アリスは、本から目を離してサヴァイヴの顔をジッと見た。サヴァイヴは、自身の顔に満面の笑顔を浮かべた。アリスも真似をして口をニッと横に開く。口の形は良いが、目が死んでいる。なんとも違和感のある表情だ。というかちょっと怖い。


「……とりあえず、笑顔は置いとこうか」


 アリスの顔を見てこれはマズイと思ったのか、サヴァイヴは別の表情を提案する。


「悲しそうな顔とか」


 そう言ってサヴァイヴは眉をわざとらしく曲げて、しょんぼりとした表情をした。真似するアリスの顔は、半目で眉間に皺が寄っていて、悲しいというよりムカついているように見える。サヴァイヴが悲しそうな表情のまま言う。


「だめだね〜。やっぱり感情が乗ってないと上手くいかないのかな」


 サヴァイヴは少し考えてから、アリスに尋ねた。


「何か大切なものとか、大事にしているものとかってある?」

「なんで?」

「いや、大事なものとかを奪っちゃったりしたら悲しい顔にさせられるかなと思って」


 真顔でサイコパスじみたことを言い出した。アリスは少しの間、思考停止したかのような無の顔で黙っていたが、やがて、自身のポニーテールを触って言った。


「髪」

「髪?髪が大事なものなの?」


 アリスはコクリと頷く。確かに、『絹糸の髪』とも表現される美しい銀髪だ、大切なのだろう。髪は乙女の命とも言うし(もちろん、乙女のみならず男性にとっても大事だろう。この言葉に男性蔑視の意図は無く……以下略)。


「よし、分かった。じゃあその髪、切っちゃおうか?」


 気軽な口調でサヴァイヴが言う。アリスは小首を傾げ、そのダイヤモンドのような瞳でサヴァイヴを見つめた。無表情ではあるが、強烈な殺意を放っている。


「殺すよ……?」

「冗談!冗談だって!」


 サヴァイヴは慌てて言った。それから、表情に関しては時間をかけて豊かに出来るようにしていけば良いというふんわりした結論に至り、二人は各々の読みたい本に手を伸ばした。要は、表情訓練は飽きたから辞めたということだ。


 他に誰もいない広い部屋の中を、静寂が包む。時折ぱらり、とページをめくる音がするのみだ。


「アリスって、好きな本の種類とかあるの?」


 サヴァイヴが、手元の本に目を向けながら話しかける。彼が読んでいるのは『傭兵組織の起源〜崇陽騎士団フェニクシス・ブレイズ〜』と題された歴史書であった。


 アリスが答えないので、サヴァイヴは自分の話を続ける。


「僕は、歴史系の本が好きだな。偉人の伝記とか、自伝みたいな。過去にこういう事が起こって、こういう経験を実際にした人がいるんだ、って考えるとワクワクする。人の人生に興味があるんだ」


 サヴァイヴはノンフィクションがお好みなようだ。アリスは何も言わずにサヴァイヴの話を聞きながら『笑顔の作り方』に目を通していたが、やがてパタリと閉じた。内容に飽きたらしい。それから本棚の奥の方へ向かい、一冊の小さめの本を持ってきて、サヴァイヴに見せた。


「……こういうの好き」


 サヴァイヴは受け取って、表紙を見る。題は『木苺姫と妖精の王子』。童話風の可愛らしいパステルカラーのイラストが随所に載っていた。


「どういう話なの?」


「木苺の下に捨てられていた女の子を、悪い魔女が拾って育てるの……」


 アリスがゆっくりと、途切れ途切れに説明する。


 彼女の話をまとめると、こうなる。森に生える木苺の側に捨てられていた赤ん坊を、弟子にするため魔女が拾った。『木苺姫』と名づけられた赤ん坊は立派に魔女の娘として育ち、魔女も最初は自分の手駒として育てるつもりが、だんだん愛情が湧いてくる。そんなある日、木苺姫は森で倒れていたイケメンを助ける。そのイケメンは実は妖精界の王子で、その後なんやかんやあって、木苺姫は実は妖精界の出身で、その王子の許嫁だと分かる。しかし妖精と魔女は太古から敵対関係にあり……といった話だ。詳しくは自分で読んでみて欲しい。


 アリスは口下手なので、実際の彼女の説明はこの五倍近くの長さがあったと思ってもらって良い。


「面白そうだね」


 サヴァイヴが興味深げに言う。


「最終的にどうなるの?」

「……言わない」


 アリスは、口元に指でバツを作った。


「……気になるのなら、読んでみて」

「分かった」


 そう笑顔で言うと、サヴァイヴは持っていた歴史書を閉じ、木苺姫の本を開いた。


 普段から分厚い伝記を好んで読むサヴァイヴにとって、小さく薄めのおとぎ話を全て読むのにそう長い時間は要らなかった。本を閉じたあと、サヴァイヴはアリスに感想を告げた。


「面白い。面白いよこの話。最後まさかあんな展開になるなんて、想像できなかった。登場人物も魅力的だし、読んでいて楽しい」


「そうでしょ」


 まるで自分が誉められたかのように、アリスはドヤ顔で答える。サヴァイヴはさらにパラパラとページを遡りながら話を続ける。


「僕、祈祷師キムラがすごく好き。良いキャラクターしてるよね」


 アリスが目を輝かせて、サヴァイヴの方へ身を乗り出した。


「……私も好き!面白いし……良い人」


 アリスのテンションがここまで高くなるのは初めて見た。だが、そうなるのも無理はない。私もサヴァイヴの読んでいるところを覗き見していたから分かるが、祈祷師キムラは良いキャラだ。小物感がある小悪党で、その行動は笑いを誘うが、キメるときはばっちりキメる。そういうキャラだ。正直、主役より好きだ。


 しかし、サヴァイヴのページをめくるスピードが早すぎて断片的にしか読めていないため、祈祷師キムラが冬瓜で魔皇子をぶん殴ったあたりまでしか内容を把握していない。最終的にどうなったのだろうか、キムラは。


 二人は暫し、キムラの話で盛り上がった。


「ここの台詞が好きなんだよ。『完全な悪人は完全な黒にはなれないのです。黒を育てるのは善の心。種となるのが悪の心。善心の中に自分優位の悪心を内包している者が真の黒に染まるのですぞ』」

「分かる」


 アリスが嬉しそうに言う。ポニーテールが軽く揺れた。


「あと、ここ……」


 言いながらアリスは近づいて、サヴァイヴの手元にある本のページをめくって見つけた一文に指をさす。


「このシーン、好き」


 そう言って、サヴァイヴの顔を見上げてニコッと笑った。サヴァイヴは一瞬の間、時が止まったかのように、彼女の顔を見ていたが、やがて我に帰ったかのように言った。


「…………それ!今の表情!」

「え?」


 アリスは目を丸くした。サヴァイヴが若干はにかみながら言う。


「今、すごく良い笑顔してたよ。すごくかわ……、じゃなくて、すごく上手い笑顔!」


「へえー……」


 無表情に戻って、アリスは答えた。サヴァイヴは楽しげに話し続ける。


「やっぱり、好きなものの話とかしてたら笑顔になるんだね〜。よし、その調子でもう一回やってみて!」


「……嫌」


 アリスは不貞腐れたかのようにそっぽを向いて、無言で『感情論』に目線を落とした。時折、ずれ下がる眼鏡を指で抑えつつ読む。サヴァイヴが、その眼鏡に言及した。


「いつもはつけないの?眼鏡」


「戦闘の邪魔」


「戦いの時だけ外して、つければ良いのに」


 アリスは、サヴァイヴの顔をジッと、若干訝しげに見た。


「なんで?好きなの……?眼鏡……」


 そう言って、眼鏡を外した。サヴァイヴは慌てて訂正する。


「そういうんじゃないよ!ほら、仕事中よく物落としたり転んだりするのって、眼鏡かけて無いからだったりしてって……」


 それを聞いたアリスは、暫し何か考えるように上の方を見ていたが、やがて読んでいた本を全て棚に戻して、書庫を後にした。


 ……それ以降、アリスは第4階層での仕事の間のみ眼鏡をかけるようになった。心なしか、ミスをすることも少なくなったように感じる。


 眼鏡姿でリカやリラン達と話すアリスを見たベンが、サヴァイヴに向かってぼやく。


「なんでいきなり眼鏡なんてかけ始めたんだ?心境の変化ってやつ?」


 それに対しサヴァイヴは特に答えずに、軽く笑った。ベンはさらに続ける。


「……やっぱあいつって、変わってるよな。浮世離れしてるっつーか、何考えてるのか分からないっつーか……」


 頭をかいてぶつぶつ続けるベンに、サヴァイヴは笑いながら言う。


「そんなこと無いですよ。意外と普通の子ですよ。普通に悩んだり、笑ったり」


「あいつ笑ったりするのか?見たことねぇ……」


 サヴァイヴは、肩に留まる私に向かって軽くウインクをした。私は、やれやれと思いつつ、小さく頷いた。

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