第36話〈処刑人の想い〉
「とりあえず、情報を整理しよう」
サヴァイヴが言った。私は、その頭の上に留まって周りを見ていた。場所はマクロの町で農場を経営しているモルトと言う男の家。建物は古いが大きいため、家族以外にも何人かは寝泊まりできるスペースがある。モルトの父親が経営していた時代には、何人かの従業員が住み込みで働いていたそうだ。今は完全な家族経営だそうだが、我々がいると昔を思い出して楽しいと彼は語っていた。
「ソフィー号は、今どういうことになっているの?ヘルシング・バザナードが脱走したということしか分からない」
「それと、お前はなぜここに来た?リカ」
サヴァイヴとエグゼがリカに向けて問いかける。リカは二人に交互に目を向けつつ答えた。
「あなた達から最後に来た連絡で、道中をブラックカイツに襲撃されたことと、それによりベンジャミン先輩が負傷したことを知った船長は、すぐに了解の返事を出したと思います。しかし、それ以降あなた達からの連絡が途絶えてしまった。そのため、あなた達の状況を探るために私が派遣されたのです。」
「それにしても、リカ先輩よく僕達の居場所が分かったね」
サヴァイヴが不思議そうに聞いた。
「あなた達からの連絡が途絶えたゴルダの町まで行って、そこから首都の方向へ進んできました。同じ町にいれば、匂いと音で分かります」
リカは自身の鼻と耳を指しつつ答えた。そしてまた話を戻す。
「ソフィー号が二日前にフォルトレイクの主要港であるプエルトフォルツに着港してからすぐに、私は船を出ました。そのため、それ以降の船の近況は私にも分かりませんが……」
「二日でここまで来たの⁉早いね」
サヴァイヴが驚いた様子で再び話を遮る。リカとエグゼが同時に彼を睨んだ。
「私は、馬車の操縦が得意なんです!積み荷も無いですし、あなた達の倍以上の速度で進めますから!」
「いちいち口を挟むな!話が進まん」
二人に言われて、サヴァイヴは黙った。リカはさらに話を続ける。
「私が船を出たその時点でヘルシング・バザナードはシーナと共に医務室に閉じこもっていました。内側から鍵がかけられていて入ることは出来ず、中がどのような状況かは完全に把握することは出来ていません。……しかし、私がいた時点でシーナが生きていたことは確かです!私の耳には、彼女の呼吸音も心音も話し声も聞こえていましたから」
そこまで話しながら、リカは少し心配そうな視線をドリュートン先生に向ける。サヴァイヴ、アリス、エグゼもまた同様に先生の顔を見た。先生のその顔を覆う包帯の奥には、とても複雑な感情を湛えた瞳が見えた。だが先生の声色はいつも通り落ち着いた冷静なものであった。
「シーナは……部屋の中で侵入者とどのような会話をしていたのかな」
「……侵入者の傷を治療しようとしていました」
「え?」
サヴァイヴが困惑気味にリカを見た。ドリュートン先生は穏やかに笑う。
「シーナは……命を扱う医者としての覚悟と強さを持っている。あの子なら大丈夫。私達は、私達の使命を果たそう」
そう語る先生の、包帯でぐるぐる巻きにされた顔面をまじまじと見つつ、リカが誰へともなく問う。
「それで、そちらはいったい何があったのですか?」
サヴァイヴ達は互いに顔を合わせる。何からどのように説明すれば良いのか思案しているのだ。やがて、代表してサヴァイヴがこれまでの顛末を語り出す。
「かなり不可解な話で、正直僕も良く分かっていないんだけど……」
昼飯を食べ終わると同時に話も終わり、農場の仕事を手伝ううちに陽はすっかり落ちて辺りは暗闇に包まれていた。
夜になってもなお、モルトの仕事は続く。一日三回行う搾乳の、その最後の一回が夜なのだ。牛を移動させながら、モルトが皆に言った。
「悪ぃな。こんな色々手伝わせちまって。給金も出せねえのに」
「とんでもないです。ご飯も頂いていますし、働かざる者食うべからずですから」
リカが笑顔で答えた。アリスもリカの横で頷く。
「ご飯美味しいから、頑張れる」
そんなことを話す三人の背後で、サヴァイヴとエグゼが一頭の牛を前にして言い合っていた。
「この子、全然進んでくれないんだけど!」
「貴様の気迫が足りないのだ!もう少し真面目にやれ!」
「真面目にやってるって!」
「兄ちゃんたち、舐められてるんだよ」
二人の喧嘩を見て、幼い双子が笑った。
「あの包帯のおっさんを見習いなよ」
双子が同時にドリュートン先生を指す。先生は体が死んでいるが故に疲労と言う感覚が無いのか休むことなく動き続け、どういう原理かは分からないが、謎の怪力でもって動かない牛を両手で無理やり押し進めている。生前の非力な姿からは想像できない化け物パワーである。周囲の牛達は先生の怪力を恐れてか、追い立てられるかのように搾乳場へと進んで行った。
「先生は……なんというかその……特殊だから、真似できないよ」
サヴァイヴが苦笑いをした。
やがて搾乳の作業が終わると、モルトは道具を倉庫へ運んで皆へ言う。
「お疲れさん!もう夕飯が出来てる頃だで、食いに行きな!」
「やったあ」
双子達が歓声を上げて駆けだした。リカが倉庫へ向かうモルトへ声をかける。
「まだ片付けがあるんじゃないですか。手伝いますよ」
「良いんだよ!俺一人で十分さ。飯が冷めるぜ!はよ行きなって」
そう笑顔で言うと、軽快な足取りで道具を倉庫へ運んで行った。彼はこれからさらに使った道具を全て綺麗に掃除したり、明日牛に与える餌の準備をしたりするようだ。
「姉ちゃんたち、はよ行こうぜ!」
双子が、アリスとリカの手を引っ張った。サヴァイヴとエグゼ、ドリュートン先生もそれに続いて家へと向かう。
「本当に働き者なんだねモルトさん」
サヴァイヴが感心した様子で呟く。そんな彼を睨みながらエグゼが吐き捨てるように言った。
「あれが『普通』だ。世の普通の人間は皆あのように、何者も傷つけることなく真っ当に働いて生活している。貴様のような罪人と違ってな」
「……君は、どんなことでも僕への批判材料にしないと気が済まないの?」
呆れたような表情でエグゼを見る。エグゼは小さく鼻を鳴らすと、サヴァイヴを置いて家の中へと入って行った。
食卓には、野菜がふんだんに使われたクリームシチューのような料理が鍋ごと置かれていた。それを一人一人の皿へ取り分けながら、リカが若干戸惑い気味に尋ねる。
「それで……その……ドリュートン先生は、お食事の方はどうされるんですか?」
若干気まずそうに、包帯ぐるぐる巻きの先生へと視線を移す。サヴァイヴ達から、これまで起こったことを聞いているため事情は分かっているが、それでも心ではまだ受け入れ切れていないのが見て取れる。ドリュートン先生がレイモンドに殺された挙句、理由は分からないが復活してミイラ男になっているのだから、それは戸惑うのも無理はない。
先生はカラッとした笑いを浮かべて答えた。
「私の分は良いよ。この状態になってからお腹が空かないんだ。消化器官が動いていないためだろう。便利なものだね。食べ物は、君達生きている者達だけでお食べ」
もしかしたら先生流の死人ジョークなのかもしれないが、笑う者は誰もいなかった。
「それにしても、モルトさんは働き者ですね」
サヴァイヴが話題を変える。モルトの妻と、双子達に話しかけた。双子達が嬉々として答える。
「そうだぞ!父ちゃんは偉いんだ」
「凄いんだ」
そんな双子の頭を撫でながら、モルトの妻は苦笑いをサヴァイヴに向けた。
「私があの人に出会ってから今まで、あの人が一日休んでるところを見たこと無いのよ。正直言って、働きすぎるのも良くないと私は思うんだけどね……。でも、あの人は仕事が好きだから。自分が丹精込めて育てた野菜やミルクを皆さんに美味しい美味しいって食べてもらえるのが本当に嬉しいみたい」
「そうなんですね。確かに、美味しいです」
サヴァイヴがシチューを一口食べてニコニコ笑った。その横ではアリスが会話も聞かずに夢中でガツガツと食べている。
「アリス、お行儀が良くないですよ」
リカがたしなめるように言った。そんな彼女の隣にはエグゼが座っていて、他の皆と対照的に黙々と不愛想に食を進めていた。リカはエグゼにも苦言を呈する。
「そんなつまらなそうな顔しないでください。もっと美味しそうに食べられないんですか?」
「無理だな。『美味しそう』ではなく『美味しい』のだから。わざわざオーバーに演技する理由は無い」
などと言いながら、空になった皿を無言でリカに差し出した。リカは顔を顰めて「自分でよそって下さいよ!」と文句を言いつつも皿を受け取り、おかわりを入れてエグゼに返した。そんな二人のやりとりを微笑ましそうにモルトの妻が眺めている。
「リカちゃんも、エグゼ君も、優しい子ね」
「優しいだと……?」
エグゼは無表情ながら困惑したような声色で呟いた。
「俺は処刑人だ。処刑人は厳格かつ非情でなければならない。だから俺は、人に優しく振舞う気など無い……です」
一瞬モルトの妻の穏やかな瞳と目が合い、エグゼは慌てて反らす。それから何かを誤魔化すかのように、シチューを一気に口にかきこんだ。そんな彼の様子を、不思議そうに、面白そうに、リカは見ていた。
和やかに食事は続く。そんな中、時折不審げな表情でリカが外の方をチラチラと見ていた。
「どうした?」
エグゼが小声で聞く。リカは窓の外へ視線を向けたまま答えた。
「なんだか、外が騒がしくないですか?」
リカは人と比べて感覚が鋭い。この農場の隣にはブラックカイツのアジトがあるとのことだから、その音も聞こえてしまうのだろう。
いち早く食べ終わったエグゼは、その場に立ち上がって言う。
「モルトはいつまで仕事をしているんだ……?明日も早いのだ。さっさと飯を食って寝るべきだ。俺が、奴の元へ行って仕事を終わらせて来る」
「待って、僕も行くよ」
ちょうど食べ終わったサヴァイヴもそう言って立ち上がった。二人は家を出て暗闇の中を歩き倉庫へと向かった。
倉庫は家と同じ敷地内にあるため目と鼻の先にある。そう長くない道中、エグゼはおもむろに口を開き、サヴァイヴに尋ねた。
「……あの子供の母親はどうなった?」
「え?……ああ……」
サヴァイヴは無言でニッと笑い、エグゼに向けてピースサインを見せた。
エグゼはサヴァイヴの頭を殴りつけた。鈍い音が鳴る。
「なんで⁈」
サヴァイヴが困惑気味に頭をさすって言う。エグゼは顔を背けつつ「……良かったな」とだけ不愛想に呟いた。
サヴァイヴは一回ため息をついてから、謙遜するように苦笑いをした。
「まあ……正直、運が良かっただけだけどね。先生がいなかったら僕は何も出来なかったし。君の言う通り、普通は目の前の人全員を助けることなんて出来ない。今回、それをまざまざと思い知らされたよ」
「当然だ。……だが、結果としてあの時の貴様の行動は間違っていなかったということになるのだな」
エグゼの、どこか哀愁の感じられる声色に若干驚いた様子ながらも、サヴァイヴは小さく笑って否定した。
「それは結果論だよ!」
「ああ。だが、『事実』だ。事実、貴様の行動をきっかけとして一人の人間の命が救われた。否定しようのない真実だ」
どこか悔しそうな、だが同時に何故だか安堵しているような、あまりにも複雑な感情を秘めたエグゼは、その場に立ち止まって真っ直ぐにサヴァイヴを見つめた。
「貴様の罪は決して消えない。だが、今回の貴様の功績も決して消えることは無い。この先も、そのような真実を増やしていくという覚悟があるのなら、その間だけは処刑執行の猶予を与えてやる。肝に銘じろ」
「そんなこと、君に言われるまでも無い」
そのようなやりとりをしているうちに、二人は倉庫へと辿り着いた。中は明かりがついたままだが、人の気配はない。搾乳作業に使ったバケツや布切れ、消毒用の薬液や、それらを綺麗に洗うためのブラシ等がその場に放置してある。
辺りにはなにやら不穏な空気が漂っていた。まるでどこかそれを予測していたかのように、サヴァイヴとエグゼは目を合わせる。
「……畑の方から声がする」
サヴァイヴが呟いた。ブラックカイツのアジトと面している西側の畑だ。二人は何も言わずに駆けだした。暗闇の中で言い争う声が聞こえてくる。
「……だから、ここはうちの敷地だ!出て行け!」
「このような、訓練の妨げになる場所に畑を持つ方が悪いのだ!」
4、5人の屈強な男達とモルトが怒鳴り合っている。
「ふざけんな、何が訓練だい。アンタらのトンチキな活動なんて知ったこっちゃねぇがな、アンタが今踏んづけている野菜は、俺が時間をかけて育てた大事な商品だで。どう落とし前付けてくれんだ⁉」
男は大きく舌打ちをして、蔑むような目をモルトに向けた。
「そのようなちっぽけな事で我々の崇高な活動に異を唱えるとは、なんと愚かなことか。お前のような無教養で怠惰な者がいるから、この国は腐敗して他国の干渉を受けることになってしまうのだ!改心しろ」
男達はモルトの周囲を取り囲んだ。
「我々は、今の腐ったこの国を憂い立ち上がった正義の戦士なのだ。我らの活動に賛同しない者は非国民!悪に他ならない!お前はどうだ?もし、この場で改心すると言うのならば、この土地を、我々の活動のために明け渡してもらおうか。だが自分の罪を認めず抗うと言うのならば、我々も実力を行使させてもらう」
「はあ⁉言ってることがムチャクチャだで」
モルトが困惑顔で周囲の男達の顔を見る。男達は皆本気の表情で、その危うい視線を中心にいるモルトへと注いでいた。
そこへ、サヴァイヴとエグゼが駆けつける。
「おい、貴様ら何をしている!モルトから離れろ!」
エグゼが男達を睨みつけて怒鳴った。サヴァイヴもまた冷たい視線を相手に向ける。
「ここはモルトさんの家の畑ですよ?勝手に入らないでください」
「お前達も……我らに反抗するか!」
男達が声を荒げる。すると、そんな男達の背後から一人の青年が近づいてきて、男達を諫めた。
「こらこら、そんな大声を出して一般の方々を怖がらせるんじゃない。私達は正義の戦士なのだ。穏便にいこう」
「スタナムさん……」
男達に『スタナム』と呼ばれた理知的な顔の青年は、穏やかな笑いをモルトに向けて軽く頭を下げた。
「私の部下が脅かすような真似をしてしまってすまない。だがこれも、この国の未来を憂いているからこその熱量なのだ。分かって欲しい」
言いながら、サヴァイヴ達にも笑いかけた。モルトが何か言いたげに口を開くが、それを妨げてスタナムは話を続ける。
「我々の活動は、今が大事な時期なのだ。そのために、あなたのこの農場を提供して欲しい。あなたのその行動が、この国の未来を作る礎となれるのだ。それは素晴らしい事だよ。あなたのようなただの一市民であっても我らに協力するだけで偉業を成すことが出来るのだ」
そう言って、右手をモルトに差し出した。モルトはその手を睨みつけ、吐き捨てるように答える。
「さっきから勝手なことをベラベラと、偉そうに。『偉業を成すことが出来る』だ?俺は俺の成すべきことを成してんだ。俺の育てた野菜やミルクで、皆を笑顔にするという最高の偉業をな」
モルトの噛みつくような表情に苦笑いをしながら、スタナムは右手を下ろした。
「やはり……ある程度の教養が無いと分からないのかもしれないね……。今のあなたは、どこにでもいるただの名も無き一国民に過ぎない。そんなあなたでも、我々の革命に参加し、新たな国づくりに貢献することで英雄になれると言うのに。そのチャンスを自ら放棄するなんて、はっきり言って愚かとしか言いようがない。……やはりこれも今のこの国の悪しき部分だね。教育が平等に受けられないから、あなたのような頭の悪い者が出てきてしまう。知能レベルが大きく違うと会話にならないというが、まさにその通りだ……」
スタナムがそこまで言ったところで、彼の言葉を遮るような笑い声が暗闇に響いた。その笑い声は、エグゼのものだった。これまでに見たことが無い、声を上げて笑うエグゼの姿を、私もサヴァイヴも驚愕の目で見ていた。エグゼは瞳に浮かぶ涙を拭いながら、憐れむような視線をスタナムに向けた。
「確かに、知能レベルが違うと会話にならないものだな……!これほど笑える喜劇を見たのは初めてだ。貴様らのような頭のおかしい危険集団とモルト、どちらの意見が真っ当か……貴様の言う『ただの名も無き一国民』達に聞いてみたいものだ」
「どうやら君も、我々の崇高な活動が理解できないようだね……」
スタナムは不愉快な感情を露わにしつつもその顔には笑みを張り付けて、冷静な口調で高らかに、演説でも行う様な口調でエグゼに向けて言う。
「君達のような頭の悪い連中にも分かりやすく言おうか。毎日毎日、誰にでもできるつまらない仕事を朝から晩まで行って、馬車馬のように働き続けるだけで終える人生と、自身の行動で国に変化を与え、国を救った英雄の一人としてその人生を終えるのと、どちらが素晴らしいか、火を見るより明らかだろう?私は英雄となれるチャンスを今ここで与えているのさ。奴隷のような人生を変えることが出来る、今がその選択の時であり……」
「……馬車馬の何が悪い?貴様らよりは世の役に立つだろう」
エグゼの一言に、スタナムは言葉を詰まらせた。全く予想しない返答だったのだろう。エグゼの顔からは先ほどのような笑みはもうすっかり消え去って、まるで汚物を見るかのような視線をスタナムに向けて、低い声で呟くように、絞り出すように、言う。
「朝から晩まで汗水たらして泥にまみれて一生懸命働いて、誰も傷つけず、何も壊さず奪わず、ただただ自分の中の小さな幸せや、家族や友人を守るために、周囲の人達にほんの少しの笑顔でも与えるために。そのために全力で生きる。誰に褒められずとも評価されずとも、自分自身の誇りを胸に懸命に働いて、その一生を尽くす。そのような者達が、一番偉いんだ。賢いんだ!素晴らしいんだ!『英雄』という称号は、そのような者達にこそ与えられるべき物なのだ!貴様が言う『名も無き一国民』こそが、国を作り支える『英雄』!その称号は、貴様らのような、自分にとって気に入らない物を破壊することでしか自身の価値を証明できない愚か者どもに与えられるべき称号ではない!このモルトのような者にこそ与えられるべき称号なのだ!」
スタナムも男達も、モルトも何も言葉を発することは無かった。賛同にしろ反発にしろ、エグゼのこの感情を露わにしたような発言に対しては何も言うことが出来なかったのだろう。私は今初めて、エグゼと言う男の真実を見たような気がした。
サヴァイヴが、小さく苦笑いをしながらエグゼに問う。
「……君の言う『愚か者』には、多分僕も入っているよね」
「当然だ」
エグゼはサヴァイヴに一瞥もくれずに即答した。サヴァイヴはまた小さく笑うと、濃い赤い瞳をスタナム達に向けて低い声で言う。
「僕は頭が良くありませんから……ある一つの行為には……同じ行為でしか返せません。僕は、あなた方と同類のようですからね。あなた方がその愚かな力を行使してモルトさんの大事なものを奪おうとするのであれば……僕も同じく愚かな手段で返すしか無い」
スタナムがサヴァイヴを睨みつける。スタナムの背後の男達は、臨戦態勢となってサヴァイヴに向けて拳を構えた。サヴァイヴはさらに脅すように囁く。
「僕の力は……あなた方のそれよりもはるかに愚かで……悍ましいですよ」
スタナムは一歩後ずさりすると、サヴァイヴを見つめて一言呟いた。
「……頭の悪い連中と話していると……頭痛がしてくる」
それからこちらに背を向けて、男達を引き連れアジトへと戻って行った。暗闇の畑には、スタナム達の背を睨むサヴァイヴとエグゼ、そして踏みつぶされた野菜に目を落とすモルトのみが残されていた。
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