第25話〈夜空の下で〉

「ま、待ってくれ‼︎やめてくれ‼︎」


 サヴァイヴに腕を掴まれた団員が叫ぶ。無表情の赤い目でその団員を見下ろしていると、後ろから別の団員が金属棒で殴りかかってきた。ノールックで体勢を下げそれをかわし、掴んでいた団員をぶん投げて殴りかかってきた者にぶつける。二人はその場でのびてしまった。周りを囲む男達は、慄いてジリジリと後退して行く。そんな中、一人が懐から刃物を取り出すと、レイモンドの元へ駆けて行き、彼の首元に刃を突きつけた。


「動くな‼︎こいつがどうなっても良いのか‼︎」


 人質となったレイモンドは特に動揺する素振りも無く、自分の首に密接する刃物を見て笑った。


「首の血管切るのって、意外に難しいんだぜ?上手くできるのかい」


「……まるで切った事でもあるような口振りだな」

 レイモンドの隣に立つエグゼが彼を横目に睨みつつ言う。そんなエグゼにも複数人の男が金属棒を構えて囲んでいた。刃物を手にした団員は、サヴァイヴに告げる。


「こいつらを殺されたく無ければ抵抗を辞めろ‼︎」


「……」


 サヴァイヴは何も言わず、人質を取る男を見た後、ゆっくりとそちらに向かって歩いて行く。


「……人質という手段が有効なのは……あくまで両者の実力が拮抗している場合です。羽虫に人質を取られて『動くな』と言われて、従いますか?」


 一歩踏み出すと、次の瞬間には刃物を持つ男に肉薄し、慌てた男が向けてくる刃を掴んでへし折った。それから男の伸ばした左腕を片手で掴む。男は右手拳でサヴァイヴに殴りかかるが、それも受け止められた。両腕でその団員の動きを封じながら、未だ囲まれているエグゼに目を向ける。


「君は、自分で対処できるでしょ」


 エグゼはフンと鼻を鳴らすと、目にも止まらぬ早業で左右に立つ団員の武器を奪って捨てた。武器を失い呆気に取られた二人は慌ててエグゼから逃げ出した。


 サヴァイヴに両腕を掴まれた団員は、睨みつけながら叫ぶ。


「我々は過酷な訓練を乗り越えた精鋭だ‼︎苦痛などには屈しない‼︎むしろ痛みとは精神の覚醒を促すもの‼︎我が両腕、へし折るが良い‼︎その瞬間私は真の戦士へと覚醒し、無限の力を手に入れるのだ‼︎」


「それが本当なら、素晴らしいことです。試してみましょう」


 そう返すとサヴァイヴは、両腕を掴んだまま彼の足を踏みつけ、固定した足の向こう脛に鋭い蹴りを入れた。軋む様な音の直後に男の絶叫が鳴る。足の骨を折られた彼はそのまま地に倒れ込んだ。『腕を折れ』と言われたから足を折ったわけだ。覚悟の範囲外の部分を責められると、その痛みはより増すと言う。


「覚醒しましたか?したとしても、立てないんじゃ無意味でしょうけど」


 男を見下ろして、サヴァイヴは言った。周りの団員達に明らかな動揺が広がる。ほとんど戦意を喪失しているようだ。サヴァイヴは彼らに視線を向けながら、低い声で言う。


「……僕らの邪魔をしなければ、反撃はしません。怪我したくなかったら逃げてください。……でも、この村は今日僕らが滞在するので、逃げるのなら村の外まで、どうぞ」


 団員達は武器を構えてこちらを睨みつつ、負傷した仲間の肩を支えて回収した。それから、吐き捨てるように言って去って行く。


「化け物が‼︎いずれ正義の裁きを下してやる」


「心配するな、それは俺の仕事だ。俺に任せて貴様らは消えろ」


 エグゼが答えた。ブラックカイツの者達は、闇の中へと消えていった。


 周囲を囲む男達はいなくなったが、サヴァイヴ達に注がれる視線は消えていない。それは、先程から恐る恐る戦いの様子を遠目に見ていた村の住人達のものだ。建物からそっと顔や目だけを出してこちらを見ている。視線を返すと、隠れるように消えた。


「どうやら、招かれざる客は奴らだけでは無いみたいだな」


 レイモンドが自嘲気味に笑う。エグゼが頷いた。


「当然だ。この村の者達の平穏を脅かしたと言う意味では、我々も同罪だろう」


 二人の会話を聞きながら、少し悲しげな表情を浮かべたサヴァイヴは、何も言わずに馬車に乗り込む。三人は村を出て、ブラックカイツと同じく林の闇へと消えて行くのだった。


 ドナドナドナと、真っ暗闇の林道を馬車は進む。馬車に取り付けられたわずかな灯りと満月の光のみを頼りに。


 そんな暗闇の道中、サヴァイヴが発する深い後悔の溜め息が馬車内に響く。


「あ〜……。良くなかったかな〜……あのやり方……。皆さんに間違いなく嫌な奴って思われましたよね……」


「『嫌な奴』で済めば良いほうなんじゃ無いか?」


 馬車を操るレイモンドが笑って答える。むこうから先に手を出したとは言え、その腕や足の骨を粉々に砕いた相手に対しては、『嫌な奴』以上に適した表現が何かあるはずだ。具体的には思いつかないが。


「やはり、貴様は罪人だ。だが、あの言動により死者は出なかった。それに越した事は無い」


 エグゼが腕を組んでサヴァイヴへ視線を向ける。サヴァイヴが意外そうにエグゼへ尋ねる。


「僕のやり方、評価してくれるの?」


 エグゼは舌打ちをして視線を逸らす。


「貴様の屑っぷりに奴らが恐れをなしたからこそ、犠牲を出さずに済んだわけだ。これからも貴様のその化け物の如き本性を曝け出していけば、近寄る者はいなくなるのでは無いか?」


「……それはなんか嫌だな」


 そんな事を言っているうちに、夜もだいぶ更けてゆく。馬車を停めて、林の中で野宿をすることにした。少し肌寒いが、命に関わる気候では無い。小さな布かなんかを羽織れば寝る事が出来そうだ。三人とも、枕が変われば寝られないと言った繊細なタイプでも無いだろう。


 馬車の中でサヴァイヴとエグゼは各々の手持ちの食料を口にする。サヴァイヴは傭兵用の固形食。エグゼは細かい穀物のようなものをそのまま食べていた。味気ない食事をする二人に、レイモンドが声をかける。


「そんなつまらない物を食べていて楽しいか?せっかくの食事だ、せめて暖かく味のある物を食わなくちゃな」


 そう言って、簡易的な鍋や小さな三脚のような物を自身の鞄から取り出すと、近くに落ちていた木の枝を集めて焚き火を始めた。空気が乾燥しているからか、すぐに火が大きくなる。


 飯盒のような金属製の容器を火にかけて温めただした。複数種類のスパイスが混じったような匂いがする。何かに似ていると思ったら、あれだ。カレーだ。


「医と食は、隣り合わせだ。生き物の体は食により維持される。何をどのようなバランスでどれくらい食うか、と言う事が心身を健全に保つためには必要不可欠。そしてこの食において何より大事なのが、食事をただの作業にしないと言うことさ」


 話しながら、レイモンドは火に木枝を追加する。固形食をしまったサヴァイヴは焚き火の近くにやって来て座った。


「今温めているこれは何ですか?」


「複数種のスパイスと、トカゲ肉と、サポロの実を炒めて混ぜてペースト状にしたもの。栄養は摂れるし、何より美味い。私がいつも持ち歩いている簡易食さ」


蓋を開けると、中にはドライカレーのようなものがぐつぐつと暖まっていた。スパイスの良い香りが辺りに漂う。


「スパイスと薬草は広義的には同じもの。私のような一流の医者は、香辛料にも通じている。恐らく、シーナもそうだと思うよ」


 そう言えば、シーナは料理が上手だと前にリカが言っていた。香辛料も使いこなせるのだろうか。

レイモンドは鼻歌を歌いつつ小型の鍋のようなものにドライカレーもどきをついで、匙と共にサヴァイヴに渡した。彼がそれを一口食べると、その表情に暖かみが戻った。


「結構辛いですね」


「辛味は熱を生成する。熱は生物に不可欠なものさ。ただし、発汗作用もあるからあまり食べすぎると逆に体を冷やしてしまう。何事もほどほどが一番だな……女だって、美人すぎれば手を出し難い」


 最後に不必要なチャラワードを追加しつつ、レイモンドは別の容器につぐ。そして、依然馬車の中に一人でいるエグゼに声をかけた。


「君もどうだい。そんなとこにいないで、食いなよ」


「罪人の作った飯など食えるか」


 言った直後に、エグゼの腹が鳴った。サヴァイヴが思わず吹き出す。レイモンドはニヤリと笑った。


「体は正直。空腹は、身体機能を鈍らせるぜ。いざと言う時に、罪人を逃してしまったらどうする?」


 しばしの無音の後、エグゼが馬車から出て来て焚き火の近くへ座る。そして、レイモンドが差し出すドライカレーもどきを受け取った。


「舌や鼻を『血痕の呪い』に侵されていようとも、どうせ食うなら美味いものの方が良い。どんな主義思想を持ちプライドがあろうとも、基本的な身体機能は人類皆共通さ。食わなくちゃ腹が減るし、眠らなければ意識は保てない。異性との関わりを欲するし、苦痛は耐え難いもの」


 レイモンドが一人語る中、二人は黙々と匙を口に運ぶ。私もサヴァイヴに少し分けてもらった。ちょっと妙な風味はあるが、やはりこれはカレーだ。サヴァイヴは自身の持っていた固形食をつけて食べていた。


 木々が生い茂る夜の闇は暗く深い。風で木が揺れ葉と葉が擦れ合う音がする。空を見上げれば明るい月の光と無数の星が見える。一人語りに飽きたのか、レイモンドは二人に問いかけた。


「時に君達、神とはどのような存在だと思う?」


「え?」


 どうしたのだろう唐突に。宗教の勧誘だろうか。レイモンドは続ける。


「信じる神の姿から、その者の主義思想は読み取れる。初対面の相手がどういう人間か知りたかったら、神について尋ねてみると良い」


 初対面でいきなり神の話なんかしたら、だいぶカルトな奴だと思われそうだが。訝しげに聞く二人にレイモンドはしつこく問う。


「で、どう思う。君達にとって神とは」


 しばらく無言の時間が過ぎる。その間、サヴァイヴは何やら考えている様子であったが、エグゼの方はレイモンドの質問を意に返さず、ひたすら食を進めていた。やがて、サヴァイヴが答える。


「いつも、僕らを見守ってくれている存在ですかね……。神様って、どんなに祈り縋っても、手助けや助言をくれる存在じゃない。……多分、ただ僕らの頑張りや足掻きを見守っていて、僕らの心の嘆きや愚痴に耳を傾けてくれる存在かなって思います」


「だとすると、絵にしたら手足口が無くて目と耳だけがある存在という事になるかな」


 レイモンドが茶化すように言う。それに対し、サヴァイヴは首を振って否定した。


「絵には描けません」


「偶像崇拝は禁止しているのか」


「そうじゃないです。ただ、鼻があるのかどうかが分からないから描けないだけです」


 サヴァイヴが冗談めかして言う。レイモンドはククッと笑い、「違いない」と呟いた。それから二人は促すようにエグゼを見る。エグゼは小さく舌打ちをして答えた。


「神とは、死んだ後の罪人を焼き尽くして、罰を与える存在だ。我々処刑人は、生きている罪人しか裁けない。死後の罪人へ罰を与えるのが神と言う存在。……貴様らも、いずれ対面することになるだろう」


「それは楽しみだ」


  レイモンドは笑った。そして、考察するように続ける。


「『焼く』というワードからして、やはり処刑人にとっての神には太陽神『フェニクシス』の要素が見て取れるな。処刑人は崇陽教会に起源を持つと言う……。そのなごりかな」


「くだらん」


 そう言って、エグゼは目を閉じた。サヴァイヴが興味深げにレイモンドに尋ねる。


「そう言うレイモンドさんはどうなんです。あなたにとっての神とは?」


「そうだな……。バイセクシャルだな」


 意外な返答に、驚いた様子でサヴァイヴとエグゼはレイモンドの顔を見た。彼は説明する。


「生物の役割とは何か、それは自分の子を残すこと。言ってしまえばそれに関わらない行為は全て生物にとって無駄な行為と言って良いだろう。しかし、高位の生命体ほど、無駄を多く持つ傾向があるらしい。人なんかまさにそうだ」


 サヴァイヴが小さく頷く。エグゼも否定はしなかった。レイモンドはさらに続ける。


「子孫を残すこと、すなわち生殖を生物の存在意義とするならば、同性愛は無駄な行為と言える。だが先程も言った通り、高い位のものほどその生き方に無駄を多く持つ。そのため、人間より高等な存在である神は同性愛者でなければならない。だが、それだけでは不完全。人にあるものが神に無いはずが無いので異性愛も持つと考えれば、結果として神は両性愛者と言うことになるだろう」


 レイモンドの話を聞いていた二人は、少し考えるような口調でそれぞれ呟く。


「レイモンドさんにとっての神は両性愛者か……。なるほど」


「貴様、先程『信じる神の姿から、その者の主義思想は読み取れる』と言っていたな」


 二人の意味深な視線に気づいたレイモンドは、苦笑いで否定する。


「あいにくだが、私は両性愛者では無い。異性のみしか愛せない下等な存在さ」


 そんな神様論で思いの外盛り上がる三人のもとへ、月明かりに照らされた白い鳥が飛んで来た。ベンのもとから来た連絡用の鳥、プラチナだ。足には定時連絡の手紙が結びつけられている。サヴァイヴが外して読むと、そこには最初の目的の村に着いたことや、次の合流地点での落ち合い方等が書かれていた。我々とは違い、向こうは特に揉め事も争いも起こらず順調に進んでいるようだ。それと、こんな追伸が書いてあった。


【今いる村の名物、トカゲの内臓焼きが美味かったぜ。】


「観光気分か」


 エグゼがジトリとした目で手紙を見た。レイモンドが面白そうに笑う。その間に、サヴァイヴが返事を書いていた。先ほどの村でブラックカイツと遭遇したことを含め、こちらの状況を簡潔に書き記した。その文面を見て、レイモンドが助言する。


「そんな事務的な連絡事項だけじゃつまらないな。ついでに愛しの君へ思いの丈でも綴ってみたらどうだい」


「しませんよそんなこと……」


 サヴァイヴは苦笑いをするが、少し考えてからレイモンドに確認するように問う。


「どういう人間か知りたかったら、神について聞くのが良いんですよね」


「ああ。私はそう思うよ」


 それを聞いて小さく頷くと、少し追伸を加えて手紙を書き終えた。





 連絡鳥プラチナはかなりの速さで飛ぶことが出来る。夜が明ける頃には、サヴァイヴ達からの返信がベン達の元へ届いていた。ベン一行は小さな村のこれまた小さな宿屋の一室に宿泊していた。窓を閉じる木製の板戸を、プラチナが突く。それを開けてプラチナを室内に入れると、ベンは手紙を受け取って読んだ。


「……あいつら、ブラックカイツと戦闘になったのか⁉薬の存在はバレて無ぇみたいだが……目ぇつけられてないだろうな……」


「サヴァイヴ君達は無事なのかい」


 ドリュートンが心配そうに尋ねる。ベンは頷いて答えた。


「怪我は特にしていないみたいっすね。ま、サヴァイヴとエグゼがいれば戦力的には問題ないだろうけど……でも、あいつら仲良くやれてんのか……?って、なんだこの追伸……」


 手紙の最後を訝し気に見た後、ベンは部屋の隅で一人『木苺姫』の最新シリーズを読みふけっていたアリスに声をかけた。


「おい、アリス。サヴァイヴから手紙だぜ」


 アリスは不思議そうな表情でそれを受け取った。追伸の部分にはこう書かれていた。


【アリスへ、君にとって神様ってどういう存在?】


 少し経って、サヴァイヴの元へアリスからの返事が届いた。そこにはこう書かれていた。


【作者。】





 フォルトレイクの主要な港がある大きな街。その片隅にあるブラックカイツの秘密アジトに、多くの団員が集結していた。普段この場で訓練を積んでいる者達だけでなく、他のアジトのメンバーも合流し、その人数はかなりのものとなっていた。全員、決意や闘志に燃える熱い瞳を、前に立つ男に向けていた。フォルトレイク自律傭兵団『ブラックカイツ』の団長、スタナムだ。彼は声高らかに言う。


「先日、ガルザヴァイルさんの同志から、恐るべき情報がもたらされた!フォルトレイク国政評議会は、秘密裏にクラフトフィリアと繋がっており、死裂症の薬を国民に無断で輸入していると言う‼民衆の声を無視した独裁体制だ!……国政評議会は既に、クラフトフィリアに堕ちた‼」


 団員達の驚きの声がざわざわと波立つように広がってゆく。やがてそれは憤りの声に変わっていった。スタナムは続ける。


「死裂傷が大国の手による人為的な災害であることは既に知っての通りだが、今回の件ではっきりと分かった。クラフトフィリアはこの死裂傷の薬により我が国を支配しようとしているのだ‼なんというマッチポンプ。このような非道が許されて良いはずが無い‼」


 口々に、賛同の声があちこちから響く。その中には、緑がかった黒いくせ毛の少年、セトラの声もあった。


「これ以上、この国をクラフトフィリアの傀儡には任せてはおけない‼遂に行動を起こす時が来た‼これより我々は、クラフトフィリアから持ち込まれた治療薬を抑えると同時に首都ルトレへ攻め込み、国政評議会を掌握する‼そして、我々の手によって、真に国民の望む強く美しいフォルトレイクを再建するのだ!我らがフォルトレイクに栄光あれ‼栄光あれ‼栄光あれ‼栄光あれ‼」


 スタナムの叫びに団員達も答え、無数の声が重なり合う。「栄光あれ‼栄光あれ‼」と一つの思いに向けられる声が空気を震わし熱気を帯びた。場のボルテージが最高潮に高まったところで、演説者は変わる。金属の装飾具をジャラジャラと身に纏う、黒いドレッドヘアの柄の悪い男。フォルトレイクの特別顧問にして傭兵団コマンド・レイヴン第十三番隊員、ガルザヴァイル・エシャントだ。彼は団員達に向けて吠えるように言葉をぶつける。


「テメェらはクズだ‼なぜだか分かるか⁉……それは、未だ革命を成し遂げていねェからだ‼テメェらは、これまで御大層な特訓とやらをしてきてェ、自分は一般人とは違う特別な戦士だと錯覚しているかもしれねェ、だが違う‼俺のような『本物』からすりゃァテメェらもそこらの一般人共も何も変わらん安寧の中で惰眠をむさぼるクズ同然さァ‼……そんなテメェらが栄光とやらをその手に得るには……勝つしかねェ。革命を成すしかねェ。『正義』っつーモンは勝者のみが決めること‼テメェらが勝った暁にはその全ての行為が正当化される‼勝つことのみが、テメェらを英雄へ変える手段だ!……そのためには、良いか?躊躇しちゃァいけねェ。親兄弟友人、女子供老人だろうがァ!テメェらの邪魔をする奴らは全て殺せ‼テメェらが勝った世界において……テメェらの邪魔をした連中は全て悪人‼反逆者‼非人間だ‼テメェら自分が正義と信じるならば悪人を殺すことを戸惑うな‼殺せ‼壊せ‼テメェらを阻む全ての悪逆連中を全て斃して栄光を掴め‼道筋は俺が敷いてやる‼黙って俺に従い這いずりついて来い‼」


 地を揺らすような歓声が響き渡り、止むこと無く続く。高まった士気をそのままに、団員達は各々の任務に向かい決意を新たにしていた。革命を成して、英雄となる。辛い特訓を乗り越えて来た結果、ついにここまで来たのだ。


「お見事、お見事。口から出まかせ風まかせ」


 アジトの隅で小さく拍手をしながら、華奢な赤毛の青年がガルザヴァイルを迎えた。その隣で金髪に大男も笑っている。ガルザヴァイルは舌なめずりをして二人を見て言う。


「面白くなってきたぜェ……‼ついに戦争だァ‼役に立たねェ壊れたブリキの玩具どもを使って……血沸き肉躍る最高のパァァァァティィィィィを‼始めようぜェ‼」

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