第22話〈ある革命者達の話〉

 ここに、セトラ・フロントと言う名の、緑がかった黒色のくせのある髪が特徴的な少年がいる。城塞国家フォルトレイクの港町にて花屋を営む姉と二人で暮らしており、つい最近この国における成人年齢、十八の歳を迎えた。


 そんな彼は今、港町の片隅にある小さな酒場で一人の青年と話していた。セトラに熱弁を振るう青年は、その顔にかけた眼鏡がよく似合う理知的な雰囲気を漂わせており、人を落ち着かせる独特の雰囲気を持っている。彼は自身の名を『スタナム』と名乗った。


 二人の元へ運ばれてきた、フォルトレイクの伝統料理。野鳥の肉と薫り高い花を蒸し焼きにしたものを口に運びつつ、スタナムは話を続ける。


「うん。美味い。さすが、我らがフォルトレイクの名物だ。こういう我が国固有の素晴らしい文化は、なんとしてでも守っていかなければならない」


「同感です」


 セトラは、力強く頷いた。そんな彼に満足げな笑みを向けて、スタナムはさらに話す。


「君の家は、花屋だよな?この料理に使われている花なんかも扱っているのかい?」


「ええ。もちろんです。お得意先の料理店から度々注文いただいています。今のうちの店にとって、数少ないお取引先の一つです」


「『数少ない』……?」


 スタナムは耳ざとく聞きとめる。セトラは悔しそうに頷いた。


「最近、うちの花を買ってくれる方や、取引先が減っています。クラフトフィリアから輸入されてくる製品の方が高品質で安価だから、とか言って……。そのおかげでうちはいつも火の車ですよ」


 忌々しげに言いながら、フォークで肉を刺す。スタナムは表情を曇らせた。


「……やはり、私が極秘につかんでいた情報は間違いではなかったか……。クラフトフィリアと、ウルス・マゼラ。近隣の大国共が、資源に富む我が国を手中に収めるべく、嫌がらせの工作を行っているのだ。我が国の産業を妨害している」


「噂は本当だったんですね!」


「そうだ。国家の中枢を担う国政評議会でさえ、もはや大国の傀儡と言っても過言ではないだろう……。やはり、多少手荒な手段を用いてでも、根本からの変革を起こさなければ、この国は滅んでしまう。……君や、私のような、この国を本当に憂う大志ある優秀な若者が、これからのフォルトレイクを動かしてゆくべきなのだ」


 熱意のこもった視線を向けて話を聞くセトラに対し、スタナムはグラスを掲げた。


「君を我々の同志として歓迎しよう。ようこそ、フォルトレイク自律傭兵団『ブラックカイツ』へ」


 二人は乾杯をした後、再び料理を口にしながら、国の未来について語り合うのだった。

ブラックカイツはフォルトレイク国内に複数の秘密拠点を持っている。セトラがスタナムに連れられて訪れたのはそのうちの一つ。比較的大きな建物であった。表向きは穀物の運輸会社を装っており、その品物を保管する倉庫と言う体になっているが、その実、中で行われているのは団員の戦闘訓練であった。


 スタナムが扉を三回ノックすると、中から鋭い声がした。


「合言葉は?」


「『闘争の先にある変革こそが、我が国を栄光に導く唯一の道なり』」


 扉が開けられた。スタナムの後ろについて、セトラも建物の中へ入って行く。赤いレンガのような物で作られた倉庫であり、少し古いが建物の作りは頑丈でしっかりしている。幾つかの扉が両端に並ぶ細い通路を少し進んで、正面に見えた大きめの両開きの扉を開くと、開けた空間に出た。複数人の若者達が声を張り上げて戦闘訓練を行なっている。彼ら彼女らは、入ってきたスタナムに気づくと、口々に挨拶をした。


「お疲れ様です‼︎」


「お疲れ様です‼︎」


「ああ。皆、頑張っているな」


 笑顔で手を振り答えつつ、スタナムは進んで行く。倉庫を改造した広い部屋の一番奥、壁際にある嵌め込み式の仰々しい金庫のような物に近づき、手を触れた。歯車式のダイヤルを複数回転させて正しく合わせると、金庫はゆっくりと開いた。


 きめ細かいシルクの布が敷かれたその中に入っていたのは、銀色の鞘に収まったナイフのような物だ。表面には椿の花のきめ細かい模様が刻まれている。セトラがそれを見て驚きの声を上げた。


「これ、メタナイフですか⁈傭兵の専用装備の……」


「よく知っているね、流石の知識だ。これこそが、我々が傭兵団であると言う証。我らの誇りであり、神聖なる使命を象徴する物だ。どうだい、触れてみると良い」


「良いんですか!」


 スタナムは無言で促す。セトラは目を輝かせて、そっとメタナイフを手に取った。そのサイズからは想像のつかない重みが彼の両手にのしかかる。落とさないように丁寧に持つと、ゆっくりと鞘から引き抜こうとした。


 ところが、いくら引っ張ってもビクともしない。全筋力をその細腕に込めて引き抜こうとするが、ついに抜刀することは出来なかった。そんな彼の様子を見て、スタナムは笑う。


「そう簡単に抜ける物では無いさ。何せ傭兵の証だからね。厳しい訓練を積んで、それを使用するに相応しい実力を持つと認められた者のみが、メタナイフを使うことが出来る」


 そう言って、スタナムは訓練をしている若者の中から一人を呼び出した。大柄でガタイの良い、筋骨隆々とした青年だ。スタナムは、セトラの手からメタナイフを取り上げてその青年に渡す。


「ガリト、手本を見せてやれ」


「おす‼︎」


 ガリトと呼ばれたその青年は、メタナイフを両の手で握って一度深呼吸をすると、その丸太のような腕に力を込めた。腕の血管が浮き上がり、汗が滲む。やがて先程のセトラの力では微動だにしなかった鞘と柄がゆっくり分かれていき、流体金属が現れ、長い刃を形成した。


 セトラは感動をあらわにした。


「すごい!……あんなに固かったのに」


「フン。これが、訓練を積んだ戦士の実力と言うものだ」


 軽く息を切らしつつ、ガリトが誇らしげな顔で言う。スタナムが励ますようにセトラの肩を叩いた。


「君も、しっかりと鍛えれば抜刀出来るようになる。その時こそ、君が真の戦士として覚醒する時だ。励みたまえ」


「はい‼︎」


 その日から、セトラの訓練の日々が始まった。その内容は彼の想像していた以上に過酷な物であった。基本的な筋力増強はもちろん、金属の棒を剣に見立てて振るう剣術訓練や、対人戦闘力を高める実践訓練など様々だ。元々華奢で体力も少ないセトラにはどれもきつい内容だったが、強者になる、立派な戦士になる、そしてこの国を変える。その強い想いをバネにひたすら食らいついていった。


 実践訓練の中で最も神聖とされているのが、通称『覚醒の儀』と呼ばれる訓練だ。それを初めて見た時、セトラは衝撃を受けた。金属の棒を用いた、一対一の剣術試合だが、それだけでは無い。一方が打ち負かされて武器を取り落とし、勝負が決まった後にも相手は執拗に、無防備な対戦相手に何度も金属の棒を叩きつける。武器を持たない方は体で受けるしか無く、全身に赤や紫色の痛々しい傷が増えてゆく。複数箇所骨折もしているみたいだ。悲鳴やうめき声を上げ倒れ込むが、周りを囲む団員達に叱咤される。


「おい、情けねーぞ‼︎反撃の一つも出来ねぇのか⁈」


「武器を失ったらそれでお終いか⁈そんな奴は戦士でもなんでも無えよ!」


「逃げるな戦え!」


 驚愕の表情を浮かべてその光景を見つめていたセトラであったが、金属の棒が頭に叩きつけられる瞬間に思わず目を逸らした。そんな彼の様子に気づいたガリトが怒鳴りつける。


「目を背けるなセトラ・フロント‼︎貴様も変革の戦士ならば、この光景を目に焼き付け糧とするのだ‼︎」


「こ、これは何の訓練なんですか⁈なぜ敗北の決まった相手を痛めつけるような事を……」


 ガリトは顔を顰めるとセトラの頬を引っ叩いた。セトラは鼻血を出して倒れ込む。ガリトは声を荒げて説明した。


「痛めつけるとは何事か‼︎これは両者の覚醒を促しているのだ‼︎攻められる方は痛みや傷への耐性を鍛え、攻める方は人を打ち倒す事への抵抗を無くす‼︎これを繰り返すことによって、精神と肉体を極限まで鍛えられ、やがて抗体が生まれる!傭兵の持つ絶対的な能力『戦場の呪力抗体』!それを得た時こそ、覚醒の瞬間なのだ‼︎」


 セトラは鼻血を抑えながら、震える瞳でその話を聞いていた。そんな彼に、スタナムが近づいて肩に優しく手を置く。


「初めて見る時は、皆動揺する。だがこれは神聖な訓練の一環さ。これに慣れることにより君も少しずつ戦士の心に近づいて行く。精進しなさい」


「……はい‼︎」


 折れそうな心を必死に誤魔化すように、セトラは声を張り上げて返事をした。


 スタナムはセトラを起き上がらせると、そっと小声で彼に告げる。


「実は今、ガルザヴァイルさんがこのアジトに来ている。お会いしてみないか?」


「本当ですか!ぜひ!」


 セトラは目を輝かせて即答した。


 ガルザヴァイル・エシャント。それはこのブラックカイツの特別顧問であり、先の戦争を戦い抜いた正真正銘の傭兵である。団員達から尊敬の念を集めるカリスマ的存在だ。


「この前、君に見せたメタナイフもガルザヴァイルさんからいただいたもの。あの方は力を持たなかった我々を頑強な傭兵団へと生まれ変わらせて下さった英雄さ」


 尊敬をあらわにしながら、スタナムは熱く語る。訓練用の開けた倉庫から移動し、幾つかの部屋が並ぶ通路を通って建物の一番奥のひときわ豪華な扉の前に二人は足を止めた。スタナムは三回ノックする。


「入れェ」


 低い声が部屋の中から返ってきた。スタナムは一礼すると、両手でそっと扉を開いた。連れられてセトラも室内に入る。ギラギラと趣味の悪い装飾が一面に施され、何やら独特の模様が入ったカーペットが敷かれた部屋の中心に、黒い革張りのソファと細かい装飾の彫られた木机が置かれていた。


 足を机にドカッと乗せて行儀悪くソファに腰掛ける男に向けて、スタナムは直角に礼をした。セトラもそれに倣う。


「お疲れ様です‼︎」


 二人は声を張り上げて挨拶をする。それに対し男は「おう」と一言だけ返した。


 男は非常に威圧感のある風貌をしていた。真っ黒なドレッドヘア、耳には金属製の装飾が幾つもついている。骨を削って作ったかのような趣味の悪い指輪を全ての指にゴテゴテとはめており、この拳で殴られたら痛そうだとセトラは思った。背はそう高く無いが、洋服の上からでも分かる鋼のような肉体を持っている。


 そんな男に対し、スタナムがセトラを指して告げる。


「彼は、新たに我々の同志となったセトラ・フロントです!」


「よろしくお願いします‼︎」


 セトラは腹から声を出して挨拶をした。男は特に興味の無さそうな表情で彼を見ると「ガルザヴァイルだ。ま、せいぜい頑張りな」とだけ言った。それからスタナムの方へ顔を向け、ニヤリと笑いかける。


「んな事よりスタナムよォ……。どえれェ良い女がいるそうじゃねェか。このアジトにはよ」


「と、言いますと」


 スタナムが緊張した面持ちで尋ねる。ガルザヴァイルはギャハハと下品な笑い声を発した。


「メンバー全員の特徴をちゃんと把握してないと、指導者失格だぜェスタナムちゃん……。ほォら、さっき訓練とやらに参加していた明るい茶髪の女だよ。出るとこはボンと出て、締まるとこはキュッと細い……。俺好みだ。ありゃあ最高の『戦士』になれる」


 『戦士』というワードを小馬鹿にするかのような口調で語るガルザヴァイル。スタナムはそれに気づいていないのか、感激したような声を上げた。


「ハンナのことですか!彼女は優秀な団員です!」


「そうだろうよゥ。よーし、今夜あたり、俺の部屋に来るよう言っときな。俺が特別に指導してやるから……」


「ありがとうございます‼︎」


 そんな会話を終えて、スタナムとセトラの二人は部屋を出た。


「あ、あれが……本物の傭兵……」


 セトラが小さく呟く。その隣でスタナムが心酔するような表情で熱く語っていた。


「そう。あの方こそ、真の強者だ。君も感じただろう?あの方から醸し出される強力なオーラを!全てを蹂躙し、思うがままにできる強力な力を、あの方は持っている‼︎我々もそれを目指して精進していくのだ」


「……はい!」


 どこか釈然としない感情を心の隅に抱えつつ、それは弱さだと思い直して封じ込んだ。それからセトラは再び訓練へ戻って行った。


 フォルトレイクの革命、変革を掲げるブラックカイツと言えども一枚岩では無い。過酷な訓練の最中に、自身らの活動に疑問を抱く者も少なからず出てくる。セトラと気が合い共に行動することの多い同世代の少年、ペルトもその一人であった。


「この辛い訓練に……具体的な意味ってあるのか?」


 そう愚痴をこぼすペルトを、セトラは幾度も励まし続けた。


「今は辛くても、これを乗り越えることで精神が覚醒に至り、真の強者に生まれ変わる事が出来るんだ。今がその過渡期なんだ。頑張ろう」


 そんなセトラの言葉も虚しく、事件は起きた。ある日の訓練から、ペルトが来なくなったのだ。何日経っても姿を現さない。


「奴め、神聖な訓練をなんだと思っている⁈」


 ガリトが声を震わせて怒鳴り散らす。その矛先はセトラへ向けられた。


「貴様、奴と親しかっただろう‼︎何か知ってるんじゃ無いか?」


「……そう言われましても、僕は彼から何も聞いていません!」


 セトラからしても、友のサボりは突然の事であった。とは言え、日頃からペルトの愚痴を聞いていた身でもあるので、訓練が嫌になったのだろうと言う事は想像つく。さらに、前に彼が小声でこう呟くのを聞いた。


「母さんの病気も悪化している。俺が弟妹を養っていかないと……」


 それがセトラに向けた言葉だったのか、それとも独り言だったのか、セトラには判別がついていなかった。しかし、もう友は訓練に戻ってくる事は無いのだろうなと、少し寂しい心持ちで彼は思った。


 その予想は、最悪の形で裏切られる事となる。その日も訓練に参加するべくアジトに来たセトラは、複数人の団員達が何かを囲んで集まっているのを見た。そっと近づきその輪の中心を見ると、そこには身体中が腫れあがり血だらけとなって倒れ込むペルトの姿があった。


「……ペルト!何があったんですか!これは……」


「こいつは……栄光ある変革の戦士でありながら、組織を辞めて怠惰なる生活に戻りたいと抜かした……!このような悪徳思想を許していては、国を変えることなど出来はしない!我々は彼を改心させるべく、『覚醒の儀』を行った」


 ブラックカイツ幹部の一人、ヴァシリスが神経質な口調で告げる。つまり、複数人でペルトを袋叩きにして痛めつけたと言うわけだ。セトラは小声で反論する。


「……ペルトは、病気のお母さんに代わって幼い弟妹を守らなくてはいけない立場なのです。……決して、怠惰な心持ちでいたわけではありません。ここまでの指導をする必要があったのですか?」


 そう言ってペルトを囲む団員達を睨みつけた。


「貴様‼︎組織の指導に疑問を抱くと言うのか⁈それは悪徳思想だぞ‼︎」


 ガリトが、その太い腕を振り回して怒鳴る。幹部のヴァシリスは不快そうな表情でセトラの言い分を聞いていたが、やがて口を開く。


「……貴様らは……どうもまだ革命への覚悟が足りていないようだな……。我らはこの国の未来を見据えるべき存在なのだ。親兄弟の世話などと言う、ちっぽけな理由で神聖な活動に支障をきたす事などあってはならない……!そもそも本来、真に国を憂い導かんとする戦士であるならば、活動の足を引っ張る親族など不要な産物と自ら切り捨てて然るべきなのだ!……そんな事も分からない貴様も……改心の必要がある」


 ヴァシリスはパチンと指を鳴らした。ペルトを囲っていた男達がセトラの元へ詰め寄る。セトラは抵抗をするが、大柄なガリトに抑えつけられて身動きが取れなくなった。セトラは慌てて謝罪の言葉を口にする。


「も、申し訳ございません‼︎自分が間違っていました‼︎」


「そのような……言葉だけの謝罪で改心が成ると思うなよ。心体に与えられる苦痛に耐えきり、覚醒に近づいてこその改心だ……」


 神経質な口調でヴァシリスが言う。彼の指示で、一人の男がセトラに向けて金属棒を振り上げた。セトラは悲鳴を上げる。


 その時、アジトの入り口辺りから物音が聞こえてきた。何やら騒がしい。ヴァシリスはそれが気になるようで、パチンと指を鳴らし、セトラを囲む者達を止めて指示を出した。


「おい……外見てこい」


「おす‼︎」


 命令を受けてガリトが真っ先に向かう。他の団員達もまた、セトラを逃げないよう捕まえながら向かった。


 アジトの入り口では門番が見知らぬ二人組と言い合いをしていた。


「だーかーらー、このボロ屋の中にいる奴に会わせてって言ってんの!何つったっけ?『ガルバババル・エジェクト』みたいな名前の奴!」


「そんな者はここにはいない‼︎さっさと消え去れ‼︎」


 赤毛の華奢な青年に向かって、門番が怒鳴る。赤毛の隣に立つ大柄な金髪男が人の良さそうな顔で訂正した。


「違う違う『ガルガバイル・エジャント』っすよ。……あれ、違ったかな?そんな感じの名前っすよね?」


「貴様ら……俺の言う言葉が通じないのか⁈消えろ‼︎」


 門番がイライラしながら言う。そこへ、ガリトがやってきて門番に告げた。


「怠惰で安穏な生活を送っている者達だ。世間の厳しさを知らず、我々の崇高な活動なぞ理解はできないだろう。……改心させろ」


「かしこまりました!」


 ガリトの指示を受けた門番は、手にしていた金属棒を振り上げ、華奢な赤毛に向けて思いっきり叩きつけた。赤毛はそれを腕一本で受ける。硬い物同士がぶつかり合うような音が響いたその直後、門番は武器を取り落とし、手を抑えて地にうずくまった。地面に転がった金属棒はひしゃげて折れていた。


 一方の赤毛男は特にダメージが無いようで、金属棒を受け止めた腕を軽く振る。そこには傷痕の一つも見られない。その光景を目にしたセトラを含む団員達は皆目を丸くした。


 そんな中、ガリトのみがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「……面白い」


 そう呟いてアジトの中に入ると、銀色に輝く鞘に収まったナイフのような物を持ち出して来た。メタナイフだ。


「ついに、こいつを実戦で用いる事が出来る……‼︎貴様らにはその糧となってもらおう!」


 それから深呼吸をすると、その丸太のように太い腕に全筋力を向けて思いっきり柄を引く。赤毛男がつまらなそうな表情で見守る前で、ガリトは抜刀を終えた。息を切らし、額から汗を垂らしながらメタナイフの刃先を二人組に向ける。


「どうだ‼︎覚悟をしろ‼︎」


 まるで面白味の無いショーでも見るかのような表情をしていた二人組だったが、やがて赤毛男がクスッと笑みを浮かべてガリトに近づいた。


「そーんな、いきり立った刃を見せつけちゃったりして……威嚇のつもり?怖いのかな?キュートだねえ」


 スッ……と自然に軽やかにガリトに触れると、彼を抱きしめた。首に手を回す。


「かーわいいっ」


 そんな赤毛の声と共に、ベコッという音がした。


 ガリトがメタナイフを落として地に倒れる。その首は一回転に捻れて空を見ていた。彼は、死んでいた。


 何名かの団員が悲鳴を上げる。赤毛の青年は頭をかいてお茶目に舌を出した。


「ごめーん!ちょっと戯れたつもりが、壊しちゃった」


「もードジっすねえクレバインは」


 赤毛の隣の金髪大男が人の良さそうな笑顔で言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る