第5話〈侵入者〉

「おい、こっちだベン!」


 人ごみの中から、ムスタファ船長が私達を見つけて言った。辺りには何やら甘い匂いが漂っている。


場所はトカゲ船『叡智のソフィーズ・ひび割れクラックド・王冠号クラウン』……以下『ソフィー号』と呼称するが……そのソフィー号のB3階層である。ソフィー号の一番下の階にある広い貨物庫だ。


 複数のエリアに区切られた貨物庫の中でも端の方、通常はあまり人通りの多くないというエリアに、積み荷を運ぶ人々が集まって人だかりが出来ていた。


 その人々を押しのけ、中心へ向かうベン。サヴァイヴとアリスもそれに続く。人の輪の中心には、ムスタファ船長とその足元には一人の男が倒れていた。さらにその横には空っぽの巨大な木箱が荷車に乗せられ置いてある。箱の中には甘い香りが染みついている。


「何があったんすか?」


 足元に倒れている男と空の木箱を交互に見つつベンが言った。


「侵入者だ。この木箱の中に潜んで運び込まれてきたらしい」


 そう答えるとムスタファは木箱の中を覗き込み、続けた。


「干し肉が入っているという名目で運ばれてきた木箱だ」


「この人が運んできたんですか?」


 しゃがんで、倒れている男の首に触れつつサヴァイヴが聞く。


「そうだ」

「死んではいませんね。寝ているだけだ……。この人が侵入者の協力者ということでしょうか?」


「んなわけねぇよ!」


 ベンが声を荒げて言う。


「こいつは船員じゃあ無ぇが、だいぶ前っからこの船に出入りしている奴だ。信頼のおける奴だ。はした金でこの船を売るような奴じゃあ無ぇよ」


「まあ、確かに可能性としては薄いな」


 ムスタファも頷いた。


「だが、裏切った可能性もゼロじゃない。それは本人に聞いてみないと分からないな」


 そう言うと、ムスタファは周りの男たちに指示してある物を持って来させた。それは干した薬草を結った物であった。薄っすらとハッカのような匂いがする。ムスタファは懐から出したマッチでそれに火をつけると、倒れている男の鼻先に近づけた。線香のように煙が出てそれが男の鼻に入ると、男は不快そうな顔になりたちまち目を開けて跳び起きた。


「ぐへぇっ」


 と声をあげつつ何度か咳とクシャミを繰り返す男に対し、ムスタファが声をかける。


「おはよう。調子はどうだ?」

「最悪だよっ‼」


 そう言いつつ、軽く頭を振って咳を繰り返していたが、唐突にハッとした顔になっていった。


「あっ!そうだ旦那!大変だ。俺の運んできた荷物の中に何か居るっ!」


 そう叫んで指差した空っぽの木箱を見ると、彼は眉をひそめた。


「あれ?」

「オメーの言う『何か』はもうこの船のどっかに逃げちまったよ」


 そう言ってベンはしゃがみ込み、困惑する男の頭をつかんで自分の方へ向けた。


「箱の中の『何か』について知っていることは?」


「なっ、分からねぇよ!なんか中から物音がして変だと思ったから、蓋の隙間を覗き込んでみたら、急に眠くなっちゃって……」


「眠り薬だな。箱の中から流れてきたそいつを嗅いで、お前は眠っちまったわけだ」


 ムスタファは頷きつつ言った。なるほど、先ほどからはこの中に残る甘い香りはその眠り薬とやらの残り香というわけか。


 ずっと黙ってサヴァイヴの横に立っていたアリスが、箱に近づき、中の匂いを嗅ぐと、ムスタファの方を見て言う。


「……薬っぽい匂いはしないけど」

「ああ。この手の薬には無臭のタイプもあるのさ。隠密行動にもってこいだから、よく使われるそうだ」


 ムスタファが答える。


 何を言っているのだ、こんなに甘い香りがするではないか。この香りは、薬の匂いでは無いのか。


「それにしても侵入者は、なぜこの人を眠らせたんでしょう?」


 サヴァイヴが床に座る男を見ながら言う。


「眠らせずに、殺してしまえば、目撃者から情報が漏れることも無いでしょうに」


 男はぞっとした顔でサヴァイヴを見上げた。ムスタファが呆れ顔で答える。


「物騒だなお前。殺したりしたら、血の匂いがつくだろ。侵入者だってバレバレになっちまう」

「そういうものですか」

「そういうものだ。血痕の呪いだってあるしな。お前も、元傭兵なら分かるだろ」


 サヴァイヴは納得したような顔で頷いた。さっきまで眠らされていた男がぼそぼそと呟く。


「まったく、この子が侵入者じゃなくて良かったぜ……」


 もっともだ。しかし、サヴァイヴも元傭兵なら血の匂いや血痕の呪いが厄介であることぐらい知っているはずだ。今の会話はどういう事だろう。


もしかしたら、戦場では血の匂いが日常的過ぎて違和感も無くなっているのだろうか。そうかもしれない。


「さて、今のところ侵入者の手掛かりは無ぇわけだが、どうするんすか」


 ベンが言う。ムスタファは顔をしかめつつ答える。


「とりあえず、このB3階層は封鎖してある。このエリアからはまだ出ていないはずだ。このエリア内で、探すしかないな」


「んなこと言ったって、俺だってこの船の関係者全員の顔を覚えてるわけじゃありませんぜ」


 そう言いながらベンはくすんだ金髪を掻きむしった。


 まあ、確かに大変だろう。今周りに集まっている人だかりだけでも結構な人数がいる。ましてや、このエリア全ての人間を調べるなど、相当な労力を要する。だが、手掛かりが無いのだから仕方がない。侵入者を放置しておくわけにはいかないのだ。


 いや、実は手掛かりが全く無いというわけではない。一つ大きな手掛かりを私は握っている。先ほど、侵入者が目撃者を殺さないのは血の匂いを防ぐためという話があった。結果殺しはしていないため侵入者に匂いなど無いのだが……。


 この甘い香りは着いているのではないのだろうか?そして、どうやらこの匂いは人には分からないものらしい。という事は、この手掛かりを追う事が出来るのは私だけである。私は鳥の身である以上、この事実を皆に伝えることは出来ない。であれば、行動を起こすしかない。


 ので、行動を起こした。すなわち、サヴァイヴの頭の上から羽ばたき、甘い匂いの軌跡を追ったのである。


「え?」


 急に私が飛び立っていったため、サヴァイヴは驚きの声をあげた。


「ちょっと?どこいくの!勝手に船の中を飛び回っちゃ駄目だって」


 そう言いながらサヴァイヴは私を追って走った。これは良い。追ってきてもらわなければ困る。





「オイ!どこ行くんだこんな時に⁉」


 飛び立ったテイラーを追って走るサヴァイヴの背中に向かって、ベンが怒鳴る。そのベンの肩を叩き、ムスタファが言った。


「待て、行かせてみよう」

「は⁉どういうことです⁉」


 ベンは困惑の表情で言う。ムスタファは何かを見極めるような目をしてテイラーが飛び立った方向を見ていた。


「……薬草の中には、人にとって無臭でも鳥やトカゲなんかの別の生き物が反応を示すものもあるらしい」


「あの鳥が、眠り薬に反応してそいつを追っているとでも言いたいんすか⁉」


「さあな。だが、とにかく今はほんの少しでも手掛かりが欲しい……。藁にも縋るってやつだな」


 それからムスタファはアリスにサヴァイヴを追うよう言った。


「ベンは、俺と一緒にこのエリアの人間を集めて、一人一人調べて回るんだ。船の関係者の顔を知らないアリスとサヴァイヴには、このエリア内をとにかく駆け回って、怪しい奴を探してもらう」


「怪しいやつ……?」


 アリスは首を傾げた。ベンがムスタファに訴える。


「いや!船の連中の顔も知らねぇ奴らに怪しい奴とか分からんでしょ⁉」

「勘で良い!急げ!」


 ムスタファの言葉にアリスは頷くと、吹く風のような素早さでサヴァイヴのあとを追って行った。





「待って!テイラー!」


 サヴァイヴが私の名を呼んだ。ふと、後ろを見ると、私を追うサヴァイヴと、そのサヴァイヴを追って来たと思われるアリスの姿が見えた。


 後ろから走ってきて横に並んだアリスに、サヴァイヴは気づいて言う。


「アリス⁉きみも追って……?」

「船長の指示」


 アリスは端的に答えた。


 ふと、その時、甘い香りが強くなった。先ほどから私たちは、大きな倉庫のような部屋の中を進んでいたのだが、その倉庫内の壁面にあるいくつかの扉、そのうちの一つから甘い香りが漏れていた。その扉を私は突いた。


「え!すごい、空中で停止しながら飛べるんだ⁉」


 ホバリングをしながら扉を突く私を見て、サヴァイヴが驚きの声をあげた。その隣でアリスは数歩ほど後ろに下がり、言う。


「……どいて」


 そう呟いたかとおもったらいきなり助走をつけて鋭く地面を蹴ると、強烈な飛び蹴りを扉に放った。私は慌てて上昇したため、ぎりぎり巻き込まれずに済んだ。すごい音を立てて、扉が奥に開いた。


「……あれ、この扉、手前に開くタイプじゃ……?」


 扉を見ながら呟くサヴァイヴを置いて、私とアリスは部屋の中に入った。何やら高い棚がいくつもある部屋だ。広さは恐らく学校の教室くらいはあるだろうか。棚があるためかなり狭苦しく感じる。古い書庫といった雰囲気だが、棚にあるのは本ではなく、薬臭い木製の小箱がいくつも積まれて置いてあった。


 ふと、何か物音がした。一瞬の極小さな呼吸音。人間の気配だ。二人もそれに気づいたのか、アリスは棚の奥を睨み、サヴァイヴは呼吸を止めた。


 ゆっくりと、慎重に部屋の中を進む。足音はしない。


 次の瞬間、強烈な打撃音と共に、目の前の棚が倒れてきた。


 倒れた棚がもう一つの棚にぶつかりまた倒れる。そのドミノ倒しをサヴァイヴとアリスは避けるが、そこへ棚の奥から大柄な影が飛び出し、アリスを蹴飛ばした。それから影は目にも止まらぬ拳を突き出すと、腕を十字で構えて防御姿勢をとるサヴァイヴに、鋭い殴打を撃ち込んだ。


 蹴り飛ばされたアリスは空中で一回転し、壁を蹴って部屋の奥の方に着地した。サヴァイヴは突き飛ばされて扉の近くに転がるが、受け身を取って衝撃を逃がし、瞬時に立ち上がった。それから低い姿勢をとって自身を殴り飛ばした相手を睨みつける。


 それはプラチナブロンドの短髪の背の高い男であった。この船に積み荷を運んでいた男達と同じ布一枚の薄着であり、それ故に、細身だが鋼のような肉体をしていることがよく分かる。顔を見ると厳ついながらもどこか上品さの漂う独特な顔立ちをした青年であった。


「……」


 しばし、沈黙が続いた。お互い出方を伺っているのか、警戒を崩さず睨みあっていた。やがて、サヴァイヴが口を開いた。


「あなたですね?侵入者は……。目的は何です?」


 サヴァイヴの問いを聞いた男は、何か考えるように視線を左上に向けた。それから、指で唇に触れ、顔を手でさすりつつ言った。


「……俺は、乾燥肌でなあ」

「は?」


 サヴァイヴが怪訝な顔をした。だがそれを気にすることなく、顔の肌を撫でながら淡々と男は続ける。


「乾燥肌だから、肌の保湿が欠かせない。特に海の近くでは。この渇きに満ちた塩の砂漠は人の肌にも多大な悪影響を与える。なんだいそんなこと、って笑うかもしれないが、俺にとっては死活問題なのだよ。この乾燥肌はね。たかが肌の渇きぐらいと馬鹿にするかもしれないが、この乾燥肌が進行しすぎると、皮膚がひび割れて傷が出来たりする。小さな傷だが、そこから菌でも入ってみなよ。場合によっては死ぬかも分からない。命に係わることなのだよ。特に、ろくに医者にもかかれない俺のような人間にはね」


 男がサヴァイヴに向けて話をしている間、アリスが物音を立てずにゆっくりと移動する。男の正面で構えるサヴァイヴに対し、男の背後へと移動するアリス。挟み撃ちを狙っているのだ。それに気づいているかどうかは分からないが、特に反応を示すことなく、男は話を続ける。


「肌の保湿には、何を使うと思う?脂だよ。脂を肌に塗りこむことで肌の乾燥を防ぎ、潤いを保つことが出来る。そう多く塗る必要は無い。少しで良い。逆に多すぎても良くないからな。もったいないし、量を増やせば効果が増すというようなものでも無い。この脂にも、色々種類がある。植物由来のものや動物由来のものまで色々さ。動物由来で言ったら、馬やトカゲ、鳥なんかがある。どれが一番ということは無い。どんな脂が合うかは人によって様々だ。自分の肌に最も合う脂を見つけることが大事だな」


 この長話の間、サヴァイヴはずっと左手を後ろに隠して男の目に入らないようにしていた。そしてその左手は時間をかけて変形し、例の呪いの銃口が形成されていた。


 男は懐から小瓶を取り出した。中には薄茶色の脂が入っている。瓶を空けてそれを指先に少しつけると、頬に薄く塗り始めた。


「俺にはこいつがぴったり合う……。しかし、保湿用の脂っていうのは高くてね。特に一年前から仕事の無い俺には高い脂なんてとても手が出せない。だから、脂の材料を自分で採って、自分で作ることが出来たら、金もかからず最高だよな。前は仕事場で俺に合う脂を沢山手に入れることが出来た。もうそれこそ掃いて捨てるほど沢山だ。だが、今はそうじゃない。今はもうその仕事は無い。困っているのだよ。俺も、俺の仲間もね。けれどね、久しぶりに先日、俺達のもとに仕事の依頼が入ったのだ。ちょっと専門とは違う仕事なのだけれどね。背に腹は代えられない……」


 強く地を蹴る鋭い音がした瞬間、アリスの鞭のように鋭く素早くしなった脚が男に向かって蹴りかかる。だが、以前サヴァイヴを苦しめたその強烈な蹴りを男は左腕一本で受け止めた。そこを見計らってサヴァイヴが腕の銃口を男に向けて発砲。鈍い破裂音と共に圧力弾が男に直撃するが、なんとそれを腹筋のみで受け止めた。一瞬眉を動かしたが、大したダメージにはなっていないらしい。


 空中で一回転してから、アリスは着地した。その顔には無表情ながら少し驚きのような色が見えた。サヴァイヴも若干焦りを浮かべつつ、左手の銃口をさらに大きなものへと構築しなおしていた。

 今さっき受けた攻撃のダメージなどまるで無いかのように、けろっとした表情で男は、眠り薬の甘い香りを体から漂わせつつ、言う。


「……ここまでの話、伝わっているか?どうも俺は説明が下手でいけない。まあ、つまり簡単に言うと、保湿の脂欲しさに仕事をしに来たわけだが……。思わぬ副産物だ。この調子だと、現地調達できるかもなあ。俺のお気に入りの脂が……」


 男は舌なめずりをし、サヴァイヴを見て言葉を続けた。


「……人間の脂がね」

「気を引き締めて‼アリス‼」


 今まで見た中で最大口径の銃口を左腕に形成して構え、サヴァイヴが叫ぶ。


「ここで食い止める……‼」

「……了解」


 アリスは無表情で答えた。その声色は、静かながら強い戦意と警戒を秘めていた。

男は嬉しそうな表情で唇を舐めた。


「やっぱり分かるのだな。『同業者』には。俺も分かったよ。若くて、強くて、だが俺には一歩及ばない……傭兵であることが」


 足元に倒れた本棚を踏みつけ、拳を構えてサヴァイヴの方へ向かう。


 サヴァイヴは銃口を向けて二発、いや三発撃ちこんだ。だが男はそれらの砲撃を躱しつつサヴァイヴに近づき、拳を放った。それをサヴァイヴは腕から生えた銃身で受け流すと、そのまま相手を中心として弧のような動きで流れるように背後に回り込むと、再び圧力の砲弾を撃ち込んだ。それらは鈍い音を立てて男の背中に直撃した。


 先ほどのものより威力が強かったらしく、男の口からうめき声が漏れる。だがそれでも体勢を立て直すと、サヴァイヴとアリスの方を向いて構えた。


「不思議な武器を使うなあ、少年。今の一撃は効いたぜ。だがこの位置関係、お前達にとってはマズいんじゃないか?」


 さっきまでサヴァイヴが立っていた位置に男が立ち、サヴァイヴとアリスは並んで立っている。そして、部屋の出口が男の背後にあった。


 つまり、この男に出口を封鎖された状態である。男は唇を舐めて言う。


「先ほどから見た感じだと、お前達はこのような狭い部屋での戦闘に向いていない」


 言われてみればそうだ。サヴァイヴの能力は腕の銃口から圧力の砲弾を撃ち出すものだし、アリスの戦い方は立体的に飛び回る戦法だ。この狭い部屋の中では実力を十分には発揮できないのかもしれない。


「その点、俺はこういう狭い空間に向いている。近接戦は得意なんでね」


 そういうと男は両手の人差し指と中指を独特な形に曲げて、拳を作った。鳥の嘴を思わせる形状だ。


 サヴァイヴは、男から目を離さず、小声でアリスに言う。


「少し、時間を稼いで」


 同じく男の方を睨みつけていたアリスは、小さく頷くと地面を強く蹴った。


 宙で回転して部屋の天井を蹴ると、男に向かって踵を振り下ろす。両腕でそれを受け止めようとしたが、瞬間、何かを察知した男は寸前で体を捻り、アリスの踵落としを紙一重で回避した。今までとは比にならない破壊力で振り下ろされた踵は床に直撃し、床板が割れて木片が飛び散った。そこから再び地を蹴って飛び上がり、壁を蹴って男の首元に回し蹴りを食らわせる。それを再びギリギリで躱し、男は叫ぶ。


「怖いなあ。いきなり威力が上がりやがった!」


 口では「怖い」と言いつつ、その表情にはまだ余裕のようなものが見られた。


「当たったらひとたまりも無いな!」


 再び壁を蹴ってアリスが男に飛び掛かる。その鋭く蹴りこまれる脚を薄皮一枚の距離で避けたその刹那、拳を彼女の腹にめがけて突き上げた。


 アリスは吹っ飛んで天井に打ち付けられた。


「ぐうっ」


 吐き出すような音が聞こえる。だが、その声は男の口から出たものであった。見ると、男はアリスを殴った拳を抑えていた。その拳には血が滲んでいる。初めて表情を歪めた男は顔を上げて、サヴァイヴの方を向く、サヴァイヴは男に向けて銃口を向けており。次の瞬間、爆発音が響いた。時間を溜めて放たれた強大な圧力弾により、辺りの木箱は割れ、木クズが飛び散り、男の体は部屋の外へと吹き飛ばされた。そこから地を転がって受け身で勢いを殺しつつ、くるりと立ち上がった。発砲の反動で後ろに倒れこんだサヴァイヴも、すぐさま身を起こし、体勢を立て直した。


 男は、先ほどアリスを殴って血が滲んだ左腕を軽く振った。


「参ったなあ。この拳は使い物にならなくなっちゃった」


 それからゆっくりと部屋から出てきたサヴァイヴとアリスを見て笑う。


「思ったよりは出来るな。これで狭さと言うディスアドバンテージも無くなり、一気に形勢逆転というわけだ……」


 そんなことを言いつつもなお、余裕を崩すことなく、男は不気味な笑みを浮かべ続けていた。

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