第28話〈暁血〉

傭兵団アルバトロスの切り札『暁血アルバ』。これを発動した瞬間、サヴァイヴは水面に身を落とし深い水の中へと沈んで行く。


これはあくまでも感覚の話であって、実際に水の中に入るわけでは無い。暁血の世界がどのようなものかを端的に表すとこうなるのだ。


水に沈むのはサヴァイヴだけでは無い。その場にいる全ての人間が例外無く、水の抵抗に体を絡まれて、動きが鈍くなる。


しかしサヴァイヴだけは水に囚われることは無い。サヴァイヴだけはこの水の流れを味方につけて、軽やかに、飛ぶかのようにスムーズに動きまわることが可能なのだ。まるでペンギンのように。


サヴァイヴの目の前に立ちはだかるドレッドヘアの男が、覆面の集団に指示を出す。覆面達は一斉に、サヴァイヴへと襲い掛かる。しかしその動きは重たい水の圧に妨害されて、単調で鈍重なものとなっている。サヴァイヴは敵の動きを冷静に見つめると、メタナイフを振るった。


斬られた覆面達の体からは血が噴き出す。それが水中を赤く染め、ゆらゆらと四散して行く。スローモーションでその場に倒れる覆面達には目もくれず、サヴァイヴはドレッドヘアの男を見据えた。

部下が敗れた、と言う事実を見てはいるが、その視覚情報が未だ脳に到達していないガルザヴァイルは、不敵な笑みを口元に浮かべたままこちらを見ていた。





 私の名はテイラー、鳥である。前世は人である。私は今、空中をホバリングしつつサヴァイヴ達の戦闘を見守っていた。ベンを一刻も早く治療するべく戦闘の早期終結を図るサヴァイヴが取った選択、それは彼の切り札だと言う、何やら禍々しく強力な呪術であった。その破壊的な殺気に押されて、私は本能的に彼から距離を取る。サヴァイヴの身体は全身の血流が暁色に染まり、尋常じゃない高エネルギーを帯びているのが感じ取れる。アレと戦おうとする人間の気が知れないが、そういう人間はすぐそこにいた。


 ガルザヴァイル・エシャントは、指を鳴らして覆面達に指示を出す。


「四方から同時にかかれ!遠慮はいらねェ。相手は暁血だ……全力で殺せェ‼」


 そう叫んだ直後、覆面達は身体から赤い飛沫を噴いてその場に崩れるように倒れた。ガルザヴァイルが口を開けたまま驚きに目を剥いた刹那、暁色の光を帯びたサヴァイヴがすぐ目の前に肉薄。それに対し反射的にメタナイフを振るうガルザヴァイルだが、払った刃は空を切った。目の端に映るサヴァイヴの姿と白銀の煌き。直後、ガルザヴァイルの身体から鮮血が噴き出した。


「傭兵が、敵に背を向けてはいけませんよ」


背後からサヴァイヴの声がかかる。船長から言われている「人を殺すな」と言う命令を忘れているかのように、熱を帯びて目が据わり容赦なく刃を振るう彼は、まるで戦闘という名の酒に酔っているようであった。


よろめく体を持ち直して振り向くガルザヴァイルだが、視線の先にあるのはオレンジを帯びた残像のみ。背中を十文字に斬られ、再び血飛沫が飛ぶ。自身の体内から出た真っ赤でどろりとした液体に体を濡らしつつ、ガルザヴァイルはその場に倒れ落ちた。


しかし本体はやはり『分身』とは違う。倒れた直後、斬られた傷が『裂傷の呪力抗体』により完全再生すると、ガルザヴァイルはよろよろと体を揺らしながら立ち上がった。


「面白ェ……面白ェよ……手も足も出ないとはこのことだ……この俺がァ‼」


 メタナイフを構え直して高速の突きを繰り出すが、サヴァイヴはその連撃を凌駕する超速でかわしつつ近づいて来る。そして目にも止まらぬ剣速で刃を走らせた。反射する銀色の残光と共に深紅の飛沫が舞った。


 再び水音と共にガルザヴァイルがその場に崩れる。その傷も瞬く間に再生し、ゆっくりと起き上がった。


いくら傷が治るとはいえ、出血は本物。既にかなりの血液を失っているようだ。明らかに顔色悪く体をよろけさせつつ息を切らしながらも、ガルザヴァイルはニヤリと笑って刃を構えた。サヴァイヴは感心するようにその姿を見つめる。


「まだ来るんですか」


「たりめェだろ‼アルバトロスが滅んだ今、暁血とヤレる機会なんざ他には無ェ‼まさに僥倖‼そう簡単に終わらせらんねーよ‼」


 狂気に歪んだ笑みをその顔に浮かべて、ガルザヴァイルは吠える。サヴァイヴはなぜか小さく微笑むと、「次で殺す」と呟いた。その瞳は、物語の最後のページを開こうとする読書家のそれと同じであった。


 一瞬、サヴァイヴの暁色の視線はガルザヴァイルを外れ、アリスの方へ向けられた。彼女は何かを恐れるような、心配気な、どこか悲しそうな表情で、サヴァイヴの戦闘に目を奪われていた。自身を見つめるその銀色の瞳に視線を返し、サヴァイヴはまた口元に笑顔を浮かべると、ガルザヴァイルに言う。


「アリスを泣かせたこと、ベンさんを傷つけたこと、ドリュートン先生に暴力を振るったこと、これらは許せることではありません。僕はあなたに対し強い怒りを覚えています。腹が立ちます。反吐が出ます。それでも……同時に、多大なる感謝を伝えたい。いっぱいのお礼が言いたい。久しぶりに、僕の心に火を灯してくれた。血沸き肉躍る感動を与えてくれた。それに……」


『それに』、の続きは誰にも聞こえない、鳥である私の聴覚にしか届かない微々たる呟きであった。


「……アリスの目を釘付けに出来た」


 暁に輝く笑顔と刃先をガルザヴァイルに向けて、サヴァイヴは締めくくった。


「ありがとうございました。あなたは素晴らしい傭兵です」


「そいつァ……お互い様だ」


 血みどろになり、息を切らしつつ、ガルザヴァイルはニヤッと笑った。その直後、両者から殺意の嵐が吹き荒れる。先ほどまでの笑顔はもうどこにも無く、獲物を睨み殺すような鋭い表情で互いに見つめ合う。 


両者共々暫し睨み合った後、ガルザヴァイルがメタナイフを構えて動きだす。サヴァイヴもそれを迎え撃つように刃を向けた。


両者がぶつかり合うその寸前。


「双方、待ちたまえ」


 横入りの声が入った。二人は動きを止める。声の主は黒髪褐色肌の青年、レイモンドであった。彼はベンに対し止血などの応急措置を施しつつ、二人を睨みつけた。


「……楽しんでいるところ水を差して悪いが……私は、医者と言う身の上なので命が無駄に散る様を好まない。それが、どのような者の命であってもだ。君達のやっている事は『生きる』と言う行為への冒涜。他人の命も自分の命も軽視しすぎている。もう勝負はついているんだ、ガルザヴァイルとやら、ここは大人しく手を引かないか?」


 話を静かに聞いていたガルザヴァイルは、不満そうな表情で少しの間レイモンドを見つめていた。サヴァイヴが判断を煽るような視線を向ける。ガルザヴァイルは小さく舌打ちをした後、ナイフを鞘に納めた。


「命拾いしましたね」


 サヴァイヴが低い声で言い放つ。そんな彼の顔をジロッと見た後、口元にニヤリと笑いを浮かべて答えた。


「ああ。また会おうぜ……今度はちゃんとした殺し合いの場でなァ……」


 そう言い残し、ギャハハと高笑いを上げながら、宿を去って行った。


「何を偉そうに……。死に損ないのくせに」


 サヴァイヴは呆れ顔で、その後ろ姿を見送った。やがて彼の身体からは光の筋が消え、頬に描かれた砂時計も無くなり、元の姿に戻っていった。


 それから、サヴァイヴ達は速やかに縛られていた人々を開放し、彼らを捕らえていた綱を用いて覆面達を縛り上げた後、宿の店主に憲兵へ連絡するよう言い残して速やかに宿を後にした。居場所が敵に割れている以上、一刻も早くこの場を離れる必要がある。


レイモンドとドリュートンは、積み荷を積んだままの馬車で先にベンを街の医者の元へ運び、サヴァイヴ、アリス、エグゼの三人は、倉庫内へ移動させた薬をもう一つの馬車に積みなおしてからその後を追った。


「ベンさん……死んじゃう……?」


 馬車の中で、アリスが床を見つめながら呟く。馬車を操りつつ、サヴァイヴは励まし続けた。


「大丈夫だよ!ベンさん打たれ強いらしいから!ちゃんと治療すれば、すぐ良くなるって!」


 その力強い言葉は、自分自身に向けて言っているようにも聞こえる。自分の中の不安を打ち消すような響きを帯びていた。


「悪人ほど世にはばかると言う。……心配せずとも、あの罪人はそう簡単にくたばりはしないだろう」


 エグゼが、小声で言った。アリスは意外そうな表情で彼の顔を見ると、小さく笑った。


「……そう……だよね……ありがとう」


「なんのことだ。礼を言われるようなことは何もしていない」


 そう呟いてエグゼは顔を背けた。サヴァイヴは御者台でクスリと笑いつつ二人の話を聞いていた。そして「僕にも、お礼の言葉は無いの?」と、冗談めいた口調でアリスに尋ねる。彼女はサヴァイヴの問いに答えず、外を見た。


 そのような会話をしているうちに、ベンが運ばれたという街医者に辿り着く。馬車を下りる際、サヴァイヴは一瞬よろめいた。アリスがそれに気づいて声をかける。


「サヴァイヴ……?」


「ん?何?」


 何事も無いような表情で、サヴァイヴはアリスに笑いかけた。アリスは何も言わずに首を横に振ると、建物の扉をノックした。


中で待っていたレイモンドと町医者曰く、とりあえず今のところ命に別状は無さそうとのことであった。


「驚異的な体の強さだね。それと、運の強さと言ったところかな。もう少し遅かったら流石に危なかった」


レイモンドが肩をすくめて言う。布切れをマスクのように巻いた町医者も頷いてそれに同意する。


「そうですね。偶然、ベッドに空きがあったのも幸運でした」


そう。今この国では死裂症と言う伝染病が流行している。そんな中でまともに治療ができる余裕のある医者を見つける事ができたのも幸運と言って良いだろう。


そんな会話を終えたレイモンドはサヴァイヴに向けて手招きをし、近づいてきた彼の耳元に囁いた。


「この医院であまり長いこと世話になるわけにも行かない。ベッドを独占は出来ないし、ブラックカイツに嗅ぎつけられる恐れもある。一刻も早く首都に薬を届けなければ」


「ええ。分かっています」


 サヴァイヴが頷く。二人の頭の中にある答えは共通していた。それはつまり、この先の任務にベンを連れて行くことは出来ない、という事だ。いくら命が無事だろうと、ベンが背中に受けた傷は重傷だ。しばらくはまともな戦闘はおろか、人並みに移動することすら困難であろう。彼にはソフィー号に戻って療養してもらった方が良い。


「とにかく、すぐに船長へこのことを伝えます。出来れば明日にはこの町を出たい。今夜は、ベンさんとドリュートン先生をここのお医者さんに預けて、我々は野宿をしましょう」


「君は入院しなくて良いのかい」


レイモンドがその虹色の瞳を真っ直ぐサヴァイヴに向けて尋ねる。サヴァイヴは軽く笑った。


「僕は特に怪我もしていませんし、大丈夫ですよ」


 そう言うと、サヴァイヴは街医者にベン達を預かって貰いたい旨を伝えるべく、部屋の奥へと向かって行った。そんな彼の後ろ姿をレイモンドは無言で見つめていた。


 診療室の前に着くと、中から話し声が聞こえてくる。意識が戻ったドリュートン先生と、町医者の声だ。扉をノックしようとする手を、サヴァイヴは止めた。


「まさか、世界的な伝染症治療の権威であるドリュートン先生にこんな所でお会いできるとは」


 町医者が感激の声を上げる。ドリュートンが穏やかに答えた。


「そんな、大層な人間では無いよ。……死裂症が流行るこの国で仕事をするのは何かと大変なことでしょう。尊敬します」


 そう言われ、町医者の照れるような声が聞こえてくる。それから声のトーンが落ち、少し深刻な声色になって二人は話を続ける。


「今のところは対症療法で処置するしかないので、死裂症が治るかどうかは患者本人の自然治癒能力に頼ってしまっている現状です。とにかく一刻も早く、他国からの支援が必要だ。ドリュートン先生、あなたは死裂症の治療薬を開発した張本人。なんとか国に掛け合って下さいませんか」


 我々が今まさにその治療薬を運んでいる最中であると言うことを、町医者は知らない。ドリュートンは力強く、励ますように言う。


「大丈夫。もうすぐ、この国は健康になる。一人でも多くの人達を治すために我々は来たのだ。もう少しだけ待っていてほしい。……そしてそのために、あなたの助けも借りられればと思っています」


 部屋の外に立ちドリュートンの言葉を聞いていたサヴァイヴは決意を新たに一人頷くと、扉をノックした。


 気づけば陽はすっかり落ち、辺りは暗く染まっていた。


 ベンとドリュートンを町医者の元へ預け、街外れの人通りの無い森に馬車を停めた後、サヴァイヴとレイモンドは何か夕飯を食べに行こうと話し合う。そこへエグゼが口を挟んだ。


「俺は行かない。罪人共と街中を歩きまわって同類扱いされるのはご免こうむる。……それに、どちらにしても馬車の積み荷を見張る者が必要だろう」


 馬車に見張りが必要という点は尤もなので、エグゼを馬車に残してサヴァイヴ、アリス、レイモンドの三人は町の中央通りへとやって来た。ゴルダの町はこの周辺地域の中では比較的発展した繁華街であり、夜であってもあちらこちらで灯が燈り、穏やかで淡い光に町中が照らされていた。国土全域で伝染病が流行っている状況なので人通りもまばらなのかと思っていたがそんなことも無い。病にかかるかもしれない不安よりも、飲み食いをして遊びたいと言う欲求の方が勝つようだ。案外、人の危機意識などそれくらいのものなのだろう。


フォルトレイクに多く自生する上質な木材で建てられた様々な飲食店から旨そうな香りが漂ってくる。また屋台も豊富で、買って帰って食べられる軽食のようなものも多く売っていた。


「エグゼにも何か買って行きましょう」


 サヴァイヴが言う。レイモンドは町の様子をチラチラと眺めながら頷いた。


「そうだな、それが良い」


 街にはただの食事処だけで無く、酒場や水商売のような店も多く並ぶ。それらに向けて物色するような視線を向けていたレイモンドは、やがてサヴァイヴとアリスに向けてにっこりと笑いかけた。


「……悪いが……私は別行動とさせてもらう。ちょっと野暮用でね。あとは若いお二人でデートでも楽しんでくれたまえ」


 何か問いたげなサヴァイヴに向けてウインクをすると、レイモンドはそそくさと夜の街へと消えて行った。どのような用事かは知らないが、聞くのも野暮な用と言ったところか。


 呆然とした表情でレイモンドを見送ったサヴァイヴは、隣のアリスに問いかける。


「……『デート』って何?」


「男女二人で歩くこと」


 アリスが答えた。それではいまいち意味が伝わらないと思うが、彼女の説明能力ではこれが限界だ。


 とりあえず二人は、その定義に乗っかり夜の灯りに包まれた通りを並んで歩く。特に会話も無く時が過ぎる。


「何か食べたいものある?」


 静寂を破って、サヴァイヴが尋ねる。アリスは無表情のまま何も答えない。そんな彼女を見てサヴァイヴは困ったように頭を掻いた。またしばらくの無言が続く。サヴァイヴは再び口を開いた。


「あそこの屋台で売ってるサンドイッチとか、どうかな?エグゼにも買って帰れるし……」


 アリスは無言で頷いた。サヴァイヴは「ちょっと待ってて」と言って、屋台へと駆けて行った。やがて買ってきたものの一つをアリスへと手渡す。


 フランスパンのような硬いパンに新鮮な野菜とハムのような薄切り肉が挟まっている。アリスはそれを両手で受け取り、小さく齧った。それから、サヴァイヴへ呟くように言う。


「……ありがとう……」


「いえいえ」


 ニコニコと笑ってサヴァイヴもサンドイッチを食べる。アリスは言葉の続きを口にした。


「……助けに来てくれて」


 え、そっち?と言いたげな表情で、サヴァイヴはアリスの顔を見た。サンドイッチでは無く、助けてもらったことに対する時間差のお礼だったのだ。サンドイッチへのお礼も、数時間後くらいに言ってくるかもしれない。


「お礼に……私の髪、触って良いよ」


 そう言って、自身のポニーテールを解く。夜の灯りを反射して輝く銀髪が、ふわりと広がった。


「……いや、大丈夫」


 サヴァイヴは困惑顔で断った。アリスは少し不服そうな表情でサヴァイヴを見る。そんな彼女の視線を見つめ返して、可笑しそうにフフッと笑うと、サヴァイヴは一つ提案した。


「お礼って言うなら……これからも僕のこと見ていてよ。それだけで僕は十分」


「……そう」


 アリスは不思議そうな表情で小さく頷いた。それからもう一口サンドイッチを齧り、ジッとサヴァイヴを見つめる。


「……私は、あなたのあの能力を、前に見たことがある。あなたでは無かったけれど」


 アリスの言葉に、サヴァイヴはサンドイッチを食べる手を止めた。


「それはつまり、『暁血』と戦ったことがあるってこと?」


 アリスは無言で頷いて話を続ける。


「戦場で、私はそれと戦った。そして生き残って今ここにいる。……どういうことか分かる?」


「勝ったの?」


 サヴァイヴが静かに尋ねる。アリスは首を横に振った。


「違う。相手が勝手に死んだ。多分……『暁血』のせいで」


 アリスはどこか心配そうな表情で真っ直ぐにサヴァイヴを見つめた。


「サヴァイヴも……死んじゃうの……?」


「いや、多分大丈夫だよ」


 安心させるようにサヴァイヴは笑う。


「『暁血』は、使用者を強化する半面、その反動も大きい。大体一割くらいの確率で、死に至るって言われてる。まあ、何にせよ僕はこの通り生きているから、大丈夫だよ」


 言いながら、サヴァイヴはもう一口、サンドイッチを口へ運んだ。


 しかし、そのサンドイッチは彼の口元へ届くことなく地面へ落ちた。アリスは彼が落としたパンに目を落とすと、そのまま顔を上げてサヴァイヴを見た。先ほどまでパンを持っていたサヴァイヴの手が小さく痙攣している。


「おっと……?」


 若干苦笑いをしつつ、サヴァイヴは自身の手を見つめる。直後、何か強い立ち眩みでもしたかのようにサヴァイヴの身体は大きく揺れて、アリスへともたれかかってきた。


「サヴァイヴ……?サヴァイヴ?」


 アリスが彼の身体を支えながら声をかける。サヴァイヴはその口元に笑いを浮かべて誤魔化すように言う。


「大丈夫……ちょっと疲れちゃっただけだから」


 だがその瞳はあらぬ方向を向いており焦点が定まっていない。


「サヴァイヴ、サヴァイヴ!」


「大丈夫、ちょっと休んだら……治るから……大丈夫」


 アリスの呼びかけも、サヴァイヴの耳には聞こえていないようであった。アリスは街の中心で立ち尽くし、一人サヴァイヴの体を支えてその名前を呼び続けた。

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