第18話〈死神部隊〉

 私はテイラー。鳥である。今日も今日とて、サヴァイヴの頭の上に留まっている。例の不審者騒ぎの翌日、サヴァイヴは第4階層での仕事に向かう前に、B1階層の医務室へと向かっていた。昨日の戦闘直後にもざっくりと診ては貰っているのだが、その時は意識不明のリカが最優先であったため、サヴァイヴとエグゼは別日に改めて検査を行うという形になっていたのだ。


 医務室の扉をノックして中へ入る。看護婦の少女、シーナが出迎えた。


「おはよう。お仕事前にごめんね。すぐに終わるから」


「いやいや、大丈夫。……エグゼは来ていないの?」


 サヴァイヴは部屋の中をキョロキョロと見渡した。シーナが苦笑いをして答える。


「……彼の方から、サヴァイヴ君と時間をずらして欲しいって要望があって……」


「……へー……。まあなんでも良いけど」


 サヴァイヴは若干不機嫌そうに言う。つくづく、エグゼはサヴァイヴの事を嫌っているようだ。正直、この先二人の気が合うようになるとも思えないので、この医務室で鉢合わせることが無くて良かったと私は思う。


 診察室へ入ると、そこで待っていたのはドリュートン先生と、黒髪褐色肌の青年であった。


「あれ、レイモンドさん。また来ているんですか?」


 ドリュートン先生の傍らに立つ青年の姿を見て、サヴァイヴは驚きの声を上げた。レイモンドは白い歯を見せて笑う。


「せっかく先生と再会できたんだ。その仕事を手伝わせて頂いている。間近にいることで、学ぶことも多いからね」


 それから彼は、サヴァイヴに椅子に座るよう促した。


「さあ、服を脱ぐんだ。君の身体をよーく診せてもらおうか」


「……レイモンドさん、言い方」


 シーナが少し引き気味に呟いた。サヴァイヴがシャツを脱ぐ。ドリュートン先生が心音を測ったり、傷や呪いの痕跡が無いかを確認している間、レイモンドは興味深げにサヴァイヴの右脇腹辺りを見つめていた。


「……ほう、こんな所にキスマークが」


 レイモンドがにやりと笑う。「ええ⁉」と驚きの声を上げたシーナが、サヴァイヴの右脇腹に目をやった。そこにあったのは古い傷痕であった。シーナがレイモンドを見て聞く。


「これは、射創ですか」


「そう。傭兵の隠語で言うならば『死神のキスマーク』ってやつだ。サヴァイヴが傭兵だったという話は聞いていたが……本当なんだな」


「詳しいんですね」


 サヴァイヴが不思議そうにレイモンドを見た。レイモンドはその虹色の瞳をサヴァイヴの顔に向けて笑う。


「私は、戦医だったからな」

「そうだったんですか!」


 サヴァイヴが驚きの声を上げる。ドリュートン先生はサヴァイヴの診察結果を記録しつつ、納得したように頷いた。


「……なるほど、だから抗呪医療に詳しいのだね」


「ええ。戦場での経験から、嫌でも詳しくならざるを得ませんでした」


 苦笑いをして、レイモンドは答える。シーナが興味深げにサヴァイヴの右脇腹の銃創を見つめつつ、レイモンドに尋ねる。


「……傭兵って、『戦場の呪力抗体』があるから銃が効かないんですよね?この射創はどういうことなんです……?」


「抗呪医術に興味があるのかい?シーナ」


 レイモンドがニヤッと笑う。シーナは力強く頷いた。


「……よく誤解されがちだが、『戦場の呪力抗体』は絶対ではない。そもそも人によってその強度は異なる。抗体の強弱によって、銃弾を弾く確率も変わって来る。大げさに言えば、二回に一回しか弾を弾かない者もいれば、ほぼ百パーセント銃弾を通さない者もいる。……戦場の呪力抗体を持っているにも関わらず銃の餌食になる者、そう言った者に対し、戦場では『死神に魅入られた』という表現がされたりする。そこから派生して、射創のことを『死神のキスマーク』と、そう呼ぶわけだ」


 レイモンドの説明に、シーナが納得したように頷く。一方、サヴァイヴは何か言いたげな、弁解したいような不満げな表情でレイモンドを見つめていた。その視線に気づいた彼は笑って補足する。


「……サヴァイヴの名誉のためにも言っておくが、この射創はまた別の話だ。特殊な呪術のかかった銃弾によるもの。恐らく、呪力抗体を無力化している」


「呪力抗体を無力化する呪術⁉そんなものあり得るんですか?」


 シーナが驚きの声を上げる。ドリュートン先生もまた興味深げな表情になりレイモンドの話を聞いていた。レイモンドは話を続ける。


「『処刑人』という例外を除いて、あり得ない……はずだった。実際、このような呪術を使える者は、恐らく一人しかいないだろう。それが……」


「『白翼の死神』ですね」


 サヴァイヴが被せるように言う。レイモンドは「流石だ」と肩をすくめた。


「そう。『白翼の死神』。そう呼ばれる傭兵だ。傭兵団『コマンド・レイヴン』に所属しているらしい。私はヴィルヒシュトラーゼ陣営で活動を行っていたから、その名はよく耳にしたさ」


 彼の話から、その『コマンド・レイヴン』とやらがヴィルヒシュトラーゼ陣営の傭兵団であったことが分かる。つまり、サヴァイヴの敵だったわけだ。……まあ、サヴァイヴがその銃弾を受けていた事を考えると当然の話であるが。


「コマンド・レイヴンって、どんな人達……?サヴァイヴ君やアリスちゃんがいたとことは違うんだっけ」


 傭兵関係には疎いらしいシーナが、サヴァイヴに尋ねる。それに対し傭兵マニアのサヴァイヴは嬉々として語り出した。


「僕がいたのは『アルバトロス』。アリスは『キングフィッシャー』。コマンド・レイヴンは、キングフィッシャー配下の傭兵団だよ。『C・レイヴン』って呼ばれることが多いかな」


 シーナが頷きながら聞く。


「つまり……アリスちゃんの部下ってこと?」


「……いや、そんなことは無いと思うけど……」


 サヴァイヴは苦笑いしながら続けた。


「C・レイヴンは、団全体の印象では悪く言うと凡庸、良く言うと安定してる?……って感じかな。器用貧乏みたいなイメージがある。大きな弱点は無いけど突出したところも無いというか……」


「確かに、そうだな」


 レイモンドがクククと笑う。それからサヴァイヴを促した。


「……だが、それだけじゃ無いだろう?」


「そうです。第十三番部隊がいますからね」


 サヴァイヴはレイモンドを見てニヤリと笑う。どうも、戦場にいた者にしか分からない裏話のようなものがあるようだ。


「C・レイヴンは、十五の部隊に分かれているんだけど、その中で実力が突出している隊がある。それが、第十三番部隊。通称『死神部隊』」


「その名は、よく耳にしたさ」


 レイモンドが思い返すように目を閉じて言う。


「『白翼の死神』が所属しているから『死神部隊』。単純だが凄味がある名だ」


「それだけではありませんよ。第十三番部隊は、『白翼の死神』のみならず、兵一人一人のレベルが高い。死神部隊の隊員が三十名ほど潜伏しているという森に攻め入った七百名近い傭兵が、一人たりとも帰らなかったという逸話もあるほどです。何倍もの人数差をことごとく覆して、敵対する傭兵団に無数の血を流させた。まさに死神です。C・レイヴンの他の隊はもちろん、そこいらの傭兵団とも比較にならない。……人数当たりの戦闘力を比べたら、キングフィッシャーやE・ロビンすらも超えるかもしれません」


「アルバトロスも超えるかい?」


 レイモンドが笑いながらサヴァイヴに言う。サヴァイヴは若干ムッとした表情で彼を見返した。


「……実際良い勝負でしたよ。匹敵する力はあったかもしれません」


 そう、サヴァイヴは実際にその第十三部隊とやらと戦ったことがあるわけだ。先ほどの銃創はそういうことだろう。レイモンドはからかう様な表情でサヴァイヴを見ていた。


「つまり、どちらも少数精鋭ってことだな。アルバトロスも、死神部隊も」


 そう結論付けた。サヴァイヴも納得したように頷く。ふと、シーナとドリュートン先生の方を見ると、二人はぽかんとした顔で話を聞いていた。途中から完全に置いてきぼりにしていたらしい。


 やがて診察が終わり、問題なしということでサヴァイヴは第4階層の仕事場へと向かう。部屋を出る際、レイモンドが声をかけた。


「そうそう。後で、第4階層の共用エリアとやらに行ってみようと思っている。その時は丁重にもてなしてくれよ」


「ええ、もちろん。お待ちしています」


 そう言って笑うと、サヴァイヴは螺旋通路を駆け上がって行った。


 第4階層に着くと、すでに仕事を始めていたリランがサヴァイヴに声をかける。


「どうだった~?どこも悪いトコとか無かっタ?」


「ええ。もちろん」


「さすがに頑丈だな。元傭兵というのは」


 ボリスが頷きつつ呟いた。その傍らに立っていた眼鏡姿のアリスがサヴァイヴに近づくと、何を思ったか彼の頬をモチッと指で突いた。


「……確かに、頑丈そう」

「……どういうこと?」


 サヴァイヴが呆れ顔で彼女を見る。アリスはニッと少しだけ笑った。その様子を見てボリスが珍しく微笑む。


「なんだ、お前ら仲良いな。同期の絆というやつか」


 良いことだ、とボリスは頷く。サヴァイヴは苦笑いをし、アリスはプイと首を反らしてサヴァイヴから離れて行った。またいつも通りの仕事が始まる。ちなみに、リカは今日も非番だ。昨日受けた呪いの傷を癒すため、自室で休養しているらしい。


「同期の絆と言えば、朝一でエグゼはリカのお見舞いに行ったってサ。私も後で行こーっト」


 リランが言う。サヴァイヴとアリスも頷いた。お見舞いは昨日、リカが目覚めた直後にも行ったが、まあ何度行っても良いものだ。


「エグゼは、午前中何の仕事しているんですかね?」


 サヴァイヴがふと疑問を呈する。リランが答えた。


「配達物関連のとこで作業してるって聞いたヨ」


「配達⁉この船、配達物なんて届くんですか?」


「なんだ、知らなかったのか」


 ボリスがグラスや食器の拭き作業をしつつ説明をする。


「この船から送られ、またこの船に向けて届けられる手紙や配達物、新聞なんかもそうだな。それらは専用の小型トカゲに乗せて運ばれる。足が速く、近くの島や国の配送施設とソフィー号の間を短時間で行き来できるトカゲだ」


 小型とは行っても、あくまでこの船を背負う大トカゲと比較してのことだ。実際、配達物を運ぶトカゲたちはワニくらいのサイズがある。私は前に海の上を飛んでいた際に見たことがあるから知っている。尋常じゃないスピードで、この呪われた塩の砂漠を駆けていた。このようなトカゲ達のおかげで、船の上にいながら手紙のやり取りを行ったり、新聞で世界の情報を得たりすることが出来るわけだ。


「届いた配達物を、それぞれのお客様のお部屋にお届けするんダッテ。結構大変な作業らしいヨ~」


 リランが気楽な調子で言った。やがて共用エリアの人が増えてきて、サヴァイヴ達はその対応に追われるのであった。


 そんな増えてきた乗客たちの中に、喧しい組が一つ。サヴァイヴはうんざりした表情でその二人組の席へと注意しに行った。


「……またあなた達ですか。いい加減にしてください」


「よ、兄弟。そうつれないこと言うなって。明日でお別れなんだからさー」


 二人組の片割れ、赤毛の青年コリングが笑いかける。その横で金髪のトロンハイムもまた人の良さそうな笑顔をサヴァイヴに向けた。


「そうっすよ。色々あったっすけど、楽しかったっす!ありがとうございました」


 彼らの言う『色々』とはつまり、この第4階層で騒いで注意されたことから始まり、ダンスパーティで踊りはしゃいでみたり、不審者をそそのかして暴れさせて最終的に死に追いやってみたり、リカが呪術を受ける原因を作ったり、といったことだ。サヴァイヴは顔をしかめた。


「……もう来ないでください」


「無駄だよ。こいつら、話通じねーんだわ」


 監視役の船員、ニコラが近くの席に座ってぼやく。彼は灰色の天然パーマを弄りながら溜め息を吐いた。


「……ずっと部屋に閉じ込めておくんじゃだめなのかね」


「ちょっと、ニコラさん。冗談きついっすよ~。それじゃ約束が違うっすよ」


 トロンハイムが笑って言う。ニコラは忌々しそうな目でその笑顔を見た。目の下には濃いクマがついている。サヴァイヴが心配そうに尋ねる。


「ニコラさん、徹夜で監視していたんですか」


「いや、さすがに交代制だよ。……このクマは生まれつきだ」


 にしても、いつもより濃く見える。この二人の監視はそれほどハードなのか。疲れた様子のニコラを見て、コリングが下品な笑い声をあげた。その時。


「煩いな。もう少し周囲に配慮は出来ないのか。育ちが疑われるぞ」


 そのように声をかけてくる人物が一人。先ほど第4階層へ向かうと言っていたレイモンドだ。虹色の瞳で、睨むようにコリングを見ている。コリングとトロンハイムは、まるでその顔に見覚えでもあるかのように少しの間レイモンドを見ていたが、やがてフッと自嘲するような笑みを浮かべる。


「実際、育ちが悪いもんでね。金も教養も無い哀れな僕らを大目に見てよ」


「清貧という言葉を知らないのか?」


 実際に憐れむような、見下すような表情でレイモンドは笑う。彼自身も幼い頃は貧しかったようなので、コリングの言葉は育ちを盾にした言い訳にしか聞こえないのだろう。


 コリングは若干気分を害したように顔をしかめた。そんな彼を宥めるようにトロンハイムが笑いかける。


「まあまあ、副隊長から送られてきた手紙にあったみたいに、俺達は明日着く島で下りるんすから!変な騒ぎとかは起こさないっすよ。怒らない怒らない!」


 コリングはフンッと鼻を鳴らすと、またニヤリと笑った。


「はいはい、分かってるよ。もうこの船でやることもねーし。せいぜい船上ライフを満喫するさ」


「くれぐれも大人しく、な」


 ニコラが釘をさすように言った。

サヴァイヴは少しの間無言で二人組を見つめていたが、やがてコリングに近づいて、小声で言う。


「……どうせ、この船におけるあなた達の悪行はバレているのです。そして明日には船を下りる……。どうです?この際、あなた達がどこの傭兵団所属か言ってみたら。実際、僕は興味があるのです。あなた達が先の戦争で、どこで戦っていたのか」


 その言葉は、団の名を聞き出すための方便が半分、そして残りは本心だろう。サヴァイヴの中の傭兵としての血が、少なからずこの二人組の『傭兵』としての姿に対する興味を抱かせているのだろう。コリングはサヴァイヴの顔を無言で見つめ返していた。


 やがて、軽く笑ってウインクする。その表情は何か不思議な色を帯びていた。これまでのからかう様な雰囲気や何か企むような感じとは違う、純粋に傭兵同士の親近感のようなものが見て取れた。


「悪いな。それは言えない。仲間を売るのと同義だからね」


「ダンスパーティの時、言いそうだったっすけどね」


 トロンハイムが苦笑いをしてツッコミを入れる。コリングは「馬鹿ッ!あれは酔っていたから……」と小声で弁明した。


 その時、背後から近づいてきた男がコリングに声をかけた。


「……何も隠す必要は無いですよ。クレバインさん。もう分かっていますからねえ」


 コリングは驚いた表情でそちらに顔を向ける。そこには、封の開いた手紙を持ち、自慢げな表情をしたブルースが立っていた。彼はさらにトロンハイムに視線を向けて続ける。


「それと、ペンタチさんも。明日船を下りるとか。任務ご苦労様でした」


 そう言って皮肉を込めた笑みを浮かべ、ブルースは顎を撫でる。トロンハイムは困ったような笑みを口元に浮かべた。だが目は笑っていなかった。サヴァイヴが驚いた口調でブルースに問う。


「ブルースさん、もしかして……」


「ええ。調査結果が届きました。判明しましたよ……フォルトレイクを荒そうとしている不届きな傭兵団の存在が」


 いまいち話が分かっていない様子のニコラがサヴァイヴとブルースを交互に見る。部外者のレイモンドも、もちろん話が理解できていないのだろう。眉間にしわを寄せて何か疑問を投げかけるようにブルースを見ていた。


 そのブルースは、コリングとトロンハイム、いやクレバインとペンタチをジッと見据えながらサヴァイヴに告げる。


「船長に伝えてください。報酬はたっぷり出すように、と」


 サヴァイヴは即座にトンツー貝を弾いてムスタファとベンに連絡を取った。それからボリスに許可を得て一時的に第4階層の仕事を抜けると、ブルースと共にクレバインとペンタチを連れてB2階層の船長室へと移動した。意外にも二人は一切抵抗をすること無く、大人しく着いてきた。観念したのだろうか。


 ムスタファとベンはすでに船長室で待っていた。ムスタファがブルースに笑いかける。


「よく調べてくれた。礼を言う」


「いえ、仕事ですから」


 そう言ってブルースは顎を撫でた。それからムスタファはクレバインとペンタチを指して尋ねる。


「率直に聞こう。こいつらの所属組織は?」


 ブルースは手紙の封筒の中からいくつかの資料を取り出して説明する。


「まずは、侵入者『ヘルシング・バザナード』。見せて頂いた彼の顔絵を元に調べました。と言うのも、似た顔の傭兵を見たことがあったのです。それが『シオン・S・ゴールドフィンチ』。傭兵団『ゴールドフィンチ』の第四番部隊長です」


「じゃあ、あの侵入者は『ゴールドフィンチ』のメンバーなのか」


 ベンが口を挟む。だが、ブルースに無言の圧の篭った視線を向けられ、黙った。話は続く。


「シオン・S・ゴールドフィンチは、本名『シオン・スリーパー』。傭兵を多く輩出することで有名な名門『スリーパー家』の出身です。そして同じスリーパー家出身で、シオンの弟にあたるのが『フギオン・スリーパー』」


「ヘルシング・バザナードの正体か」


 ムスタファの呟きにブルースが頷く。


「フギオン・スリーパーは幼い頃から呪術の才能があり、高度な呪術を扱うことが出来た。その力を見込んで、まだ十歳であった彼を引き取った傭兵団の存在が分かりました。『エレヴェイテッド・ロビン』です」


「『E・ロビン』⁉そんな馬鹿な!」


 サヴァイヴが強く反論した。


「『E・ロビン』は、クラフトフィリア王国直属の傭兵団です!治療薬を輸出している側ですよ?それがその薬を奪おうとするなんてこと……」


「そんなことは分かっている。そもそも大国付の傭兵団が、稼ぎに困るわけが無い。少し黙って聞いていてください」


 何度も入る横槍に苛立ちつつ、ブルースはさらに続けた。


「フギオン・スリーパーは最初E・ロビンに所属していましたが、途中で他の傭兵団に勧誘されて移動したのです。その移動先が、『C・レイヴン』」


 ムスタファが無言で頷いた。ベンも納得の表情を示す。前にサヴァイヴが言っていた、荊装飾のメタナイフを使っている傭兵団の中に、確かにC・レイヴンも入っていた。


 ところが、サヴァイヴのみ何か反論がありそうな表情でブルースを見る。ブルースはそれに気づくと「何かあればどうぞ」と、発言を許可した。サヴァイヴは言う。


「C・レイヴンのメタナイフには、翼の装飾はありませんよ」

「ええ。そのようですね」


 ブルースは頷き、続ける。


「ですが……C・レイヴンの中には、一つだけ、異なる装飾を用いる部隊があるのです。知っていましたか?」


「同じ傭兵団の中で、違う装飾……⁉そんなことあるんですか」


 サヴァイヴが驚愕の表情で呟くように言う。


 ……私には、その特殊な装飾を用いているという部隊が何か、いち早く分かってしまった。話の流れ的に、そうではないかと思っていたのだ。


 ブルースはその部隊の名を告げる。


「傭兵団C・レイヴン、第十三番部隊。通称『死神部隊』。それが、一連の事件の黒幕です」


 やっぱり。そうだと思った。

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