第20話〈薬草博士シーナの腕前〉
赤いレンガ造りの賑やかな街並みを、サヴァイヴとシーナの二人が進んで行く。ウルス・マゼラ領イスラルシージャ島の港街だ。薬の買い付けを行うべく、レイモンドの知り合いだという薬草商の元へと向かっていた。その道中、シーナが青い瞳でサヴァイヴの横顔を見ながら言う。
「サヴァイヴ君って、可愛い顔してるよね」
「え、そう?」
「うん。整った綺麗な顔立ち。こういう顔好きな人多いと思うな~。正直、モテるでしょ?」
若干からかうように、笑いながらシーナが尋ねる。サヴァイヴはこの手の話題には慣れていないらしく、少しどもりながら答えた。
「いや……別に、そんなこと無いよ。というか、よく分からないかな……そういうのは」
「そうなんだ。……ねえ、誰か好きな子とかいないの?例えばアリスちゃんとか?」
「アリス⁉」
サヴァイヴは、若干慌てたような表情で、早口に言う。
「いや、そういう感じには見ていないよ。アリスは大事な仲間だけど、そういう感じでは……。というか、僕はそんな好きとかそういうのは分からないし……。ほら、ずっと戦場で戦ってたから、よく知らないっていうか……」
言葉多く話すサヴァイヴを面白そうに見ながら、シーナはさらに続ける。
「リカちゃんは?あの子も可愛いよね~。それとも……私なんてどう?」
冗談めかした口調で、自分の顔を指して上目遣いに言う。サヴァイヴは少し顔を赤くして、目を逸らした。
「だから分からないって!先輩もアリスも、君も、人としては魅力的だと思うけど……」
「ふふっ、ありがと!ごめんね〜なんか言わせたみたいな感じになっちゃった」
そう言いつつシーナはクスクスと笑う。サヴァイヴはジトッとした目で彼女を見ると、反撃のつもりか、逆に問いかけた。
「……シーナは?好きな人とかいるの」
「いるよ?」
「え!……誰」
まさかの即答に、サヴァイヴは驚きの声を上げて尋ねる。シーナは何も言わず、ジッとサヴァイヴの顔を見ていた。
サヴァイヴはまた赤くなり、目を逸らす。シーナはクスッと笑うと、サヴァイヴに近づいて、彼の背負う鞄に手をかけた。そして、その中から一冊の分厚い本を取り出して、渡す。
本の表紙には『メルトシュタイン博士の生涯』と書かれていた。ページを開くと、挿絵でその博士の似顔絵が載っている。立派な白髭を蓄えたお爺さんだ。どことなくドリュートン先生に似ている。何も言わず、無表情でその似顔絵を見るサヴァイヴの横で、シーナが興奮したように顔を赤らめて早口で語る。
「『聖呪医』メルトシュタイン様……!それまで、正式な対処法の見つかっていなかった呪術や呪いへの対策、治療法を体系化して、『坑呪医療』の概念を創り上げた英雄だよ。私が敬愛してやまない御人。本当に素敵……。かっこいい!」
うっとりした表情で、目を輝かして語るシーナを見て、サヴァイヴはただ苦笑いをしているしか無かった。それからの道中、シーナはずっとメルトシュタイン博士の魅力や偉業について語っていた。サヴァイヴは適度に相槌を打ちつつ、彼女の話を聞いていた。
やがて、二人は街の大通りから少し外れた小道へと入って行く。辺りは少し薄暗くなり、人通りもまばらになってゆく。
『お化けトマトの呪い』の症状に対処するにはある種のキノコで往復ビンタをするのが効果的らしい、という事にメルトシュタイン博士が気づいた辺りでシーナの語りは止まった。目的の店にたどり着いたのだ。
細い小道の突き当たりに、暗く古ぼけた建物が建っている。人がいるのどうかも怪しいその建物には、錆びた金属の看板が不格好に打ち付けられており、そこには『草』とだけ書かれていた。おそらく、その前に『薬』の字もあったはずだが、経年劣化で剥がれたか何かだろうか。
そんな建物の小さい木製扉の前に黒髪褐色肌の青年が待っていた。レイモンドだ。彼はその虹色の瞳をこちらに向けた。
「やあ、お二人さん。迷わず来れたようで良かった。港からはちょっと遠かったろう」
「ええ、ちょっと」
シーナが小さく笑って答える。それから、小声で彼に尋ねた。
「例のものは……売って頂けそうですか?」
「さあね。感触は悪く無いが……まだ渋っているようだ。もう一押しってとこかな」
肩をすくめてレイモンドは言う。シーナは小さく頷いた。それから二人はレイモンドに連れられて店の中に入って行った。
店内は小さい部屋の中に古い木製の棚がたくさんあり、非常に狭い。そこら中に薬草の独特な匂いが漂っている。棚に囲まれた細長い道を通って奥に部屋に着くと、そこには禿頭の目つきの鋭い年老いた男が座って待っていた。この店の店主だろう。机に手を置き、何かそろばんに似た計算器具を弄っている。
「マスター。例のお客さんを連れてきたぜ」
レイモンドが声をかけると、男は目だけを動かしてその鋭い視線をこちらに向けた。それからニヤと茶色い歯を見せて笑い、奥から何やらお盆に乗った木製の湯呑みのようなものを持ってきた。
「よくいらっしゃった。まあ、これでも飲んで落ち着いてください」
そう言って、男は三人にそれぞれ茶のようなものを渡した。この乾燥に支配された世界において、タダで飲み物が出てくるというのは非常に稀なことだ。サヴァイヴは何か訝しげな表情で飲み物に鼻を近づけると、そっと舌先で触れた。それから表情を変えて、シーナとレイモンドに告げる。
「これ、毒です!」
「うん。分かってる」
シーナが事もなげに答えた。
「サポロの木で出来たコップが、黒く変色している。これは、トウヤコルスツ系の薬物……つまりコルの実の、毒性の強い物に反応しているってこと」
そう語るシーナの横で、レイモンドが小さく頷きつつ笑う。店主がその鋭い目をシーナに向けて、またニヤリと笑うと、興味深げに言った。
「よくご存知で。凄いね、あなた。サポロとコルの相互作用に関しては、医者でも知らない者が多々いるというのに。これは、旦那の言っていた事は嘘では無かったようだね」
店主に視線を向けられ、レイモンドはクククと笑う。
「当たり前だ。嘘とは、相手を悦ばせるためにつくもの。私は落としたい女以外に嘘はつかないさ」
「なんの話です?」
シーナが半目でレイモンドを見る。そんな彼女に、店主が説明をした。
「メルトリック医学院の卒業生にも匹敵する医学知識を持つ少女がいる、と旦那からは聞いていました。私も半信半疑だったが……」
「いやいや、それは過大評価です!」
シーナは驚いた声色で否定した。メルトリック医学院といえば、その名は聞いた事がある。世界一の医術学校だ。医学界の権威を多く排出してきたという、クラフトフィリアの名門校である。店主は興味深げにシーナを見ながら続ける。
「コルの実の毒性評価は、非常に難しい。毒のある物、無い物、いずれも無味無臭。変化がほとんど無い。毒性のある物は煎じた液に舌の先端で触れた時、僅かに痺れを感じるため、これが一般的な毒性評価法とされているが、この感覚も微々たるもので素人には掴めない……」
サヴァイヴが、困惑顔で頬に軽く触れた。サヴァイヴが毒性を見抜いたのはおそらくこの方法なのだろうが、今説明されたような知識は無かっただろう。戦場で培った野生の勘のようなものが働いたと思われる。
店主はさらにシーナに向けて話を続けた。
「しかし、あなたは液体に触れる事すら無く毒性を言い当てた。サポロとコルの相互作用を利用した手法だが、これを知る者は非常に少ない。と、言うのも、この手法は先程の舌先で知覚する手法と比べてさらに難しいのです。サポロの木はその日の気温や乾燥度合いによって簡単に色が変わる。変色が、コルの毒性によるものか、気温等の環境要因によるものか、この判断が……」
話が非常に長くなったため、以後割愛させていただく。要は、シーナの薬草知識すげーっ、と言う話だ。
一通り話し終えたところで、やっと商談が始まった。あらかじめ、欲しい薬草の種類はレイモンドを通して伝えてあったらしく、その確認作業を行う。見本と言った感じで、小さな木箱に入れられた数々の薬草が机の上に並べられた。その間、シーナのテンションは上がりっぱなしであった。
「トカチの乾草に、シヤコタンの種!しかも、こんなに綺麗な色のものは初めて見ました。すごい高品質ですね!」
「もちろん。薬の質はどこにも負けない。それがうちの誇りですからね」
店主は誇らしげに言う。シーナは目を輝かせながら、木箱の一つを手に取って店主の顔を見た。
「このアバシリの葉、採れたてですよね?採取から一日も経っていない……。でないと、こんな綺麗な赤色は残っていませんよ。知っています?新鮮なアバシリの葉にのみ含まれる成分が、パノン熱の解熱に効果があるんですよ」
「ほう?」
店主が、その鋭い目で興味深げにシーナを見る。そして、無言で続きを促した。彼女は嬉々として話を続ける。
「これは、私の独自研究により分かったことなんですけど……。採取から一日経過する前のアバシリの葉を、カミフラの実の絞り汁とオシヤマンベの果肉から得た油につけて煮ると、パノン熱の解熱に効果的な成分が抽出出来るんです」
「なるほど、サロマ葉の抽出法を応用したのか。同じオホツク科だからな」
レイモンドが、納得したような声を出す。店主も小さく唸ってシーナの話に聞き入っていた。話の内容が全く分からないサヴァイヴは、目を丸くして、三人の顔を交互に見ていた。
ふとレイモンドが、何かに気づいたように言う。
「待て、パノン熱の解熱に効果がある、と言うことは……」
「はい。これをさらに発展させれば、死裂症(ドレパノン)にも効果があると考えられます」
レイモンドの表情が強張った。彼女の言葉に強い衝撃を受けたようだ。サヴァイヴが、恐る恐る口を挟む。
「……あの、死裂症に効果があると言う事は、つまり、新しくその治療薬を作ることが出来るということ?」
「そう。しかも、従来の治療薬よりも工程が単純な上、アバシリは植生範囲が広いから、世界中で栽培できる」
シーナが頷きつつ答えた。それに対し、店主が補足する。
「『世界中で栽培できる』。確かに間違っていません。が、アバシリは人の手によって育てるのが難しい。基本的には、自然界に自生しているものを採取するのが主流ですよ」
「ええ。でも、それだと採取したてを使用するのが困難になります。死裂症の治療薬を作るには、アバシリを人工的に栽培する必要があるんです」
シーナは、真剣な表情で店主の目を見つめた。店主はニヤと笑う。
「……なるほど。それで、私の持つ情報を求めているわけですか」
私は、店に入る前のシーナとレイモンドの会話を思い出した。店主が売るのを渋っている『例のもの』とは、アバシリの栽培法に関する何かのようだ。サヴァイヴも、私と同じように気づいたらしい。片眉を上げて表情を変えると、シーナの方を見た。彼女はにっこりと笑うと、店主を見つめる。そして、囁くような声を出した。
「あなたは、栽培法を知っているんですよね?でないと、こんなに綺麗な葉を売ることは出来ません。素晴らしい技術です。ぜひ、ご教授頂きたいな……」
「単純な話です」
店主は小さく鼻を鳴らし、自慢げな表情で、近くの棚から植物の苗のような物を取り出した。
「私が、品種改良を行ったアバシリの苗です。これは従来のものと同じ成分ですが、生命力と増殖力が強くなっているため人の手による大量栽培が可能です。まだ世界に出回っていない、貴重なものです」
これだ。シーナの目当ての『例のもの』。しかし、このいかにも曲者な店主が、易々と売ってくれるのだろうか。実際、渋っているとのことだったし。
シーナが、小首を傾げて尋ねる。
「おいくら?」
店主は値を提示した。それを聞いて私とサヴァイヴは思わず声を上げた。この前のブルースとの交渉の際に出てきた値段とは比べ物にもならない、その何十倍もあろうかと言う法外な大金だ。
とは言え、そもそも薬というのは高いもの。さらにこの苗は世界にこれしかないと思われる、非常に貴重なものだ。値が張るのも頷ける。しかし、とてもシーナやドリュートン先生、ソフィー号全体で考えても出せる金額では無いだろう。どうするのだろうか。
「さすがですね……。それだけ貴重なものですもんね」
困ったような顔で笑いつつ、シーナが言う。その隣で店主の顔を見ていたサヴァイヴが、小さく独り言を呟く。
「……あの時のブルースさんと同じ目をしている」
あの時のブルース。なるほど、そういうことか。つまり、店主は最初からこの金額をシーナが払えるとは思っていないのだ。本来の目的……ブルースの場合メタナイフだったが……それを要求するための布石なのだ。では、彼の真の狙いは一体何だろう。
店主は茶色い歯を見せてニヤッと笑った。
「この苗の本来の価値はこのようなところです。しかし、私は何も金だけが目当てでこの商売をしているわけではない。薬草商人としての誇りがあるのです。どうせ売るのなら、この苗を最大限有効活用してくださる方にお譲りしたい。……あなたには、その見込みがありそうだ」
来た。別の条件……真の目的を提示する気だ。店主はそれを口にした。
「あなたがこのアバシリで作り出す治療薬の売買に関する権利を、全て私に委譲してください。もちろん、あなた自身は自由に治療薬を使って頂いて結構です。この条件を飲むのなら、あなたはこの苗を使い放題」
そう言って、店主は笑った。『金だけが目当てでこの商売をしているわけではない』という言葉の何と白々しいことか。
シーナは、しばらく黙って下を見ていた。見かねたサヴァイヴが、店主に言う。
「もう少し、なんとかならないんですか。他の条件とか……」
そう文句を言うサヴァイヴの肩に手を置き、シーナが無言で目線を向ける。彼女の目はサヴァイヴにこう告げていた。
(何も言わないで)
察したサヴァイヴは、大人しく口を閉じる。シーナはサヴァイヴの肩から手を離し、店主に向けて悲しげに笑った。
「……分かりました」
店主がニヤリと笑う。しかし、直後にシーナは言葉を続ける。
「諦めます。惜しいけれど……。そんな大金は払えないし、条件も承諾出来ません。残念だけれど」
そう言って、立ち上がった。店主は無表情で彼女を見上げた。そして、小さく呟くように言う。
「よろしいのですか?新鮮なアバシリの葉を安定して得ることが出来ないと、折角のあなたの研究も無駄になってしまう」
「ええ。ですが、その苗は非常に貴重なもの。それに見合う金額を出すことは出来ません。それに元々、私は死裂症の治療薬でお金儲けをするつもりは無いんです。その製法が確立出来たら、全世界に公表して、誰もが作って使えるようにしたいんです。だから、治療薬の権利をあなたに渡すことも出来ない……」
「そうですか。それは、無欲なことで」
店主がつまらなそうな表情で言った。シーナは、さらに悲しそうな表情になる。
「……何より悔しいのは、この素晴らしい苗の価値が、誰にも知られないであろうことです。アバシリの葉は、基本的には安価で取引されます。葉自体の質がどうあれ、本来の効果である鎮痛作用には影響しないから。つまり、新鮮だろうとそうでなかろうと関係ないという扱いだから。誰も、新鮮なアバシリの葉の価値を知らない」
彼女は、顔を伏せて、小声で独り言を言う。
「私がもし死裂症の新しい治療薬を作り出すことが出来たら、世界中の皆が、この苗の素晴らしさを知るというのに……」
それから顔を上げて、空元気のような作り笑いを店主に向けた。
「まあ、仕方がありません!……今日購入した薬草は、明日改めて船の運搬の方々が受け取りに来るので、よろしくお願いします」
そう言って、サヴァイヴとレイモンドに声をかけた。
「お待たせしてごめんね。レイモンドさんも、ありがとうございます。もう用事は済んだので、帰りましょう」
「……良いの?」
サヴァイヴが小声で聞く。シーナは笑顔で静かに頷いた。二人は彼女に続いて席を立つ。
シーナは、部屋の扉に手をかけて、店主にお礼を言う。
「今日は、ありがとうございました。この先、そのアバシリの苗の本当の価値に気づいて、大金を払って買ってくれるお客さんが現れることを、私も願っています!」
そう言って扉を開いた。その間、ずっと無表情で彼女を見ていた店主が、口を開く。
「待ちなさい。……あなたが……本当にこの苗を使って死裂症の治療薬を作り出すことが出来ると言うのなら……この苗を一つだけ、譲っても構わない」
「本当?」
シーナが、目をキラキラと輝かせて振り向いた。これまた白々しい。店主は、ニヤリと笑った。
「あなたの研究成果が、この私の研究成果の価値を高めてくれるかもしれない。あなたには、可能性を感じた。だから、私もベットしてみることにしよう」
「それほどまでに期待して下さるなんて……!お爺さん、ありがとう!」
そう言って、満面の笑みで近づき、店主の両手を包むように握った。急な馴れ馴れしい態度に店主は調子を崩されたようであったが、やがて、これまでとは違う穏やかな瞳でシーナを見つめた。
……礼儀正しく可愛らしい少女に、砕けた対応をされて喜ぶ者は意外と多い。老若男女に限らずだが、特に老の男にはよく効く。彼女の口にした呼び方もまた巧妙だ。『お兄さん』などのあからさまなお世辞ではどこかいやらしさを感じるが、『お爺さん』であれば少女の純粋さをも演出することが出来る。童話のヒロインがよく使う手口だ。
何度もお礼を言って、また来ることを約束し、シーナ達三人は店を後にした。人の手で運べる量の薬草を鞄に背負ってソフィー号に向かう道中、サヴァイヴがシーナに尋ねる。
「……結局、貴重な苗は買えたんだね。凄いよ。でも、もしあの店主の人が呼び止めなかったらどうするつもりだったの?」
「そうしたら、私もあのままお店を出て行ったかな。新鮮なアバシリの葉の入手方法は、また他の何かを考えるしか無かったね。……だって、あのお爺さんが言った値段、どう考えてもおかしいもの。その後に条件なんか出してきたりして、この私を手玉に取ろうとしていたのも気に入らなかったな」
口をとがらせて、シーナは答える。二人の後ろを歩くレイモンドが、面白そうに笑いながら彼女を見た。
「やれやれ、見事なお手前だ。あの偏屈なマスターが、完全に骨抜きにされていた。末恐ろしい娘だね。将来、君を口説く男は苦労することだろうな」
「なんのことです?」
シーナは含み笑いを浮かべて言う。私も、レイモンドと同意見だ。シーナ・ドリュートン、想像以上に恐ろしい女性だったようだ。サヴァイヴは苦笑いをして彼女のすまし顔を見ていた。
レイモンドは、さらに感心したような口調で話を続ける。
「それに、まさか死裂症の新たな治療薬の構想までしているとは、さすがはドリュートン先生の孫娘だ。薬草の知識に関しては、私よりも上だよ」
「そんな、まだまだですって。レイモンドさんにもお爺さまにも遠く及びません。お爺さまなんて、まだ何の対処法も無かった時代に、パノン熱や死裂症の治療法を作り上げたのだから……」
「『治療法を作り上げた』?」
サヴァイヴは、何か引っかかったようにシーナの言葉の一部を復唱する。レイモンドが彼の疑問に答えた。
「知らなかったのかサヴァイヴ。今、世界に存在している死裂症の治療薬及びワクチンを開発したのは、他でもないドリュートン先生だよ」
驚きの声がサヴァイヴの口から溢れ出た。
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