第7話 ラノベの貸し借り

俺は1年ほど前に付き合った彼女に裏切られた。

そして俺は...人を信じない筈だった。

特に女子をもう信じる事は無いだろう。

心の奥底から歪んだからだ。

そう思っていた。


その中で俺の心にづかづかと入って来た女子が居た。

その女子の名前は佐藤愛花。

俺とは隣人の関係でそれ以上でそれ以下でも無い様なそんな曖昧な関係だ。

そんな佐藤愛花は俺の傷付いた心を癒してくれた。

それから手を引いてくれた。


彼女は何者だろうか。

そんな事を考えながら俺はスマホを置きながらそのまま勉強をする。

するとインターフォンが鳴った。

俺は「?」を浮かべながらドアを開ける。

そこに愛花が居た。


「こんばんは」

「...どうしたんだ?愛花」

「読んでしまいました」

「...それはつまりライトノベルを?そんな馬鹿な。まだ3時間ぐらいしか経ってないんだが...」

「オススメだって言うので読んでしまい。どっぷり世界観に浸りました」


俺は驚きながらライトノベルを読破した愛花を見る。

それから愛花はモジモジしながら俺を見てくる。


「これはお返ししておかないとと思ったのですがそれ以外にも...その。オススメのライトノベルがまだあるかなって思って来ました」

「...そうだったんだな。明日でも良かったんだが。...有難う。しかしオススメか。...好みに合うか分からないけど異世界に吹っ飛ばされるのもあるけど」

「何事もチャレンジですね。読んでみたいです」

「...おおう。マジか」


驚きながら俺は愛花を待たせてからライトノベルを取りに行く。

それから適当なのを5冊ぐらい手に取ってからビニール袋に入れた。

そして愛花の元に戻る。

愛花は静かに外を眺めていた。

俺を見るなり笑顔になる。


「これな。...異世界転生っていう...」

「大丈夫です。理解していますが実際読むのは初めてです」

「ああ。別世界に吹っ飛ばされる物語だが分かるか?」

「はい。分かります。チラ見はした事があります」

「書店でか?」

「ですね」


それから愛花はニコッと笑顔になる。

俺はその姿を見ながら笑みを浮かべる。

そしてビニール袋に入っている残りの4冊も渡した。

愛花はその冊数を見てから「こんなに」と呟く。


「...いっぱいあるんですね。ライトノベルのオススメって。何だか嬉しいです」

「そうか。...あ。そうだ」

「...はい?」

「今度一緒に書店に行かないか」

「...え?...で、でも...私が一緒に書店に行ったらご迷惑じゃ。それに周りの人達に誤解されるかも...」

「ああ。それなら大丈夫だ。参考書でも買いに行ったって事にすればな」


愛花は「!」という感じになる。

俺はその姿を見ながら「勿論、お前が嫌じゃ無ければだけどな」と告げる。

すると愛花は考え込みながら笑顔になる。

それから顔を上げた。


「分かりました。じゃあ一緒に...あれ?書店で何をするんですか?」

「オススメのラノベを紹介したい。...俺が購入しているのにも限界がある」

「...そうだったんですね。私なんかの為に...」

「...違うな」

「...え?」

「お前の為でもある。...だけどそれだけじゃないんだ」

「え?それはどういう...?」


愛花がキョトンとする中。

俺は必死に説明しようとするが言葉が出て来ない。

何だろうな、そう、きっとこれはお礼がしたいだけだ。

恥ずかしい気持ちだけどな。

俺の全力だ。


「気持ちの全力だ。...本当に夕食が助かったんだ。部屋を片付けてくれて助かったんだ。だから俺なりのお礼ってやつだ」

「...春樹くん...」

「俺はお前にお礼がしたい。...だからまあそれで、だ。書店に行きたいんだ」

「分かりました。春樹くんがそう言うなら付き合います。面白い本を紹介して下さい」

「...ああ。情報は多く知っているから。だから良さげなライトノベルを紹介するよ」


愛花は頷きながら俺をニコッとして見てくる。

こんな顔も見れるなんてな。

俺だけが見れているって事か。

それは何だか恥ずかしいな。


「...そういえば」

「ああ」

「...春樹くんは自らの彼女に会わないのですか」

「...ああ。それか。実はな。...あっさり別れた」


そう言いながら俺は愛花を見る。

愛花は驚愕して俺を見てきた。

そして「話し合った結果ですか?」と聞いてくる。

首を捻りながらだ。

俺は頷く。


「まさにその通りだ。...というかアイツが一方的に切った」

「じゃ、じゃあ...春樹くんは...もうフリーですか?」

「そういう事だな。迷惑かけたな」

「...い、いえ」


いきなり恥ずかしがる様にボッと赤面する愛花。

モジモジし始める。

俺は訳も分からずその姿を見る。

何でそんなに赤面するのだろうか。

そんな事を思いながら首を傾げながら見ていた。

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