第22話 最後の足掻き

須崎シノン。

彼女の事は興味はない。

だが彼女が何故これだけ歪んだのかは興味があるのかもしれない。

俺はそう考えながらぼんやり外を見る。

そうしていると前に愛花が腰掛けてきた。


「どうした?愛花」

「その。須崎ってさ」

「ああ。...須崎がどうしたんだ?」

「...何故あんなに歪んでしまったんだろうね」

「さあな。もうどうでも良いけど。正直言って最悪かつ不愉快だしな」

「そうだね。もう忘れようかな」


そう言いながら愛花は肩をすくめる。

それから苦笑した。

俺は「だな」と言いつつ笑みを浮かべる。

そして俺は「トイレに行って来るよ」と立ち上がり俺はそのままトイレに向かった。


そして衝撃を受ける。

何故かというと。

須崎が居た。

ちょっと待て一体何故コイツが!?

俺を見ながら何かペットボトルを取り出した。


「須崎。訳が分からない。お前は何をしている!」

「学校は退学になった。烙印を押された。もう私は生きていけない」

「お前が何故この場所に居るのかって聞いている!」

「学校のセキュリティは甘いね。貴方の。簡単に裏口から侵入できたし」


マジかコイツ。

思いながら須崎を見る。

するとペットボトルを見せながら「中身なんだと思う?」と聞いてくる。

中身はガソリンの様なものが入っている様に見えるのだが。

漏れ出した臭いが。


「おい待て。ふざけんな。その中身は何だ」

「灯油だよ、正解は」

「...お前、何をする気だ」

「全て失った。だから最後に死のうと思って。誰かを巻き添えにしてね」


その対象が春樹だっただけ。

そう言いながら俺を見る須崎。

パーカーからライターを取り出した。

このトチ狂った野郎め!


「私と一緒に死んでくれる?」

「地獄に堕ちたらどうだ。お前は」

「堕ちるなら死ぬだけだし。あとの残りは」


コイツ。

思いながらいると「話を聞いていればそんな単純な事かよ」と須崎の背後から声がした。

それから強く床にねじ伏せられる須崎。

そいつは坂本とかだった。

3人ぐらいで取り押さえる。


「おとなしくしろ」

「アンタ誰!離して!」

「あとお嬢ちゃん。ガソリンじゃない灯油はガソリンより燃えづらいぜ。出直してこい。科学の実験で教わらなかったか?」


そう言われた取り押さえられている須崎はバタバタと暴れて居たが。

やがて侵入者は先生に引き渡された。

それからの事は何が起こったかは分からない。



須崎侵入事件を受けて学校側は授業を中断していたがやがて俺達へ考慮される形で授業が再開された。

色々と問題があったが最終的に犯人が1人と断定された点を踏まえての決断だった。


「坂本。助かった」

「ああ。気にすんな。話をしてみたかったしな。お前の浮気相手と。ガソリンならヤバかったけど灯油だったからな。だからまあ話を聞いていたんだが。しかしまぁ逆恨みにも程があるな」

「逆恨みだよな。やっぱ」

「完全な逆恨みだと思う。なんでこんな真似をするかな。いくら逆恨みとはいえ」

「そうだな...」


そう言いながら俺達は考え込む。

因みに俺達が今居る場所は屋上だ。

坂本にお礼を言いたかったから。

そんな坂本は「気にすんな」しか言わないが。


「女の逆恨みもここまでになると怖いもんだな」

「そうだな...」

「俺もこんな容姿だからモテるけどさ。須崎みたいにトチ狂った女は初めて見たわ」

「須崎は論外だろ。あれは狂いすぎだ」

「...だな」


そう言いながら苦笑する坂本。

俺はその姿を見つつ「戻るか」と坂本に笑みを浮かべる。

坂本は「そうだな」と応えながら俺に向く。

俺はその姿を見ながら「どうした」と聞いた。

すると坂本は下を指差して笑みを浮かべた。


「まあ今度ジュースでも奢ってくれよ。それでチャラだ」

「それで良いのかお前は。軽すぎるんじゃないか?」

「軽すぎるか?まあ...命に危険を感じた訳でも無いしな」

「いやいや...」

「良いって。俺がそれで良いって言ってんだから」


そう話をしていると屋上のドアが開いた。

それから「坂本くん。春樹くん」と愛花が顔を見せる。

坂本はその姿に「んじゃ後は2人でな」と手をひらひらさせて去って行った。

俺はおいおいと思いながらも坂本を見送り改めて愛花を見る。


「どうした?愛花」

「うん。授業が始まるよって言いに来たんだけど」

「そうか」

「...その。ね」

「ああ。どうしたんだ?」

「淫らだって思う。最低だって思う」


いきなりどうした。

思いながら俺は愛花を見る。

すると愛花は手を広げた。

それから俺を見上げる。

ま、まさか。


「キスか?」

「充電したい」

「しかし学校でそれは」

「分かってる。だから前置きした」

「し、しかし」

「私はキスしたい」


腰に手を回してから潤んだ瞳で目を閉じて見上げてくる愛花。

ああ!クソッタレぃ!

忌々しいぐらいに可愛い!

俺はされるがままに愛花の腰に手を回してからキスをする。


「うん。これで頑張れそう」

「恥ずかしいんですがそれは」

「私だってめちゃくちゃ恥ずかしい。だけど不安だった。授業受けれない感じがした」

「...愛花」

「朝に貴方が消える夢を見た。だからふ、不安で」


泣き始める愛花。

涙が溢れる。

その姿に俺は考え込み「お前の気持ち。分かった。だけどそうはならない」と告げる。

そんな未来なんぞぶっ壊してやるよ。


「愛花。きっと大丈夫。須崎も居なくなったから」

「うん」

「何があっても俺達なら超えられるよ。大丈夫だ。だから」


俺は余計かと思ったが愛花とまたキスをした。

それから愛花の髪を梳き通らせる。

愛花は真っ赤になりながらも愛しいという感じの目をしていた。

愛しい彼女を残しては死ねない。

だからこそ頑張らないとな。

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