第13話 高鳴る心臓

☆横田春樹(よこたはるき)サイド☆


俺は...もう永遠に誰も恋愛対象で好きにはならないだろう。

それに何というかこんな俺に興味を持って近付く女も居ないだろうから。

そう思っていたのだが。

隣人という形で俺に近付く女子が居る。

その名前は佐藤愛花という女子。


彼女にこんなにも助けられている。

こんな俺を助けてくれるのだ。

何故彼女がこんなに俺を助けるのか分からない。

だけど俺は本当に彼女によく助けられる。

気持ちも助けられる。


何故なのか。

俺は考えながら息を飲みつつ愛花の部屋の前に立つ。

それからインターフォンを押してみる。

すると『はい?』と声がした。

俺はそれに返事をした。


「愛花。実はな。田舎のお婆ちゃんから色々貰ってな。食べてくれないか」

『あ、出ますね』


それからドアが開く。

そして目の前に可憐な少女が現れる。

長髪が煌めいており。

神々しい。

俺はその姿に生唾を飲みつつビニール袋を見せる。


「さつまいもなんだが」

「あ、とっても美味しそうですね。でも5本も...春樹くんの食べる分は」

「ある。どっさり送ってきたからな」

「そうなんですね。じゃあ有難く頂きます。あ。ふかして持って行きます」

「そりゃ有難いが良いのか?」

「勿論。それぐらいのお代は払いたいです」


愛花はそう言いながら笑みを浮かべる。

そして柔和に接してくる。

俺はその姿にドクンと胸が跳ね上がる。

それから横を見た。

恥ずかしい。


「どうしたんですか?」

「...い、いや。何も。...すまない」

「...?...変な春樹くん。アハハ」

「...」


クスクスと笑う愛花。

愛花は最近笑みが絶えなくなった。

その理由は分からないが俺にあるらしい。

だけど俺は愛花の様な女子の笑みを取り戻す程有能ではない。

何故なのか。


「?」

「...あ、す、すまん」


また無意識に手を伸ばしていた。

愛花に触れようとしていた。

撫でようとしていた。

可愛い。

とても可愛い。


「...何か顔に付いてる?私の顔」

「...い、いや。そういうのじゃないけど」

「え?じゃあ何をしていたの?」

「...」


俺は赤くなってから(隠すのは無理か)と思って愛花を見る。

そして赤面したまま「お前が可愛いから撫でたくなった」と言った。

正直、キモイって話になる。

そう思いながら俺は覚悟して目を開ける。


「...ふ...あ?」


真っ赤になって更に真っ赤になっている愛花が居た。

顔から火が出そうな勢いで真っ赤になっている。

俺はその顔を見ながらまた俺も真っ赤になる。

俺達の間から言葉が消えた。


「...」

「...」


何てまあ可愛いのだ愛花は。

というか...何でこんなに愛花がキラキラに見える。

意識しているのだ...意味が分からない。

俺もかなりキモイな!?

思いながら俺は首を振ってから呟く。


「すまない」


とだ。

すると愛花は「え?な、何が」と目を丸くする。

俺はその姿を見ながら俺も目を丸くした。

愛花はハッとしてから俺を見る。


「め、迷惑じゃないよ?」

「...え?」

「...」


そう呟きながら愛花は俺の頬に手を伸ばしてくる。

な、何をしている!!!!?

俺はまさかの行動に愛花を見る。

すると愛花は頬を撫でてくる。


「...ま、待て!?愛花...な、何をしている!」

「...私も貴方がいつも格好良いよ?」

「...それはどういう...!?!?!」

「内緒だよ。...うん」


愛花はそのままさつまいもを翳してから「ありがとう」と言ってからドアを閉める。

何かを隠すかの様に。

俺から手を名残惜しそうに離してから、だ。

その事に俺は「愛花!まt...」とまで言ったがドアは閉まってしまった。


「...な、何だったんだ」


心の中が愛花で埋め尽くされる。

正直何でこんな気持ちになるのか分からないが。

何だか愛花が愛おしい。

という事はまさか。

いやまさかな。


「...気のせいにも程があるな。こんな事をしているからキモがられる。全く。俺も大概だな...」


そんな事を思いながら俺は首を振る。

それから盛大に溜息を吐いた。

そして俺はそのままドアを開ける。

だが暫くその熱が冷めなかった。



約束の時間になり愛花がやって来る。

その顔は赤くなっていた。

まるで本当に恥ずかしいという感じでだ。

隠しきれてない。


「...愛花」

「な、何」

「何でお前そんなに赤面している」

「...い、いや。別に?」

「嘘を吐くな。...耳まで真っ赤にしてから」


俺の言葉に無言で料理を作る為にエプロンを身に着けた愛花。

その姿に心臓がバクバクする。

何だこれは。

絶対に何かおかしい。


「...ねえ。春樹くん」

「あ、ああ!?どうした」

「...春樹くんはその。...私みたいな女の子は恋愛対象になる?」

「...ふぁ!?は!?」

「い、いや。ちょっとテレビでやっていたから!それだけだから。そ、そういう感じ、だから」


流石にそれも嘘だとは思うけど...だけどそんな事を聞いてくるなんて尋常じゃない気がする。

俺は赤くなりながら頬を掻く。

それから答えに逡巡する。

(一体どう答えたら良いのだ?)

と思いながら愛花を見ると愛花は俺を見据えていた。


「こ、答えてくれる?」

「...俺はお前は魅力的だと思う。とてもとても魅力的だと思う。...だから好みではあるけど。...だけど」

「...だ、だけど?」

「...俺はもう恋は出来ないって思う。...俺は怖いんだ。全てがな」

「...そ、そっか」


また裏切られる可能性があるかもしれないしな。

俺は目の前を見ながら苦笑する。

するとエプロンを身に着けた愛花がやって来た。

それから俺を膝を曲げて見てくる。


「わ、私は裏切らないよ?」

「...あ、ああ。へ!?」

「私はあんな変な奴とは違う...か...ら」

「だ、だから?」

「...な、何でもない」


そしてそのまま踵を返して去って行く愛花。

料理が出来るまで無言だった。

俺は心臓がバクバクしながら「何だ一体」と呟く。

そして掌で赤くなったまま口元を撫でた。

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