第4話 佐藤愛花の激高

☆横田春樹(よこたはるき)サイド☆


部屋がだいぶ片付いた頃だ。

佐藤が窓を開けながら換気をしながら俺に向いてきた。

ゴミ袋も片しながらだ。


「横田くん。そろそろご飯を準備します」

「ああ。...ああ。そんな時刻だっけか」

「そうですね。もう17時30分なので」

「本当だな。気が付かなかったよ」

「私もついさっき気が付きました。...なので調理します」

「...何を作るんだ?というかお前は料理が得意なのか?」


そう聞いてみると佐藤は俺に笑みを浮かべて自信満々になる。

それから鼻息を荒くしてエプロンを身に着ける。

どうも持って来たエプロンの様だが。

俺は「?」を浮かべた。


「自信満々で言います。私はマズいものは作りません」

「...という事は料理は得意なのか」

「そうですね。私は...はい」

「...何でそこだけ自信無さげなんだ?」

「...事情があるんです」

「事情?何の?」

「...私にはお姉ちゃんが居ます」


そう言いながら顔を上げる佐藤。

俺は驚愕しながら「そうなのか」と答える。

佐藤は目線をずらしながら外を見る。

それからぽつりと呟く。


「3年前に生き別れてからそれからは全てが自作ですけど」


とだ。

俺は驚きながら佐藤を見る。

それから真剣な顔をする。

すると佐藤は前を見たまま「私は3年前までお姉ちゃんからお料理、家事を教わっていました」と窓に手を添えて答える。


「それからはもう完全に生き別れです。会いたくても何処に居るかも分かりません」

「...そうだったんだな」

「そうですね。まあ暗い話になるので持って来たお米研ぎますね」

「...食い物はいっぱいあるから使ってくれ。調味料も賞味期限内だと思うから。未開封だしな」

「もー。レトルトばっかりって事ですか?体壊しますよ」

「...そうだな」


俺は苦笑いを浮かべながら佐藤を見る。

何というか調理は苦手だ。

だからこそレトルトばっかりに頼っている。


そうだな。

レトルトばっかりだと体壊すな。

塩分多いし...添加物ぎっしりだしな。

思いながら顎に手を添えるのを止めてから佐藤を見る。

微笑みを浮かべた。


「すまない。お前に言われたから切り替えるよ。自炊してみる」

「...まあそのままでも良いですよ」

「は?...いや。そういう訳にもいかないだろ。自炊しないと」

「だって私が来ますし」

「...それって通い妻なの?」

「んぁ!?何て事を言うんですか!違いますよ!」


佐藤は真っ赤になりながら抵抗する。

俺はその姿を見ながら(以外だな。こういうのも恥ずかしいんだ)と思える。

それから俺はその素顔を見ながら頬を膨らませてそっぽを向いた佐藤をクスクスと笑いながら再度見る。

佐藤は口をへの字にした。


「もう。何がおかしいんですか」

「いや。...ゴメンな。こうして笑うのは久々なもんで」

「...!」

「...ああ。あまり気にしないでな。...こっちの話だ」

「...それは横田くんの彼女の浮気の話ですか」


その言葉に俺は顔面がこわばる。

それから眉を顰めて佐藤を見つめる。

佐藤は米を研ぎ終わってから顔を上げる。

炊飯器にお米を入れて俺を見てくる。

エプロンで手を拭く。


「横田くん。私は...偶然見ました」

「...何を見たんだ」

「...彼女さんの浮気。そして貴方が怒っている姿。全てです」

「...」

「食材の買い出しでした。その中で見ました」

「...何か変なものを見せたな」


その言葉に佐藤は首をフルフルと振る。

それから俺を真っ直ぐに見てくる。

そして拳を握り締めた。

そうしてから「浮気は絶対に駄目だと思います」と力を込めて言った。


「...佐藤...」

「私はその光景は一生忘れないでしょう。絶対に」

「...何でそこまで怒るんだ。お前が。意味が分からない」

「...何故でしょうね。分かりません。でも許せない」


そんなに怒ってくれる女性が居るとは思わなかったな。

俺は驚愕しながらその姿を見ながら冷蔵庫から食材を取り出したりビニールから食材を取り出したりする佐藤を見る。

そうか俺は。

疲れていたんだな。


「...佐藤」

「何でしょうか?」

「お前が何故俺の事で激高するのか理由が分からない。だけどお前はそんなに感情を露にするような人間だったんだな。冷静かと思っていた」

「私だって一応は血の通った人間です。だから怒る時は怒ります」

「...」

「横田くん?」

「...何でもない。すまない」


俺は目を伏せる。

それから少しだけ気付かれない様に笑みを浮かべて目線を横にした。

そして椅子に腰掛ける。

血の通った人間、か。

そう思いながらだ。

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