第3話 雨の日の事

☆佐藤愛花(さとうあいか)サイド☆


私は好き好んでこうやって氷の女王と呼ばれている訳では無い。

そもそも私は人が苦手なのだ。

だからこそそうやって言われるのはかなり傷付く。

まあでも仕方が無いのだけど。

私が冷徹に思われているからだ。


2年前に私は独り暮らしを始めた。

その際も顔が親のせいで死んでいたが...唯一そんな人間である私に全く気にせずに明るく接してくれた人が居た。

それは横田春樹くんだ。

隣人の男子高校生で2年前から同じマンションで暮らしている。


彼は不思議な人だった。

何故なら私の様ないけ好かない女子と会話をしようと努力をしてくれたからだ。

私はその事が嬉しくて会話しようとしたがいつもすれ違っていた。

だから私は悲しく思っていた。


その時に入った一報。

というか私が見てしまった光景だが。

横田くんの彼女が浮気した。

その姿にショックを受けて駆け出す横田くんを見てから私の中で、雨の中で何かが芽生えたのだろう。


私が助けられた分彼を助けなくてはいけない。


そんな感じでだ。

私はそれを決断してからそのまま先程の事などもありつつ彼と帰って来た。

彼は自分の家の前で私を見てくる。

それから口ごもった。


「...ありがとうな」

「...え?何がですか?」

「今日はお前に励まされた」

「...」

「...お前が声を掛けてくれなかったら俺は何も変わらなかっただろう」

「...横田くん...」


私は決してだが。

彼が恋愛感情で好きとかではない。

だけど彼はとても優しいとは理解しているのでその部分が好きだ。

だからこそ私は(彼と一緒にご飯を食べましょう)と思ったのである。


「...横田くん。後でお邪魔しますね」

「...え?お邪魔って...」

「そうしないとお夕食が作れません」

「え!?う、うちで作るのか!?」

「それはそうでしょう。効率が良いですから」

「いや。しかし」

「...渋る理由は?」


私は「?」を浮かべて横田くんに聞いてみる。

すると横田くんは自分のうちと私を見比べてから考え込む。

それから観念した様に私に再度向いてくる。

そして私に「部屋が汚いんだ」と言葉を発した。


「あ...そういう事ですか?」

「そうだな。片付けるのが下手なもんで。それで部屋が荒れているんだ」

「そうなんですね。...じゃあ片付けましょうか」

「...え!?しかしそこまでしてもらう義理は...」

「私がしたいって言ったから大丈夫です」


そう言いながら私は一歩近づいて横田くんを笑みを浮かべて見る。

横田くんはそんな笑みを見ながら溜息を吐く。

それから私に向いてきた。


「じゃあお願いしても良いか。俺も協力する」


それから横田くんは鍵を取り出した。

そうしてからドアを開ける。

室内は確かに汚かった。

本などが積みあがっており足元に置いてあるからだ。

雑貨もまばらだ。


「...すまない」

「アハハ。確かに汚いですね」


そう言いながら私はクスクスと笑う。

すると横田くんは「!?」という反応を示す。

それから私の顔を覗き込んだ。

私はその姿についついビックリしてしまう。


「ど、どうされました?」

「あ、いや。...お前さん笑えるんだなって」

「...あ。成程です。そうですね。滅多に笑わないですしね」

「そう。だから珍しいなって思ってな」

「...そうですね」


そう返事をしながら私は横田くんを見る。

横田くんは何故か赤面していた。

私は不思議に思いながらも時間が無かったので気にしない様にしてから腕まくりをしたりした。

それから横田くんに指示をする。


「不燃ごみとかを纏めましょう。それから段ボールはリサイクルとかです」

「...あ、ああ」

「?...どうしました?」

「段ボールはリサイクルなんだな。知らなかった。捨てていた」

「ああ。そうなんですね。まあ確かに間違えやすいですからね。そういうの」


そう言いながら私は横田くんに微笑む。

横田くんは笑みを浮かべながら「意外だな」と声を発した。

意外とは何が意外なのだろう。

そう思いながら横田くんを見ていると真剣な顔をした横田くん。


「そういうの怒られると思ったんだが」

「...まあ私は滅多に怒りませんから」

「...それもまた意外だな。氷の女王と呼ばれているから」

「そうですね。周りが決めつけただけですよ」


そう言いながら私は手を叩く。

それから「早めに全て片付けましょう」と言う。

じゃないと日が暮れる可能性もあるからだ。

横田くんは軍手を嵌めてから私に渡してくる。


「そうだな」

「...軍手、有難う御座います」

「怪我したら駄目だからな。そのピアノの鍵盤でも叩く様な繊細な指が」

「...はい」


(私は彼のこの優しさが好きだな)。

そう思いながら私は張り切って掃除をし始めた。

イヤな事は何一つも見つからない共同作業だった。

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