第32話 果てしない闇の向こうに

☆伊藤信孝(いとうのぶたか)サイド☆


俺は高校を中退した...と言うか指差されてばかりで中退せざるを得なかった。

これも全部負け犬のせいだ。

思いながら俺は激高しながら考える。

それから俺は不良の一味になって仲間に指示をしてから春樹達を襲うように設定したのだが。

予想外のインシデントが起こった。


それは...美海とかいう女が現れてから俺の仲間をボコボコにしていった事。

俺はマジにキレそうになった。

だけど今は落ち着くべきだと思ってから落ち着かせる。

それから負け犬を倒す打算を考える。


「クソが!」


そんな事を呟きながら俺はダァンと音を立てて壁を殴る。

全てが上手くいっていた。

なのにアイツが。

負け犬のせいでこんな不良集団の一味になるまで落ちてしまった。

最悪だわ。

マジに不愉快だわ!!!!!


「おい。落ち着け。新入り」

「落ち着いていられますか?...俺達の仲間がフルボッコにされたんですよ?」

「それは分かる。気持ちが分かるが...だけど今はどうしようもないしな」


俺はゴミが散らかっている様な貸事務所の中で壁を叩く。

クソ忌々しい。

春樹のごみさえ居なかったら俺は柔道部で大活躍だった。

その分の恨みは絶対に返してやる。

そう思いながら俺は妬みを募らせながらバァンとまた壁を叩く。


「...でも確かに俺らの仲間がやられたのは事実っすよね」

「確かにな。...最悪だわ」

「で?その3人の話はもう調べたのか?」

「何かコイツら財閥の関係者らしいぞ」

「なら誘拐すっか?」


そんな感じで話が進む。

俺はその言葉を聞きながら「とにかく俺は横田春樹って奴に復讐したいんで」と切り出しながら仲間を見る。


仲間達は「まあフルボッコにされた恨みは晴らさないでおくわけにはいかないよな」と言いながら煙草を窓から投げ捨てた。

そして飲み物を飲んでから俺達に「まあ取り敢えず作戦会議すっぞ」と言い出したリーダー。

俺達は返事をしながらそのまま集まる。

それから色々と話し合った。


☆横田春樹(よこたはるき)サイド☆


俺はマリンさんを見る。

マリンさんは律儀に畳んで荷物を置く。

その姿から察するに(家の中がとても厳しいんだな)と思えた。

そう思いながら俺はマリンさんを改めて見た。

愛花と一緒に。


「...それで...話って?」


マリンさんが聞いてくる。

俺達は顔を見合わせてから頷き合った。

それからマリンさんに聞く。

「今...何が起こっているんですか」という感じでだ。

マリンさんはお茶を飲む。


「...今は内部が変わってきているよ。須崎シノンが捕まったから」

「...私の父は何をしているんですか。今」

「彼は須崎財閥を叩き壊そうとしているね。何故なら邪魔だから」

「...そうなんですか?」

「須崎財閥はろくでもないもんだって思ったみたいだね」

「...それじゃシウさんは...」

「シウは一切の財産放棄をした。もう今後、関わりたくないそうだ」


そう言いながら俺達を見るマリンさん。

「心配しなくても私は食ったりはしないよ。シウを」と言いながら肩を竦める。

俺達が心配しているのはそこではない。

シウが...また連れて帰らされるんじゃないかという不安だ。

その変な連中に。


「...シウは...彼女はもしかしたら君達の学校に行くかもね。財閥から徹底的に離れる為にお嬢様学校を捨てるらしいから」

「...そうなんですか」

「転校だね」

「...そうなんですね...」

「でも安心して。須崎シウは...まともだよ。あのシノンとは違って」


言いつつマリンさんはお茶を飲み干す。

それから「お変わりあるかな」と聞いてくる。

俺はその言葉に「はい」と返事をしてお茶を淹れに行った。


「須崎シノンは一応、大ダメージだよ。取締役の父親の財閥にとっては前科一犯になるダメージがあるんだ」

「...ああ。やっぱり捕まりますか」

「殺人未遂だからね」

「...暫く出て来なくて良いんですけどね」

「どうかな。警察も甘いから」

「...ですね」


「情状酌量の余地で多分...家庭裁判所に移送されても帰って来るんじゃないかな」とマリンさんは言いつつお茶を飲む。

俺達もお茶を飲んだ。

それから盛大に溜息を吐く。

「どうしたものかな」と呟きが出た。


「まさにそれだね。どうしたものかね」

「...それで佐藤一族は何がしたいんですか?」

「佐藤家はね...良く分からないなぁ。どういう事をしたいのかはね。というかおじさまの頭の中でどう考えているかも分からないから」

「...父はいつだってそう。そして私を捨てたから」

「...愛花...」

「愛を受けたことが無い」


愛花はそう言いながら苛立ちを見せる。

そして「私は名前も呼ばれた事はない」と言いながら目線を逸らす。

俺はその姿を見ながら顎に手を添える。


そうか。

こういう歪があるんだな...今。

そう考えながら。

そして愛花を見る。


「愛花。思い出したくも無いかもだけどお前の家族が聞きたい」

「...私の父も母も。みんな裏切り者だから。お姉ちゃん以外はね」

「...彼方さんは...どうして去ったんだ?」

「お姉ちゃんは会社を引き継ぐ為の女性だったの」

「財閥をか!?」

「そう。だけど上手くいかなかったからくらませたみたいだね」


そう言いながら「それがお似合いだと思うけどね。アイツら。父親と母親には」と言いながら歯を食いしばった愛花。

俺はその姿を見ながらマリンさんを見る。

マリンさんは伸びをしていた。


「私も転校しようかな。...君達の学校に」

「え?でも...マリンさんの親が...」

「どうでも良いよ。あんな親。私は私がやりたい事をする」


そんな感じで言いながらマリンさんはウインクした。

それから「なんくるナイサー」と満面の笑顔になった。

俺達はその顔を見てから少しだけ安心してから笑みを浮かべた。

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