第33話 使い捨て

☆佐藤愛花(さとうあいか)サイド☆


私自身は愛を受けたことが無い。

そもそもこんな名前の癖に愛は...無い。

私はお姉ちゃん以外は信頼していないのだ。

だからこそ。

シウの事が非常に気になる。


「...じゃあ今日は有難うね」

「...気を付けて帰って下さいね」

「彼方さんにもよろしくぅ」

「...気を付けて帰って下さい。マリンさん」


それから見ているとマリンさんが「敬語じゃなくても良いよ。私は同級生だしね」とウインクする。

その姿を見ながら私は「じゃあ気を付けて帰ってね」と笑みを浮かべる。

春樹くんも「マリン。気を付けてな」と言う。


「はいさーい。じゃあね」


そしてマリンさんは帰った。

私達はその姿を見ながら居ると春樹くんが向いてきた。

それから「大丈夫か」と聞いてくる。

私は頷きながら笑みを浮かべた。


「死んでないから」

「...それは俺の台詞だぞ。取るなよな」

「アハハ。春樹くんの名言だよね」

「そうだな」


それから私達は家の中を見る。

そしてコップを片付けてからそのまま掃除をしていると「なあ」と春樹くんが聞く。

私を見てきた。

その姿に私は「?」を浮かべる。


「どうしたの?」

「...大丈夫と思うか?色々と」

「...家の事だったら大丈夫。...許さないし」

「...そうか」


私は力強く言いながら怒りを見せる。

私の家は一か所だ。

彼方お姉ちゃんの家だけ。

そう思っている。

だからこそ。


「...春樹くん。シウはどうなると思う?」

「愛花の事と重ね合わせているのか」

「そうだね。境遇が似ている」

「...確かにな」


そう返事をしながら春樹くんは箒を見る。

そして私を見てきた。

その姿に私は首を傾げる。

春樹くんは「姉を信頼できないのは...仕方が無いよな。この箒と同じ。使い捨ての様な感じに見える」と答える。


「...シウは大丈夫とは思わない。...だけど俺達が何とかしよう。間違った方向に進まない様にな」

「...そうだね」

「...娘とか産まれたらこんな感じなのかな」

「...かもね」


私は返事をしながらコップを洗う。

すると春樹くんが後ろから抱きしめて来た。

私は「どうしたの?」と聞いてみる。

春樹くんは離れて笑みを浮かべる。


「いっそう何だか愛花を守りたくなってな」

「...アハハ。有難うね。春樹くん」

「と同時にアイツも。シウも守りたくなったしな。それに...周りもな」

「...うん」


そう返事をしながら横で春樹くんはコップを拭く。

それから私達は談笑してから私は部屋に戻る。

するとお姉ちゃんが私に向いてきた。

「美海さんに会ったの?」という感じでだ。



「...うん。マリンさんだよね?」

「...そうだね。...何だか...その。懐かしいなって」

「シウの事も知っていたんだね」

「知ってるよ。実は私はシウとシノンを引き取りたかった。だけどそれは生活費の面で無理と考えて私は...シノンだけを引き取らざるを得なかった。そしたらこの様だからね」

「...そうだったんだ」


頷くお姉ちゃん。

私はコップに入ったお水を飲むお姉ちゃんを見る。

お姉ちゃんは苦笑していた、というよりも自嘲しているように見える。

私はその姿に黙った。


「...シウも引き取るべきだったよ。...シノンの為に」

「...須崎はそれでも歪んだと思う」

「...まあそうかもだけどね。何か変わったかもだよ」

「そうかな。私はそうは思わない。浮気からこんな大事件になるとは思わなかったけどね」

「...佐藤一族がクソ過ぎるだけだよ」

「まあ確かにそうだけどね」


「一族は...貴方を見放した。その時点で私は貴方を保護すればよかった。だけどそれが出来なかった。それは...全て私を時期財閥の社長にする為だった」と答える。

私は「!!!!!」と思いながらお姉ちゃんを見る。

するとお姉ちゃんは「愛花は女子だから。私も女の子。知ってる?実は...佐藤一族は皆、男性を望んでいた事を」と言いながら溜息を吐く。


「...やっぱりそういう系?」

「そうだね。社長ならやっぱり男の子だろうねえ。...だけどそれは望めなかった。何故なら母親が膣摘出レベルの病気にかかった。だから産めなくなったから」

「...」

「...私は丁度良かったって思う。バカバカと子供を産んでもらっても困るし。使い捨てカイロ状態だし」

「...あり得ないぐらいクソッタレだね」

「そう。だからこそ私達は引き離されたんだよ。全ては勝る為にね」


「まるで昔のどこかの国の思想みたいだけど」とお姉ちゃんは吐き捨てる。

私は考える仕草をする。

それから「人間のする事には限界がある」と答える。

そして「何でそんな事になったのかな」と言ってみるとお姉ちゃんは肩を竦めた。


「...中国では...地方の貧しい農業では男が勝る。女子は労力にならず要らない子とされている。...一人っ子政策の影でも女性が何人も男児を求めて産んだ事例もある。男子が産まれるまでね。それと似た感じをしようとしたんじゃないかな。父親と母親は」

「そんな事より愛されたかった。...それだけだったのに」

「...まあ私も親に愛されたかったけど。もう今では敵視しているね。父親と母親を」

「...」


だからこそ私はぬくもりを求め身体を重ねた。

そう思える気がする。

私は思いながらお姉ちゃんの前に座る。

お姉ちゃんは「アイス買ってきた。食べよっか」と言ってくる。

そして立ち上がるお姉ちゃんに「私は産まれて良かったのかな」と聞いてみる。


「...愛花。...私は貴方が産まれてとても幸せと思ってる。私は誰よりも貴方を愛しているから。少なくとも父親と母親以上に」

「...」

「...私の娘だよ。貴方は」

「...有難う。お姉ちゃん」


そしてお姉ちゃんは私に笑顔を浮かべる。

私はその笑顔に笑みを返す。

それから決意した。

改めて父親と母親と話をしようと。

それも、いつか、だ。

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