第55話 50パーセントの感謝

翌日、須崎シノンとか愛花から連絡があった。

「叔父様が、父親が亡くなった」とそれぞれからだ。

俺は亡くなった愛花の父親に会う為に病院までやって来る。

それから病室のドアを開けると彼方さん、愛花、須崎シノンが愛花の父親を見ていた。

愛花が俺を見てから苦笑する。


「まあ涙も出ない。...多少は寂しいけど」

「...」

「私って鬼畜かな?」

「当たり前の反応だと思う。それは。...お前の親父さんはボケる前にかなりクソッタレな真似ばかりしていたしな」

「...だね」


そう言いながらの愛花は溜息を吐く。

須崎シノンが俺を見てくる。

「春樹。貴方には感謝してる」と言う。

俺はびっくりしながらその顔を見る。

今何つった。


「お前らしく無いな。須崎」

「私だって感謝の時は感謝する。今回は...貴方が居なかったら何も出来なかった」

「...」

「感謝する。私は...未熟な半端者だから」


須崎シノンはそう話した。

それから須崎シノンはまた愛花の父親を見る。

最後に彼方さんが俺に向いた。

そして頭を下げてお礼を言ってくる。


「ゴメンね。出会った頃...いや。それ以前から争いに。いざこざに巻き込んでしまって。...私、貴方に出会えて幸せだよ。春樹くん。...感謝してる」

「...いえ。こんな結末になるなんて予想外でした。...こっちこそ愛花の件で有難う御座います」

「...葬儀は明日ぐらいになると思う。...君は出席するかしないかは決めて良いからね。...自由に。初めの頃にこの男がしたのは...紛れもない君への妨害だったから」

「はい」


そして俺は最後に愛花の父親を見る。

愛花の父親は安らかに眠る様に死んでいる。

俺はその姿を確認しながら見ていると看護師さんとこの前のお医者さんが病室にやって来た。

それから頭を下げてくる。

すると愛花が先に口を開いた。


「...先生。有難う御座いました」

「ベストに...治療を施したのですが残念です」

「いえ。先生のせいじゃないです。...父親の体力が元から弱っていましたから」


愛花と彼方さんはそう言いながら先生を見る。

看護師さんがケアをしてくれながら死後硬直などを防ぐ為にタオルなどを取り替えたりしていた。

俺はその姿を見ながら目線を逸らす。


「ねえ。春樹」

「...何だ。須崎」

「ちょっと表に空気吸いに行って良い」

「...お前の自由にすれば良いじゃないか。俺も行くのか」

「...まあ」


そして俺は須崎シノンと一緒に病院の屋上にやって来る。

そこには子供達。

つまり小児病棟で入院していると思われる子供が居た。

看護師が洗濯物を洗っている。

その姿を眺め見ながら「何の用事だ」と須崎シノンを見る。


「...正式に貴方に謝りたいから」

「...浮気の件でこうなった事とかか」

「そう。...私は貴方に無数に謝らなくてはならない」

「...」

「...その中で先ずは浮気した事を謝っておく必要がある」

「良いよ。もう謝らなくて」


俺はそう言いながら須崎シノンを見る。

コイツが幾ら謝った所で世界は変わらない。

伊藤もそうだが。

何も変わらないから。


「...何故いきなりなんだ」

「貴方に感謝の思いを口にするには。先ずはこの歴史、過去を全てを精算しないといけない」

「...」

「だから先に謝っておく」

「お前が幾ら謝ってももう全てが遅い」

「...」

「...だが。お前は反省を初めて示した。お前の身もそうだが」

「...」


「俺としてはお前のその反省の気持ちをずっと持ち続けて生きてほしいとは思う」と告げながら俺は須崎シノンを見る。

須崎シノンは「...」となりながら目線を俺から逸らして空の彼方を見る。

すると「こくはくー?」と声がした。


「...?」


それは子供だった。

さっき遊んでいた子供が集まって来ていて俺達に向いていた。

俺は「...ああ。違うよ」と言う。

須崎シノンも「違う」と否定をする。


「そうなのー?つんでれ?」

「...良く知っているな?君ら」

「まんがでよんだー!」

「...」


すると看護師がやって来て「こらこら。お邪魔でしょ」と言いながら子供達を連れてから「すいません」と頭を下げてから去って行った。

俺達はその姿を消えるまで眺めていると須崎シノンが「...もし浮気しなければ私もこんな感じにならず。貴方もまともで...全てが上手くいっていたのかもね」と自嘲交じりに口を開いた。

俺はその言葉を聞きながら「どうかな」と肩を竦める。


「それにまあそもそも私が一番最初から貴方に会わなければ良かったんだとは思う」

「そいつはどうかな」

「...何故?」

「俺はお前に出会わなければきっと愛花も知らなかった。きっかけは無かった。半分は感謝している」

「...」


俺はそう言いながら須崎シノンを見る。

そして靡く洗濯物を見た。

太陽に輝き。


全てが...祝福の様にある。

だけど今日は愛花の父親が亡くなった。

だから余り能天気には居られない。


「...春樹」

「...何だ?」

「全てがこうなったけど。貴方に祝福が今は訪れる事を祈っている私が今は居る。...だから頑張って生きて乗り越えて」

「...言われなくても愛花が居るから」

「...そう」


須崎シノンは杖を突いてからその場を去る。

俺もその背中を追う様にしてから屋上...というか。

洗濯場から去った。

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