第54話 その少女

☆横田春樹(よこたはるき)サイド☆


佐藤一族が滅んだ。

というか全ての事業を譲り渡したり事業停止、廃止などをした。

その為...愛花が莫大な資産を受け継ぐ...筈だったが。

愛花は全てを手放す事にした。

俺は「全て愛花が決めてくれ」と話をした。


『成程な。それで100億円か。...まああの親父さんらしいな』


俺は病院の待合室で斗真とそう話す。

斗真は「...それで今夜が峠って事だったよな?」と聞いてくる。

その言葉に俺は「ああ...そうだな。腎臓の機能も落ちていってる」と返事をする。

斗真は「そうか」と言葉を発してから考える様に言葉を発しなくなる。


『...まあ正直...もうもたないだろうとは思ったけどな』

「そうか」

『ああ。倒れてからおかしかったもんな。色々と』

「...」


そんな言葉を発しながら居ると病院の自動ドアが開いた。

それからそこに...え?

俺はスマホを落としてしまう。

こ、コイツ。


「...春樹...」

「...須崎...!!!?!」


俺は愕然としながら須崎を見る。

須崎シノンを。

斗真が『どうした?』と話してきたので斗真に「すまない。用事が出来た」と言ってからスマホを切る。

そして須崎シノンを見る。


「お前は何をしているんだ」

「見て分かる通り...叔父様が弱っているっていうから」

「そうか」


ガリガリに痩せている。

杖をついている。

そして...眼鏡を掛けていた。

どうも視力が落ちている様だが。

俺はその姿を見ながら「...しかし...」と言う。

すると須崎シノンは「知ってる。...家族が居るでしょ」と言う。


「...少しだけでも会えないかな」

「...お前をその叔父様に会わせるのは簡単だよ。だけど...多分否定する」

「そう。...じゃあ無理だね」


そして踵を返して去ろうとするその背中に「待て」と言う。

すると須崎シノンは「何」と聞いてくる。

俺はその背中に顎に手を添える。

それから須崎シノンを再び見てみる。


「取り敢えず...愛花に交渉してみる」

「...私はそんな交渉の融通が利く人間じゃないよ」

「そりゃ見れば分かる。...だけど今のお前の姿を見て放って置けない」

「...優しすぎる。...穴を突かれるよ」

「それは百も承知だが。...だがお前は昔と違う様だ。...取り敢えず交渉する」


俺はそう言いながら須崎シノンと一緒に病室に向かう。

すると愛花は酷く驚愕し。

彼方さんは「...!」となっていた。

その中で。

何とか須崎シノンは叔父様とやらに会えた。



「...春樹。どういう事」

「それは俺が聞きたい。何でこんなにボロボロになっているのか」


俺はそう愛花に返事をしながら椅子に座っている須崎シノンを見る。

須崎シノンは意識不明になってきている愛花の父親の手を取っていた。

そして静かに見ている。

彼方さんは須崎シノンを見ていた。


「...須崎」

「...何。愛花さん」

「何で貴方はそんなにボロボロになっているの」

「私がボロボロなのは気にしないで良い。...説明してもどうにもならない」

「...そう」


そして須崎シノンはまた愛花の父親を見た。

それから何かを決心した様に立ち上がる。

そうしてから杖を手に取った。

俺達に頭を下げる須崎。


「...私がこうなったのはオーバードーズのせい。...薬の飲み過ぎでビルから飛び降りた。それも原因で右足が不自由になった。...まあ自分のせい」

「...つまり退院してからか」

「そうだね。...私が弱かったから飛び降りた。...だけど今となっては頭打って足売って正解だったと思う。...目が覚めた」


それから「じゃあ」と言いながら帰ろうとする須崎シノンに愛花が肩を掴んだ。

そして「待ちなさい」と言う。

須崎シノンは「?」を浮かべて愛花を見た。

愛花は「今のアンタなら信用できる」と言いながら「アンタもこの成り行きを見守って」と言う。


「...でも私は」

「お姉ちゃんが居るから良いでしょ」

「...そうだけど」

「...今日が峠だから。居たら良い」

「...」


須崎シノンは「そう」と言いながらまた右足を引き摺ってから丸椅子に腰掛けた。

それから愛花達を見る。

俺はその様子に立ち上がった。

それから「大人数だと大変だから」と言いながらそのまま帰宅の準備をした。


「...最後かもしれないしゆっくり家族で過ごしてくれ。何かあったら直ぐ飛んで来るから」

「...春樹」

「何だ?愛花」

「...有難う」


愛花を見る。

そんな愛花は笑みを浮かべていた。

俺はそんな3人に笑みを浮かべ手をひらひらさせてからそのまま帰宅する。

オレンジ色の夕日が俺を照らしている。

結局、打ち上げも行けなかったがまあこれはこれで有意義な時間だな。


そう思いながら俺は玄関の鍵を取り出す。

それから室内に入る。

そして...風呂場にスマホを持ち込み考え込んだ。

須崎シノンの自殺未遂...か。

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