第53話 救いを求める者に

父親が何を考えているのかさっぱり分からないが。

100億円の資産とかが私のものになりそうだった。

私はその事が嬉しいわけではない。

何故かといえば100億円もあってもどうしようもないのである。

それに父親が何を考えているのかすらも分からない。


「母親が...嫌いなのは分かったけど。...だからといえいきなり100億円近くを相続って馬鹿な話」

「...そうだね。...それに何故それが愛花なのかだね」

「私はそんなお金は要らない。...だって春樹も居るし。...どうしよう」


そう言いながら私は病院の待合室で悩む。

今現在、私とお姉ちゃん。

そして春樹は...父親の処置を待って居た。

正直...これまでの非道を考えると死んでも良いとは思っていたのだが。

何故私に100億円もの資産と土地を...残そうと思ったのか訳が分からない。


「...愛花」

「...何?春樹」

「どうするんだ。...多分相続するそれを」

「...私はそんな気味の悪いものは要らない。必要な分を残してどこかに寄付しようかと思う」

「お金は要らないのか」

「要らない。...土地もお金も。...貴方が居ればそれで良いの。永遠を共に歩む人さえいれば」


私はそう春樹に言う。

それからお姉ちゃんを見る。

お姉ちゃんは苦笑しながら私の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。

「我が妹ながら偉いね」と言いながらだ。

私は「お姉ちゃんは要らないの。お金」と言う。


「...持っていて仕方がないならそのお金で困っている人を助けてあげた方がマシだね」

「お姉ちゃん...」

「言い方が悪いけど呪われていると思う。まあでもお父さんがそう言うなら自由にしたらいいと思うし。訳が分からないけどね」

「お姉ちゃんは相変わらずだね」

「私もお金には困って無いっていうかどうせあぶく銭だし...それに」

「それに?」

「私が貴方なら寄付すると思う。同じ行動を取ったと思う」


お姉ちゃんは顎に手を添える。

それから笑みを浮かべた。

私は格好をつけているその姿に苦笑いを浮かべながら春樹を見る。

春樹は私を見ながら笑みを浮かべている。


「...お金があるから幸せじゃないな。...私は...春樹が、お姉ちゃんが居るから幸せと思っているから。...だから手放すよ」

「...凄いな。お前は」

「困っている人を助けたいって元から思っていたしね」

「...そうか」


春樹は缶コーヒーをあおる。

それから缶コーヒーのカンをリサイクルボックスに入れながら「そろそろかな」と言いながら目の前を見る。

看護師さんが忙しなく父親の病室を行ったり来たりしていたのが収まってきたのだ。

私はごくりと唾を飲みこむ。

そして目の前を改めて見つめる。


「...そうだね。春樹くん。もう直ぐかもね」

「...ケリがつくかどうかですね」

「そうだねぇ...でもいずれにせよもう父親は昔の父親の様にはきはき動くことは出来ないからね。だからあまり心配は要らないと思うけど」

「...」


春樹は考える仕草をする。

私はその姿を見ながら椅子の背もたれに寄り掛かる。

それから私は考え込んだ。


正直、家族が死ぬかもしれないってのにこんな感情とはな。

何も思わない感情とは。

そう思いながら私は天井を見上げる。


すると看護師さんとお医者さんがやって来た。

それから私とお姉ちゃんを見る。

「ご家族の方ですか」という感じで言ってくる。

私達は顔を見合わせてから「はい」と返事をする。


「お父様のご容態ですが」

「...はい」

「正直、あまり芳しくないですね」

「...やはりですか」

「はい。...状態が宜しく無いです。今夜が峠かと」

「...」


やはり何の感情も湧かない。

正直(ああそう)的な感情だ。

そう思いながら私はお医者さんを見る。


看護師さんが書類やら検査結果などを見せてくる。

実感も湧かないものだ。

お姉ちゃんが聞く。


「...全ての手は施しているんですか」

「勿論。...だけど今回は本人の気力次第かと思います」

「...そうですか」

「彼は非常によく頑張っています。...ですが...」

「そうなんですね」


お医者さんは「尿なども出ていますけど体が恐らくは...」と考える。

私達は顔を見合わせながら「大丈夫です」と言う。

それから「最善を尽くしているというのはよく分かりましたし...有難いです」とお医者さんに告げる。

その言葉に悩んでいたお医者さんは悩むのを止めた感じで顔を上げた。


「...最善を最後まで尽くします」

「感謝致します」


そして私達は頷き合いながらお医者さんと看護師さんを見る。

お医者さんは頭を下げて会釈してからそのまま廊下を歩いて去って行った。

私はお姉ちゃんを見る。

お姉ちゃんは自嘲していた。


「...あんだけ父親は迷惑を掛けてきたのにいざこうなると...どうしようと悩むのは最悪だね」

「そうだね。お姉ちゃん」

「...そういうもんです」


それから私達は立ち上がってから看護師さんに誘導されるまま、また父親の病室に戻って来た。

そして処置が終わった父親を見る。

父親は呼吸器を装着したまま寝ているが...これで今夜が峠とは。


「面会時間は...大変申し訳有りませんが5分です」


そう看護師さんに言われた。

それから私達は顔を見合わせてから父親を見る。

そして少しだけ3人で話をその場でした。

父親に聞こえる様にだが。

何故そうしているのかも分からない。

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