第51話 ただ1つの

☆横田春樹(よこたはるき)サイド☆


絶望しか無かったこのクソッタレな世界が落ち着きつつある。

まあ...とは言ってもまだ色々とやるべき事は有るのかもしれないけど。

そう思いながら俺は教室に戻って来た。

それから教室の仕事の手伝いなどをしてから残りの時間を過ごしていた。


「春樹」

「うん?どうした」

「いや...実はね。また父親が体調が悪くて入院したらしくて」

「...さっきの連絡はそれか」

「そうだね」

「...どうする?お見舞いとか行くか?」

「...だけど春樹は嫌でしょ?...まあ私も嫌だけど」


そう言いながら愛花は目の前を見る。

コップとかを洗っていた。

俺はその姿を見ながら「...まあ前の親父さんじゃないみたいだし。...行ってみるよ」と告げた。

すると愛花は驚きながら顔を上げる。


「...父親に会うの?」

「まあもうかなりボケている様だしな」

「...春樹はお人好しだね」

「お人好しっていうか...まあただのアホだから」

「...」


愛花は「分かった」と返事をした。

その後にクラスメイトに呼ばれたので俺に挨拶して駆け出して行った。

俺は考える。


クソッタレな親父さんではあるけど。

仮にもどうあがいても家族だ。

その点を考えてみた。


「...俺の思いをぶつけているだけかもしれないけど」


そんな事を言いながら俺はコップを握った。

それから洗い終わったコップを戻しながら居ると「よ」と声がした。

見ると斗真が居る。

俺を見ながらアフロ姿で立っていた。

何やってんだコイツは。


「いやー。お前が気分的に沈んでいるって感じだったからな」

「遊んでないで助けろよお前よ」

「俺だって至って真面目だぞ。いい加減にしろ」

「何で俺がキレられているんだ」


全くコイツは。

そう考えながら俺は苦笑しながら斗真を見る。

斗真はアフロを取った。

それから「聞いたよ」と言い始める。

俺は「?」を浮かべた。


「...佐藤のおじさんが調子悪いんだってな」

「...ああ。お前も聞いたのか」

「まあ半分だけな」

「...お前だったらどうする?斗真。病院に行くか?」

「まあ俺だったら...どうすっかな」

「...だよな。悩むよな」


斗真は顎に手を添えながら「まあ俺は兄貴が家族だって思っているから。兄貴が倒れたらそれなりに対応するけど仲があまり良くない親父が倒れたら何か対応に困るな」と言いながらサングラスを取る。

真剣さが伝わって来ねぇ。

思いつつ俺は苦笑いを浮かべる。


「まあでもいずれにせよ家族だってのは切り離せない。その点を考慮して...どうするか考えるべきかな」

「...そうだな」

「家族ってのは...何つーか。あれだな。本当に困ったもんだよな」

「...ギャンブル依存の父親と母親を持つ身としては...そうだな。困ったもんだと思うよ。家族ってのは」

「心中をお察しするよ。お前の事は」

「...有難うな。斗真」


「...生き辛い世の中だよ。本当にな。...だけど俺は今が幸せだ。中学校時代にぼっちゃんとか金持ちとかひいきされていたしな。今はそれが無いから幸せだ」と笑顔になる斗真。

すると表から「ゴメン。横田くん。給仕を手伝ってくれる?」と女子の声がした。

俺はその言葉に「はいはい」と返事をしてからそのまま斗真に向く。


「じゃあ行ってくるから」

「おう。気を付けてな。俺も後で手伝いに行くから」

「でもお前。コスプレで忙しいじゃないか」

「これはコスプレじゃねーよ。人生だ」

「何を言ってんだお前は」


そう言いながら俺は苦笑いを浮かべる。

それから俺は「んじゃ」と手を挙げて斗真を残してから表に出た。

そして給仕をしながら考える。

「そうか。斗真はそう考えているんだな」と呟いた。



私の父親が再び倒れたらしい。

正直、私にとっては天罰としか言いようがない。

そして私にとっては関りは無い。

考えながら給仕をするが。


何か手が付けられない。

それはまあ...原因としては父親が倒れたせいだ。

あんなにウザい存在だったのに。

何故こんなになるのだろうか。

本当に狂っているな私は。


「大丈夫か。愛花」

「...うん。大丈夫だよ。春樹」

「気になるんだったら休んで良いぞ」

「私がおかしいだけだから。大丈夫」

「...それは気になるな」


「うん。でも大丈夫。本当に」と言いながら私は春樹を見る。

すると春樹は後頭部を掻いた。

それから「駄目だ。やっぱり休んでくれ」と私の頭に触れる。


「...春樹...」

「お前が倒れたら意味がない」

「有難う。...だ、だけど」


愛花はそう言いながら恥ずかしそうに周りを見る。

そこには成り行きを見守っている客。

そしてクラスメイト達が居た。

俺は顔を引き攣らせた。

そうかここは会場だって事に気が付かなかった。


「いやはや。この展開は想定内ですな」

「イチャイチャすんなクソが」

「死ね!!!!!」


クラスメイトの男子達は目を三角にする。

そんな罵詈雑言を浴びさせられる俺。

何というかそんなつもりは無かったので解釈するのが大変だった。

全く俺とした事が油断した。

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