第11話 見渡せる世界

☆佐藤愛花(さとうあいか)サイド☆


度重なる色々な事で私は何だか気が狂った様な感じになってしまった。

これが春樹くんのせいでは無い事は知っている。

だけど私はどう接したら良いか分からない。

授業までサボって私は何をしているのだろうか。

私は深呼吸をした。


それから深く息を吐き春樹くんに向く。

そんな春樹くんはベンチで外を眺めていた。

私もその方向を見てみる。


青空があった。

一点の曇りもない青空だ。

その空を同じ様に眺め見ているといきなり春樹くんの声がした。


「俺は女性が嫌いだった。須崎。アイツのせいで苦手だったんだ」

「...?」

「...それを変えてくれたのはお前だ。愛花。...悩み事があったら話してほしい」

「...春樹くん...」

「まあでも本当に話せないなら...無理はしないでくれ。ただ悩み事は抱えない方が良いと思うぞ」

「...そうだね」


そう言いながら私は深呼吸をもう一回した。

それから息を整えてから春樹くんに向く。

「ある人の話だけど」と言いながらだ。

ぼかさないと厳しい。

話せない。


「ある人?それは...親戚か」

「...親戚というか知り合いだね。...その人の事なんだけど」

「...ああ」

「...その人は知り合いの事で悩んでいるの」

「...その人の知り合いって事か」

「そうだね。...それでその人の知り合いの人が何だか優しいの。そして...その人の事が...事が」

「ああ」


言えなかった。

あまりに恥ずかしい。

まさかそういうのが私の中に微塵もある訳がない。


何故かって?

この私だからあり得ない。

それに私は誰かに頼ってはならないのだ。

そう思っていると春樹くんが遂に口にした。


「...好きだったりするって事か」

「...あ...」

「...え?」

「う、うん。そうだね」

「そうか。それは困った問題だな」


多少は鈍感で助かった気がする。

私はホッとしつつ思いながら風に吹かれる。

心地良い風だ。

今は3月なので少しだけ肌寒いが。


「その問題」

「...うん?」

「お前...結局、人が困っている時に寄り添えるじゃないか。愛花」

「...え?い、いやそういうつもりじゃ」

「それにいつの間にか敬語も無くなったしな」

「...あ」


私は我を忘れていた。

そして敬語が消滅していた。

私は「あう...う」と言いながら赤くなる。

それから頬を朱に染めたまま横を見る。

春樹くんから視線を外した。


「でもお前は敬語が無い方が良いよ。...だってお前らしくない」

「私らしくない?」

「堅苦しい。...って感じかな」

「...そうかな」

「そうだな。もう大丈夫だよここでは」


その瞬間。

私の中で不安の種が弾き飛んだ気がした。

やはり私は彼の優しさが必要だ。


だけどまだ認める訳にはいかないし。

彼も忙しい。

だからこそありえないだろう。


「...私は敬語を使わないと生きていけない」

「...そうか」

「...筈だった」

「...筈だった?」

「うん。...その呪縛を解放したのは貴方だった」

「いやいや。俺は何もしてない」


そう言いながら春樹くんは苦笑いを浮かべる。

私は首を横に振る。

それから笑みを浮かべながら春樹くんを見る。

春樹くんのその笑顔が太陽よりも眩しい。

サボって良かった気がする。


「しかしそれはそれとして...どうするこの後。休み時間まで残りは20分もあるぞ」

「サボっちゃったから。...どうしようか」

「...うーん」

「私達が途中で戻っても...だけど」

「でもまあそうは言えど何もする事が無いから戻るか?」

「春樹くんが言うなら戻ろうか」


私はにこやかに返事をする。

それから私達はそのまま立ち上がる。

そして階段を降りる際に春樹くんが手を伸ばしてきた。

私に手を伸ばしお姫様の様に扱う。

その事に私は少しだけ赤面しながら手を握った。


「...有難う。春樹くん」

「...ああ。気にすんな」


それから私達は教室に戻るとその時間は自習になっていた。

教師が休みであり適当な感じの先生が来ており。

特に教室で悪い噂は立たなったしその先生に怒られもしなかった。

私達はラッキーと捉えながらそのまま椅子に戻る。

クラスメイトもそうだが教師にも保健室に行っていたものと誤解された様だ。


それから私は自習を始める。

そうしているとあっという間に時間は過ぎ。

そのまま自習の時間は終わった...のだが。



「ねえねえ。佐藤さん」

「...え?伊藤さん...な、何?」

「どこに行っていたの?白馬の王子様と」

「は、はい!?」


私は飛び上がる。

それから丸眼鏡をしている私達のクラスのクラス委員の女子の伊藤紅葉(いとうもみじ)さんを私は見てくる。


丸眼鏡にポニテの少女である不思議な女の子。

いきなり話し掛けてくるとは...その良いんだけど。

その、わ、話題が。

私は赤面しながら「そういうのじゃないよ」と否定するが。

伊藤さんは首を捻った。


「それは無いと思うんだよねぇ」

「...私は普通だよ?」

「まあ先ずは敬語が無くなったよね?」


ギクゥッとした私。

それから伊藤さんにまじまじと観察される。

それもジト目で全身をだ。


誰か助けてほしい。

こういう人は苦手だ。

そう思いながら私は引き攣った感じを見せた。

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