第28話 ちゅらかーぎーね

☆佐藤愛花(さとうあいか)サイド☆


何をしているのか私は。

でも心地良かった。

あんな心地良い経験はもうできないだろうとは思う。

そう思いながら私は恥じらいつつ春樹くんを見つめる。

春樹くんも居心地悪そうな感じでモジモジしていた。


私達は翌日になって部屋に戻った。

その間もずっと今日の深夜にやった事が忘れられなかった。

心地良かった本当に。

身体を重ねるとはこんな感じなのだな。

そう考えながらデートの為に外に出ていた。


「愛花」

「は、はい」

「...その。夜中にあった事は内緒にしておこう。じゃないとまたみんなに迷惑が掛かると思うから」

「...うん。だと思う」

「今は...やっぱりすべき時じゃ無いんだと思う。心地は良かったけどな」

「そうだね。春樹くん」


それから私達は電車に乗り込む。

そして私達は電車に揺られながら旅に出る。

どこに向かっているのかと言えば水族館である。

この街には水族館は存在しないので隣町に行く事になる。

私達は無言のまま揺られていた。


そしてリズムに合わせて私は春樹くんに寄り添った。

それから私は春樹くんの手を握る。

すると春樹くんも握り返してくれた。

私はその事が嬉しくてさらにまた握った。


「...私達は幸せになれるかな」

「...ならないとおかしいんじゃないか。やっぱり」

「...だよね。うん」


まだ怖いものは消えて無いけど。

だけどきっと...。

そして窓から外を眺めていると「あれ?お前」と声がした。

顔を戻すとそこに坂本君が居た。

誰か女子を引き連れている。


「ああ。お前彼女作ったのか?」

「違うよ。コイツは腐れ縁の幼馴染の渋谷美海(しぶやまりん)だ」

「はいさーい!!!!!」

「...沖縄か?」

「そうだよ~!もしかしてそっちは噂の!ちゅらかぎーね!」


私に目を輝かせる沖縄の様な少女。

日焼けが特徴的でおめめぱっちりの美少女だった。

短髪であり短いズボン。

3月なのに寒くないのだろうか。


「全くな。コイツ煩いだろ?3月だってのにTシャツ短パンだしよ」

「あー!そんな事言うの!さかもっちゃん!」

「ハハハ。良いじゃないか。坂本。っていうか安心したわ。お前にも一応...」

「あ?ああ。俺とマリンはそんな関係じゃ無いぞ」

「え?違うの?坂本くん」

「んな訳あるか。この可愛さに釣り合わねぇしな」


私はマリンさんを見る。

マリンさんは苦笑しながらも残念そうな顔をしている。

あれー?

私は「???」を浮かべながら坂本くんを見る。

「ところでお前らどこに行くんだ」と聞いてくる坂本くん。


「ああ。デートだ」

「ほほう?じゃあもしや水族館か?なら俺達も目的地はそこだぞ」

「なら一緒に回ろうか」

「良いのか?佐藤」

「良いよ。...坂本くんとなら」


というか正確にはそれが目的ではない。

マリンさんの心を見てみたい。

そう思いながら私達は水族館のある駅で降りる。

改築されておりなかなかきれいな駅だ。


「ああ。こんななってたのな」

「うーん。良い感じだね!」

「そうだな。まさかお前らと一緒だとはな。目的地が」

「そうだね」


私はその中で考えていて答えを出す。

それから「マリンさん」と声を掛けた。

マリンさんは「うん?」と言う感じで反応してくる。

私は2人に「トイレ行って来るね」とマリンさんの手を握ってから連れて行く。


「お、おう?」

「そうか」


そして私は女子トイレにマリンさんを連れて行く。

「ど、どったの?」と言ってくる彼女を私は見てみる。

マリンさんに聞いてみた。

「坂本くんが好きなの?」と、だ。

するとマリンさんは急速に真っ赤になった。


「ふぁ?そんな訳はないさー!?」

「...私達、坂本くんにはとってもお世話になった。だからその。お返ししたい」

「...それは...」

「うん。あの人は何時も助けてくれるから」

「...そうなんだねー」


マリンさんは苦笑した。

それから「うんうん。でも私は無いさー」と言ってくる。

私は顔を上げて「?」を浮かべる。

するとマリンさんは「私はさかもっちゃんとは付き合えないよ」と言った。


「何故?」

「...私が告白なんてしたら彼は困るだろうから。...私、本当に成績アホな高校生だからねぇ」

「...そんなのやってみないと分からないでしょう」

「...うん。だけど分かるんだー。私は駄目だってのが」

「...」


私はジッとマリンさんを見る。

それから首を振った。

マリンさんはとても可愛いし。

それから優秀そうに見えるし優しそうだ。


「大丈夫。水族館でも良い。告白しようよ今日で」

「...へ、へ!!!!?」

「私は...応援したい」

「...ま、ぇ、でも待って!?私、ちゅらかぎーねじゃないよ!」

「そんなの関係ない。...愛を伝えるのに」


するといきなり「その通りだ」と声がした。

顔を上げると春樹くんが居た。

笑みを浮かべながら肩を竦める。

「そういった事なんだな」と言いながらだ。


「マリンさん。俺も告白した方が良いと思う。じゃないと鈍感っぷり。アイツは...一生あのままだ」

「え、え!?で、でも!?」

「私は伝えるべきだと思う」

「そうだな。愛花」


そして私は彼女の手を握る。

それから「戻ろうか」とそのまま坂本くんの元に帰る。

すると坂本くんはスマホを弄る手を止めて笑みを浮かべた。


「何をしていたんだお前は。マリン」

「え、い、い...え?」

「よそよそしいな?何だよ?」

「な、なんくるないっさ!?」


声が上ずるマリンさん。

私は春樹くんを見る。

春樹くんも苦笑しながらも作戦をニヤッとして練っている様だ。


どこで告白に導くか。

そして坂本くんに気が付いてもらうかを。

まさにヤマト作戦だった。

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