第6話 死愛
☆須崎シノン(すざきしのん)サイド☆
私は春樹がつまらない人間だと判断してそのまま春樹の友人と愛し合った。
その時点で私は多大な勝ち組である。
だからこそ胸を張ってから春樹の住んでいるマンションに来た。
それから春樹の家のインターフォンを押す。
「はい...あ?」
「春樹」
「...何だお前は。何をしに来た。死にたいのか?」
春樹にそう言われながら私は見下される。
正直確かに寝取られたのは良くないって思うよ?
だけどね私は春樹に飽き飽きしていたから。
思いながら私は春樹を見る。
「私は貴方と別れたい」
その言葉に怒るかと思ったのだが。
春樹は予想外の事を言った。
それもかなり悲しげな顔でだ。
哀れみの目でも無いが。
「...自分が悲しくならないか?」
という感じでだ。
私は「!」となりながら春樹を見る。
そして春樹は首を振りながら「別にそれは受けるけど。悲しくならないか?」と聞いてくる。
それから春樹はドアを閉めようとする。
それだけ?
「...ねえ。私の事を怒ったりしないの」
「しないよ。虚しい」
「...あっそ。随分と変わったもんだね」
「...変わったんじゃない。...考え直した結果だ。全ては結果なんだ」
「...そう。じゃあさいなら」
「...ああ」
そして玄関が閉じられる。
もっと怒ってくれるかと思ったのだが。
それは無かったな。
虚しいものだ。
だけどこれでようやっとあの人と付き合える。
そう思いながら足早になりながら帰った。
☆横田春樹(よこたはるき)サイド☆
何でアイツはあんなのなのだろうか。
意味不明だし気持ちが悪い。
思いながら俺は玄関で崩れ落ちた。
それから玄関の戸を背にしながら時計の音を聞く。
俺がおかしいのか?
そういう態度をする俺が。
だけど俺がおかしいなら何がおかしいか分からない。
思いながら俺は俯いていると電話が掛かってきた。
それは...愛花だった。
「...もしもし」
『もしもし。ゴメンなさい。ちょっと忙しいので電話でしました...どうしたんですか?』
「...何でもない。...ちょっと虚しいだけだ」
『...また行きましょうか?』
「そうやって何度も来なくて良いぞ。忙しいだろう」
『でも春樹くん何だか元気がないです』
「それは気のせいだよ」
そう言いながら俺は天井をスマホを持って見上げる。
それからまた俯いた。
そうしてから自嘲しながらそのまま立ち上がる。
そして俺は愛花が去った綺麗になった部屋を見渡しながらソファに腰掛ける。
本当に綺麗になったなこの部屋。
『...春樹くんが元気無いのは不安です』
「大丈夫だ。すまない。一次的な鬱だと思うから」
『それだったら良いんですけど。...その。今日は有難う御座いましたって言いたくてですね』
「そうだったんだな。うん。有難うな」
『...本当に大丈夫ですか?』
「あくまで死んでない。だから大丈夫だよ。...だけど...疲れた時にパワーをくれるか」
『...え?』
何だ今のは。
無意識にそんな言葉が出ていた。
何でそんな言葉が出たのか分からないが。
思いながら俺は「何でもない」と言いながら否定する。
だが愛花は『分かりました』と返事をする。
「え?分かりましたって...」
『分かりました。...ぱわーが欲しいならあげます』
「どうやってだよ?ハハハ」
『冗談じゃ無いです』
俺はビックリしながらその言葉を受ける。
それから愛花は沈黙した。
数秒経ってから外を見ている俺に言葉を発してくる。
嬉しそうな感じで恥じらう感じでだ。
『壁に手を添えて下さい』
という感じでだ。
俺は「???」と思いながら隣の部屋に行けそうな壁に手を添える。
それから俺は愛花に「添えたぞ」と答える。
すると愛花はまた言葉を言わなくなった。
そうして1分が経つ。
「待て。愛花。何をしているんだ」
『壁に手を付いて祈りを込めています』
「ああ。そういう事...ってなんでやねん。何をしているんだ」
『以心伝心です』
「...お前は訳が分からない少女だな」
『私はこういう性格の女子です。...ただ今までが静かだっただけです』
「...そうか」
それから俺は目を閉じる。
そして以心伝心を感じ取る。
何をしているかも分からない。
だけど俺にとってはそれは...落ち着く様な薬であった。
不思議なものだなコイツは。
「ところでお前は何をしているんだ?忙しいって言っていたけど」
『...アハハ。色々あるんです。女の子には』
「...そうか」
『そういう事です』
(事情を聞かないでほしい)
そう聞こえた気がしたので俺は黙る事にした。
俺は眉を顰めながら前を見る。
それからただその一言を添えてみる。
窓から外を見ながらだ。
さっき...愛花が触った窓に触れる。
「頑張れ」
そう言った。
すると愛花はその言葉に驚きながらも穏やかな感じでこう言った。
『有難う御座います』とだ。
そして俺達は電話を切る。
俺は画面が映ってないスマホを見ながら外を見た。
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