第8話 お弁当

☆佐藤愛花(さとうあいか)サイド☆


心臓が高鳴る。

それからただただ胸の中でときめいていた。

その理由は分かる。

こんな事を思っては駄目だけど。

春樹くんが彼女と別れたのが嬉しいのだろう。


それはあくまで(好きだから別れて良かった)とかではない。

ただ...これだけ心配していた身だ。

だからこそ彼の幸せを願っているからこそ(良かったな)と思っているのだ。

そんな事を考えながら私はライトノベルに触れる。


彼は...このライトノベルを貸してくれる優しい人だ。

異世界転生もの...か。

初めて見るけどこれは面白い気がする。

主人公が女性だ。

私の人生と似通っている部分がある。


「うん。面白いな」


そんな事を思いながら私は笑みを浮かべながら明日に備えて寝る事にした。

それから翌日になってから準備をしてからは止めに家を出る。

私がこうして早めに家を出ているのには理由があるが今日はもっと理由があった。

それは約束した事を叶えるためだ。

今日は...午前5時に起きた。


ドキドキしながらインターフォンを鳴らす。

すると制服姿の春樹くんが出て来た。

私を見ながら驚いて目をパチクリしている。

あれ?忘れたのだろうか。


「春樹くん」

「...あ、ああ。どうしたんだ?こんな朝早く...から」

「春樹くんにお弁当を届けに来ました」

「...え?本当に作ったのか?」

「はい。...だって約束しましたよね。貴方の調子を整えるって」

「...生真面目すぎるんじゃないか?こう見えても俺は家事は有能...」

「嘘ばかり吐くのは止めて下さい」


私はぴしゃりとシャットダウンした。

それから春樹くんは「うぐ」と黙ってしまう。

私はその姿にクスッと笑いながら「はい。健康の為のお弁当です」と手渡した。

すると春樹くんは藍色の包みを受け取りながら苦笑する。


「...お前には敵わないな」

「そうですか?」

「そうだ。...しかし何でだ?こうして料理を作ってくれるのは」

「前に言いましたよ?私は春樹くんが心配だって」

「いや。あの。心配って言葉が何で出るのか」

「...あ。それは...」


その言葉に私は黙ってしまう。

それから赤くなってしまう。

私は必死に隠しながら「それは隣人だからです」と言った。

春樹くんは驚愕しながら私を見る。


「孤独死してもらったら困るだけです。前にも言った通り。だからそれ以外は無いです。理由は」

「...うーん?」

「私、学校に用事があるのでもう行きます」

「え?あ、そ、そうか」


そんな言葉を受けながら私は頭を下げてからそのまま赤くなった頬を元に戻しながら学校に登校する。

正直...正直。


あくまで私は認めたくないが。

いや。

認めるのを恐れているだけだろうけど。

私はきっと彼を。


☆横田春樹(よこたはるき)サイド☆


俺は愛花からお弁当を受け取ってからそのまま学校に登校する。

それから昼時になってから屋上でお弁当を広げていると「おや?」と声がした。

顔を上げると猫の様な少女が居た。

ああ。猫又か。


「珍しいんじゃにゃい?君がお弁当を持っているなんて」

「あ、ああ。これはちょっとたまには作ってみようって思ってな」

「そっか。珍しいねぇ」


猫又奈央(ねこまたなお)。

2年生、別クラス。

髪の毛をボブにした八重歯が特徴的な美少女。


その要旨は可愛らしいといえる。

近付くと「にゃ!」と言う事があるのと猫又の名字の為。

猫の愛称になっている。


猫又と知り合ったのは入学当時。

この学校の屋上で飯を1人で食っていて単独で食っていたのだが同じ様に単独で食っていた猫又と一緒に食う様になっていつのまにか知り合いになったのだが。


2年生になっても変わらなかった。

ただ猫又は陸上部だ。

だから忙しい時は一緒に食べれないけどこうやってたまに一緒に食べている。


「もう立派な陸上部のエースだよな。お前」

「エースって程でも無いけど。だけどやってみると陸上もなかなか楽しいからね」

「流石は猫だな」

「もう。猫で弄るの止めてよ」

「いや。お前は猫だな」


猫又は頬を膨らませながらお弁当を広げる。

その姿を見ながら俺も弁当を広げてみた。

とても美味しそうなお弁当である。

正直...ミニハンバーグとか全部手作りの様に見えるんだがまさか。


「にゃ!とっても美味しそう!...でも本当に君が作ったのかいこれ?非常に怪しい」

「...ふ。家事力を舐めてもらったら困る。俺だってやれば家事は出来るのだ」

「しかしこれは...怪しいなぁ」

「怪しいって。お前俺を信用してくれ」


そうしていると背後から声がした。

「何をしているの。横田くん」という感じでだ。

それはまさかの愛花...じゃない。

佐藤だった。


「にゃ!?こ、氷の女王様!?」

「ど、どうしたんだ?佐藤」

「...お弁当の感想」

「...あ、ああ。まだ今から...あ?」

「お弁当の感想を聞かせて」

「...」

「やっぱり嘘を...ってぇえ!!!!?」


猫又が顎を落としながら愕然としている。

そりゃそうだろ。

氷の女王がお弁当を作っているとか言ったらそうなる。

俺はボッと赤面しながら頬が赤くなっている佐藤に慌てる。


「が、学校ではそんなに俺に接触しないって話だったんじゃ!?」

「...どうしても聞きたかったからね」

「...そ、そうか」

「な、こ、氷の女王とどういう関係なの!?」


猫又は目を輝かせて俺を見る。

これヤバいかもしれない。

色々と厄介な事になってきた。

俺は赤くなっている佐藤を見ながら赤面する。

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