★CCS《サイボーグ犯罪対応班》士官候補生シーナ(CCS《Cyborg Crime Squad》cadet Sheena)★
第54話【一難去ってまた一難①(It never rains but it pours)】
第54話【一難去ってまた一難①(It never rains but it pours)】
「シーナ、入っていいぞ」
部屋の中から聞こえたビアンキ中佐の声でドアを開けると、そこに居るはずのソシェルが居なかった。
「ソシェルは!?」
「ヤツは、逃げた」
「逃げた?」
特別室とはいえ出入口は一つだけ。
しかも、その出入口のドアの廊下側には私が居たから、ドアから廊下に出れば直ぐに分かるはず。
窓から外に出ようとしてもココは10階だから高すぎて飛び降りては逃げられないし、パラシュートを持っていたとすれば今度は低すぎて原則できないまま地上に激突してしまう。
だいいち病院だから、その窓すら開かないはず。
「いったいソシェルは、どうやって逃げたのですか?」
「窓から出て行った」
まさか……。
病院の窓は自殺防止のために絶対に開かない。
もし窓枠ごと外すとしてもソシェル一人で外すのは、かなり無理がある。
たとえビアンキ中佐が手伝って外すことが出来たとしても、元に戻す時は部屋の中と外に分かれてしまうから上手く取り付けるには相当な時間が掛かるはず。
でも、この窓はシッカリついている。
ひょっとしてリリアンは私に嘘を言っているのではないだろうか……。
それとも、ソシェルは本当に魔女なのか?
「いったい、どうやってこの窓から出て行ったのです?」
「そこの非常用進入口から出て行った」
たしかに非常用進入口なら開くが、それは消防隊員が外から窓を開けて建物内に侵入するための物で、病院の場合は中からは開かないはず……もしかして!」
窓に張り付くようにして下を覗くと、眼下にはビルの外壁や窓を清掃するためのゴンドラにソシェルとオッサン、それにあの巨漢の男が乗り下に降りて行くのが見えた。
オッサンが私に気付いて手を振りながら、口をパクパク動かして何かを言っている。
“なに?”
口を読むと「廊下の窓枠を外したままだから、あとで付け直しておいてくれ」と言っていた。
「ところで中佐、ソシェルと何を話していたのですか?」
上官に対して、質問をできる立場ではないが、気になったので聞いた。
「カッシーノ一味の目的についてだ。そしてソシェルが逃げた訳も」
最初に我々が彼女たちを逮捕することは出来ないことが分かっていたのだから彼女たちに逃げる必要性は全くないはずなのに、悪党は逃げる者だと決めつけていて、何で逃げたのか言われるまで気にしてもいなかった。
「逃げた訳って、何なのですか?」
「一味に通じる看護師がこのフロアに居て、私たちが偽警官を倒したことがその看護師から通報されたそうだ」
「それって、どうなるんです?」
「じきにカッシーノの応援部隊が大挙して押し寄せてくるそうだ」
「えーーーーっ!!!」
私たちは2人しかいなくて、銃弾は倒した偽警官の物を分捕れば何とかなるだろうけれど、武器は拳銃が2丁だけ。
これは、とてつもない大ピンチだ。
「JFK空港襲撃犯を移送する」
「移送するって、いったいどこに?ここでサンダース軍曹たち応援部隊を待った方が」
「応援部隊はカッシーノ一味が企てた交通渋滞にハマって当分来ない」
「では、なおさらココで籠城した方が」
「いや、屋上に行く」
「それこそ行き止まりになります。私たちは空を飛べませんし、ソシェルがしたように清掃用のゴンドラを使っても窓越しから撃たれてしまいます!」
「大丈夫、サンダースならきっと渋滞を避けて空から来るはずだ」
「そんな無茶なこと」
「無茶はシーナだけの専売特許ではないぞ」
「えっ……」
「さあ急ぐぞ!」
「ハ、ハイッ!」
ナースステーションの前を通って、患者の乗ったベッドを運ぶ。
誰がカッシーノのスパイなのか分からないし、今はそれを詮索している時間はない。
あいにく屋上に通じるエレベーターに、ベッド2台は乗らない。
点滴や酸素吸入装置なども付いているから、1つのベッドに2人を乗せるスペースはない。
「中佐、先に行ってください!」
「いや、私が後に行く。シーナが先に行け」
「屋上が安全である保障は有りません。この並び順でそのまま」
丁度その時、下からエレベーターが上がって来た。
「分かった、それでは先に行く。武運を祈る」
「中佐もご無事で!」
中佐がベッドを押してエレベーターに乗りこむ。
ドアが閉まる前、中佐は私にリリアンの時の優しい、そして少し寂しそうな顔で敬礼をしてくれた。
キリっとした無表情のビアンキ中佐の時とのギャップの差が激しい。
“萌え~”
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