第43話【敵が待っている①(the enemy is waiting)】

「銃の携行を許す」と言って、自分もダッシュボードからグロックG34を取り出して車を降りた。


 私が銃の携行をお願いすると、まるで最初から計画していたかのように、あっと言う間に正規の手続きを済ませてしまった。


 物事の対処が早さに、一瞬呆気に取られているところにエレンから連絡が入った。


「どうだ?」


「はい、ブロードウェイ、セキュリティー システムズ社と言うのは存在します」


「車は?」


「先方に確認してもらったところ、盗まれた車はないそうで、車番も間違いないそうです」


 つまり本物と言うこと。


 どうやら私の取り越し苦労だったみたい。


「分かった。引き続き商品や部材の取引メーカーを調べてくれ」


「はい。それなら調べてありますので直ぐに添付します」


 “♬”


 直ぐに電子音が鳴った。


 添付ファイルが送信された音。


 日頃エレンとの繋がりは、定時報告や事件が発生した連絡だけだったので何とも思っていなかったけれど、“あうん”の呼吸でビアンキ中佐の要求に応えられるエレンも凄いと驚いていた。


 そんな私の様子を見たのか見ていないのか、中佐が「行くぞ」と、声をかける。


「ハイ!」と返事を返して飛ぶように車を降りた私は、この元天才少女と肩を並べて誇らしい気持ちで颯爽と病院の玄関に向かった。




 直ぐに犯人の部屋に行くのかと思ったが病院に入るとビアンキ中佐は受付に行き総務の職員を呼び、警備室まで案内してもらいセキュリティーのメンテナンスについて聞き、そのあとは防犯カメラのチェックをして警備室を出た。


 中佐が携帯端末を操作して私に言った。


「やはり、シーナの言う通り拳銃を携行してきて正解だったな」と。


「でも事件が起こる前からあのセキュリティー業者は日程調整をしていたのだから、メンテナンス工事に関しては問題なかったんでしょう?」


「メーカーに問い合わせたところ、その型番の製品に不具合は発生していないと言う事で、交換したと言う部品の発注履歴もないと言う事だった」


 中佐は警備担当者から工事の納品書を見せてもらった一瞬に、メーカー及び製品名と部品の型番を暗記してしまいメーカーに問い合わせていたのだ。


 私だったら納品書を見ただけで納得してしまい、型番などを暗記することもなかっただろう。


「では、やはり工事業者が?」


「そのようだ」


 私達は用心のためエレベーターは使わず、階段を使って犯人が入院しているフロアに向かうことにした。




 階段をのぼりながら、おさらいをした。


 おさらいは、病院に入ってからのビアンキ中佐の行動。


 警備室に直接行かずにワザワザ病院の職員に案内してもらったのは、万が一犯人グループの差し向けた偽物の警備員が成り済ましていたとしても私達には分からないから、毎日顔を合わしている病院の職員に案内させたのだろう。


 職員なら警備室に部外者が混じっていれば直ぐに気が付くし、もし案内した職員が偽物だった場合も、呼び出した受付の職員が直ぐに気付く。


 警備担当者が工事の納品書を用意する間に、中佐は工事前から現在までの監視カメラで撮影された映像を早送りで再生して確認した。


 さすがに8年も飛び級して最難関大に入った人は違う。


 私なんて、足元にも及ばない。


 佐官で支部隊長なのに私よりも先に階段を上る綺麗なヒップラインを見ながら感心する。


 いや、感心している場合ではない。


 この優秀な頭脳を危険に晒すわけにはいかない!


 そう思い、私は小走りで階段を駆け上がり、中佐の前に出た。




「サンダース、いまどこ?」


 パトロールに出たばかりのサンダースの車にエレンからの無線が入る。


「いまクイーンズだ。事件か?」


「いいえ、事件ではないけれど、ビアンキ中佐が病院で武器携行の許可願を要請したの」


「犯人グループがいつ襲って来るかも知れねえんだ。法律通り軍人と言うだけで許可が必要って言うのは時代遅れだから、当然と言えるんじゃねえのか?」


「犯人が入院している部屋は警察官が守っているのに?」


「しかし行ったとしても、何事もない状態なら許可を得ていない俺たちは病院内では丸腰だぞ」


「大丈夫。申請者の欄にチャンとアナタたちの名前も依頼してあるから」


「俺たちの名前? 俺の他は誰だ!?」


「お隣にいる運転手さんよ」


「Shit‼(クソッ)」


 運転していたコーエンが唾を吐くように声をあげ、サイレンのスイッチを入れて交差点に進入するとタイヤを激しく鳴らしながら車の向きを変え猛スピードで病院の方に向かった。

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