第9話【夜の捜査線③(Search line at night)】

「一網打尽を狙う訳だな、さすがシーナ。基地のエレンに連絡して応援を頼もう」


「今は駄目だ」


「駄目?」


「おそらく許可されない」


「何故?」


「危険すぎるから」


 必ず体制が整うまで待てと言う指示が出されるはず、そして体制が整う前にどこからか情報が洩れてしまい犯人グループの中核を突くことはできなくなる。


 最終的に捕まえられるのは下端だけ。


 これは20世紀初頭にマフィアと警官が戦った事件で度々起きていたこと。


 人に何かを伝えると言う行為は、時によっては伝えたくない相手にも漏らしてしまうことになり兼ねない。


 特に今は様々な通信手段で簡単に情報の伝達ができる世の中だから、裏を返せばそれだけ漏れることも容易いということにつながる。


 ……!?


「コーエン、やはり止めよう」


「何を?」


「もう犯人を追わなくていい」


「追うのを止める!? シーナお前、頭は大丈夫か!??」


「応援を要請すれば、敵側に漏れるおそれがある以上、このまま追うことは我々にとってドンドン不利な状況にハマることになる」


「だからと言って、それを止めたんじゃ何のためのCCS(サイボーグ犯罪対応班)だ!?」


「お願い、いう事を聞いて。本当のことを言うと、私はまだ死にたくないの」


 コーエンの腕にすがって泣きついた。


「……しょうがねえな」


 女に泣かれると男は弱い。


「ありがとう。ホッとしたらお腹が空いちゃった。ちょっとその先のレストランに寄ってくれない?」


「サボるのか!?」


「食事も勤務時間の内よ。オネガイ、コーエン」


「しょうがねえな……」


 レストランの駐車スペースに車を突っ込むと、私は慌てて外に飛び出した。


「おい、シーナ。どうした? そんなに慌てて」


「ゴメン、トイレが緊急事態なの‼」


「まったく……」


 女は男ほど尿意を我慢できないって聞いた事があるが、あれは本当だったんだな。


 しかしあのシーナが目の前にいる犯人を見逃すなんて、しかも命を惜しむとは夢にも思わなかった。


 “やはりシーナも、人間なんだな”


 少しガッカリした半面少しホッとして車のドアを閉めてレストランの入り口に向かうと、入り口の前でデリバリー用の箱を持ったシーナが飛び出してきた。


「忘れ物か? ……夜食??」


 シーナは返事をしないで、口に人差し指を立てて静かにするように指示し、俺の手を引っ張る。


 俺は指示に従い引かれるままついて行き、レストランのデリバリー用のライトバンに乗り込むとシーナは車を急発進させた。


「ど、どうした。トイレは? 食事は? これって、配達のアルバイトか?」


 デリバリー用の箱からは、チキンの好い香りがする。


「トイレも食事も無しよ! そして配達のバイトでもない。店長に許可をもらって店の車を借りたの」


「この車で、何をするつもりだ??」


「犯人を追うのに決まっているでしょう!」


「えっ、ええっ!? 結局追うのか? でももう見失ってしまったぞ」


「大丈夫よ。奴らの車は1989年製のシボレー・サバーバン。当時は流行ったけれど、今では貴重品だから、探せば必ず見つかる」


「でも、遠くに逃げられていたら」


「いいえ、奴らのアジトは、この近くにあるはず」


「何故、そう思う?」


「何かの発信機らしいものを仕掛けられた」


「誰に?」


「アナタの大好きな爆乳エキゾチックな美女よ」


「まさか……」


「おそらく車に顔を突っ込んだときね」


「何故。わかった」


「ゴメン、確信は無いの。でもその後の彼女の様子から見て、何か危険な予感がしたの」


「第六感って奴か」


「ゴメン、相談もしないで」


 シーナは両手を合わせて陳謝の意を示した。


「いいって事よ。仕掛けられたのが盗聴器だったとしたら、相談した時点でアウトだろ」


「ありがとうコーエン」


「いいえ、どういたしまして」


「ところでチキンを1個食べてもいいか」


「駄目よ」


「駄目?」


「だって、それ差し入れだもの」


 ハーレムの裏通りをくまなく探し回っていると、しばらくして犯人の乗った車を発見することが出来た。


「うまいもんだな……しまった!」


「どうしたの? コーエン」


「さっきレストランに入ると思って、拳銃を車の中に置いて来てしまった‼」

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