第8話【夜の捜査線②(Search line at night)】

「アホくさ、じゃぁね」


 女は、いかにも下らないという顔を見せて去っていった。


 それにしても失礼な女。


 あろうことか、私をガキ呼ばわりするなんて許せない。


 まあ髪はショートヘアーだから仕方ないにしても、胸が男の子のように見えるのは、服の下に防弾スーツを着ているから。


 おもわず去ってゆく女の大きな尻を追いかけて、防弾スーツの前を開いて胸を見せてやりたい!


 一応これでもギリ巨乳の部類には入る自信はある。


 しかし、やめた。


 あの女の前で胸を見せたところで、あの爆乳には敵わない。


 逆に“あら、小さすぎて目に入らなかったわ”なんて嘲笑われるのがオチ。


 それにしても腹が立つ……。


 怒っている私とは別に、コーエンが去っていく女の後ろ姿を目で追っていた。


 小刻みにお尻を振る、独特の歩き方。


 セックスアピールが半端ない。


 これは、今後の人生のためにも覚えておかなければ……!?


 私と同じように、去ってゆく女のお尻を見ているコーエンに気付く。


「何見ているの!?」


「いや、なんにも」


「ああいうフェロモンをまき散らす、エキゾチックなタイプがお好み? ごめんなさいね、パートナーがガキでゲイに間違われて、せっかくの機会をフイにしてしまって」


「い、いや、そう言うわけじゃ」


「じゃあ、どう言うわけ?」


 パンパンパン。


 あの女によって損ねてしまった機嫌を、コーエンにぶつけているときに通りの奥で銃声が鳴った。


「コーエン‼」


「アイヨッ!」


 タイヤを鳴らしながら車を急発進させるコーエン。


 左程驚く様子もなく“立ちん坊”の女たちや、その女にまとわりつく男たちが私たちの車に振り返る。


 その先にさっきの女もいたが、彼女だけは何故か車を振り向くこともなく、まるで何事もなかったように車を後にした時と同じように小刻みにお尻を振りながら通りを歩いていた。


 いや、何かが違う。


 追い越し際に女の顔を見ると、彼女は眼だけこちらを向け、口は微かに笑っていた。


 そして直ぐに雑踏に紛れて見えなくなってしまった。




 現場にはニューヨーク市警のパトカー止まっていたので直ぐに分かった。


 車を横に着けて止まると、宝石店のガラスが割れていて、警官は2人とも負傷していた。


「犯人は!?」


「サイボーグ犯罪です。1人は巨漢で右腕を、もう1人は左脚……」


「左脚?」


 腕の場合1本だけと言うのは良くあるが、脚が1本だけと言うのは珍しい。


 なぜなら脚の違法サイボーグ化は、早く走ることに重点を置いている場合が多いから。


 1本だけでもそれなりに早くは走れると思うが、バランスが悪くなるため逆に持久力が持たない。


 犯人がどのような技を使って警官2人を倒したのか聞きたかったが、2人の様子を見ればこれ以上聞くのは酷だと思いやめた。


 それよりも今は犯人を捕まえなければならない。


「どっちに逃げた!?」


 もうろうとする意識の中で、警官が通りの角を曲がったことを指で知らせてくれた。


「行くぞ!」


 私が負傷した警官に質問している間に、コーエンは基地に状況報告をしていた。


「OK、早く乗れ!」


 私は開けたままのドアから飛び込むように車内に入る。


「その角を右だ。一人は巨漢の男で」


「もう一人は、アンバランスな走り方をしているヤツだな」


 警官の話を聞いていないのにコーエンが犯人の特徴をつかめた訳は直ぐに分かった。


 丁度奴らが車に乗り込むところ。


 金銀宝石で重くなった荷物を持って走るには、巨漢の男と片足だけ違法サイボーグ化した男の組み合わせは悪いらしく逃げ足が襲い。


 私たちの車が角を曲がったところで、ようやく奴らが車に乗り込み急発進する。


 運転するコーエンの手がハンドルを離れ、サイレンのスイッチを入れようとする。


「待って!」


「待つ?」


「とにかく、このままの状態で追って!」


 奴らを捕まえるのは簡単かもしれない。


 だが奴らに改造費用を払った組織が有るはず。


 そして奴らは知らないかもしれないが、その改造をした医療機関も組織のボスに聞けばすぐにわかるはず。

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