第7話【夜の捜査線①(Search line at night)】
「そろそろ基地に戻るとするか?」
マスタングのハンドルを握るコーエンが、助手席でおとなしくしているシーナに聞く。
「待って、ちょっと寄って欲しい所があるの」
「コンビニか?」
「悪い大人のネッ」
「悪い大人の?」
コーエンはマスタングをシーナの言う、夜の歓楽通りに向かった。
ニューヨーク、特にハーレムのスラム街は、日が落ちるとその様子を変える。
街角には殆ど下着姿の売春婦たちや、薬の売人が並び、それを求める人たちも群がっている。
「まったく、どいつもこいつも犯罪者にしか見えねえな」
「怒っているの? それとも喜んでいるの?」
「喜ぶわけねえだろうが‼」
「それにしては、さっきから下着姿の女性ばかり見ているような気がするけれど」
「バーカ、それは、男に対する偏見だ。だいたい夫婦であっても恋人であってもそれ以外の関係でも、女と言うヤツは独占欲が強いから自分だけを見ていて欲しいという欲求が強い。 だから、同性には強い嫉妬心を抱く」
「よく調べているのね」
「ああ、むかし男性専門誌で読んだ」
「それって、俗にエロ本と言うヤツだよね」
「……;」
CCS(サイボーグ犯罪対応班)の車は、警察のパトカーとは違い車体の側面に“POLICE”とは書かれてはいないし、警察車両特有のツートンカラーでもない。
かといってボディーには“CCS”とも“U.S. Army”とも記載がなく、シーナとコーエンが乗るこの8号車の屋根には“C8”と書かれてあるだけ。
一応車の屋根にパトライトは載せてあるけれど、どちらかといえば警察車両と言うよりは道路整備事業会社の車に見えてしまうのかもしれない。
その証拠にノロノロと走るマスタングを、女を物色しているものと思って何人もの下着姿の女たちが近寄って来てはコーエンに声をかけてくる。
「ねえ♡」
「あっち行け!」
「ねえ、お兄さん♡」
「どけどけ! 交通の邪魔だ!」
女たちが誘うのをムキになって蹴散らすコーエンが、純情で可愛いなって助手席に身を潜めて見ていた。
夜のスラム街には通りのあちこちで、過激な下着姿の女性が客を探している。
この女たちには、縄張りがある。
縄張りを管理しているのは、マフィアたち。
女たちはマフィアにショバ代を払う代わりに、客とのトラブルから身を守ることが出来、安心して営業ができる仕組み。
だからズブの素人が小遣い稼ぎで夜の街に立つことなんてない。
勝手に街に立って商売を始めようとする女はマフィアの男たちによって、もう一つ二つ違う路地に連れていかれてしまう。
マフィアと繋がった女たちは、ただ体を売っているだけではない。
彼女たちの仕事のひとつに、情報収集がある。
寝た男の身元調査。
ヤクを欲しがっているとか、社会的な地位が高いとか、他所のマフィアの回し者とか警察のスパイとか。
この情報がマフィアの資金源になることもあり、警察から組織を守ることにも重要になる。
「しかし、なんでこんな所をパトロールしたかった? ここは警察の管轄だろう」
ひっきりなしに声をかけてくる女たちに手を焼くコーエン。
どうやらコーエンは、この手の女にモテるようだ。
もっとも高身長で、細マッチョなイケメンなので、この手の女以外にも彼はモテること請け合いだ。
「おいシーナ、お前も隠れていねえで、何とかしてくれ!」
「下半身が持たないの? それとも性欲に負けそうなの?」
「ばか! そんなんじゃ……」
からかった私にムキになって反論していたコーエンの声が途中で止まる。
なぜだろうと思って覗くと、今度の女は今まで寄って来た女たちとは別格の妖しい美貌とスタイルを持つ美女だった。
下着のようなコスチュームは同じだけど、その下着から大きな胸が零れ落ちてきそうなくらい。
「ねえ、お兄さん。私と遊ばない?」
大きな緑色の瞳が一瞬車内の様子を窺った。
「し、仕事中だ……」
「まあ、お仕事熱心なのね」
「い、いや、それほどでも」
女が開いた窓から顔を突っ込むと、瞬く間にローズとジャスミンの香りが車内に広がる。
少しエキゾチックな香り。
大きな胸がドアに乗って、いやらしく変形して胸元が大きく開いたランジェリーから今にも飛び出しそう。
「あら、アンタひょっとしてゲイなの?」
「えっ、なんで!?」
女の意外な質問に、それまで無理をして無視するふりをしていたコーエンが女の方に振り向く。
「だって、ガキを乗せているじゃない」
ゲイ!?
ガキ!??
私は完全に男の子と間違えられた。と、いう事なの??
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