第10話【夜の捜査線④(Search line at night)】
「拳銃なら有るわよ」
シーナがポケットから俺の拳銃を取り出す。
「いつの間に!?」
「アナタがサイドボックスに仕舞う時に、ボーっとしているようだったから気付かなかったのでしょうね」
確かにあのとき俺はボーっとしていた。
と言うより、あのシーナが犯人の追跡を止めようなんて急に言い出すものだから、思考能力がそこまで回らなかった。
「しかし拳銃1丁で奴らのアジトに乗り込むなんて、シーナは相変わらず無茶だな」
「拳銃1丁だけではないわ」
「他に何がある? 団結力とか平和を愛する心とか固い仲間同士の絆なんて、なんの役にも立たねえぞ」
「あらそう。じゃあ後ろは?」
コーエンが後ろを振り向くと、CCS(サイボーグ犯罪対応班)の車両が1台真後ろに着いたところだった。
「ルー!? でも、どうして?」
俺たちの車両からは応援の要請はしていなかった。
そしてこの車からも。
なのに、何故ルーが?
「レストランにある電話機からエレンに連絡したの。きっとあと2台来るわよ」
なるほど万が一敵が俺たちの無線を盗聴していたとしても、まさかあんなレストランの公衆電話から連絡するなんて夢にも思わないはず。
しかもシーナの言う通り、あの女が何らかの発信機を車に仕掛けたとしたら、敵は俺たちがレストランでのんびり夜食を取っていると思い油断しているはず。
そしてレストランの車には、運行記録を取るための装置が付いていて、どの車が今どこにいるかは店側の端末で直ぐに分かるようになっている。
だからルーは直ぐに俺たちを見つけることが出来た。
さすがシーナ。
無茶だけが身上じゃねえな。
奴らのアジトらしい建物の前で応援を待っていて、私たちは4台になった。
情報漏洩を避けるため無線封鎖が行われている。
無線封鎖が行われている状況でルーたちが来ることが出来た訳は簡単。
ルーは丁度コンビニに入っていたので、エレンがその店に直接電話を掛けた。
あとの2台は即応部隊として基地に待機していたから、口頭で伝えた。
しかし、その後の応援はいつ来るか分からない。
即応部隊の2台がやって来てくれた以上、基地に誰かが戻ってこない限りパトカーの出動は無い。
つまり、これ以上応援が来る見込みは薄いと言う事。
私は服を脱ぎ、車の後部座席に転がっていたレストランの制服に着替えることにした。
防弾スーツも脱いでいた方が良さそうだけど、これって体にピッタリしている分、着るのも脱ぐのも大変。
狭い車内で防弾スーツと格闘する。
「痛っ!」
狭い車内で無理やり袖を引っ張っていたら、手が滑ってコーエンの肩を叩いてしまった。
「あっ、ゴメン!」
「な~に、構わねえぜ」
「そう……って、なんでアンタがココにいるのよ‼」
「だって、降りろなんて言われてねーし」
「普通何も言わなくたって、女の子が着替えだしたら外に出るでしょう!?」
「外に出たってこの車、窓は透明のタイプでカーテンもねえぞ。着替えるなら公衆トイレを使えば良いだろう」
「嫌よ、そんな汚い所で!」
窓の外に目を向けると、ルーたちも外から私を覗き見していた。
「もー! あっち向いてて‼」
コーエンを車から追い出して、私は急いで服を着替えてデリバリー用の箱を持って外に出た。
8名の振り分けをする。
2名は非常階段ともう2名は正面玄関を抑え、私とコーエンが突入してルーとその相棒のミッシェルがサポート役として背後に着く。
「しかし、アジトに何人いるか分からねえぞ。アジトが分かっただけでもラッキーとして、ここは見張りに徹した方が」
確かにルーの言う通りだが、それが通用した試しはない。
情報網は、その発信源を特定することが出来る彼らの方が圧倒的に有利だし、こんなアジトなんて幾らでも代わりがあるからこだわる必要もない。
そして人も。
大物が潜んでいるかどうかなんて分からないけれど、とにかく仕掛けるしかない。
「いや、今を逃したら、中に居る人間は減っていくだけだろう」
「しかし……」
「ルー、君、釣りはしたことある?」
「そりゃあ、あるさ」
「釣りは、釣り糸を垂れる前に、水の中にどんな魚がどれだけいるか確認して行うのか?」
「そんな馬鹿な! そんなことをしていたら釣りの醍醐味が台無しだ」
「なら今敵を釣ろう。やらなければきっと後悔する。私は後になって悔やむのは嫌いだ」
「……分かった」
出入口を抑える4名を配置に付かせて、階段を上る。
奴らが何処に入ったかは見当が付いている。
4階の奥にある事務所。
そして、その部屋には実行犯の2人を待っている誰かが居ることも。
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