第23話【新しい2つのアイテム(2 new items)】

 しばらくして軍の兵器開発局から2つの新しいアイテムが供与された。


 ひとつは武器で、正式名称「MG32改」


 通称「ファゴット」


 グラビティ弾と言う特殊な強粘着弾を発射するための小型ロケットランチャー。


 グラビティ―弾を直訳すると重力弾になるが、重力を変えるものではなく、違法改造されパワーアップしたサイボーグ部分に付着して可動部の動きを抑え込むための物。


 このグラビティ―弾を初速100マイル(時速160キロ)の超低速で発射するのが、このファゴットの特徴で、その名前の由来は色と形が木管楽器のファゴットに似ていることから命名された。


「なんで、そんなに弾が遅いんだ? これじゃあまるでMLBメジャーリーグ・ベースボールでピッチャーが投げる球速くらいじゃないか」


「ほら、弾頭がオッパイみたいに柔らかいだろっ。つまりこのファゴットは犯人を傷つけるのではなく、犯人の動きを止めるためだけに開発されたものなんだぜ」


「本当だ、オッパイみたいに柔らか……なんで例えがオッパイなんだ‼ コーエンお前触ったことあるのか!?」


「まっ、まあな、その……赤ちゃんの時に」


「そんなの、覚えているわけないでしょっ‼」


「いつ、だれの胸を触ったの!?」


「あー。そ、それは……」


「やっぱり、男はみんな狼ね」


 女性の前で迂闊な一言を付け加えたばかりに、シーナに睨まれて落ち込むコーエンだった。




 2つ目のアイテムは、ファゴットに比べるとあまりにも小さい。


「なにこれ?」


 名前は「ミメラ」


 全長3㎝の昆虫型偵察用小型ドローン。


 小型で隠密性が高く、専用の受信機に映像や音声を送信できる上に、酸素濃度などの大気データーの分析能力もある。


 実用使用限度は風速5m/秒までなので、使用用途は主に屋内に限定される。


 名前の“ミメラ”は、コガネムシの学術名「Mimela splendens」からの命名だが、全体に平べったいつくりと黒っぽい色は、ミメラ(コガネムシ)と言うよりはコックローチ(ゴキブリ)と言った方がより当てはまる。


「3センチって微妙な大きさね。狭い室内だと直ぐにバレちゃうんじゃないの?」


「普通に飛ばせばシーナの言う通りだが、狭い室内の場合はダクトから侵入してそこから出なければ見つからないだろう? それに俺たちCCSの誰かが敵の気を引いつけておけば、こんな小さなものだから床で止まっていればゴミにしか見えないだろうし、天井に張り付いていても誰も気が付かねえ」


「たしかに……でもコレ世の中に出せないアイテムだよね」


「えっ! なんで?」


「盗撮目的に使われそうよ」


「まあ、偵察も盗撮も似たようなもんだからな」


「コーエン、アナタまさか……」


「やっ、やってねーよ。そんなショウもないこと」


「私の他、誰にコレを見せた?」


「男の隊員には一通り使い方を説明した」


「使わせた」


「もちろん……」


「と、言うことは、当然ジェフとスタントンも使ったよね」


「ああ、あの2人にしては珍しく熱心だった」


 シーナはコーエンの手から専用受信機を取り上げ、データーの確認をする。


「ど、どうしたんだシーナ!?」


 シーナの様子に驚くコーエン。


「まだデーターは消去していないでしょうね」


「ああ。データーの消去には、特別なキーが必要だから、蓄積されたままだ」


「見つけた‼」


 日付は今日の14時。


 今から2時間前。


 どこかの通風孔の中の向こうに見える明かりを目指すミメラの画像。


 やがて明かりが漏れる通風孔のカバーに辿り着いたミメラは、体を平らにしてカバーの隙間からポトリと床に落ち、自走モードに切り替えて床を進む。


 床の向こうに見えるのは、靴底の赤いハイヒール“クリスチャン ルブタン”!


 そしてスラリと伸びた綺麗な脚。


 これは、ひょっとして……。


 本当は証拠をつかんだところで見るのを止めるべきところなのだが、これは明らかに鉄仮面と呼ばれるリリアン・ビアンキ中佐のオフィス。


 同性ながら、興味があったので、そのまま見続ける。


 ミメラが見つからないように近づくために、狭いデスクの隙間に回り込む。


 隙間から見えるのはハイヒールの爪先だけになる。


 “ゴクリ”


 コーエンと私が同時に唾をのむが、次に見えたものは“Stealing is a crime. Those involved will be punished(盗撮は犯罪です。関係者は処罰します)”と手書きで書かれた文字だった。


 さすが天才“鉄仮面”!




 その日の夕食時間、いつも騒がしいジェフとスタントンが妙に暗い面持ちで静かだったのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る