第12話【真夜中の戦い①(midnight battle)】

「ナカナカうめえな」


 オッサンが手下に床に落ちたデリバリー用の箱を持ってこさせて、その中からチキンを取り出して摘まむ。


 出来立てのフライドチキンとフライドポテトの好い香りがオフィスに広がる。


「おいトム、これをボスの部屋に持って行け」


「へい」


 オッサンは箱を閉じると箱を持って奥の部屋をノックすると、中から“何の用だ”と声がした。


「へえ、注文したチキンとポテトが届いたので、持ってきました」


「……」


「入れ」


 今度は、さっきの声とは違う声が返事をした。


 どこかで聞いたような、女の声。


 トムが中に入り、しばらくして出てくる。


 トムの後から、身長190㎝ほどもある巨漢の男が顔を出し、私を確認してから周囲を見渡してドアを閉めた。


 これで奥の部屋にボスと巨漢の男が居ることが分かった。


 作戦は思った以上に順調に進んでいる。


 あとは、出て行った2人の手下を片付けたコーエンたちが部屋に突入するのを待つだけ。






 部屋のドアが開き、シーナの言った通り中から2人出てきた。


 俺たちにとって只のチンピラなんて、赤子の手をひねる様なもの。


 3対2と、数もこっちの方が多い状況ならなおさら。


 早くこの2人を片付けて、シーナのところに行かなければ。


 カツ、カツ、カツ。


 階段を下りてくる足音が近付く。


 ザッ、ザッ。


 2人が踊り場に入り、足音が変わる。


 “今だ‼”


 踊り場の下から一気に駆け上がると、2人の姿が見えた。


 2人ともガッチリして肩幅はあるが、背は170センチ前後と低い。


 よく街で見かけるヒスパニック系のチンピラ。


 “余裕で勝てる……ってか、負ける気がしない”


 目の前のヤツにめがけてパンチを繰り出すと、不意打ちを食らったヤツが目を丸くして驚いているのが見えた。


 “これで一丁あがり”


 と、思った瞬間、ヤツの顔が遠退いた。


「へえー、片方の膝ひざから下だけでも、大した瞬発力だな」


 “こ、こいつ改造パーツ装着者か⁉”


「わっ、わあぁっ‼」


 ドタドタドタ!


 叫び声を発して階段を転げ落ちる音に振り向くと、ルーのパンチを潜り抜けた敵に体当たりされたミッシェルが階段を踏み外して3階まで転げ落ちて行くところだった。


「ルー! 気を付けろ、コイツら改造パーツ装着者だ!」


「そのようだな」


 改造パーツ装着者と戦う時の基本は、相手がどの部分に改造パーツを装着しているかを見極めること。


 俺の相手は、自ら“膝から下”と言ったが、それが片方なのか両方なのかで戦い方は違ってくる。


 ジャブを打って牽制する。


 奴は左足を後ろに引いてスウェーして避ける。


 離れると、その左足を軸にして、凄いスピードで間を詰めてパンチを放つ。


 改造パーツのおかげで奴が手に入れた脚力には正直驚かされるが、パンチは大したことはなくてケンカ慣れした素人レベル。


 スピードは有るが、十分に避けられる。


 “避けたついでに、大技をお見舞いしてやるぜ!”


 俺はワザとヤツの下に潜り込むくらい前かがみになってヤツのパンチを避けると、その態勢から体を捻るようにして本当にヤツの腹に自分の肩を潜り込ませた。


「うっ!」


 俺の肩が腹にメリ込んで、唸り声をあげるヤツの体をそのまま振り子のように持ち上げて後ろに放り投げる。


 そう、プロレスの技“ショルダースルー”のように。


 “ナカナカ俺も、やるぅ~♡!”と思った矢先、大きく投げ飛ばされる予定だったヤツが、天井にぶつかって今度はもう一人の敵と対峙しているルーの肩の上に止まった。


 ふつう“肩の上に止まる”と言えばチョウチョや小鳥だが、体重70ほどもある人間に止まられたのでは、いかに鍛え上げたCCS(サイボーグ犯罪対応班)の隊員であってもたまらない。


 案の定ルーは俺が投げた奴と共に、階段を転げ落ちて行ってしまった。


 俺は落ちていくルーに目を取られてしまい、一瞬の隙を相手に与えてしまう。


 相手は、その隙を見逃さず、持っていた拳銃を取り出す。


 “ヤバイ‼”






「オメーもどうだ? いつもウマそうに食べる客を見ているだけじゃ詰まらんだろう」


 そう言うとオッサンは、直に手で持ったフライドチキンを私の口の前まで持ってくる。


 私の左隣に座っているから右手で太ももを触ったのは自然だが、フライドチキンを勧めたのも右手。


 ふつう右隣に居る人に、右手で食べ物を与えるのは不自然じゃないか?


 それに左手は、ずっとズボンのポケットに突っこんだまま。


「いっ、いえ、私は大丈夫です」


「……」


 オッサンが私の表情を探るように睨む。


 やはり勧められたモノを拒んだのはマズかったか。


「やっぱ、オメー」


 “ヤバイ! 正体を見破られたか!?”


「やっぱ、オメー、可愛いな」


 キャー、ヤダもう、テレちゃう!

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